無頼派の作家といえば太宰治と坂口安吾、そして檀一雄もそうです。

3人でもよく一緒に飲んでいたようですが、檀一雄と太宰治には濃密なエピソードがいっぱい残っています。

太宰の死後に執筆された「小説 太宰治」には、檀一雄の底知れぬ太宰愛が溢れていました。

檀が落ち込んでいるときに、太宰らしい気遣いや独特な言葉で励まし慰めてくれるエピソードも沢山あり、檀の哀惜の念が伝わってきて辛くなります。

また、仰天すぎるエピソードに笑いがこぼれてしまうこともしばしばです。

大学の卒業を熱望している太宰をあれこれ分析して❝卒業は難しい❞などと推量するくせに、檀は檀で1年の時に7単位受けたのみでそのあと大学に行っていないとシレっと述べていて大笑いしてしまいました。

教授(中島健蔵氏)に泣き落とし戦法で卒業を頼み込みに乗り込んだはずが、ビールやオードブルを振舞われると檀も太宰も卒業などどうでも良くなってしまい、文学論で盛り上がったようで教授殿相手に怪気炎をあげまくったとのこと。

中原中也の常軌を逸した酒乱っぷりと、とことん逃げ惑う太宰治。

想像を遥かに超えていて面白いことこの上ないです。

「道化の華」で芥川賞を落選した折には、選考委員の川端康成に抗議文を送っているのですが、その全文も作中に載せていました。凄い。

ことさら丁寧に書いたと思われる熱海事件も面白過ぎました。

熱海の旅館にこもって執筆中の太宰でしたが、宿代が払えなくなっています。

太宰の内妻にお金を持っていくよう頼まれた檀は熱海へ赴くと、太宰は即座に呑む喰う買うで檀をもてなします。

太宰は宿代だけでなく、飲み屋さんにも女郎屋さんにも借金していました。

そうこうするうちに、元の借金分よりもおもてなし分が増えてしまいお金が尽きます。

もてなす方ももてなす方ですが、もてなされる方ももてなされる方ですね!

太宰は菊池寛になんとか用立ててもらうからと単身帰京するのですが、檀は旅館に人質にとられることに。

しかし待てど暮らせど太宰は戻ってこないので、檀は飲み屋の主人に連れられて太宰を捜しに東京へ向かいます。

するとナント井伏鱒二と将棋をさしているではありませんか・・・!

借金は結局井伏鱒二だけでなく佐藤春夫にも助けてもらい、檀は激怒して太宰に詰め寄りますが
 

待つ身が辛いかね。待たせる身が辛いかね。


と返されたそうです。

檀はこのエピソードから名作「走れメロス」を構想したのではなかろうかと述懐しています。

メロスと太宰では行動は真逆ですけどね・・・。

しかし檀一雄自身が述べているように、檀は満州への出征を経てから❝生きる側の者❞となり、太宰との間に隔たりを感じてしまいます。

檀の「魔笛」についても「自分の(太宰)ことを書いてくれて嬉しい」などと的外れな感想で檀にお礼を伝えたり。

太宰の精神だけが社会から取り残されてしまった感が悲愴でした。

檀一雄は「火宅の人」と「檀流クッキング」のイメージしかありませんでしたが、「小説 太宰治」を遺してくれたことに大感謝です。