※加筆、修正しました。


ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド
※ネタバレです。
原題 Once Upon A Time...in Hollywood
製作年 2019年
製作国 アメリカ
上映時間 161分
監督・製作・脚本 クエンティン・タランティーノ
製作 デビッド・ハイマン
   シャノン・マッキントッシュ
製作総指揮 ジョージア・カカンデス
      ユー・ドン
      ジェフリー・チャン
撮影 ロバート・リチャードソン
美術 バーバラ・リン
衣装 アリアンヌ・フィリップス
編集 フレッド・ラスキン
視覚効果 ジョン・ダイクストラ
出演 レオナルド・ディカプリオ
   ブラッド・ピット
   マーゴット・ロビー
   ダコタ・ファニング
   ブルース・ダーン
   マイク・モー
   ゾーイ・ベル
   カート・ラッセル
   アル・パチーノ  他


あらすじ
1969年のハリウッド、かつてのテレビ西部劇映画のスターであるリック・ダルトンは、時代の流れと共に変わりゆくハリウッドの中で取り残され、今ではドラマの悪役やゲスト出演ばかり。もどかしい日々を過ごしていた。リックのスタントマンのクリフ・ブースもまた時代の変化や、自身が起こしたトラブルが元で現在は仕事が減り、リックの身の回りの世話ばかり。

そんな中、リック邸の隣には今や時代の寵児となった映画監督ロマン・ポランスキーとその妻シャロン・テートが引っ越してきていた。

リック、クリフ、そしてシャロンの3人がそれぞれにハリウッドでの日々を過ごす中、1969年8月9日の運命の日は確実に近づいているのであった...。










一言感想
タランティーノの夢と魔法、映画が起こした奇跡の一夜



タランティーノ作品に関してはほとんど鑑賞しているし、やっぱりレオナルド・ディカプリオとブラッド・ピット初共演ともなればミーハー的にテンションは上がるじゃないですか。



もうね...



夢のような作品でしたよ!



超一流の映画人たちによる、超一流の映画だ!生で拝んで驚きやがれ!  なぜか「グラップラー刃牙」な紹介




初鑑賞の時もよかったんですけど、観返すほどにどんどん好きになってしまって!



いや、この作品って上映時間が161分もあるにも関わらず、大したことは何も起こらないんですよ。

もちろん1996年8月9日に実際に起こったマンソンファミリーによるシャロン・テート殺害事件に向けてストーリーは進んで行くんですけど、基本的には事件当日までのリック、クリフ、シャロンのそれぞれの数日間、1996年の2月8日、9日と8月8日の3日間の日常をただ見せるだけなんです。

言っちゃえばすごく地味というか。「それっておもしろいの?」って思われるかもしれないですけど、



めちゃくちゃおもしろいんです!



まずやっぱり、ハリウッドの町並みや衣装がカッコいい!


「愛すべきオタク」タランティーノが作り上げた
当時のハリウッドの町並みは、ただそこにいる登場人物を写すだけでもすごくゴージャスなシーンに見えるんです!



リックをマカロニウエスタンに出演させようとするプロデューサーを演じたアル・パチーノ。「スカーフェイス」オマージュは笑いました。




そして60年代後半から70年代にかけてのファッションスタイル!レザージャケット、プリントTシャツ、センタープレスのフレアパンツ、ミニスカート、ロングブーツ、インディアンジュエリーと、何もかもグッとくるんです!


中でもやっぱり、ブラピのカッコよさは異常なレベル。


ラングラーのデニムジャケット、ティアドロップサングラス、ハワイアンシャツ、リーバイス、くわえタバコ...


コテコテだけどどこか力の抜けた王道のアメリカンカジュアルスタイルを体現する姿は、21世紀の新たなファッションアイコンともなる存在感だと思います。



21世紀の「ハマダー」クリフ・ブース



そして登場人物たちもとっても魅力的!


レオナルド・ディカプリオ演じるリックは、実際はそこまで落ちぶれてる訳でもないのにメソメソして酒浸りの情けない男

時代の変化を受け入れたくない彼は、せっかくのオファーもプライドの高さから、「やりたくない!」とか言っちゃう始末。それでも生意気な子役の女の子の話に妙に聞き入っちゃったり、その娘に演技を誉められて感極まったりするかわいげもあって(カットがかかった後、女の子に「痛くなかった?」とか聞くのもかわいい。)、このシーンはなんだかもらい泣きしそうになりました。

改めてディカプリオの演技の幅の広さを感じた素晴らしいキャラクターでした!




ブラッド・ピット演じるクリフも最高!先に言ったように、見た目のカッコよさがまずハンパではないんですが、彼はリックと同じように時代に取り残された男な訳なんですけど、リックとは反対にまったく悲観的ではなく、自分の生き方は変えないけど、変化は変化として受け入れるタフさを持っているんです。

クリフがヒッピー(マンソンファミリー)が共同生活をしている、かつての西部劇映画撮影所を計らずも訪れて、「さっさと出てけ!」と言われるシーンは、「居場所を無くした過去の遺物」「カウンターカルチャーに支配され行く古きよきハリウッド」っていうことを表現してると思うんですけど、その後クリフが車をパンクさせたヒッピーをボコボコにしてタイヤを交換させるシーンは「俺たち(古きよきハリウッド)はまだ死んじゃあいねえぞ。」っていうメッセージにも見えました。



ついに共演を果たした二人。この二人が楽しそうに笑いあっている。それだけでなんという多幸感!!




そしてマーゴット・ロビー演じる、実在した女優シャロン・テート。彼女がとってもキュート!

前途洋々な新人女優でありながら、変なプライドが無くて、見ず知らずのヒッチハイカーを乗せてあげたりする純粋で優しい女性。

彼女が映画館で自分が出演した映画を観るシーン(本作一の名シーン)で、自分の出演シーンを観て笑っている観客を見てとてもうれしそうな彼女を見ていると、その後に予想される展開を考えるとツラくなってしまいました。




クライマックスはいよいよタランティーノ節炸裂のハードバイオレンス!

現実ではマンソンファミリーのメンバー数人がポランスキー邸を襲撃して、シャロン・テートとその子ども、友人を皆殺しにするわけですが、酔っ払ったリックが、「うちの私道から出ていきやがれこのクソヒッピーども!デニスホッパー!」って感じで追い返しちゃったもんだから、標的がリック邸に変更。


再度リック邸を襲撃したマンソンファミリーを待ち受けていたのはLSDで完全にラリったクリフと腹ペコの愛犬ブランディ、そして泥酔状態でプールでゴキゲンなリック。クリフはマンソンファミリーの顔面を潰したり、犬に喰わせたり。リックは小道具で使った火炎放射器で丸焼きにしたりして撃退。


最終的に怪我をしたクリフは病院に行って、リックは騒ぎを聞きつけたポランスキー邸の面々に家に招かれて映画は終わってました。





この映画って僕にとってはすごく懐かしい気分になるんです。平成生まれの僕はこの時代には生きてないですが...


20才前後の頃、僕には漠然としたアメリカ憧れみたいなものがあって、それはアメリカ映画に登場する風景、町並み、ファッションなど、ストーリーとは特に関係なくても、なんかアメリカってカッコいい!っていう、言っちゃえばミーハーなんですけど、それでもそこには映画を観るということに対する素朴で純粋な喜びみたいなものを感じていて。



以前ライムスター宇多丸さんがタランティーノの作家性に関して、「過去にあったものを、それを知らない世代にも体験ごと甦らせる」っておっしゃってましたが、まさにその感じというか。



西部劇にしても、69年のハリウッドにしても、知らないのに知ってる気がするし、親しみすら感じる不思議な心地よさのある映画だと思います。



そしてこの映画ってタランティーノが映画に送ったラブレターみたいな作品だったのかなぁと。


シャロンは現実には殺されてしまうし、ほとんどの人は彼女をマンソンファミリーの被害者としてしか記憶していない。タランティーノはそんな彼女を一人の生きた人間として甦らせるわけですけど、劇中で結果的に彼女を救うのが、リックとクリフであるというところにすごく感動したんです。


リックとクリフはいわゆる、過去の象徴で、シャロンは未来の象徴な訳ですが、忘れられていく過去の存在が、映画の未来を守るという構造には本当に感心しました!



そして何よりも素晴らしいと思ったのは、タランティーノが救ったのは、シャロンだけではなかったということ...


それはリックのように魅力はあっても、イーストウッドやマックイーンのような大スターにはなれなかった俳優たちであり、クリフのように影ながら映画製作を支えるスタッフたちであり、一部の名作や大ヒット作だけではない、忘れ去られようとしている映画たち


それらすべてを愛し、やさしく肯定する。


これはまさにタランティーノの



映画讃歌



だと思いましたよ。



この映画を観る前の条件として、最低限シャロン・テートに関して調べるとより楽しめるとは思いますが、あえてもう一つ条件を加えるなら、映画が好き」であることだと思います。


これは「映画に詳しい」ということではなくて。



様々なオマージュや小ネタがわからなくても楽しめるし、わかるともっとおもしろい。



そういう敷居が低くて懐の深い作品だと思います。


長くなりましたが本当に素晴らしい映画体験でした!

大袈裟でなく、この作品と同じ時代に生きられることを幸せに思います。是非ともご覧ください!!



個人的評価
10/10点満点中

サンキュー!タランティーノ!



ではまた。



タランティーノ作品が好きになるきっかけ
になった映画。「クール!!」それ以外に
言葉はいらない。

ディカプリオの演技の幅の広さを味わえる
一本。カエルの小便よりも下衆なディカプ
リオが堪能できます。