もう体は大丈夫なんでしょ?
母は言った。
今日もリハビリ。
気分が乗らないはずなのにどこかで"会いたい"という気持ちがある。やっぱり好きなもんは好きなのだ。そう簡単には変えられない。
リハビリに行く前にファミレスに寄ろうということで母と二人きりでファミレスに行った。
そこで話はリハビリの話になった。
母『リハビリ、いつまで行こうと思ってるの?』
俺『…。』
何も言えない俺。
母は続ける。
母『体はもう大丈夫なんでしょ?今リハビリ行ってる理由って何?』
俺『…。』
母『まだ痛いの?家でのトレーニングだけじゃだめなの?
タダじゃないんだからねー。なんとなく行ってるんだったらもう止めなさい。』
俺の頭の中で先生の笑顔がよぎる…。
心が圧迫される。
熱い何かが込み上げる。
母が言っていることは最もだった。だから余計苦しかった。
よっぽどの理由がない限り俺はもうリハビリには行けなくなる。
母親に自分がゲイだと話せたらどんなに楽だろうか…。先生にゲイだと話せたらどんなに楽だろうか…。
『リハビリは今月までだね。』
母が言った…。
心が締め付けられる。先生の笑顔が霞んでいく。
でもこれ以上親に迷惑かける訳にもいかない。
先生との別れ…。
いつかは来ると思っていたけど考えたくなかった。未来のことなんて考えたくなかった。
せっかく仲良くなれたのに…。
俺はその時母への返事は一切出来なかった。うつむいてただ話を聞いていることしか…。
だが母は続いてこう言った。
母『夢はないの?なりたい職業とかさ。』
俺『え?夢?そりゃあ…ダンスの仕事に就ければ一番だけど…。ダンスの先生とか…。』
俺は反対されるのを覚悟の上 母に少しだけ自分の夢を話した…。
でもなんでリハビリの話から夢の話…?話題を変えただけか…?
母『ダンス?ふーん。
…じゃあさ今リハビリなんて受けてていいの?ましてやダンスの世界なんて厳しいんだから今すぐにでも努力しなくちゃいけないんじゃないの?小さい頃から踊ってる訳じゃあるまいし…。』
あまりにも前向きな母の回答に俺は目を丸くした。
俺『…ダンスを本気でやってもいいの?』
普通に聞いてしまった…。
母『いいに決まってるじゃない。その代わりしっかりバイトしてダンスのお金は出しなさいよ。』
母が自分の夢を応援してくれるのは単純に嬉しかった。
そして自分が何故リハビリに行くことになったのかを思い出した。
全てはダンスのためじゃないか──。
少しだけ見失っていた本当の目的を思い出した。母が言ってることは痛いほどよく分かった…。
でもだからといって先生を簡単に忘れられるはずもない…。
俺は先生が大好きなんだ。
先生の一番になりたいんだ。
ずっとそばにいたいんだ。
俺は複雑な心境のままリハビリへと行った…。
続く