義弟にMSXを貰ってゲームをしていた長男は、その後も順調に成長を遂げていました。中学生に上がる頃には、WEBのコンテンツに興味が移っていました。当時は、ネット回線も未整備で、一部の大都市圏には光回線はあったものの、まだまだ地方都市では、良くて、64KのISDN回線で、多くはモデムを使用する低速の電話回線でした。

 

しかも、使った分だけ料金を支払うと言う、従量制が採用されていて、現在の様な、ネット使い放題は夢のまた夢の時代でした。深夜帯には、ほぼ使い放題の「テレホーダイ」と言うサービスもありましたが、その回線速度は、現在の光回線と単純比較できない程に、モデムを使用した電話回線を使った恐ろしく低速の環境でした。

 

ですから、回線速度が望めない環境下では、映像に容量を要求するWEBコンテンツの進化は、二の次になり、それを利用するホームページすらも、まだまだ一般的では無く、一部の大企業が会社を紹介する為に、自社のホームページを持つのが普通でした。しかも、ホームページのトップページは、動きの無い無味簡素なサイトが殆どでした。

 

そんな中、「Flash=フラッシュ」と言う、トップページに「動き」を作り出す事が可能になるスキルが開発されました。それを機にして、様々なサイトが、Flashを採用して、それまでの動きのない平面のWEBサイトから、動きのあるWEBサイトに変貌を遂げて行きましたが、まだまだ、WEBの潮流的には、一般的なスキルではありませんでした。

 

当時は、ホームページは会社が持つものと言うイメージで、今でこそ、誰でも気軽に開くWEBサイトも、当時は、有名アーティストであっても、自身のホームページを持つ事は稀な事でした。そんな時代背景の中、中学2年生になった長男は、Mr.Childrenのファンサイトを立ち上げます。当時は、Mr.Childrenに、オフィシャルサイトは存在していませんでした。

 

しかも、長男の様なファンサイトが複数存在して、切磋琢磨していました。長男がMr.Childrenのファンになったのは、ドラマ「若者のすべて」のエンディングで流れていた「Tomorrow never knows」を聴いた私が、すっかりファンになって、レンタル店でCDを借りては、カセットテープに録音して、家庭内で、率先して流す様にしていたからでした。

 

その潮流は、やがて家族全員に広がり、現在に至るまで、3人の子供達のファン熱は覚めておらず、コンサートには毎回参加しています。逆に私はと言えば、いつしか、その熱は冷めてしまい、今日に至っていますね。その頃のファンサイトのステイタスはYahooに登録される事でしたが、中学3年生の時に、念願のYahooに長男のサイトが登録されました。

 

すると、あれよあれよと言う間に、17万アクセスを記録する事になりました。その快挙を間近に見ていた私も、ホームページに目覚める事になります。先ずは、自分のホームページを作った流れで、会社のホームページも作る事を考えたものの、長男の方が完璧なサイトを作るだろうと考えを改めて、長男に話を持って行きました。

 

すると、長男もやる気を見せたので、一旦は、任せたものの、学業との狭間で、中々、作成が進まず、会社からのクレームに発展しかねない状況になった事から、長男が作ったファイルに、私が手を加えた事で、長男が臍を曲げて、作成を放棄するに至ります。仕方ないので、一応、会社の上司に許可を得てから、会社のホームページを立ち上げる事になります。

 

しかし、それは、単純に大容量の画像をベースにして、その画像の上に文章を載せると言うタイプにした所為で、今なら笑える様な事態に遭遇する事になります。それは、ネットの回線速度が遅過ぎて、全体像が現れるまでに時間を要してしまい、文字が最初に現れて、徐々に全体が現れてくると言う、間抜けな事になってしまったのでした。

 

その後、秋葉原で著作権フリーのホームページ作成ツール(外枠が設定済みで文字を追加するだけの便利ツール)を購入した事で、統一感があり、更には動きのあるFlashをトップページに装備した、技の光るサイトに変貌を遂げましたが、仕事に忙殺されてメンテナンスを怠った事から、いつの間にか、プロに頼んでサイトを構築した様でした。

 

話を戻して、高校生になった長男は、益々、ホームページのスキルアップを目指して、当時、マクロメディアが販売していたFlashの体験版を雑誌の付録で入手して、様々な試しをして勉強していました。親としてはFlashのソフトを買ってあげたくなるのは、当然の心理ではありましたが、正規版のFlashはかなりの高額商品でした。

 

だったら、新品の製品ではなく、ソフトの中古品があるなら、それがCDである限りは、特に劣化は無いだろうと考えて、様々な掲示板に「Flash」を買いたい旨の書き込みをしてました。しかし、当時、PCソフトの中古品を購入する事自体が、違法だった事を知らなかった私は、馬鹿の一つ覚えの様に、ひたすら掲示板に書き込みを続けていました。

 

そんな時、突然メールが来たのでした。メールの内容からすると、「Flash」もありますが、他にも色々とありますよ。と意味深な内容でした。私としては、譲って頂けるならお願いします。と返信します。その後、メールの相手からは、1万5千円と言う価格が提示され、受け渡し場所の調整に入ったのでした。その頃、私は、関東事業所の仕事で横浜の寮で出張生活を送っていました。

 

その後、メールで、地元は別ですが、現在、出張で横浜に来てると言う事を告げると、相手も関東地方のどこかの地域らしく、それならと「秋葉原には来れますか?」と、食い気味に言われたので、行けますよ。と返事をすると、その週の日曜日の13時頃に、今は無き秋葉原の東京三菱銀行のキャッシュコーナーで受け渡しをしましょうと言う話になったのでした。

 

当日になり、現地にかなり早目に到着した私でしたが、流石にまだだろうと考えたものの、それでも、もしかしたらと、店内を覗くと、既にそれらしい御仁が、キャッシュコーナーに立っていました。その人物は、40歳手前に見えましたが、紙製の手提げ袋を持った人で、見るからに挙動不審な人物ではありましたが、振り返ったタイミングで私を認めて、近づいて来たのでした。

 

彼は「◯◯さんですか?」と、私の顔を見ながら言います。私がそうです。と小声で答えると、それまで、幾分か強張っていたのでしょう。一気に表情が緩みます。やがて、目をキョロキョロさせながら、辺りを警戒する様な感じで、私に近付く様に促して、徐に紙袋に手を差し込みました。同時に紙袋を覗き込んだ私は、彼の手に何枚かのCDケースが、握られているのを見たのでした。

 

彼は、そのCDの束を私に差し出したので、私も慌てて、財布を取り出そうとすると、その人はそれに掌を広げて「待った!」を掛けて、小声で、「裸で、そっと頂けますか?」と言うのでした。私は、財布から1万5千円を抜き出して、小さく折り畳み、後手に彼に手渡しました。そして、代わりにCDケースの束を受け取りました。CDは3枚ありましたが、何も書かれていませんでした。

 

別れ際に、その人は、CDが読めないとか、何か不具合がありましたら、いつでも、メールでお知らせ下さいね!直ぐに対応させて頂きますので!と言い残して、その場を立ち去りました。私も遅れてキャッシュコーナーを後にしました。寮に帰って自分のノートパソコンでCDの中身を確認したところ、3枚のCDの中の1枚には、Flashだけ入っていました。

 

他の2枚のCDにはAdobeのソフトやら、超高額のCGソフトとか、CADソフトと入っていました。正規の価格で換算すると150万円相当のソフト群が入っていたのでした。しかも、認証時に必要な、シリアルナンバー付きでした。私は、早速、Flashを私のパソコンにインストールしてみました。インストールに問題が無かったので、速攻で長男に郵送しました。

 

Flash以外の2枚のCDに入っていたソフト群は、横浜の出張が終わってから、所属する事業所の同僚に向けて、お土産として持ち帰りました。会社で使用するのは、訴訟問題に発展しかねないので、CD-Rでコピーしては、個人で使用する事を条件に、仲の良い同僚にプレゼントしたものでした。特にCGソフトは楽しく使用しましたね。

 

今考えると、1万5千円で購入したソフト群は、Win MX等のP2Pソフト(Winnyはまだありませんでした)を使って集めた、原価ゼロのコピーソフトだったのでした。今でもヤフオクでも同様の違法ソフトは売買されていますが、禁断の世界であればあるほど、人を惹きつける魔力があるのでしょうね。改めて、そう感じました。

 

私からFlashを受け取った長男は、既に体験版を通してFlashの大部分はマスターしていましたが、そのスキルを自分のMr.Childrenのサイトのバージョンアップにも利用していました。そんな時、某企業が某IT企業とタッグを組んで、「ホームページコンテスト」を開催する事を知った長男は、Flashを多用したサイトを武器に応募する事にしました。

 

結果、審査員の大絶賛のもと、ジュニア部門でグランプリを受賞する事になります。審査員の評価内容としては、「17歳の少年が創出したとは思えない圧倒的なFlashの世界観」と言うものでした。ジュニアグランプリの副賞は、Flashのソフトは勿論のこと。デスクトップパソコンからWEBカメラ、Adobeのフォトショップが同梱されたWEBコレクション(50万円相当)他と、凄いラインナップでした。

 

長男は躊躇なく、デスクトップパソコン以外の賞品をヤフオクで転売します。Flashは私からの海賊版を持っており、他には欲しいものが無いと言うのが理由でした。WEBコレクションは、未開封での出品だった事もあり、かなりの金額で落札されました。その長男も、その後、地元の大学に進学し、教授の勧めにより、WEB関連企業に就職して現在に至りますね。

 

以下は長男のMr.Childrenのファンサイトのコンテンツです。

(一応、当時のロゴは避けてます。笑)