3月を迎えてから比較的気温が高い状態が続いています。
自然界の反応は素直で、各地から花の便りが届いています。
3月中旬の段階で早くも東京のソメイヨシノが開花宣言し、
こちら福島でも梅や椿が満開になっています。
春の花を見るたびに、毎年同じことを思います。
あらゆる花はその瞬間に理由もなく咲くのではなく、
種子が土に落ちてから、根と芽を出し、生長を経て、
もろもろの条件が整ってはじめて開花するのです。
いわゆる「縁起」とは何かというテーマに相当します。
* * *
20世紀に活躍した陶芸家・河井寛次郎は
次のような言葉を残しています。
過去が咲いている今
未来の蕾でいっぱいな今
河井 寛次郎 1890~1966
日本の陶芸家
若き日に板谷波山の指導を受け、釉薬研究や陶芸制作に没頭し、
初期の作風としては華やかな超絶技巧を好んだ河井寛次郎。
ところが、ある時期から、無名の陶工が造る生活雑器の美に
目覚め、暮らしに根差した機能美を知るようになります。
その結果、晩年には何物にも捉われない自由奔放な境地に至り、
寛次郎独自のスタイルを確立しました。
土塊から陶芸作品が生まれるプロセスと、土から芽が出て植物が
育ち花を咲かせるプロセスはどこか似ています。
一つの作品が完成するまで無数の過去が連続的に命をつなぎ、
完成した作品を起点として、まだ一歩も踏み出していない「今」が
未来の可能性を無数に内包しているのです。
河井寛次郎は陶芸制作を通して、物質や生命の本質を知り、
存在する物の「今」が過去と未来を同時に内包する
小宇宙的な境地を悟っていたのだろうと思われます。
皆様、おだやかな春の風情をお楽しみください。