女優の山口果林さんが執筆した「安部公房とわたし」という随筆作品を読みました。

長く作家の安部公房と愛人関係にあったので、不倫暴露本のように思われがちですが、果林さんの淡々とした文章のせいもあり、❝安部公房❞という芸術の一面を遺したような内容に受け取れました。

果林さんの文体は安部公房には似ていないですがとても読みやすくて、恋愛模様を綴る場面でも甘ったるくなったりしないところが小気味良かったです。

ふたりの関係は意外と普通の不倫関係っぽい部分も多くて驚きましたが、やはり特殊なのはふたりの間には常に❝創作❞と❝表現❞が在り続けてて憧れ・・・より強い気持ちで眩しさを感じてしまいます。

大切な人と(しかも才能のある人同士で)作品を創り出したり刺激を受け合ったりしていくというのは極上の幸せでしょう!

安部公房の新たな逸話も沢山知ることが出来たので、安部公房ファンの私としては宝箱のような1冊でした。

三島由紀夫とお互いに評価し合っていたことは知っていましたが、思想は真逆であるのに実際に軽口を叩き合うほどに仲良しだったとは・・・!

安部公房の気になっていた作家や著書などにもいくつか触れられており、この1冊からまた新たに読んでみたい作品が増えました。

そして安部公房は舞台にどれほど重きを置いていたかも分かります。

恐らく私の想像を超える前衛的な舞台なのでしょう・・・、当時の舞台を鑑賞することができず、もっと早く生まれてこなかったことが悔やまれます!

安部公房の死後、正妻の安部真知さんも他界して、果林さんが❝生きなおそうと思い始めていた❞と綴っている一文が心に残りました。

大学生の時から40代半ばまで一心同体だった最愛の人に旅立たれてしまって、再び生き続けることはどれほど辛かったことだろうと胸が痛みます。

世間的には不倫は非難の的になることではありますが、果林さんのけなげさやしなやかな強さに心奪われるステキな作品でした。