賃貸住宅の10年 | おんぼろ不動産マーケット STAFF BLOG

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自由が丘の古本屋で、penのNo.107(2003年発売)号を買った。

内容は、建築家43人の集合住宅宣言。
と題して、建築家がさまざまな切り口から創った集合住宅、
アパート・マンションの事例を紹介するもの。

私が設計事務所時代に数年間を過ごした「split」(千葉学氏設計)や、
UR都市機構(当時:都市基盤整備機構)の
東雲キャナルコートCODAN(山本理顕氏設計)など、
身近な建築物が多く掲載されており興味を引いたのは間違いないが、
それよりも気になったことがあった。

それは、2003年という10年前にも関わらず、
今と全く同じ言語が使用されていること。


コミュニティー形成を促す共同住宅
nLDK神話が崩れた
長屋的発想コーポラティブ


など、現在も頻繁に語られている言葉が所狭しと並んでいる。

いやはや、10年前と何も変わっていないな。

10年前からnLDKというモジュールではなく、
自分らしい暮らし方の可能性を追求してきたにも関わらず、
それが浸透しているか?と言われれば、
決して全面的に肯定できるものではない。

コーポラティブという分野に限って言えば、
(10年間という時間軸なりの成長率を鑑みなければいけないが。)
問題はあれど、それなりに増えてきているスキームと言えそうだ。
だが、ごく一般的なデベロッパーが供給する分譲マンションは未だ、
nLDKのnの数をやたらと重視し、「凛として」とか「静寂」とか
「豊かさの象徴」とか、よく分からないキャッチコピーを
展開させて販売し続けている。

建築・不動産業界に身を置くものとして、自らを含めた
業界全体の進歩のなさを反省しなければならないと、
身に染みて感じた。

同時に、「濡れ縁」や「土間」などの言葉も目にすることが出来た。
当時からあえて余白部分を創るような設計をする動きも
多々行われていたことを思い出すことが出来、素直にうれしく思った。

なぜ嬉しいかというと、それがタイムレスな価値だと
再認識できたからだ。
10年前の「トレンド」は、今見ると、とてもチープに
思えてしまう。
でも、それがトレンドではなく、人間が生活する上での
本質であるからこそ、10年経過した今でも
まったく色あせることがない。

私の好きな集合住宅の一つである「アパートメント鶉(じゅん)」
(泉幸甫氏設計)は、様々な木々が
四季の移り変わりを感じさせてくれる。
ナナカマドやモミジなどの木々を眺めているだけで、
季節の移り変わりを感じることが出来るし、
中庭的に鎮座する池も、それを眺めているだけで
気が落ち着くことのできるような、そんな空間を兼ね備えている。

10年以上も前から建築されてきた
「心と体が休まる」「四季の移り変わりが感じられる」
共同住宅が、2013年の今において広がりを見せていないのは、
それを流通する側の責任だったり、
企画運営する側のリテラシーの問題だったりする。

素直に、その土地の気候や文化、歴史や風土を読み取り、
最適な形にする。
その上に、マーケティングやデザインをマウントする。
そういった純粋なやり方こそが、結局はタイムレスで、
汎用性が高く、価値の落ちない住宅になっていくのだと思う。

NENGO 空間プロデューサー
和泉

※おんぼろ不動産マーケットメールマガジン7月号より転載
http://www.onboro.net/melmaga.php