●民主主義国で権威主義国中国・ロシアを軍事的・外交的・経済的に包囲していくのだ

 

 (1)米国バイデン大統領は、民主主義を強化し、民主主義国で権威主義国中国・ロシアに対抗し包囲していくことを目指して、12月9、10日に「民主主義サミット」をオンライン形式で開催した。バイデン大統領は会議冒頭、招待された代表者たちに「独裁者たちは自分たちの力を高め、世界への影響力を拡大しようとしている」と述べた。

 

 当然のごとく招かれた台湾代表のIT担当閣僚のオードリー・タン政務委員は、10日にビデオ演説した。タン氏はサミットへの招待に謝意を示し、「台湾は権威主義との世界的な戦いの最前線に立っている」と強調した。また、サミットに招待された、ロシア・中国と対立し台湾を支持するリトアニアのギタナス・ナウセーダ大統領は、10日に演説した。「権威主義的な政権は我々の価値観を忘れさせ、政治的意思を失わせることを望んでいる。リトアニアは民主主義が脅かされたりすれば、いつでも支援する用意がある」と語った。米国務省によれば、民主主義サミットでは計100か国・地域の首脳らが、民主主義を強化する取り組みなどを表明して、対中露へ結集したのであった(12月11、12日付読売新聞)。

 

 (2)バイデン大統領は民主主義サミット直前の12月6日、来年2月からの北京五輪・パラリンピックを「外交的ボイコット」すると発表した。政府高官を派遣しない。8日、オーストラリアもそれに続き外交的ボイコットを表明した。英国も表明した。カナダも8日に外交的ボイコットを表明した。米下院は12月8日、中国新疆ウイグル自治区からの輸入を原則として禁止する「ウイグル強制労働防止法案」を賛成428、反対1で可決した。上院は7月に既に可決済み。一本化を図り大統領が署名すれば成立する。米下院は8日、ウイグル族などへの「人道に対する罪とジェノサイド(集団殺戮)」を非難する決議案と、中国人の女子テニス選手が消息不明となった問題を巡る中国政府と国際オリンピック委員会の対応を批判する決議案も可決した。

 

 岸田首相は9日の国会答弁で、「適切な時期に、五輪・パラリンピックの趣旨、精神や外交上の観点など諸般の事情を総合的に勘案し、国益に照らして、自ら判断したい」と述べた。中国に拝跪して、外交的ボイコットをしたくない本心が見えている。日本は他の国々の様子を見てから決めるということだ。民主主義を強化するとは、権威主義国の人権弾圧を許さないということだ。中国やロシアが対外侵略するのは、国内で国民や少数民族の人権を弾圧(侵略)しているからだ。

 

 2014年2月のロシアのソチ五輪でも、欧米首脳はロシアの人権侵害問題に抗議して開会式をボイコットした。そういう中で、西側先進国では安倍首相だけが出席した。なにしろ安倍氏は、独裁侵略者のプーチンを「友人で信頼し合っている」と評価する思想の持ち主である。

 

 (3)バイデン政権は中国・ロシアをけん制するために、NATO諸国に軍艦をインド太平洋地域へ派遣するよう訴えてきた。本年5月に仏国海軍は軍艦を派遣し、米日豪の海軍とで合同演習を実施した。その際、仏陸軍と日本の陸自と米海兵隊が合同の離島奪還演習も実施した。英国海軍の空母打撃群は8月下旬~9月上旬に、東シナ海や日本の関東沖合で、空母「クイーン・エリザベス」が中核となって、英、米、日、カナダ、オランダの5か国海軍で合同演習を行った。9月8~9日では、英空母のF-35Bと日本の空自のF-35A、米海兵隊のF-35Bによる合同航空訓練も行った。

 

 バイデン大統領とジョンソン英首相とモリソン豪首相は9月15日、オンライン会談を行い、権威主義国中国・ロシアに対抗する米英豪軍事同盟(AUKUSU.オーカス)の設立を表明したのである。米英がオーストラリアに攻撃型原子力潜水艦を配備する技術と能力を提供して、8隻の建造をめざすことも明かにした。9月24日には、「クアッド」の米日豪印の4首脳がワシントンに集まり、対面では初の首脳会議を行った。米日豪印の海軍は「クアッド」として、8~9月にグアム島周辺海域およびフィリピン海で、10月11日からはベンガル湾で、対潜水艦戦の合同演習を実施した。

 

 また、米、英、日、カナダ、オランダ、ニュージーランドの6か国の海軍は、10月2~3日に沖縄南西海域で、10月4~9日には南シナ海で合同演習を行った。米海軍からは空母「ロナルド・レーガン」と「カール・ヴィンソン」が参加し、英海軍からは空母「クイーン・エリザベス」が、そして日本海軍からはヘリ空母「いせ」が参加した。同海域で3隻の空母と1隻のヘリ空母が合同演習するのは、冷戦後初めてのことである。他日ではあるが、ドイツも軍艦をインド太平洋地域へ派遣した。

 

 欧州連合(EU)は11月16日、ブリュッセルで国防相理事会を開催した。ジョセップ・ボレル外交安全保障上級代表(外相)は、理事会で、インド太平洋地域への軍艦派遣方針などを盛り込んだ新たな防衛戦略案を加盟国に示した。戦略案は、インド太平洋地域は「世界の競争の新たな中心」になりつつある。EUとしてこの地域の安定に積極的に貢献する必要があると指摘している。米国や日本など価値観を共有する国々との共同訓練などを通じ、連携強化を図る方針を示している。

 

 ボレル代表は同理事会で、来年の早い時期に加盟国共同でインド太平洋地域に軍艦を派遣する意向を示した。彼は記者会見で、「EUはインド太平洋地域に関与しなければならない」と述べた(11月17日付読売新聞)。

 

 英国・リバプールでG7外相会合が12月11、12日と開かれた。G7外相は共同声明を発表し、ウクライナの主権と領土の一体性への支持を表明し、ロシアがウクライナに軍事侵攻すれば、「甚大な結果と厳しい代償を払うことになる」と警告した(12月14日付読売新聞)。

 

 (4)もし、2020年11月の米国大統領選挙でトランプ大統領が勝っていたら、このような民主主義国による対中露包囲は決して実現されなかった。私たちはまずこのことをしっかりと認識しなければならない。そして、包囲を強化、拡大していかなくてはならないのだ。長い冷戦になっていく。

 

●再度、トランプ前大統領を批判しておく

 

 (1)トランプ氏は2016年の大統領選挙で、プーチンのロシアがハイブリット戦争でウクライナを侵略してクリミアを併合したことに関しても、「クリミアはロシアのものだ。プーチン氏は有能な指導者だ。私ならプーチンにも尊敬される大統領になる」と言った。トランプ氏は中国の侵略主義についても等閑視した。「アメリカに何百万台もの車を輸出する日本を防衛するつもりはない」とも言った。プーチンは2016年の米大統領選に大々的に介入した。ロシアの侵略を批判するヒラリー・クリントン氏の評判を落として、トランプ氏を当選させようとしたのだ。これはアメリカに対する侵略行動である。こうしてトランプ氏は当選した。

 

 アメリカの情報機関はロシアによる大統領選挙介入を認定し非難した。だが、トランプ氏は、「私は選挙介入などさせていない」と強弁するプーチンの発言を、その直後に「プーチン氏の主張は信用できる」と記者団に述べたのだ。2018年7月16日の米露首脳会談後の共同記者会見の場でのことだ。トランプ氏の行為はまさしく「国家反逆罪」に値するものだ。前CIA長官のジョン・ブレナン氏はそのように非難した。

 

 トランプ氏は独裁侵略者の習近平、プーチン、金正恩を「友人だ、尊敬する」と述べてきた。そういう思想の持主である。非アメリカ的、また反アメリカ的な大統領だ。

 

 (2)貿易は財やサービスとお金との等価交換だ。従って、アメリカと海外との貿易収支が赤字になろうと、アメリカにとって損では全くない。アメリカは赤字相当分の財やサービスを海外から得ているからだ。一国の経済が好景気のときには、輸入が増えて貿易黒字は縮小する。あるいはアメリカのような貿易赤字国の場合には、貿易赤字は拡大する。不景気の時には輸入が減って貿易黒字が拡大する。あるいは貿易赤字が縮小するのである。だが世界中で、これと逆のことを「常識」だと思い込んでいる。

 

 トランプ氏は経済学に無知であり、国の貿易赤字・黒字を企業の赤字・黒字と同じだと狂信する。そして「対米黒字を出している国はアメリカから富を奪っているのだ!」「同盟国や友好国でもアメリカの富を奪っている国は、経済的には敵国だ!」と主張したのである。こうして彼は中国だけでなく、日本や韓国やカナダやメキシコや独などの欧州の国々に対して「経済戦争」を仕掛けていった。独裁侵略者を友人ととらえるトランプ氏には、もともと同盟国や友好国の概念はない。こうしてトランプ氏はアメリカの同盟関係も破壊していったのである。

 

 (3)トランプ氏はアメリカの価値観と国益を破壊する思想の持ち主である。それは、国家安全保障担当大統領補佐官であったジョン・ボルトン氏の著書『ジョン・ボルトン回顧録―トランプ大統領との453日』に、余すところなく述べられている。ボルトン氏は対中関係について次のように述べている。

 

 トランプは2019年6月28日の大阪G20サミットでの習近平との首脳会談において、習に対して「ウイグル自治区に収容所を建設することは当然のことだと思う」と伝えている。英国訪問中の2019年6月4日、天安門事件30周年に当っていたが、トランプはホワイトハウスが声明を出すことを拒んでいる。トランプは「誰がそんな15年も前の話を気にするんだ」と語っている。2019年6月9日に香港では市民たちの150万人デモがなされた。トランプはそのことを6月12日に知ったが、「私はかかわり合いになりたくない」と述べている。6月18日、トランプは習近平との電話会談で、香港で起きていることを見たと伝えた上で、「あれは中国の国内問題であり、私はホワイトハウスの高官には、どんな形であれ公けの場で香港の問題を口にしないように命じている」と言っている。習近平は感謝した。

 

 ファーウェイについて。ボルトン氏は書いている。「トランプの弱腰を見て取った習は、月末のG20大阪サミット(6月28日)でもトランプの説得にあたり、ファーウェイの件は貿易交渉の一環として解決しようと言った。トランプはたちまち前言を撤回し、ファーウェイ製品の米企業による販売を直ちに許可すると言った」。

 

 台湾について、ボルトン氏は書いている。「私がホワイトハウスを去った後、トランプはシリアのクルド人勢力を見捨てた。その時、トランプが次に見捨てるのは誰かという憶測がなされるようになった。台湾は、その候補者リストの最上位あたりに位置していた」。これについては、私の2021.4.4アップの拙文の4節目「アメリカ国務省も国防総省も情報機関もオルタナ右翼のトランプ大統領に抗して仕事をしてきたのである」を参照していただきたい。

 

 (4)トランプ政権の閣僚、ホワイトハウス高官、国務省や国防総省や司法省や国土安全保障省・サイバー・インフラ安全保障局や商務省やCIAやFBI等々の高官の多くは、アメリカの価値観とアメリカの国益を守るために、このような非アメリカ的大統領のトランプ氏に抗して仕事をしていった。そのために、多くの人が更迭されたり辞任していったのである。2017年12月のアメリカの「国家安全保障戦略」もマティス国防長官、マクマスター国家安全保障担当大統領補佐官が中心になって策定したものだ。トランプ氏はこれに敵対していったのだ。2017年のNATO首脳会議で、トランプ大統領は原稿にあったNATO条約5条の集団安全保障義務を拒否した。プーチンに配慮してだ。マティス国防長官が後日、条約5条を守ると大統領を説得して言わせている。台湾への武器輸出も、トランプ氏は反対したり、しぶったが、ポンぺオ国務長官とボルトン氏が「台湾関係法」を持ち出して、実行していったのである。ファーウェイ製品もボルトン氏とロス商務長官が法律を持ち出して、排除していったのである。

 

 (5)周知のように、トランプ大統領は2020年11月の大統領選挙の結果も、「不正がなされた結果だ! 私が勝っていた!」と言い張り、支持者たちに連邦議事堂の占拠を扇動したのであった。トランプ氏はアメリカの民主主義を否定し破壊していった人物である。(4)(5)については、私の2021.3.13アップの拙文を参照していただきたい。

 

 (6)日本の“識者”には今もトランプ前大統領を高く評価して、バイデン大統領を徹底的に貶めようとする者がかなりいる。「安倍応援団」の中心人物のひとりの櫻井よしこ氏もそうだ。氏は『正論』2022年1月号で書く。「トランプ氏が築いた『中国包囲網』からバイデン氏は明らかに方向転換をはかっている」(35頁下段)。「元々対中宥和派の最たる人物だった氏はいま、79歳。気力体力衰えはないか。あれば米外交を誤り、自由主義陣営の悲劇ともなりかねない」(36頁上段)。彼女は事実を否定してその逆をプロパガンダする。トランプ氏に再度大統領になってほしい習近平やプーチンや金正恩が、大喜びする嘘プロパガンダである。

 

 櫻井氏は、安倍首相(当時)が憲法9条の芦田修正論を閣議で採用して、直ちに国防軍を保持することを拒絶したときも(2014年5月15日)、彼を非難することなく、支持しつづけた。2015年の「安保国会」で、安倍氏が台湾有事を完全に捨象しても、また中国の対日核ミサイルの脅威も一切とり上げることをしなくても、非難しなかった。安倍氏が尖閣諸島を習近平に貢いでも、択捉島と国後島をプーチンに貢いでも、彼女は反日主義者の安倍首相を非難することなく、支持し続けてきたのである。日本の言論界は反日方向に大きく歪められているのだ。

 

●「民主主義を強化していく」とは、立憲主義・法の支配の統治を実行させていくことである

 

 (1)前回拙文を見てもらいたい。本来の憲法9条は自衛権行使のための軍隊の保持を認めている。GHQの憲法9条案がそうであるし、芦田修正論がそうである。世界の国々もそう考えている。だが、日本政府は1952年11月以降は、「憲法9条2項は自衛のためであれ軍隊の保持を禁止したものだ」と閣議決定してきた。

 

 現在においては、政府にも外務や防衛官僚にも外交・安全保障や政治学の識者にも、上記のことを知識として知っている人はかなりいる。しかし、立憲主義・法の支配(憲法の支配)の思想を獲得できていないために、「現在の憲法9条解釈(軍隊保持の禁止)は本来の憲法9条に違反していて、無効である。日本は直ちに閣議決定で本来の憲法9条(芦田修正論)を確立して、軍隊を保持して、国と国民の安全と生存を守れる国防戦略と軍事力を創り上げなければならない!」と主張する人はほぼいない。政府と対立するからである。日本社会を支配する反国防の「支配的イデオロギー」と対立して、孤立するからである。保身である。

 

 (2)しかし、もし正義の政府が中露北朝鮮が配備している軍事力(対日、対米)を具体的に述べ、とりわけ中露の国家意思(日本など東アジアと西太平洋地域の征服支配)を明確にして、日本は国家存亡の淵にあるのだと、国民に対して繰り返し説得していくならば、国民の国家安全保障に関する意識は急速に変わり、深化していくはずである。人間の意識は、摂取する情報と思想の量によって決まってくるからだ。その一環として(1)の主張も必ず述べていく。国民が速やかに同意していくことは間違いない。

 

 だが、政府はこうした主張は決してしない。だから、野党などの反日左翼の主張も国民に浸透していってしまう。今の政府は反日左翼と戦える思想性を全く有していないのだ。

 

 (3)政府には国と国民の安全を守る憲法上の義務がある。政府は「お上」では断じてない。憲法に支配される存在である。それが、立憲主義・法の支配だ。憲法9条は政府に国防軍を保持し、精強な国防軍を創り上げて、国と国民の安全と生存を守り抜けと命じている。

 

 これをしない政府は憲法違反を犯している政府であり、政治的大反日犯罪を犯している政府である。だから、憲法を守るべき国民によって倒されて、正義を実行する政府に交代させられるのである! 憲法とは、政府と国民の統治契約書なのだから。

 

 (4)「民主主義を強化していく」とは、憲法をしっかり守っていくということだ。国民は政府に憲法9条を守らせていかなくてはならないのである! 政府(行政府・立法府・司法府の拡大政府)は「お上」ではない。政府は国民の代表であり、政府と国民の統治契約である憲法に支配されて、私益を捨てて国民の利益のために仕事(外交・軍事・立法・内政・裁判)をする機関である。立憲主義・法の支配(憲法の支配)とはこういうことである。民主主義を強化していくとは、立憲主義・法の支配の統治を実行させていくということである。日本の安全と存続を守り抜けなかったら、国民の基本的人権は侵略者によって全面的に踏みにじられてしまうのだ。現在のウイグル民族や香港の市民のようにだ。私たちは起ち上がらなくてはならないのだ!

 

 私たちは日本の憲法学界は、日本の国防を全面否定する反日左翼(共産主義者)によって支配されていることを知らなくてはならない。

 

(2021年12月14日脱)

 

(◎私の文をボランティアで入力してくださるという同志の方がいらっしゃれば、このブログを管理してくださっている荒木和博様へご連絡いただけないでしょうか)