先案内人が海に転落死

 

衝撃の見出しに思わず目が行った。

毎日新聞ウェブ版によると、

大型クルーズ船を長崎港に誘導するために同船に乗り移ろうとした水先案内人が、

誤って海に転落して亡くなったという。

何ということだ。

 

私もかつてアルバイト司厨員として外航船に乗っていたころ、

水先案内人を自船に引っ張り込む業務をしたとき、

ひやっとした思いをしたことがある。

 

台湾の基隆港入港前、いつものように水先案内人を拾うため、

はしごを降ろしていたら、リモコンの下降ボタンを押しすぎたのか、

海面が近づくのにはしごは下降をやめないのだ。

慌てて上昇ボタンを必死に押し続けて、

はしごは無事だった。

 

水先案内人は港の外で小さなボートでやってきて、

大きな船に走りながら乗り移るのだ。

私の仕事は自船からはしごの先端に降りて水先案内人を抱きかかえるようにして引っ張り込むこと。

船はスピードを落とすことなく走り続けているし、

波もあるのでタイミングがなかなか難しい。

私は台湾に入港する週1回の業務だが、

水先案内人は1日に何度もこんな危ないことをやっているのだ。

 

案外、一般には知られていない仕事かもしれない。

 

聞くところによると、

外航船の船長が定年退職後にやる仕事のようだ。

誰もがなれる職業ではない。

 

乗り移った水先案内人に操舵室でコーヒーを出した。

コーヒーは二人分。

船長から出そうとしたら怒られた。

船は水先案内人が乗った瞬間から、

全ての権限と責任は水先案内人に委ねられるのだ。

水先案内人は船長より偉いのだ。

だから船長より先に水先案内人にコーヒーを出すのだ。

 

そんなこと、

一介の大学生アルバイターには知る由もなかった。