大阪メンタルサポートオフィス  (ブログ)

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一般社団法人 大阪メンタルサポートオフィス のブログです。
認知行動療法についての理解や自己実現のためのお役に立てば幸いです。
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 認知行動療法によって多大な助けを得られるクライエントも多くおられますが、またそうでないクライエントさんもいます。治療効果研究によれば、認知行動療法は概して高い成功率を示しています(Barlow, 2001)。

 しかし、パーソナリティ障害や性格上の問題を有するクライエントは、認知行動療法に対して十分な効果を示さない場合があります(ベックら, 2011)。

 認知行動療法がクライエントの有する性格的な問題によって減弱されてしまう場合などです。性格上の問題を抱えるクライエントが、たとえばうつ病や不安障害の治療を受けた場合、治療そのものがうまく進まなかったり、治療終結後に再発したりすることもあります(J.ヤングら, 2008)。

 以上のような理由から、ヤングは、治療がうまくいかなかった慢性的な性格上の問題を抱えるクライエントを治療するために、スキーマ療法を開発しました。スキーマ療法は認知行動療法を拡張した体系的アプローチであり、多様な学派の技法を統合的に用います。

 スキーマ療法は、個々の患者に合わせて短期的にも中期的にも長期的にも適用可能です。認知行動療法に加え、患者の抱える心理的問題の幼少期や思春期における起源を探索すること、感情に焦点化した技法を用いること、治療関係を重視すること、不適応なコーピングスタイル(ストレス対処の仕方)を修正することなどを強調しているのがその特徴です(ヤングら, 2008)。

 認知行動療法でいうスキーマとは、発達初期の経験が自己や将来、そして外的な世界(認知の3要素)についての否定的な概念を形成し、一連の非機能的な“認知構造”をいいますが、スキーマ療法では、特に幼少期から思春期にかけての有害な体験の結果として人生初期に形成されたスキーマが、パーソナリティ障害の問題、およびパーソナリティ障害ほど深刻でないがなんらかの性格上の問題、すなわち多くの慢性的な精神障害の問題の中核にあると仮定しています。J.ヤングはこの仮説をさらに探求するため、“早期不適応的スキーマ”という下位概念を提唱しました。

                

 早期不適応的スキーマの概念の定義は、下記のとおりです。(伊藤ら, 2013)

  ・全般的で広範な主題、もしくはパターンである。

  ・記憶、感情、認知、身体感覚によって形成されている。

  ・その人自身、およびその人とその人を取り巻く他者との関係性に関わっている。

  ・幼少期および思春期を通じて形成され、その後精緻化されていく。

  ・かなりの程度で非機能的である。

 

これらのことから、早期不適応的スキーマとは発達の初期段階で形成され、生涯にわたって維持される、自滅的な認知と感情のパターンであるとされています。(伊藤ら, 2013)

 ヤングが早期不適応的スキーマの起源として最も重視するのが、“中核的感情欲求”です。早期不適応的スキーマは、この中核的感情欲求が幼少期に満たされなかったことによって形成された、というのがヤングの基本的見解です。ヤングは、以下の5つの中核的感情欲求を挙げています。

 1. 他者との安全なアタッチメント(安全で安定した、滋養的かつ受容的な関係)

 2. 自律性、有能性、自己同一性の感覚

 3. 正当な要求と感情を表現する自由

 4. 自発性と遊びの感覚

 5. 現実的な制約と自己制御

 

  この5つは人間にとって最も普遍的で中核的な感情欲求であるとヤングは想定し、人間の精神的健康は、生育過程においてこれらの欲求が適度に満たされることで育まれるというのがヤングの仮説です。

 スキーマ療法の究極の目的は、満たされなかった中核的感情欲求をクライエント自身が習得することです。(伊藤ら, 2013)

 このようなことから、スキーマ療法の対象となるのは、自身の生得的な気質と人生早期における環境との相互作用を通じて、不運にもこれらの欲求が満たされることのなかった人たちです。スキーマ療法の目的は、クライエントが自らの中核的な感情欲求を満たすための適応的なやり方を見つける手助けをすることです。これがスキーマ療法のすべての介入の目的であると言っても過言ではありません(J.ヤングら, 2008)。

  ヤングは、5つの“スキーマ領域(schema domains)”というのを想定しています。これは、上記の5つの中核的感情欲求が満たされないことによって、その人の心や生き方のどの部分に損傷を受けるのか、ということについての仮説です。。(伊藤ら, 2013)

 次回は、その5つに領域と「早期不適応的スキーマ」の具体的な説明をいたします。(S)