本当はいけない事 なのだろうけれど
消灯の少し前 Mちゃんがわたしの所に心拍と体温を測りに来て
(彼女は看護士のお仕事も出来るんですね…) 

此れから来られるとのことです 

と一言言っていきました



昨夜は流石にお手洗いに行ってばかりで
うとうとしつつ 浅い眠りの侭朝に成って仕舞い
大きな窓の もんやりと垂れ込めた雲を見乍ら
不思議な気分で 入院二日目が始まりました



腸の検査は午後一番で
検査の少し前 先生が様子を見に来られたのだけれど
流石にわたしの腸は持ち主に似て?頑固なようで
昨夜のお薬と
お茶に溶かしたこのお薬ではまだ足りず
まだ催します と言ったら
なんと これも初体験の「グリセリン」を大量に受ける事になって(わああああ)

…こんな形で「開発」されるなんて…
勿論おかしな我慢はしなくて謂いのですが 笑
何だかもう 綺麗さっぱり?宿便迄?みたいな(相当投げ槍…)



幾ら看護士さんが女性とは云え胃腸科の先生は二人共男性で
相当 本当にもうもう恥ずかしくて
しかもその上 その後の内視鏡の検査で
思わぬ形で「第二のバージン」を無くす羽目になりました(…)

でも本当に痛くはなかったのです
何だか 暴れん坊の患者で申し訳ない …



今日は母がずっと傍に居てくれて
わたしがぶつぶつ言い乍ら処置を受けている時も 検査の時も
結局腸の中は綺麗で 何もなくて妙に力抜けしてぐったりしている時も
前回の入院の時とは 比べ物に成らない位
その様子は 唯 穏やかで



その後はもう一度CTに行って
造影剤の注射で わたしの腕は痣に成って仕舞い
もう本当に疲れて 検査の後やっと暫く眠りました



久し振りに食べた食事は 柔らかく煮たおうどん
部屋は広くて綺麗だけれど やっぱり此処は病院なんだなあ なんて
その時やっと「実感」が湧いて来て

母もわたしに付合ってくれて 今日は食事を摂っていなかったみたいで
おなかすいたね なんて笑い乍ら 一緒におにぎりを食べていました



その時ふと
母の手元に 何時も家で使っていた「貴方」のポットが有るのに気が付いて



昨日 「Iさん」は どうだったの と聞いてみたら
母は その事は何も答えずに

あなた 綺麗になったわね 
何て言えばいいのかしら あの時よりも「落ち着いて」見えるわ


ぽつりと言いました



ポットの中は今日は暖かいお茶で
それを二人でゆっくり飲んで
わたしは 「貴方」が何をこの人に話したのかは 此の時は解らなかったけれど
ちゃんと言おう そう思って



あのね
あの人が 一体「どんな人」でも

わたし あの人のことが 好きなの



母に言いました



母に「好きな人」の話をするのは
実は「貴方」の事が初めてで
だからこそ母は
わたしが怪我をした時傍に居なかった「貴方」に あんなにも悲しんだのです



母は

お父さんはね やっぱりそうか と言うのよ
「身のこなし」が違うから きっとそんな所だろうと思っていた って
あなたが眠っていたから 起こさないでと言ったの
ご免なさいね







面会時間は夜の7時迄で
母は Yさんと一緒に またホテルへ帰って行きました
Yさんとわたしの父は今日は 一緒に少年の家に行っていたようでした



そして

消灯時間を少し回った頃
ふと 暖かい気配がして 振り返ってみたら

大きな手提げ袋を下げた「貴方」が
何も言わないで 其処に立って居ました



遅くなってごめん と ぽつりと言って
でもその顔は 明らかに疲れて見えて
ベッドの脇の 椅子に腰掛けても
何だかわたしは 申し訳なくて

大丈夫だからお願い 無理はしないで と言ったら
いや 今日は「話して」おかないと と静かに微笑った



昨夜 わたしの両親に貴方が話した事とは
以前わたしが聞いた貴方の「過去」を 少年に会う前の所迄「巻き戻した」内容でした
丁度 「貴方」が少年に出会うきっかけにもなった「或る出来事」を
わたしと 少年に置き換えて 貴方は両親に話したのです



でも
「その時」怪我をしたのは 勿論「わたし」では無い
「その時」怪我をしたのは 他でもない「貴方自身」で
そして 今も遺るその痛々しい傷を この人に増やしたのは

「花屋」さん

貴女 なのです



まあ 「大筋で『嘘』ではない」し 此処迄が限界かな思って と
貴方は静かに言って

わたしが昨夜眠っていないのを知ると 薬を貰ってこようか と言うのだけれど
貴方はきっと 昨夜も殆ど眠って居ないのだろう
思わず頬に 手が伸びて



すると貴方はわたしの手を取って
その手にキスをした後
手提げ袋の中身を取り出した



掛けてあげる と
貴方が言った その中身は
とっても大きな 縁がレースのストールで
読書灯の灯りでも解る 深い赤い 本当に綺麗な色で



わたしは本当に驚いて
どうしたの と聞いてみたら
僕も「リハビリ」が必要だったから と貴方は自分の左肩をとん と叩いた



貴女は今 お腹の手術で入院しているけれど
肩の事も 忘れちゃ駄目だよ と言って
スローの上に その大きなストールを掛けた

そして




嗚呼やっぱり
貴女には赤が似合う と
静かに言って

貴女の声を聞いていないと どうも落ち着かなくて駄目だな と少し微笑って



其の侭
ストールごと 静かに引き寄せられてキスをした



あの時とは違う
本当に静かで 暖かい そして

濡れた キスを





本当に嬉しい 有難う と言ったら
貴女は喜んでくれるから 作り甲斐があります と貴方は笑って

また明日来る 今夜こそ眠って下さいね と 抱擁をして

貴方は 帰っていきました






編物は

一本の糸を丁寧に 一目一目 繊細に編み立ててゆく



貴方は 何を憶い乍ら
これを 編んで居てくれたんだろう



でも
其れは本当に わたしの肌に 柔らかくて

唯々

暖かい





貴方も 今夜はゆっくりと休めますように




おやすみなさい