●もしも、2期目のトランプを阻止できなければ、リベラルな世界秩序は破壊される。中露北イランなど権威主義国家の侵略は激しくなる。米国内ではトランプの独裁主義によって、法の支配と民主主義と自由と平等が破壊されていく

 

 (1)私は前回拙文「閣議で軍隊を保持し、核抑止力(米との核共有)を持たねば、日本は亡国に至る」(2024.4.21アップ)を書きました。この時、紙枚の関係で書けませんでしたが、本年11月の米大統領選挙のことも念頭にありました。アメリカ憲法と民主主義を護るアメリカ人と同盟国の私たちは、前大統領のトランプが勝利することを絶対に阻止しなくてはなりません。日本人が米国の重要な地位にいる人々にそれを訴えるときに、日本が自国の安全を守るための強力な軍事力を持とうとすらしない現状では、それは米国の頼りになる重要な同盟国にはなりえていないということであり、訴える力は小さくなります。

 

 もしも、トランプが勝つことを防げなかった場合は、2期目のトランプ政権は、数万人の政府高官を自分と同じ思想の者たちで固めますから、台湾防衛=日本防衛など全く考えません。トランプはNATOからの脱退を何度も言ってきました。日米安保条約だって、同じことです。トランプは、「孤立主義とアメリカさえ良ければあとはどうでもよい」の意味の「アメリカ・ファースト」の思想の持ち主です。日本は閣議決定によって(本来の憲法9条を支持すればよい)、軍隊を直ちに保持して、急いで侵略されたら相手国領土の軍事目標に大規模な報復攻撃を実行できる体制を構築しなければなりません。武器弾薬を製造・備蓄して、継戦能力を最大限強化しなければなりません。日本独自の核抑止力も保持しなくてはなりません。台湾・韓国・フィリピン・豪州、そしてNATOとの軍事同盟も締結しなくてはなりません。中国・ロシア・北朝鮮・イランの侵略から日本の安全を守り、亡国を阻止するために、私たちは命懸けでやらなければなりません。

 

 (2)トランプはアメリカ的価値観を体現する人物では全くありません。その対極にあって、アメリカ的価値観を否定する人物です。トランプはアメリカ憲法、アメリカ政治の規範、民主主義を否定する独裁主義者です。白人至上主義者、民族差別主義者、移民排斥主義者であり、ポピュリストであって、嘘を平然とつく大衆扇動家です。「アメリカ孤立主義でアメリカ・オンリー」の「アメリカ・ファースト(アメリカ第一主義)」の狂信者です。もちろん、保守派なんかではありません。トランプは今述べたような極右翼過激派です。プーチン・習近平・金正恩を「友人」「尊敬と親愛の気持ちを持っている」と公言する思想の持ち主です。

 

 読売新聞24年2月4日付に、米政治哲学者、フランシス・フクヤマ氏の「米大統領選、世界秩序の未来を左右」という、とても優れたエッセイが載りました。読まれた人は多くいると思いますが、一部を抜粋します。優れた文は繰り返して読む必要があります。

 

 「今回の選挙には、特定の争点のどれよりも大きなものが懸かっている。究極的には、米国の自由民主主義そのものの運命と、世界秩序の未来を左右する選挙戦なのである。/トランプ氏は20年の大統領選で明白にバイデン氏に敗れた。だが、選挙結果を最終的に認定する上院議長を兼務していたペンス副大統領に、結果を握り潰させようとした。ペンス氏が拒否したため、トランプ氏は21年1月6日、暴徒を煽って連邦議会議事堂を襲撃させたとされる。この結果、トランプ氏と共に、連邦と州レベルの共犯者たちが刑事訴追を受けた。/愕然とするのは現在の共和党の姿である。権力の平和的な移行は民主主義の根幹の制度だ。それに対する襲撃行為の責任をトランプ氏に負わせるどころか、かなりの共和党員が言い訳や正当化をして、重大性をごまかす側に回っている。/もし2期目のトランプ政権が誕生すれば、1期目よりも極端で非建設的になることが、ますます明白になってきた。トランプ氏が米国を独裁主義に押しやるのではないかという、深刻な懸念が生じている。

 

 トランプ前大統領は中露や北朝鮮などの独裁者が『自国の社会を制御する』能力を称賛した。権力に返り咲くため憲法を一時停止する考えを述べ、司法省を使って『バイデン犯罪一家』など政敵を追い詰めると誓った。移民を『米国の血を汚す害虫』と呼んだ。トランプ氏を支持する保守系財団は、5万人もの官僚をトランプ氏忠誠派に入れ替える計画を温める。/トランプ氏再選の最大の余波は外交に表れよう。トランプ氏は北大西洋条約機構(NATO)脱退の意向を明白にしている。正式脱退が法的に難しい場合でも、欧州を外敵から守るために介入するつもりはないと、フォンデアライエン欧州委員長に伝えたと報じられる。北大西洋条約第5条の集団安全保障をないがしろにすることになる。

 

 プーチン露大統領は、ウクライナ戦争勝利の希望を、トランプ大統領復活に託す。既にかなりの数の共和党下院議員が対ウクライナ追加軍事支援を拒んでいる。トランプ氏が変貌させた共和党が、総じて民主主義に背を向ける孤立主義に傾いていることの表れだ。/トランプ氏は、独裁者と取引する能力を自慢する。ウクライナ戦争も数日で終結できると言う。これは、対外的な防衛義務を回避するため、同盟国を犠牲にし、進んで譲歩することを意味する。日韓両国にも該当しうる話だ」。

 

 さらに抜粋します。「トランプ氏の大衆扇動政治は、プーチン政権下のロシアやオルバン政権下のハンガリーに通じるものがある。『内なる敵』、つまりリベラル派と民主党は、いかなる国外の敵よりも米国にとって危険だとトランプ氏は言う。この極端な形の二極化は米国の意志を弱める。だからこそ、中国とロシアは、同氏へのテコ入れを続けてきたのである。/米国の威信と力は大きい。トランプ氏が勝利すれば、世界の政治に甚大な影響をもたらし、権威主義的指導者を鼓舞するだろう。一方、バイデン氏と民主党が大勝利すれば、トランプ氏とその支持者が続けて選挙に負けたことになる。米政治の致命的な二極化が、ようやく打破される糸口になるかもしれない。

 

 だが、恐らく更に厄介な第3の選挙結果がある。それは、バイデン氏が僅差で勝つことだ。トランプ氏とその仲間が選挙の正当性を争うのは必至だ。彼らの多くは武装し、怒っている。トランプ氏の行く手を阻むかに見える裁判官や検事、政治家を威嚇してきた」。

 

 (3)私はトランプを一貫して批判してきました。一番最初は2016年11月30日脱、12月28日アップの「非アメリカ的次期大統領トランプ氏によってアメリカと自由主義世界は危うくなる」という拙文でした。次が「非アメリカ的大統領トランプ氏は早急に倒されるべし!」(17年1月31日脱、2月19日アップ)、次が「トランプ大統領は国民を洗脳しその包囲によって議会支配を目指す」(17年2月28日脱、3月31日アップ)です。今も閲覧できます。

 

 アメリカの貿易赤字を、「アメリカの富が奪われていることだ」と妄信する(経済学的に完全な誤り)、トランプの経済政策を批判する拙文も、その後、多く書きました。「トランプ大統領の経済政策は同盟国・友好国との関係を破壊し、アメリカ自身も衰退させる」(2017.4.14アップ)。「経常収支黒字・赤字、貿易収支黒字・赤字の正しい考え方」(2019.3.25アップ)、「アメリカの、マクロ的貿易赤字は他国のせいではなく、アメリカが資本輸入国であることの結果である」(2019.10.13アップ)、「俗流国際経済論(貿易赤字は損失、黒字は儲け)を粉砕しなければならない」(2020.3.27アップ)などです。

 

 2020年の米国大統領選挙等に関しては、次の文を書きトランプを批判しました。「アメリカ大統領選挙ではバイデン氏が勝利することを切望する」(2020.9.2脱、10.18アップ)、「バイデン氏が勝利したアメリカ大統領選挙について」(2020.12.25アップ)、「アメリカの民主主義の危機を乗り越えてバイデン大統領が就任演説(1月20日)」(2021.3.13アップ)、「バイデン政権は世界中の同盟国、友好国を糾合して、中国、ロシアを包囲していく」(2021.4.4アップ)などです。読んでいただければ幸いです。

 

 私はこれらの文で、トランプを信奉する日本の保守派にも批判を提起してきました。SNSで結論のみを書く短い文が流行になっていますが、真実とか真理を究明していく思考には、それなりの長さの文が必要になります。意見が異なっている人を説得するためには、それなりの長さの言葉が必要になります。洗脳するのではないのですから。

 

 (4)トランプは2016年の大統領選で、「クリミア半島はロシアのものだ。だからオバマが主導して行ったロシアに対する経済制裁も解除する」「プーチンは有能な指導者で、オバマよりも優れている。私ならプーチンにも尊敬される大統領になる」(前掲2016.12.28アップ文の1節(2)の終り)等々と発言してきた人物です。トランプは、国際法を否定したロシアのウクライナ侵略・一部領土のロシア併合を支持したのです。トランプは2022年2月24日のロシアの全面的なウクライナ侵略戦争も支持しました。トランプはインタビューで、「テレビを観て、私はこう叫んだ。『こりゃあ天才だ』。プーチンはウクライナの大部分に軍隊を侵攻させたと宣言した。何と素晴らしいことじゃないか」と言い張ったのです(拙文2022.4.17アップ「西側は思想的・軍事的・戦略的にロシアと中国を凌駕して、攻撃的に封じ込めていくのだ」の1節の(4)項の後半を参照してください)。

 

 このような思想を持つトランプがもし次期大統領になれば、どうなるかは明らかです。1期目のときは、トランプは大統領選に勝てるとは自分でも考えていませんでした。名前を売り宣伝のための出馬でした。そのため、大統領になる準備は全くしていませんでした。すなわち、自分に忠誠を尽くす政府高官になる多くの人物を事前に用意してもいませんでした。だから、それまでの共和党政権や民主党政権の政策を引き継ぐ有能な政府高官たちが、上院で承認されていきました。トランプは、共和党も非難して大統領選をやってきましたから、最初は共和党上院と下院議員にも同志を持っていませんでした。政府高官は憲法、条約、法律や不文律の規範を武器にして、アメリカの外交・内政政策を破壊しようとするトランプと戦って、仕事をしていったのでした。そのために多くの高官がトランプに解任され、また辞任していきました。それゆえに、トランプはアメリカ的価値観を壊していく自らの反米政策を十分には実行できなかったのでした。

 

 だが、2期目は全く異なります。トランプの選挙公約集「アジェンダ47」では、官僚機構の改革を柱の一つにしています。「ディープステート〔闇の政府―大森〕を粉砕し、国民がコントロールする政府を復活させる」としています。トランプは就任初日に大統領令を出して、官僚機構改悪を断行します。政策策定に携わる官僚を新設の「スケジュールF」という区分に分類し、従来のような雇用保証をなくすのです。対象は5万人に上るといわれています。トランプは5万人もの官僚をトランプ忠誠派に入れ替えるのです(3月9日付読売新聞)。

 

 トランプは共和党下院議長に命じて、バイデン政権の約610億ドルものウクライナ軍事支援の追加の緊急予算案の採決を拒ませてきました。そのため、ウクライナ軍は昨年暮れからアメリカからの軍事支援が得られず(ごく一部のみは得られたが)、武器と弾薬が不足して、防御戦略を採ることを余儀なくされてきました。上院では共和党議員も22名が賛成して可決されているのですが、下院が採決しない。トランプが次期大統領になれば、ウクライナのために一銭の金も出しません。トランプは本年3月8日、ハンガリーのオルバン首相(プーチンを支持している)との会談で、そう言いました。エスパー前国防長官(トランプに解任された)も3月7日の読売新聞のインタビューで、トランプはウクライナ支援を即時に打ち切るとの見方をしています(3月16日付)。トランプの国家安全保障担当大統領補佐官だったボルトン氏は、トランプが復帰すれば、NATOなどの同盟関係を損なうとして、「1期目のダメージは修復可能だった。2期目は米国と世界に修復不可能なダメージを与えるだろう」と警告しました(3月8日付読売新聞)。

 

 (5)トランプは「私ならば数日で、あるいは24時間でウクライナ戦争を終わらせることができる」と言ってきました。これは、ロシアのウクライナ侵略と占領を承認して、ウクライナにそれを受け容れさせることを迫るものです。ウクライナは当然にも拒否しますし、EUもそうします。しかし、一旦この方向が提示されますと、アメリカはプーチン・ロシアの側に立つということなので、EU各国民の中で、ウクライナ支援を続けることへの反対の声は一層強くなります。ウクライナがロシアに勝利できる展望が描けなくなるからです。さらに、ロシアがEUへ侵略戦争を拡大してくることへの不安が重なります。プーチンは当然、この恫喝をやります。

 

 EUの執行機関の欧州委員会のブルトン委員は、トランプ大統領が在任中、EUに「米国は欧州がロシアから攻撃を受けたとしても助けないし、援助もしない」と伝えたことを明らかにしました。本年1月9日のブリュッセルでの討論会で述べたものです。ブルトン氏はまた、2020年の世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)で、トランプ氏が欧州委員会のフォンデアライエン委員長(首相)に、「米国はNATOから離脱する」と方針を伝えたことも述べました(1月12日付読売新聞)。

 

 トランプは2月10日、サウスカロライナ州の選挙集会で、「NATOのある大国の大統領から、『我々が国防費を十分支出せず、ロシアから攻撃を受けたら、守ってくれるか』と質問されたので、私は『いや、守らない。彼ら(ロシア)にやりたいことは何でもするよう奨励するだろう』と言った」と発言したのです。バイデン大統領は11日の声明で、「プーチンに更なる戦争と暴力へのゴーサインを出すもので、トランプはNATOの同盟国を見捨てることを明確にした」と批判しました(2月14日付読売新聞)。

 

 トランプのこの発言は、NATO条約第5条の集団安全保障をないがしろにするだけでなく、侵略国家プーチン・ロシアの側に立って、NATOそのものを否定するものです。だから、NATOから離脱なのです。昨年末に「2024年度国防権限法」に、NATO条約から脱退することをできなくさせる規定が、超党派によって盛り込まれました。しかし、大統領権限(憲法2条)には条約破棄を禁止する規定はありませんので、トランプはNATO条約を破棄することは可能なのです。トランプのアメリカがEUを裏切り、侵略国家ロシアの側に立てば、EUは核超大国のロシアと戦うことは困難です。となれば、EUもウクライナ軍事支援をやめて、ウクライナに停戦をすすめていくことになっていくことが考えられます。停戦になったとしても、それで終わりになるわけではありません。プーチンは次にはゼレンスキー政権を倒し、全ウクライナを占領して、ロシア領にしていきます。それが、プーチンの22年2月24日の侵略戦争の目的だからです。

 

 (6)トランプは侵略者・独裁者のプーチンを断固支持していますが、それは、彼の岩盤支持層である白人至上主義者・白人ナショナリストの「オルト・ライト」(新右翼・極右翼)が、熱烈にプーチンを支持しているからでもあります。渡辺靖著『白人ナショナリズム―アメリカを揺るがす「文化的反動」』(中公新書、2020年5月25日発行)から引用します。「米国の著名な白人ナショナリスト、ポール・ラムゼーはオルバーン〔ハンガリー首相〕の熱烈支持者で『オルバーンは西洋文明の英雄だ』『オルバーンは欧州のドナルド・トランプ。プーチンとオルバーン、トランプが一緒の写真を想像できるかい?』『オルト・ライトにとって英雄的存在の世界的指導者はトランプとオルバーンとプーチンの三人』などとツイートしている」(164頁)。「『ユナイト・ザ・ライト』の発起人の一人、マシュー・ハインバックは『ロシアは私たちにとって最大の刺激(inspiration)。プーチン大統領は自由世界の指導者だと思う』とツイートしている」(165頁)。完全に思想が狂っています。

 

 キリスト教福音派(エバンジェリカルズ)は、トランプの支持母体です。エバンジェリカルズが推薦・支援した共和党のウイズク議員は、「ロシアはキリスト教ナショナリスト国家だ。ロシア正教を事実上の国教としている。私にとってはプーチン氏のキリスト教的価値観の方がバイデン氏の価値観よりも近い」と公言していました。エバンジェリカルズ・テレビ伝道師、パット・ロバートソンは、「プーチン氏のウクライナ侵攻は神が命じられた神聖な計画だ」とまで言いました。エバンジェリカルズの指導者、フランクリン・グラハムはウクライナ侵攻前夜、「プーチン氏のために皆で祈ろう」と呼びかけていました(これらは高濱賛氏の『JBプレス』2022年3月11日の記事に載っていたものです)。

 

 (7)「アメリカ孤立主義」(アメリカ第一主義)のトランプは、海外に展開している米軍をできるだけ多く本国に戻したいと思っています。2019年9月10日に辞任した前記ボルトン氏のトランプ批判の『ジョン・ボルト回顧録』(2020年6月米国で発行、日本では10月30日発行、朝日新聞出版)には、次のように書かれています。「50億ドル〔韓国による米軍基地の負担〕の取引が成立しなかったら、あそこからは撤退しろ。我々は韓国との貿易で38億ドルを損しているんだ。撤退だ」(473頁)。「私はアフリカから撤退したい。他のできるだけ多くの地域からもだ。我々の兵士は我が国土に置きたいんだ。ドイツから兵士を連れ戻せ。ドイツには『今すぐ金を払え』と言ってやろう」(474頁)。「私はアフガニスタンやこういう戦争ゲームからの撤退を訴えて当選したんだぞ」「欧州には5万2000人の米軍兵士が配備されている。みんなNATOのとりこにされているな」(474頁)。1期目では、優秀な政府高官や官僚がこういうトランプと戦い阻止してきたのです。しかし、2期目は全く異なってしまうのです。

 

 米国の極右政党「米国自由党」は米国第一主義を掲げますが、党綱領で次のように主張しています。「破綻した無用のグローバル帝国からの自由/NATOから脱退し、700以上ある海外基地と100か国以上に展開する部隊を大幅縮減し、他国への介入を停止すべきだ。強力な軍隊は合理的な防衛目的のためだけに維持する。武装中立こそ米外交の伝統であり、自由市民の政策である」。同党代表のジョンソンはトランプについて、「確かに、大統領になってから、私たちの立場により近くなっています」と微笑む(渡辺靖氏の前掲書21~23頁)。もちろん、同党はトランプを支持しています。

 

 (8)習近平はトランプが11月の選挙に勝ち、政府高官・官僚等を自分に忠誠を尽くす者だけで固めた政権で、「ウクライナ戦争」をどう“解決”するのかをしっかり観察し、分析していきます。習は1期目のトランプとの会談等で、トランプの思想は熟知しています。台湾などいつでも見捨てる男だと知っています。2期目の政権ではトランプの顧問や官僚には反対する者がいなくなりますので、中国は2期目のトランプ在任中に台湾を軍事侵略し併合していくことになります。中国は日本へも軍事攻撃を仕掛けてきます。そのとき、米日安保条約があっても、トランプは介入して日本を防衛することはしません。同条約5条はNATO条約第5条と異なり、「自動参戦義務」ではないからです。また、トランプは同条約第10条の規定により、「同条約の終了を通告」してくることも考えられます。この第10条は当時の岸信介首相が入れたものです。完全な反日的な誤りです。安倍晋三はこれを高く評価していました。

 

 前記(3)で2021.4.4アップの拙文を書きましたが、その4節目を見ていただきたいと思います。トランプが中国との関係をどう考えていたのかを、『ボルトン回顧録』からまとめてあります。習近平は、トランプに米国憲法を改正して、あなたに3期大統領をやってもらいたいと明言していました(330頁)。日本の保守派には多くのトランプ信奉者がいます。そして、バイデン大統領を攻撃しています。彼はトランプを批判する文(例えばこのボルトン氏の本。無名なので私の文ならなおさら)は、初めから読まないでしょう。そういう姿勢では、事実、真実、真理からどんどん乖離していってしまいます。

 

 (9)『民主主義の死に方』(2018年9月25日発行、新潮社)の共著者の一人、ダニエル・ジブラット氏は、2期目のトランプは、自身が起訴されている4つの事件の起訴の取り消しや恩赦を画策すると予想しています。トランプは100人の連邦検事を交代で任命して、トランプに逆らえないようにしていきます(3月9日付読売新聞)。トランプは政権を正当に批判するメディアを封じ込めてしまうために、「名誉毀損法」を改悪して、巨額の損害賠償を求める名誉毀損訴訟を起こせるようにし、ジャーナリストに対しては、名誉毀損罪で逮捕することができるようにしていきます。トランプ政権は、州議会に対して、「人種構成」を利用した意図的な選挙区割り(ゲリマンダリング)を実行させていき、トランプ支持の白人連邦下院議員数が最大になるようにしていき、常に連邦下院で共和党が多数派が取れるようにしていきます。憲法と政治規範と民主主義と自由と平等は圧殺されていくことになります。

 

●心ある現職の共和連邦議会議員と州知事は、深い反省の上に立って、政治生命を賭けてトランプの危険性を述べて、米国と世界を破壊から護るために、11月の大統領選挙ではバイデン大統領に投票すべきだと、共和党支持者に訴えなければならない

 

 (1)前回20年11月の大統領選では、バイデン氏がウィスコンシン、ミシガン、ペンシルバニア、ジョージア、ネバダ、アリゾナの6つの「スイング・ステイト」(激戦州)の全てで得票率で上回って、全米538人の選挙人のうち302人を獲得して勝利しました。トランプは232人。獲得票はバイデン氏が7808万人(50.8%)、トランプが7273万人(47.4%)でした。しかし、24年3月時点の全米での支持率はバイデン氏45.1%、トランプ47.1%です。しかも、上の激戦州の支持率も5州でトランプが上回っています。厳しい数値です。

 

 (2)アメリカでは共和党と民主党の2極化の強まりによって、有権者も2極化して、有権者は両党いずれかの支持者にはっきりと分かれてしまっています。しかも、他党への敵意を増しています(前掲の『民主主義の死に方』97頁参照)。だから、11月の大統領選でトランプを敗北させ、バイデン大統領を勝たせるためには、共和党の現職の指導者や著名な人物が、「私たちはバイデン大統領を支持します。共和党支持者の皆さんも今回はアメリカと民主主義のためにバイデン大統領に投票してください」と訴えることが不可欠になります。それによって、共和党支持者の一定割合が造反して、バイデン大統領の再選となります。

 

 前回20年11月の大統領選でも、バイデン氏が民主党大会で民主党大統領候補指名の受諾演説をした8月20日の演説後に、歴代共和党政権で国家安全保障を担った元政府高官ら70人以上が、「バイデンを支持する」という連名の声明文を発表しています。「彼(トランプ)の言動はこの国の統率に必要な人格と能力の欠如を示している」「国を分断させた」「世界のリーダーとしての米国の役割を著しく傷つけた」と厳しく批判して、政策面で違いがあるとしても「バイデン氏が次期大統領に選ばれることが我々の国にとって最大の利益となる」と述べて、共和党支持者にバイデン氏へ投票することを訴えました。9月24日には、米軍退役大将や歴代民主・共和政権元高官ら約500人が、「バイデンを支持する国家安全指導者」と題した公開書簡を発表しました。上記声明文と同旨の主張をして、共和党支持者にバイデン氏への投票を呼びかけたのです(前掲2021.4.4アップの拙文を参照ください)。

 

 (3)共和党員の元政府高官が今度の大統領選でも同じように行動するのは間違いありません。ただ、これらの人々は現職ではありませんし、トランプは支持者に彼らを、「エスタブリッシュメント」として非難しています。彼らは、トランプが支持者を、「『ディープステート』(闇の政府)から我々の国を取り戻す」と洗脳している「ディープステート」の一部に当たります。だからこそ、現職の共和党連邦上下院議員や州知事の心ある人々が、自分の地位などの私益を捨てて、「国と国民のために、バイデン大統領に投票して欲しい」と共和党支持者に訴えることが不可欠になるのです。同盟国の私たちも、この方向で彼らに訴えていかなくてはなりません。世界は岐路にあります。

(2024年4月14日脱)

 

追記。採決を拒んできたジョンソン共和党下院議長は4月20日、ウクライナへの610億ドルの追加軍事支援法案の採決を実施しました。311対112で可決。民主党は210人が賛成、反対ゼロ。共和党は101人が賛成、112人が反対。上院は4月23日に再び採決を行い、79対18で可決しました。民主党は48人が賛成、反対ゼロ。共和党は31人が賛成、18人が反対でした。