昭和38年、文藝春秋の編集者であった半藤一利さんによって終戦を振り返った座談会が企画されました。

政治家や軍人や官僚、銃後の方までも出席者28名が料亭なだ万にて5時間にも渡り交わされた座談会の記事が本(半藤一利著「日本のいちばん長い夏」)にされ、それをもとに座談会を文士劇で再現された映画作品「日本のいちばん長い夏」を鑑賞しました。

第二次世界大戦の中でも、特に戦争の終わらせ方や世界の中での日本としての意識などに問題意識を持っている人には、とても学びが深く、配役なども楽しめる作品だと思います。

再現劇の演出家役には木場克己さんだったり、沖縄の白梅部隊の生存者役にキムラ緑子さんや司会進行の半藤一利役には池内万作さん、本物の俳優さんも入っているので、絞まる部分はしっかりと絞められています。

元外務次官の松本俊一役を務められた慶応義塾大学教授の中村伊地知さんでしたが、雰囲気にも味があり演技もお上手でした。

田原総一郎さんが、開戦前から投獄され続けていた共産党幹部議員の志賀義男役だったのも面白いキャスティングでした。

志賀氏を演じているのか田原さんの言葉なのか、よく分からなくなるようなところが魅力的でした。

大岡昇平役を演じた林望さんも素晴らしい表情です!

長台詞の多い迫水久常役を、なぜ国際弁護士の湯浅卓さんに演らせたのだ?と思いましたが、座談会が進むにつれ、❝実はもっといろいろと内情を知っていそう・・・❞と思わせてしまうような雰囲気を自然体で醸しているこの方はハマリ役だったのかも知れません。

再現劇の合間合間に出演者たちや半藤一利さんご本人に木場さんがインタビューしておられ、そこも見どころです。


座談会の内容については、原爆投下は避けられなかったのか?どの時点なら避けられたのか?様々な立場から意見を述べ合います。

 

たとえば外務省と陸軍との認識の違いが、あまりに隔たっていることにも驚きます。

外務省だけが優れていたわけではなく、スウェーデン公史だった岡本季正(役のスポーツライター・青島健太さん)などは終戦時においてですら、外から見ているとまだまだ日本に戦力があると思っていたと証言していました。

各々の立場で見えるものが違いすぎたとしても、国際情勢に対しても自国の立ち位置に関しても、先見の明が皆無すぎたと言わざるを得ません。

ビルマやフィリピン戦線で従軍しておられた方々は南方のイメージ通り地獄絵図ですが、ラバウルの戦況はまだマシだったようです。

弾丸も手榴弾も自作しており、マラリアの薬も作っている途中だったので、まだまだ何十年も逗留できる力があったのだ・・・と当時陸軍大将だった今村均均(役のアニメ映像監督・富野由悠季さん)は証言していました。

※ですが、ここに参加はしていませんが、水木しげるさんはラバウルでの飢餓状態を漫画作品に描いています。

ラバウルの件だけではなくすべての事象にいえることなのでしょうが、真実がどうだったのかとか、その人の中でどう昇華されたのかとか、想像すればするほど、死んでいった人へも生き残った人へも言葉を失ってしまいます。

ただ、今村均さんという方を知ることができたのは良かったです。

今村氏は巣鴨プリズンに1954年まで投獄されていましたが、出所後は東京の自宅の一隅に巣鴨プリズンで過ごした間取りの❝謹慎小屋❞を建て、生涯そこで「今村均回顧録」を執筆しながら過ごしたそうです。(現在は今村氏の出身の韮崎市に移築されています)