わらの犬
※ネタバレを含みます
原題 Straw dogs
製作年 1971年
製作国 アメリカ
上映時間 115分
監督・脚本 サム・ペキンパー
製作 ダニエル・メルニック
撮影 ジョン・コキロン
音楽 ジェリー・フィールディング
編集 ポール・デイヴィス 他
出演 ダスティン・ホフマン
スーザン・ジョージ
ピーター・ボーガン
あらすじ
数学者のデイヴィッドと妻のエイミーは、暴力的なアメリカの都会から逃れるため、エイミーの故郷でもあるイギリスの片田舎に引っ越してきた。しかし村の若者たちから嫌がらせを受けるようになる。嫌がらせは次第にエスカレートしていき、ついにエイミーはレイプされてしまう。
ある日、精神病の若者ヘンリーに過って車をぶつけてしまったデイヴィッドは彼を家に匿うが、村の娘ジャニスを誘拐した疑惑をかけられていたヘンリーを探していた村人たちから家を包囲され、彼を差し出すように要求される。一触即発の状況に仲裁に入った判事を村人が過って射殺してしまったことから、デイヴィッドと村人のタガが外れ、家は地獄のような殺戮の場と化すのであった...。
一言感想
都会も田舎も、人間は等しく暴力的で残酷である。
以前、映画評論家の町山智浩さんが何かの映画の解説で本作を引き合いに出していたのを思い出しまして、近所のTSUTAYAにはなかったのでU-NEXTで鑑賞しました。
いやこの映画何がすごいって作品全体に流れる、
不穏すぎる緊張感。
特に何でもないシーンでも、ねっとりとしたやだ味があって。
引っ越してきた二人を見つめる村人たちの視線とか、初日から二人のセックスを覗いてきたりとか、エイミーのパンツ盗んで得意気に見せびらかしたりとか。とにかく村人の常識無い感じが開始直後からどんどん伝わってきて。しかも妙に村人に実在感があるというか、世界のどこかに(というか日本にも)こういう村や村人がいそうな感じがあってすごく怖い。
引っ越してきたことを後悔するほどではない程度の絶妙な嫌がらせが、次第にエスカレートしていく過程が本当に不快で、エイミーがレイプされるシーンはなんだか長い上に真に迫った演技で、見ているこっちの怒りが先に爆発しそう。
主役二人にも結構イライラしちゃって、村人に対して強気で迫れないデイヴィッドもそうですが(まあ自分もあの状況で強気に出れるか自信無いですが...)、エイミーも何かと文句ばかり言ってきたり。寂しいからって在宅勤務とはいえ仕事中に邪魔してくるのって奥さんとしてありえなくないですか?
クライマックスのバイオレンスシーンは、ホームインベージョンムービーとしてものすごく怖かった!
しかも庇おうとしたヘンリーはジャニスを殺しちゃってる上にレイプしようとするという不条理さ。
この映画って、「暴力的な世界から逃げ出した男が、さらに暴力的な世界に逃げ込んでしまい、嫌悪していた暴力を行使することで、去勢された男性性を取り戻す。」という話なわけですけど、殻を破った先に待つのはハッピーエンドではなく、「彼もまた暴力的な世界に落ちてしまった。」という重苦しい着地。
ラストの「帰り道がわからない。」「僕もだ。」というセリフには寒気がしました。
そしてその後行方をくらませたデイヴィッドは、アイリッシュ民謡を爆音で響かせながら散弾銃で悪を狩るダークヒーロー、STRAW DOGへと変貌したのだった。うそです...
個人的には、衣装によるキャラ分けがされているのが素晴らしかった!
村人がいかにも粗野で垢抜けないスタイル(ナチスの鉤十字みたいなのを付けてるバカまでいる。)なのに対して、デイヴィッドのファッションが、ざっくりとしたケーブルセーターにオックスフォードシャツ、ストレートのコットントラウザーに白のキャンバススニーカーといういかにも優等生なスタイルというか。田舎に転校してきたシティボーイという感じがおもしろかったです。
あとすごく感じたのが、
無知であることは恐い。
ということ。
デイヴィッドは都会の暴力が嫌で田舎に越してきたわけですけど、彼自身は生で暴力的な場面や事態に遭遇したことがない人間なんですよ。ただ先入観で「田舎はみんな優しくて平和だろ。」と思い込んで引っ越して来ちゃったんです!
でもそれは村人も同じで、暴力というものを何となくのイメージでしか捉えていないんです!だからイギリス人でありながら何も考えないで鉤十字なんか付けちゃう。
でもこれって僕たちだって他人事じゃなくて。普段暴力的な状況に陥ることなんてほとんどの人が無いだろうし、テレビなんかでも規制が厳しいから暴力的なシーンはカットされたりそもそも放送すらされなくなってる。
結局何が言いたいかというと、
自分は犯罪なんか起こさないと思ってる人が一番やばい!
現実世界には必ずこういう暴力的で残酷な部分は存在することを考えておくってすごく大事なことだなぁと強く感じました。
だからこそ、映画でぐらい暴力的で残酷なものを作り続けてほしいと思います。
正直言って万人にオススメできる映画ではありませんが、善悪をぐらぐらに揺さぶってくる結末や、哀しくも恐ろしいエンディングなど、アメリカンニューシネマのおもしろさを体験できる一本であることは間違いなくて。何よりも「暴力」というものについて改めて考えさせられる作品ですのでね。
僕もさらにサム・ペキンパー作品を観てみたいと思ったりしました。
個人的評価
9/10
ではまた。