拙僧は、マリアが見守る中、途中、お花屋さんで買ってきた
ハイビスカスの花を一輪を、海に向かって投げた。
日本では、南国、沖縄のイメージをまとった植物として広く
親しまれているが、和名は仏桑華(ブッソウゲ)であることを
知る者は少ない。
拙僧は、帽子をマリアに預け、その場に正座し、
摩詞般若波羅密多心経を静かに唱え始めた。
心のよるべとなる経典はいろいろあるが、最も簡潔で
良く知られているのは般若心経であろう。
愚僧である拙僧も、真っ先に暗唱した。
般若心経を唱え終え立ち上がった時、背後に潜む人の気配を
察知した。
「出てきてくれませんか。松村さん。」
拙僧が語りかけると、あの美人看護師のが姿を現した。
やはり、退院した後、拙僧とマリアに送る激しい怒り、殺意がこもった
視線の主は、松村海紅(みく)であった。
「ふん、よくわかったわね。気づかなかったら、二人まとめて
海に落っことしてやろうと思ったのに。」
顔に似合わず、物騒なことをサラリという。
この女ならやりかねない。それだけの腕もあるから、実に恐ろしい。
「拙僧を恨む理由を教えて下さい。」
拙僧は、ある予感をしながら丁寧に「お願いした。