旧友のみわさんが学生時代に「本棚を見られることは下着を見られるより恥ずかしい」と言っていました。
自分の思考を丸裸にされるようで恥ずかしいのだそう。
みわさんは三島由紀夫と寺山修司を愛読していたので何だか納得
私は10代から安部公房を愛読しているので、ちょっと気持ち分かります。
好きな作家に安部公房をあげると高確率で微妙な空気になります。
先月、長年の安部公房ファンには垂涎ものの「勅使河原宏の世界 DVDコレクション」を遂に購入しました
「砂の女」だけは観たことありましたが、「砂の女」を映画化しただけでも驚きだったのに、こちらの作品集には「他人の顔」や「燃えつきた地図」など計6作品が入っています。
【燃えつきた地図】
安部公房の作品の中でも「燃えつきた地図」は最も大事にしている作品なので、映像化された世界を何としても観てみたい気持ちと、激しく幻滅するのではないかという恐れとのハザマで葛藤を繰り返していました。
原作と同じように、得体の知れない世界を追っている酩酊感が気持ち悪すぎて良かったです。
主人公の「ぼく」を演じるのは勝新太郎、ヒロインに市原悦子、脇を固めるのは渥美清や中村玉緒、長山藍子などなどキャストも豪華です。
原作の「ぼく」も「根室波瑠」も存在感が曖昧で淡いイメージだったのですが、主人公格が明瞭でないところが更に迷い込み感を強烈にさせていました。
映画版では日常の中でじわじわ沁みてくる不気味さを演じる濃厚キャラのお二人を追っているうちに、気づけばぐっしょりどっぷり狂気に浸かっているような状態。市原悦子も勝新も凄い役者さんなのだなぁと改めて思いました・・・。
原作で一番好きなシーン&セリフが取り入れられていなかったのは半分残念で半分満足。
【他人の顔】
「他人の顔」の仲代達也が凄すぎました!本当に仮面の顔を被っているように見えてきます。
「帰る場所もないから逃亡を夢見る必要もない」と語る医師役の平幹二郎の長回しを聞いていると、本当にそんな世界(仮面だらけの世界)が起こったとしたら…?と妙に生々しく想像してしまい、不安感なのか解放感なのか不思議な感情に包まれます。
原作の胸焼けしそうになるほどねちねちと繰り返される述懐は再現されていないのですが、主人公の心理描写はそれぞれの場面でも挟み込まれる映像でも表現されており、美しい不快感は完璧です。武満徹の音楽も最高にピッタリでした。
因みにビアホールのシーンでは安部公房自身のカメオ出演もアリ
【砂の女】
そして「砂の女」。
「砂の女」を初めて読んだ時には余りに衝撃的で、羽田空港から鳥取砂丘に飛びました。(後から分かったことですが、モデルとなる場所は山形県酒田市、ロケ地は静岡県の浜岡砂丘だそうで、とんだ的外れ)
映画も何度観ても傑作中の傑作です。
主人公の岡田英次と岸田今日子のやり取りが、なまくらな棘のようにいちいち心を引っ掻きます。
安部公房のどの作品でも軸になる「存在証明」「不条理さ」が、原作同様迫り来る作品でした。
そして…岸田今日子がエロすぎる
マニアックな作品も多い安部公房の作品の中では、小説も映画も「砂の女」はどなたにもオススメです
撮影:R.Orita氏