わたしの中の 

わたし



兄との一件の後

あの時 わたしの中の「何か」が
砕け散ったのを わたしは感じていた
躯中に残った 

痛みは



家を出た後
友人同士のコンパで
軽率にも お酒を沢山飲まされて仕舞ったわたしは
その中に 「何か」が入っていたのかも 識れない
意識も朦朧とした侭

何人もの 男に

躯を 弄ばれて仕舞った



恐怖 と云うよりは
妙な快感 と言った方が謂いのかも識れない
意識が正気に戻った頃
そんな自分に
たった一人 

狂ったように 泣いた



大学時代の恋人は
その時に居た 何人かのうちのひとり
彼だけが わたしの所へ
謝りに来てくれた

彼は暫くして

「忘れられなかった」 と

わたしに そう言った



彼が 何人かの女の子と
関係を持っていたのは
随分早くから知っていた
でも
そんな彼に 恋をして居ると思うのが

厭で



学校がお休みの時
何も考えず 此の国に旅に来た
其処で出会った男性は
妻子のあるひとで

またか 


そう思いつつ

躯を委ねている 自分が居た



この旅の時
唯の思いつきで立ち寄った 他の国で
わたしは

ふとしたきっかけで
「現金」を手に入れた
何ヶ月か経った後
その知らせを メールで受け取って

浮かれる

云うよりは

悩んだ



こんなもの
何の役にも 立たない
一生を生きていくにも 未だ余って仕舞う

こんなものに

また 「狂わされるのか」



何日か考えて
出した結論は そんなものだった
でも 唯手元に置いていても仕方無い
わたしはこの事を 誰にも言わずに

折角だから
「遊んでやろう」

此の「事業」の 始まりは
そんなところ からだった



旅先で出会った
妻子ある男性は
後ろめたさもあるからなのか
とても 優しくて

何だか久し振りに触れる
男性の 優しさに
悪い気はしなかった
デートの時も
食事の時も

ベッドの 中でも



暇さえ有れば わたしは「事業」に打ち込んで
週末 会えなくても
お子さんの影が ちらついても
不思議な程 何も思わなかった
あの日も

普通に会って 別れた

唯 それだけだったのに



翌日の地下鉄で
隣のおじさんが 広げていた新聞を
ちらと 覗き見して
わたしは 自分の目を疑った
其処には

彼と
彼の家族の名前が
「被害者」として



慌てて電車を降りて
売店で 新聞を買った
社会面に 小さく載った その記事は

彼と家族が玄関先で刺されて
3人とも 亡くなったと

そう 書かれていた



激しく動悸がして
気も漫ろで 部屋に帰ると
電話が 鳴って
その電話は 警察からで

彼の携帯電話の履歴の最後が
わたしに成っているからと

刺傷は 3人合わせて100を超える
これは怨恨かも識れません と

あなたは あの日何処で 何をしていましたか  と

会いました
不倫を していました


恨み なんて
そんな物は
何も有りませんと 

其れしか 言い様が無かった



其の後も暫く
警察からの呼び出しは 続いて

実家にも 警察の方が行った
此の時両親は
帰って来なさいと

でも
家には

わたしは 帰れない
帰りたく ないの と

其れしか 言い様が 無かった



やがて 犯人は捕まった
同じマンションに住む
精神を 病んだ ひと

挨拶をされたとき 馬鹿にされた気がした と

そう 話したのだと云う


此の頃 わたしの噂は
学校中に 知れ渡り
死に様が 余りに酷かった為か
安っぽい 週刊誌に追い回され

こんなに わたしの恥を晒しておいて
理由はそれか 
そんな事なのか
どうせ あんたは何の罪にも問われない



わたしはその時 初めて気が付いた
彼の事が こんなに好きだった 自分を
彼の奥様を
家庭を 
裏切り乍ら

それでも

この人の口から零れる
家族の話を
会った事も 会う事も無いのに
何時しか 愛おしく思っていた



自分を



初めて
怒り と云う感情が
々仕様も無く 込み上げて来て

担当の刑事さんが 困り果てる程に
泣いて
泣いて



泣いて



此の時 学校での拠り所は
最早 恋人の所しか無く
わたしは 「仕事」に逃げ場を求めた
亡くなったその人の紹介で会った 会社の社長のひとりは
ホントに大学生?と
わたしの見解を 真面目に聞いてくれて



学校はちゃんと卒業します
でも わたしにはもう
居場所が 無いんですと
事情を 一生懸命説明したら

彼は悲しい亡くなり方をした
君の事は 僕の胸に納めておくよ
勉強は ちゃんとしなさい

でもそんな中で君はちゃんと

「仕事」が できるかい?



そうやって
同級生が就職活動に明け暮れている頃
わたしは 会社に所属する事に成った
最低限の単位と レポートと
慣れない「仕事」と

自分の 「事業」 と



でも 打ち込める「何か」が
やっと 手に入った
それだけで わたしは
とても 嬉しくて



そんな中
たまに ひやりと夢の中で通り過ぎる

欲望 を

感じて



来るもの拒まず と云うのは
正に その通りだろう
でも そんな時



恋人の「裏切り」を まざまざと知った



でも結局
彼女の事を考えると
責める事は 出来なかった
自分でも不思議な位に

怒りは 涌かずに



少年の家に行った頃
流石に此処では 今迄のようにはいかないと
関係の清算を わたしは迫られた
此の頃K君は もうわたしの傍に居て



ひろのんちゃんは 自分をもっと大事にしなきゃね と
何時も笑って話す彼に
不思議な 信頼感を
覚えた



大事に するとは

一体 如何いう事 ?



少年に 初めて躯を開いた時
(此の時は何も無かったのだけれど)
彼は 確かに
わたしに何かを 感じてくれていたのかも識れない

だけど

未だ十代の男の子に
捨て鉢な真似を して仕舞ったのだろうか
わたしがこんなじゃ
「あの女性達」と そう変わらないじゃないかと

そう思ったのは
確かに 事実で



実家に帰ったのも
「貴方」を 連れて居ないと

ひとりでは とても
とても帰る事が 出来なかった
あの時は随分 茶化して言うしか無かったけれど

それもまた 

事実



そんな卑怯な わたしを
あの家に 棲む二人は



こんなにも
こんなにも

大切に してくれた




貴方に 初めて想いを伝えた時

自分の言葉に
自分で 驚いて

何も答えなかった その背中に
後悔を した



わたしは 嫌いだったのだ
「好き」と云う 其の言葉そのものが

勝手な 思い込みで
勝手な 思い上がりで

勝手に その人を
縛って仕舞う

その 魔物の言葉



わたしは此の時
貴方に 見返りを求めたのだ
こんなに
こんなに好き「なのに」 と
そう言った瞬間



何て
卑しい事を
言って仕舞ったのか  と

自分を 

責めた



貴方が居なくなった時
今迄の自分を 思い返して



此れは罰だ

そう 思った



何時でも
わたしなんて
死ねば 良かったじゃないか

犯されたとき
転姦されたとき
裏切られたとき
あの人が 死んだとき

此の傷が

付いたとき



それなのに 貴方はあの時こう言った



貴女は 貴女の世界で 生きていて下さい  と



何て
何て勝手で



無慈悲で
残酷な事を

この人は 言ったのか



わたしの世界は確かに
貴方の棲むその世界に比べたら
平和で
穏やかで



幸せに 見えるのかも 識れない



だけど
だけど

そんな中にも
拭えない 闇は有るのだと
貴方は考えた事なんて 有るの?

貴方は何時も
自分だけが 幸せでない風にして
確かに 貴方の背負うものは重いかも識れない
だけど



貴方の目の前に居た少年は 其れを体現しているじゃないか
此の子は
此の子は
「貴方」なんかを 傍に置かなければ
普通に 生きてさえいけない程に



こんなにも

哀しかった



怪我が 治る頃
少年は わたしを抱きとめて

アイツ
残酷な事するよな

そう 言った



何ともなく キスをして
暫く お互いの躯に 触れた
だけどやがて

彼はその手を 静かに払って

ひろのんさん
それは

オレは違う気が する



わたしは 10も年下の彼に
そう 諭されたのだ
その位 わたしはあの頃

何かに
捕まっていないと



途切れる



そんな気が した



わたしの中の
何時の間にか 
塵のように 砕けた何かとは

誇りだろうか
それとも



生きたい と
そう思う

願い だろうか



拭っても
拭っても
わたしの中に遺る わたし



もうひとりの わたし



その「迷い」は

未だ きっと





消えない