令和五年、いよいよ新しい年度が始まりました。
毎年の事ですが、3月末から4月初めは人生の節目に相当し、
職場や学校等の対人関係において別れや出会いがあり、
また、人生そのものの価値観が変わる時季とも言えます。
自己実現のために一歩踏み出した若い人々の姿や、
長年の努力が実って一定の成果を得た方々の姿を、
さまざまな場面で見かけることがあります。
何かを求めて歩き出し、何かを得て満足し、さらに加えて
言えば、何かを失って真理を悟ることもあります。
春の花咲く頃になると、禅の歴史に絶大な影響を与えた
あの人の言葉を思い出します。
12世紀、中国北宋時代の僧侶・廓庵禅師は
次のような言葉を残しています。
有相の栄枯を観じて
無為の凝寂に処す
廓庵師遠 12世紀 生没年不詳
中国北宋時代の禅僧
禅の世界で大悟の秘訣とされる『十牛図』の一節です。
中国と日本の臨済宗において、とくに重視されました。
無用な注釈とは思いますが、念のために説明いたします。
ここでいう「有相の栄枯」とは、この世の仮の栄枯盛衰を
指しています。人生経験のすべてと言い換えても同じです。
また、「無為の凝寂」とは澄み切った解脱の境地のことです。
名著『十牛図』は10枚の円形図を用いた、探求の物語です。
ある人物が牛を探して歩き出し、牛の足跡を発見、ついに
牛を目撃し、捕えて縄で縛り、飼い慣らします。
そして、暮らしに馴染んだ牛は空気のような存在と化し、
いつの間にか消え、執着心を無くした自分自身も消えます。
すべてが無に帰するのです。
したがって第八図は何も描かれていない円形になります。
その次に春の花が描かれた「第九図」となるわけですが、
そこに上記の名文が添えてあるという次第です。
この物語の本質は自己探求と大悟、そして普通の日常へ
こだわりなく帰っていく人生のプロセスと解釈できます。
皆様、それぞれの春を満喫してください。良い季節です。 🌸