コウヘイがその頃住んでいた都営マンションに帰ると、父親が晩酌していた。
「コウヘイ、三ツ葉町が大変だ。ひょっとすると、もうダメかも知れないぞ」
伯父から教えられていたコウヘイは、愕然とする思いになった。
「あの黄色い塔が化学爆発を起こして、上半分が吹っ飛んだらしい。死者数も数千名を越えたって話しだ」
父親が話した通り、テレビ番組はどの局に合わせても緊急特別報道番組に切り換えられていた。映し出された三ツ葉町の変わり果てた景色を、コウヘイはまともに観ることが出来なかった。
緊急取材で明らかとなって行く化学爆発は、単なる一学者のミスから起こったとは言えなかった。著名な化学者達がその知識を駆使して解説しても語り尽くせないのは、大人社会の歪んだ闇の世界が横たわっていたからだ。特権階級を手にした一部分の選ばれし者が、甘い汁に群がっていた。しかしそれは、学者の知識とは無縁だった。
「ねぇ、あの塔で何が行われていたの?」
不可思議な存在だった黄色い塔が、多感なコウヘイを震え上がらせた。
「父さんにも解らないよ。何でも最初の説明じゃ……、まさか町をあんな風にするとは思っていなかったからな」
「あれが駅前? 何もないじゃない。みんなの家はどうなったんだろう。サキやカオルや浅岡は死んじゃたの……嘘だ。信じたくない!」
テレビ画面に映し出された町の景色を見れば、到底そこに生存者がいるとは思えなかった。
本当に何もない。テレビ画面には、町を一瞬にして荒廃させてしまった現実だけが映し出されていた。
「コウヘイ。何があっても自暴自棄になるんじゃないぞ」
息子にとって余りにショックが強すぎてしまったと思った父親は、コウヘイの心を案じていた。
「みんなの家に電話してみる」
都会生活に慣れるために、コウヘイはどんなに辛いことがあっても田舎のことを口にしなかった。殺伐とした東京暮らしに、コウヘイはまだ馴染めていなかった。抑えていた感情が爆発して、コウヘイは何度も何度も電話を掛け続けた。
「コウヘイ。お前は男だろう?!」
父親もまた言葉が見つからなかった。ただ親として、息子を抱きしめることが精一杯だった。
「サキはどうしたんだよ! どうなったんだよ!」
コウヘイは有らん限りの声を張り上げた。しかし起こってしまった現実は、もう何も変わることがなかった。テレビ番組は、深夜遅くなっても三ツ葉町での化学爆発を報道し続けた。評論家と名乗る学者達の解説だけが繰り返されていた。