四国一周バイク旅で、ツーリングの楽しさは素より、棚ぼたで、ユース・ホステルの面白さにも目覚めてしまった事から、京都に戻ってからの私は、早くも次の旅行を計画していました。その頃の考え方は、最早、バイク旅が主では無く、「ユース・ホステル」に軸足が移っていました。つまりは、ユース・ホステルを楽しむ為に、バイク旅行をすると言う体でした。

 

そんな中、選んだ旅行先は、小学校、中学校と修学旅行で訪れた事があったノスタルジー溢れる「九州」でした。四国もそうでしたが、九州も一周するには最適なイメージだった事もあり、単純に九州一周を目論んだのでした。この九州一周バイク旅行では、鼻からユース・ホステルを目的としていたので、とにかくウケを意識して、学生ノリで色々と工夫を凝らしたものでした。

 

四国旅行で使用した、シートの左右に振り分ける合皮のバッグは、マフラーの熱で穴が空いてしまい、既に廃棄してあったので、今回の旅行用に、入口を絞るタイプのバッグを購入しました。その絞り口に、トムとジェリーのトムの顔だけ出して絞って固縛し、後部にある左右のウインカーには、それぞれに大根と人参をぶら下げると言う、今考えると、かなり恥ずかし過ぎるスタイルでした。

 

大学が冬休みに突入した12月17日に、京都を出発した私は、四国一周で選択した名神高速から2号線で行くルートでは無く、国道9号線で山陰ルートから九州に向かうルートを選択しました。それは、元来、馴染みのある瀬戸内ルートを行くよりも、未知のルートである9号線を行く方が、楽しさが倍増すると考えたからでしたが、この選択が後々の行程に、影を落とす事になろうとは、考えもしませんでした。

 

この九州一周バイク旅行は、前出にある様に、基本的には、ユース・ホステルを巡る旅と位置付けていたので、走行距離は度外視して、とにかく選んだユース・ホステル間を、走るだけと言う事に終始すると言うコンセプトでした。そんな中、最初に選んだユース・ホステルは、鳥取県の香宝寺ユース・ホステル 『羽合温泉のYH』でした。このユース・ホステルは、お寺のユース・ホステルながら、とてもユニークな存在でした。

 

私が宿泊した日は、私以外には女性2人組のみでしたが、当時のYHハンドブックには温泉のあるユース・ホステルとして名前を載せていたので、到着してから、どこに温泉設備があるのかな?って感じで、施設内を見て廻ったものの、お寺の本堂と、それに付随する部屋と、ユース・ホステル用の部屋があるだけで、見つける事が出来ませんでした。しかし、入浴時間になって、温泉ユース・ホステルの意味が判明することになりました。

 

それは、この地域は時間制で、湯元から温泉の供給があると言うシステムだった様で、ユース・ホステルのお風呂場には、竹筒があり、それを湯船に動かせる仕組みになってました。時間が来ると、湯元からお湯が供給されて来るので、竹筒を湯船に引き寄せる事で、どんどん湯船に温泉のお湯が溜まって、源泉掛け流しの状態になるのでした。もう最高の温泉気分でしたね。

 

しかし、このユース・ホステルには、ミーティングが無かったので、2人組の女性とも話す機会も無く、かと言って、私の凝ったバイクの装飾?は完全にスルーされてしまうと言う二重苦で、期待の初日のユース・ホステルは終了してしまいました。しかも、私が選択した山陰道ルートは、同じ方向にも、対向車線にもツーリングするバイクは皆無で、ただただ、追い抜いて行く車のドライバーからは、奇異な目で見られるだけと言う空振り状況でした。

 

そんな中、黙々とバイクを走らせる私が、2泊目に選んだユース・ホステルは、島根県益田市にあった七尾公園ユース・ホステル『別名;すき焼きYH』でした。しかし、その日の宿泊者は、僅かに、私ひとりだけだったので、流石にひとりでは『すき焼き』を楽しみに来ました!と口にするのも憚れる雰囲気に場を持て余し気味でした。するとペアレントさん(おばさん)が察して、お目当てはすき焼きでしょ?と、助け舟を出してくれたのでした。

 

瞬間、元気良く反応した私に、ペアレントさんは微笑んでくれて、暫く待っててね!って、台所に入った行きました。やがて、私ひとりにも関わらず、牛肉たっぷりの大盤振る舞いで、返ってこちらが恐縮したのでした。昼間の走行では、空振り続きで、寒々した思いでバイクを走らせて、気力も萎えていた分、七尾公園ユース・ホステルの暖かいオモテナシで、大いに癒された私がいたのでした。

 

翌日も相変わらずツーリングするバイクに巡り合う事は無く、ひたすら寡黙に九州に向けてバイクを走らせていました。距離的には、このまま九州入りするのは必至の状況であったので、距離を細かく計算しつつ、漠然と太宰府天満宮近くにあった太宰府ユース・ホステルをイメージして、山口県に到達した時点で、途中で見掛けた電話ボックスから、太宰府ユース・ホステルに予約の電話を入れました。

 

当初、イメージしていたのは、関門トンネルで九州入りするイメージだったのですが、あれ?あれ?と言うままに、若戸大橋から九州自動車道に乗ってしまい、一気に太宰府まで到達してしまったのでした。山口県から予約を入れていた太宰府ユース・ホステルはお母さん(ペアレント)と実の娘さんが経営されている、アットホームな雰囲気の場所でした。

 

このユース・ホステルでは、色々な場所から旅行に来ていたホステラー(ユース・ホステル会員)と知り合いました。私のバッグのトムにも、バイクに付けた装飾も、それなりにウケてくれて、漸く陽の目を見た気分でした。夕食後には、太宰府天満宮をメインに置いた、穏やかで楽しいミーティングも催され、今回の旅で、初めてユース・ホステルに宿泊してると言う実感が持てたのでした。

 

 

香宝寺ユース・ホステル

 

 

七尾公園ユース・ホステル

 

 

9号線から雪の大山を望む