今、一番の悩みといえば、やはり婆です。


アルツハイマーという病気は、

ブレーキをかけながら

坂道を降りている状態なのだと、

主治医の先生に教わりました。


完治させる薬も方法も無い。

現状維持をできるだけ長く続ける事、

それが今の治療なのだそうです。


婆は、調子の良い時もあるし、

逆に全く話が繫がらない時もあります。


自分に二人の娘がいること、

その配偶者の名前は分っても、

初孫を含めた四人の孫の名前が分らない。


一緒に暮らしている、

私の子供達の名前が分らない。


5分前の事を忘れてしまい、

自分がボケている事が分らない。


その癖、プライドだけは高く、

自由気ままに暮らしてきたスタイルが抜けず、

勝手に出歩いては

行方不明になる日々が続きました。


この町に引っ越してから、お巡りさんに

9回も保護されました。

婦警さんとは顔なじみになり、

直接、連れて来て頂いた事も度々。

婆は、当然、

そんな事も忘れてしまっている様子…。


九時半から五時近くまで、

毎日、デイサービスへ通っているのに

帰ってきて、部屋に戻ったら、

外に散歩に出たいと騒ぎ出す。


自分がボケている事を

忘れている彼女は、

自分は一人で大丈夫だ!と言い張る。


『散歩中、あんたを見張っていなければならないから、

夕食が作れない!』

と言えば、散歩より食事が優先の彼女は

すぐに納得して、そそくさと部屋に入ります。

この間、約30分。


そして、5分後。

『外に散歩に行きたいんだけど』と言いに来ます。


たまに近くに住む妹が

夕方、婆を散歩に連れて行ってくれますが、

たっぷり歩いて帰ってきても

五分後には

『散歩に行きたいんだけど…』と始まります。


婆のデイサービスは山の麓、

緩やかな坂の途中にあるため、

その斜面を利用して、坂道の上り下りを

させて頂く様に、お願いしています。


昼間に、二往復は歩いているはずなのに

どうしてこんなに元気なのでしょう。


そんなやりとりが続き

暫く大人しているかと思えば

突然、

『ご飯はまだ?』と食事の催促に変わります。


誰のせいで夕食が遅くなるのか!と、

言ってみるが、虚しいだけ。

何の解決もなされないから


私なんかまだ、介護の序の口。

昼間は、二人ともデイサービスに通わせて

頂いている訳だし。

二人とも自分の足で歩けるから。


大変なのは、まだまだこれから。

わかってはいるものの。


小学生の頃から、母は私にとっての

反面教師で…。

『こんな母親には絶対にならない!』と

決意して生きてきた私にとって、

婆の世話をするというのは、

実はこの上ない苦痛…。


介護とは、介護する人間の覚悟と忍耐で

成り立っていくものだと、心底思います。


この国は世界有数の

長寿国でもあるのだから…。


今の介護の現状を、

政策という暖かい手で

もっと包んで頂けたら…と

願ってしまいます。