同棲中の彼女の愛車は、クーラーの効きが本当に悪い。
車内の暑さに耐えられず、タツヤは急ブレーキを踏む。百メートル先に自動販売機が見える。
缶を頬にあてながらクルマへと戻る途中、遠くから歓声が聞こえた。
どうやら、少年野球の試合がはじまったらしい。直後、懐かしい打球音が響き渡った。
タツヤがその打球音を毎日聞いていたのは、もう十年以上前のことだ。
その頃はもう少し、暑さに対する忍耐力があった気がする。

クルマのドアにキーを差し込むと、足下にボールが転がってきた。派手な色のゴムボールだった。
「すいませ~ん!」
少年野球デビュー前の少年が、大声を張り上げる。
ボールを拾い、すぐに投げ返した。その柔らかい感触が懐かしかった。
足下に生えるつくしも懐かしかった。アスファルトを歩むアリも懐かしかった。
気付かないうちに、目線が高くなってしまっていたようだ。
それも悪くはないことだと思う。ただ、失ったものも多いような気がした。
これからは時間を見つけて、下を向いてみようと思った。そこにはなにかがあるはずだ。
次の試合は、いつだろう。風呂上がりの彼女が飲む烏龍茶は、もうぬるくなってしまった。
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こんな感じで書いていきます。
まだまだですが、頑張っていきたいと思います。
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