先日。

夜勤明けで帰宅すると、イチゴがショートカットになっていた。

しかも、かなり短めのショート。

私が長年お世話になっているヘアーサロンの担当の太郎くんに、背中の真ん中まであったロングを切ってもらったらしい。


ぴ『…ふぅん、良いんじゃない?』

イ『…Σ(。☉∆☉)』


一瞬、面食らった様子のイチゴ。

怒られると思ったんだろうねσ(^_^;)

だって、実際似合ってるし。

流石は太郎ちゃんって思った♪ヾ(。・ω・。)ノ♪


ぴ『成人式までには、ある程度伸ばしておいてね。』

イ『…あ、うん。わかった(・_・;』


まぁね、通常だったら物申してますよ(´・_・`)

だけれど…。





少し時間を巻き戻し、今から4年前。

イチゴ、小学6年生の夏休み。

その頃、中学でソフトテニス部で一番手として活躍していたミカンさんに憧れていたイチゴちゃん。

イ『私も、中学でテニス部に入るっ(,,・ω・,,)』

そんな事を言い出していたので、とりあえずミカンとラリーさせてみた。

テニス未経験の11歳。

出来るわけないと思ったのに。

3歳年上で一番手のミカンとなかなか良い勝負で、途中からミカンの顔つきが変わる程だった。

ちなみに、ミカンはエリアベスト8に入った選手です。


イチゴは自覚していませんが、この子は赤ん坊の頃から身体能力はズバ抜けています。

ただ引っ込み思案な性格なので、その能力を妬む凡人に罵られ、傷つけられ、自信を潰されて来た子でした。

そんなイチゴがやりたいと言ったテニス。

やらせてみようかな…。

でも…。


4月になって。

中学生になったイチゴ。

絵や手芸の才能もあるイチゴちゃんなので、部活の体験入部はいろいろ行ってみなさいと言いました。

運動部で疲れ果てる様子はミカンの時に散々思い知らされたので、絵の才能もあるイチゴちゃんはそちらでも良いのかなと思い本人とも相談していました。


イ『今日はね、美術部に行って来た!明日は家庭科部に行ってみるよ(*^◯^*)ノ』


全部嘘でした(−_−;)

イチゴは最初からテニス部にしか行って居なかった事を、体験入部最終日の翌朝に白状しました。

しかもその日の朝のホームルームの時間が、入部届の最終申し込み期限(怒)

担任の先生とも電話で相談し、そんなに入りたいのならやらせてみようと言う事になり。

イチゴは晴れて、念願のソフトテニス部に入部したのでした。


それからの毎日は順風満帆で楽しいことばかり…、とは行きませんでした。

イチゴが想い描いた澄みきった青春の舞台となるはずだったその場所は、イチゴの知らないところで既に歪にねじれ始めていた事に私も気づいてはいませんでした。


イチゴの入学した中学校には、イチゴが卒業した小学校の他にもう1ヶ所別の小学校を卒業した生徒達も入学して来ていました。

割合としてはイチゴと同じ小学校から来た子が3分の2を占めているけれど、テニス部の新入部員に関してはもう一つの小学校から来た子がほとんどでした。

その中に居たのです。

ボス猿が。

ユズと言うその女子は、小学校の時から問題児だったそうです。

そのボス猿が、子分を7人引き連れてテニス部に入部。

目的はもちろん、部の支配。

子分たちに自分を引き立てさせ、一番手&部長の座を手に入れること。

あちら8人に対してイチゴと同じ小学校の出身者は、イチゴを入れて3人。

そんな中、イチゴはまんまと標的にされてしまった。

私も、気付くのが遅すぎました…。

イチゴの先輩達にとって、イチゴはつまり去年一番手だった【ミカン先輩の妹ちゃん】。

先生達も先輩達も、みんなイチゴを中心に据えている。

それはそれは、面白くないなんてもんじゃなかったのでしょう。

みんなで素振りをやっている時にわざと後ろからイチゴに近づいてぶつかりラケットで殴られたと泣いて見せたり、イチゴがボールを打てばわざと自分から顔面に当たりに行くことをみんなで繰り返し、イチゴがわざと顔を狙って打って来ると集団で顧問に抗議したり。

そんな事が度重なり、同じ小学校から来た子の一人はストレスで不登校となり、とうとう転校してしまいました。

この事が、ボス猿一味に拍車をかけた。

人間を一人学校から消した事は、奴らにとっては輝かしい武勇伝でしかなかった。

やがて優しかった3年生は引退し、気の弱い子の揃った2年生が部内最高学年となった。

部内三役は当然ながら2年生。

しかし実際には2年生が1年生のボス猿一味に気を遣っている始末。

そんなストレスから、次第に彼女達の中でイチゴに対する感情が変化した。

【ミカン先輩の妹ちゃん】から、【先輩の妹…絞めといたら箔がつくよね】と言う風に。

それからは地獄でした。

先輩はおろか、メインの顧問だった若い女性教師も、ユズの機嫌取りに必死。

イチゴが相談しても『その場で言ってくれないと…。』と言うのでその場で先生を呼ぶと、唐突に校舎の方に走って行ってしまうし、私が校長先生に直談判しても本人は部員達に確認したけれど我が部にイジメなどありませんの一点張り。

例え大学を出たばかりでどんなに若くても、【教師】なのに。

中学生女子からの仕返しを恐れて我が身の保身に必死になっているその人に、只々、がっかりしました。

秋に開催される、1年生だけが参加するエリアの公式戦。

番手決めの校内戦でも当然イチゴが群を抜いて実力があるのに、同じ小学校から来た生き残りの子とペアを組まされ最下位の5番手でした。

個人戦は出れるけれど、団体戦は4番手までしか出れないので、イチゴとその子はみんなの荷物番をさせられて観戦することも許されませんでした。

ユズ達が8人で入部して来たのは、このためです。

恐らく母親なり、誰か大人の入れ知恵があったのでしょうけれど。


そう言えば、不自然なのはペアを組んだちぃちゃん。

試合中、ラケットを握ったままコケシのように突っ立って微動だにしません。

それが緊張から来る物だったのか、それともユズからの圧力があったのかはわからないけれど。

イチゴは二人相手に一人で応戦し、それでも3回戦進出しました。

片やボス猿軍団で固められた1番手から4番手までは、全ペア1回戦敗退。

1番手のユズ達ペアに関しては、恥ずかしいぐらいのボロ負けでした。

それでもイチゴは永遠に最下位5番手です。

ぴ『…イチゴ、部活辞めたら?』

イ『……辞めない。』





やがてまた春が来て、夏が来て。

先輩たちが引退して。

いよいよ2年生になったイチゴ達の中で、部内三役を決める頃となりました。

案の定、ユズが部長に決まったと顧問がみんなの前で紹介したそうです。

これでもう、部内の全権が公的にユズに手渡されました。

待っているのは、更なる地獄のみ。

そしてそれ以上に、どうして悪い事をしている人が評価されるのか。

どうしてこれほどまでに、自分は救われず端に追いやられるのか。

帰り際、堪えられなくなったイチゴは顧問に抗議したそうです。

その時、その女から言われた言葉。

きっとイチゴの心には、深い傷として一生残ると思います。


ねぇ、辞めれば?
受験のためにしがみついてるんでしょ?
だったらさぁ、陸上部でも行きなよ。
顧問の片野先生に話してあげる。
どこかに所属してれば良いんだからさ!


心を潰されたイチゴは泣きながら帰って来ました。

そして書き殴った退部届は親の承諾もなしに既に受理され、代わりに持たされて来た陸上部の入部届はイチゴの心と同じくグシャグシャに丸められてカバンから出て来ました。

怒り心頭


そんな言葉で賄えるほど小さな怒りでは有りませんでした。

どうする?

どうする⁈

すぐに学校に怒鳴り込む?

いや…、やめておく。

私、確実にあの女ボコる気しかしない。

眠れない夜を過ごし、翌日の昼間。

学校に電話しました。

その女を電話口に出すように伝えると、それは出来ないと。

全く関係ない学年主任が私が対応しますと仰ったので、本人と話をさせないならこれからすぐに学校に行きますと言うと、渋々と出して来た。

言ってやりたい事は山ほどある。

だけれど。

親の承諾なしに退部届を受理した事は、教育委員会に報告する旨を伝えました。

それと、何の権限があって退部後の身の振り方まで勝手に決めるのか聞いてみました。

女『…それはぁ。』

ぴ『ん?言われてることの意味がわかりませんか?じゃあ、もっとわかりやすく言いましょうね。どうしてうちの娘の行き先が、あんたの彼氏の管轄下限定なんですか?って聞いてるんですよ(・ω・)ノ』

女『はっ?!!…え、何?付き合ってないですけど!!』

ぴ『あらぁ?大変!!先生はアレですか⁈お付き合いもしていない男性と電車の中でベタベタ絡まって【帰りたくないのぉ♡】とか言っちゃう人なんですか⁈…見かけによらないですねぇ、びっくりですぅ〜♪(。・o・。)♪』

女『いつ、私がそんなこと!!』

ぴ『ミカンも見てるんですよ!!…ショック受けてました。あの子…。あの子にとっては、あなたは良い先生でしたから。イチゴに対するあなたの対応にもずっと動揺していたけれど、もう1ミリも信頼していないそうです。…少し離れた街だからって緩みすぎですよ。…イチゴが見てなかったのがせめてもの救いです。』

女『……。』

ぴ『とにかく、今後の事は白紙にしてください。あなた方カップルに決められる筋合いはありませんので。』


後日、校長先生、教頭先生、片野先生と、イチゴと私で面談の機会を持って頂きました。

あの女も参加したいと言って来たそうだけれど、当然ながら拒否しました。

片野先生はあの女より10歳くらい年上で、以前から知ってるけど教師としては信頼できる人。

まぁ、あんなのと付き合うぐらいだからどうだろうとは思うけれど、プライベートはどうでも良いので。

イチゴの気持ちを最優先に大人がみんなで考えて、とりあえず陸上部に入部する事にしました。

でも、本当に【とりあえず】です。

テニス部で散々傷つけられて疲弊したイチゴに、これからまた新たな事を頑張れと言うつもりは無かったので。

走りたくなったら走り、やりたくない時はマネージャー的な裏方のお手伝いをする。

そう言う事になりました。





季節は流れ、この春。

イチゴちゃんは中学校を卒業して、高校生になりました。

地獄のような中学校時代とは裏腹に、今度こそイチゴの人生は晴れ渡る青空の様にキラキラと輝いています♪ヽ(*^◯^*)ノ♪

本当、順風満帆すぎて焦るぐらい(・_・;

先ずは、入学式。

校長先生直々の抜擢で、新入生代表の挨拶を務めさせていただきました(^○^)ゞ

そして、クラスでは学級委員長として日々頑張っています(๑•᎑•๑)♬*゜


そして、そして。

これが一番驚いたんだけれども…。

イチゴさん、ソフトテニス部に入りました。

ってか、作りました(・ω・)ノ

1月に単願で合格が決まってすぐから、ソフトテニス部を作りたいと学校に掛け合っていました。

中学の時の事がトラウマになっていながらも、やはりテニスはそれ程までに好きなんです(´;Д;`)

そんな子に対してあいつらがやった事は、やっぱり絶対に許せない。

もう忘れる事にするけれど、最後に一度だけ願わせて♡ヽ(´o`;⭐︎.*・゚

どうか
あいつらが
惨めに
苦しんで
長生き
しますように
♪ヽ(´▽`)/♪


あ〜、スッキリしたっ(^_−)−☆

既に存在する硬式テニス部に入部するのは、やっぱり怖かったんだろうね(´;Д;`)

先生の協力を得て部員を募り、少人数ではあるけれど楽しい部活が始まりました。

そんな6月のある日。

イ『今度の大会、親は観戦できるみたいよ。』

ぴ『…ん?試合?(・・;)』

聞いてないよ〜ヽ(;▽;)ノ

たまたま休みだから行けるけど、そんな大きな大会勝ち進んどったんかーーーいっ:(;゙゚'ω゚'):


当日、惜しいところまで勝ち進んだけれど、残念ながら敗退〜(T ^ T)

でもね、大健闘でしたよ♪ヽ(;▽;)ノ♪

とても清々しい気分♪ヽ(´▽`)/♪


何だか、ホッとしたら喉が渇いた(^^;;

それに陽射しも暑くなって来たヽ(´o`;

このまま帰る?

いやいや、お名残惜しいので最後まで観ていきましょう(,,・ω・,,)

私は冷たいお茶を買って車から日傘を持って客席に戻った。


……ん?

何でだ?

イチゴちゃん達が試合してる♪(。・o・。)♪

最前列に先生を見つけて呑気に話しかけてみると、血走った目で言われた。


娘さん、
これ勝ったら
全国大会
出場です
!!!!

ぴ『え?なんで⁈意味わかんない…。だって、さっき負けて……。え???』

本当、意味なんて全然わかんない。

だけれど。

完全にZONEに入っているイチゴ達の気迫の試合を見ていたら、視界が涙でぼやけて来た。


そして。


勝ってしまった。


インターハイ出ちゃうんだ、この子…。


こんな…、こんな漫画みたいな話ってある?


なんかもう、意味わかんなすぎて。


嬉しすぎて。


やっぱり意味わかんない。





大好きだった自分の長い髪を、バッサリ切ったイチゴ。

彼女のその短い髪には、長い長いバックボーンがあった。

いや、むしろ。

過去との決別なのでしょう。


そりゃ、いきなりゴリゴリに切っちゃったからって叱る気にもならないよ。


あんな本気の覚悟見せつけられたらさ🍀✨