先週の木曜日、メガネを忘れ、眼鏡なしで物理の授業を受けていた。

ふと、視界に入った二つ隣の彼の腕に違和感を感じ、視線を向けると案の定、彼のトレードマークと言っても過言ではない、ごっついゴールドの(塗装の)腕時計が彼の腕についていない。(前、塗装がちょっと禿げてて、本物のゴールドでないことは彼にも確認済み。)

「はて?忘れたんやろか? でも、自分のお気に入りのトレードマークを忘れるなんて、完璧主義なのに珍しいこともあるもんやねぇ。」

と思って見ていたら、何時もの腕時計の位置に黒いリストバンドらしきものが装着されている。

「犬の首輪か?
前飼っとった犬の首輪とか?
いや、しかし、彼が犬を飼っていた話なんて一度も聞いたことないし、衣服にも彼の所持品にも獣の毛が着いているのは見たことがない。」

「はて、なんだろか? 新しい腕時計に変えたんやろか?」
と思い、見ていると、彼が腕を振り、軽くブレスレットが回転した。

ふむ。例に漏れず、リストバンド(仮)には彼が大好きなゴールドのプレートがついていた。
目を細目て見てみたが、文字が掘られているものの、時計の文字盤ではないらしい。

てことは、腕時計ではない。
犬の名前?やはり犬の首輪か…?

もっと目を細めてがんばってプレートに書かれている文字を読み取ろうとしたが、最後のTIONしか読めなかった。

TION… このスペルで真っ先に思いつくのはDONATION。

「そうか。 地元のダムにでも多額の寄付金でもして参加賞か何かでリストバンドもらったんやな…ヤツらしい。」

駄菓子菓子、 だがしかし、いやしかし、

見なりにも、小物にも人1倍金と気を使い、糸目をつけないブランド志向の彼がアクセサリーにデザイナーブランド品で無いものをつけるとはあまり考えにくい…。

いや、しかし、黒いリスト部分も、ゴールドのプレートも、彼の好みのデザインである。

はて、ということは、デザインが気に入ったから、そのまま参加賞腕に着けとんやろか…。

てことで、木曜日、そのリストバンド(仮)を、募金の参加賞ということで方をつけた。

そして金曜日、また物理の授業がある。メガネはもちろん忘れずに持参。

彼の腕には何時もの腕時計がつけられており、一緒に参加賞(仮)もつけられていた。

「そんなに参加賞(仮)気に入ったんやろか…。」

メガネで、前日読めんかったプレートの刻印が読めた。

そんでそれはDONATIONなんかじゃなかった。
確かに、OもNもTもIも入っていたのは入っていたが…

書かれてたのは

「LOUIS VUITTON」

ええ、参加賞のリストバンドではなく、れっきとした彼の大好きなブランド物メンズブレスレットでした。

ついでに400ドル(4万円ぐらい)越えするらしい。

4万越えのLouisVuittonのメンズブレスレットを「死んだ犬の首輪」「ダムの募金への参加賞」と間違え、LouisVuittonをdonationと間違えて読み…。

いや、メガネ取ると本当なにも見えないんですよ…。

いや、流石にデザイナーブレスレットを寄付金の参加賞として地元のダムから受け取るやつなんていないわな…。どんだけ寄付金渡せば400ドルの参加賞がもらえるんや。ダム赤字なるがな…。

結局、彼に「それ、犬の首輪?」なんて聞かなくて本当によかったと心底思ったのである。

別に、怒りはしないだろうが、きっと、乾いた笑いが帰ってきていたであろう。