密かに
待ちわびた電話は

授業中に 突然掛かって来て

不在着信に
留守番電話に
こんなに 驚いたのも



初めての 事でした



その週末
新宿駅で

確か朝…8時だか9時だか 
待ち合わせには 変に早い時間で

おかしいな
この後お仕事なのだろうか  とか

格好は おかしく無いだろうか  とか



きっとさぞかし そわそわしていたと思うのですが

やって来た のっぽのおじさんは
ジーンズにTシャツに きっと薄いジャケットの(この頃の定番)
この上なく カジュアルな出で立ちで



…若作りですね  とか
久し振りに会って その言い草かよわたし!!みたいな事を
ふつーに言って仕舞った気がしますが
おじさんは あははと笑って

良かった来てくれた 嬉しいねえ
美味しい朝御飯とランチもつけるからねえ♪  と

こちらが恥ずかしくて引く程に嬉々として 電車に乗り
着いた先は




東京競馬場




わたしは 此の時が競馬場デビューで
何度か貴方と一緒に 行きましたが

競馬場と云う場所が 大好きになりました
都会の中で 緑が多くて

青空が広い
目映い芝生の上を



美しい 馬が奔ってゆく



…でも
この日はダービーの日で
電車は郊外に向かっているのに どんどん混んで

着いた頃には既に
物凄い人で 溢れかえって居ました



…?????
わたしは 今一つ事情が掴めずに

谷崎さんは わたしの手を引き乍ら
携帯電話で やいのやいのと話していて

ああ
居た居た  と

スタンドには 既に何人かの方が
此のおじさんの為に「場所取り」をしていました



…補足の為に書いておくと
日本ダービー

この日はチケットが無いと 入る事は出来ません
チケットと言っても 確か事前販売+抽選だったかな
ダービーと有馬記念は きちんと前もって準備をしないといけない日なのです



此の日のメンバーの中に
芥川さんも居て

どうやら芥川さんは
この日の為に 始発で競馬場に来ていたらしく
眠そうな目を ごしごし擦り乍ら



此処でもわたしは
「姪」だと 紹介されました



ええ~奥様は?残念だったねえ  と
他に居られたおじさん(実はこの方は結構若かったw)が言って
わたしは 心臓が飛び出る位どきっとして

谷崎さんは あははと笑い乍ら

彼女はこんな所には来ませんよ
あの人は忙しいんだから  と



そうかあ  と
皆さん何でも無い事のように

ええと 姪御さん?可愛いねえ
未成年?ビギナーズラックで今日当てちゃいなよ  とか
打ち上げは誰持ちだ  とか
やいのやいのと 賑やかで



どなたかの奥様と思しき方に
どうぞ  と

美味しそうなお弁当を ご馳走に成って



平レースを
ぼうっと眺めて居ると

時間を追う毎に 競馬場は更に混み始め



谷崎さんは
君の好きなのを言ったら 僕が買っておくよ  と
新聞で 適当な名前を言って
買って来て貰った気がします

スタンドは
室内で観戦出来る部屋も有るのですが
此のおじさんは 場のライブ感が堪らなくてねえ  と

座って見ようよ とゴネる他の方を置いて



メインレースの少し前に
わたしを馬場の直ぐ傍迄 連れて行ってくれて

運良く最前列に陣取って
わたしは谷崎さんの両腕にすっぽり収まった侭
12万人の 地鳴りのような 
ファンファーレの大歓声を初めて聞きました



馬って
走らないと 殺されてしまうのでしょう

随分辛い人生な気がします  と言ったら



そうでもないさ  と



ご覧
綺麗だろう  と

轟音を上げて 走り去る動物の迫力に



彼らは
柔らかい地面を走る事しか出来ない

彼らの繊細な骨は 厳しい自然に適応出来ない

でも
ちゃんと訓練を受けさえすれば



暖かくて綺麗な寝床は有るし
美味しい餌も食べられる

医者にも診てもらえて
人が撫でてくれる

商業動物って云うのは そう云うものだろう



僕は決して 辛いだけの人生じゃあ無いと思うけどな  と



そんな事を
大歓声の後ろで

ぽつりと聞いた 気がします



レースは
一番人気が 僅差で負けて

何も知らないで買ったわたしの馬券は 
少し高い現金になって戻って来ました

そのお金を 谷崎さんは一緒に居た方に預けると



僕は彼女を送っていくよ
ちゃんと送らないと怒られちゃうから (← …)
今日はありがとね~  と

別れを惜しむ人達を放ったらかして
さーて



やーーーーっと 二人っきりだねえ
噫 嬉しいなあ  





帰りも混み混みの電車に揉まれた後
するっと 駅前のホテルに連れ込まれて

足下迄有る 大きな窓の遥か下に
山手線を見乍ら



…谷崎さんって
日本に居るのに お家に帰らないんですか  と

少し呆れて 聞いてみたら



帰るよ

時々はね  と



折角来てくれたのに
君 つれないね
時間が大丈夫なら 泊まっていこうか
僕明日 午後出で平気だから   と

おじさんが ジャケットを脱いだから

いえ
谷崎さん

帰って下さい わたし



お引き止めとか したくないんです  と
慌ててそう言ったら
ふと

唇を 塞がれて



会いたかった

本当に   と



わたしの上に
どさっと被さるように

手首を 掴まれたら



噫そうか
君は 力が強いんだったね

どうする?
振り払って 帰るのも良しとしよう  と



そう 訪ねられたら




…いえ










素直に 
本音を



表現するしか 無かったのです