●日本の保守派の一部は「不正選挙で大統領になったバイデンは信用できない」と反米運動をしている。完全に誤っているし日本の安全保障にとって極めて危険である

 

 (1)トランプ前大統領は、「バイデンは不正選挙で票を盗んで勝った。私が勝っていた!」と意識的に嘘を繰り返して、熱狂的支持者を洗脳してきた。今も「バイデンは信用できない」と言っている日本の保守派の一部の人々も、「トランプ信者」である。

 

 だが、国土安全保障省の「サイバー・インフラ安全保障局(CISA)」は、司法省との共同声明で何度も、「投票システムによる票の削減や改ざん、何らかのシステム侵入が生じたとの証拠はない」と表明したし、すべての州の投票結果が出揃った後の2020年11月17日には、CISAのクリス・クレブス局長は「米国史上で最も安全が確保された選挙だった」と声明を出している。ウイリアム・パー司法長官も12月1日に、「不正プログラムされた集計機で集計が操作された」とのトランプ氏側主張を、「司法省と国土安全保障省が調査したが、裏付けるものは何ら確認できなかった」「現時点で選挙結果を左右するような規模の不正は見つかっていない」と明言した。トランプ政権の閣僚、官僚がそう断言したのだ。トランプ氏が虚偽を意識的に言い立てていることが証明されたのである。さらに司法による審査もなされた。連邦最高裁まで行ったがすべて棄却された。12月14日に各州の選挙人団の投票がなされた。バイデン氏306票、トランプ氏232票である。

 

 (2)しかしトランプ氏は、アメリカ憲法と民主主義制度(選挙)を否定し破壊する違法な戦いを続けていく。トランプ氏は熱狂的支持者を煽動して、1月6日の連邦議会議事堂(ここで上下両院合同会議によって、選挙人団の投票結果が確認され認定される)を不法に侵入し占拠して、暴力で選挙結果を覆すことを企てたのである。アメリカ憲法と民主主義を否定し、破壊する武装テロだ。1月13日、連邦下院は「暴動煽動」の罪でトランプ大統領に対する「弾劾訴追決議」を可決した。民主党は全員が賛成したが、独裁者トランプ氏に支配されている共和党議員は211人中10名が賛成しただけであった。以上のことは前回拙文で詳しく述べたので一読していただけらたと思う。

 

 (3)最初に戻る。バイデン政権は1月20日にスタートしたが、今になってもトランプ氏の「選挙用の嘘スローガン」を盲目的に支持して、「不正選挙で大統領になったバイデンとバイデン政権は全く信用できない!」と日本国民にプロパガンダしている保守派の一部の人々の運動は、日本侵略を狙う中国とロシアと北朝鮮が大歓迎しているものである。3国は同盟関係にある。

 

 なぜならば、その運動はまさしく反米運動そのものだからだ。アメリカの公正に行われた大統領選挙を「不正選挙だ」と非難する。それはアメリカの民主主義を貶めるものだ。何よりもバイデン大統領を、民主主義を否定する犯罪者だと言っているのである。

 

 中露北朝鮮は日本に、同盟国アメリカから距離を取らせ、日米同盟を弱体化させる情報心理戦争を常に仕掛けている。さらに、日本の中で反米運動を大拡大させることによって、日米同盟を解体してしまうことを追求する。日本で反米運動が巨大となって、アメリカを非難して日米同盟が解体することになれば、米軍の介入はなくなるから、中国・ロシアは日本を容易に軍事侵略して支配下に置くことが可能になるのだ。

 

 3国は前記の日本の保守派の一部の反米運動を大歓迎している。保守系メディアにいつも登場して影響力を持つ者もかなりいるから、その害毒は大きい。そればかりか中露北がアメリカのトランプ支持者のメッセージを利用するだけでなく、自ら架空のアカウントを使用して同様のメッセージ(「バイデンは不正選挙で勝った。信用できない」)を作成して、日本人のターゲットに送り付けて洗脳しているのは間違いないのだ。すなわち、日本人の反米運動は中露北によってコントロールされ、彼らの「尖兵」として行動(無自覚のまま)させられているものなのである。反米左翼だけでなく、反米民族派はターゲットである。保守派でも民族派的要素の多い人もターゲットだ。

 

 (4)日本は国家安全保障のために日米同盟を絶対的に堅持しなければならない。民族派の「自主防衛」は完全な誤りである。日本は同盟国アメリカを失えば、中露北同盟にあっという間に侵略されてしまう。日本人の「反米」はすなわち反日になるのだ。自主防衛でも、日本と中露北との軍事力格差は限りなく大きい。日本には核もない。我々は日米同盟を堅持し、かつ必死になって日本の軍事力を飛躍的に強化していくのだ。それが日本の戦略である。

 

●日本の保守派の一部は「バイデンは親中派だ」とプロパガンダしている。完全に誤っているし極めて危険である。2020年9月24日、アメリカの元民主・元共和政権の「国家安全指導者」500人が「バイデン氏を支持する」と公開書簡で国民に訴えている

 

 (1)日本の保守派の一部は「不正選挙で勝ったバイデンは信用できない」と述べるとともに、「バイデンは親中派だ」と嘘プロパガンダしている。これもトランプ氏が選挙用の嘘スローガンとして言ってきたものだ。彼らはそれを盲信しているわけである。これまでにも書いたことであるが述べよう。

 

 (2)昨年8月18日、米民主党全国大会はバイデン氏を民主党の大統領候補に指名するとともに、事実上の選挙公約になる党の「政策綱領」を採択した。綱領は「民主党は為替操作や違法な補助金、知的財産の搾取など、中国による不公正な貿易慣行から米国の労働者を守る。米国は友好国や同盟国を結集し、国際規範を弱体化させようとする中国などに対抗していく」「我々は我々のパートナーを(トランプ氏のように)中傷し、同盟国間の対立をあおるようなことはしない。米国は日本や韓国、オーストラリアといった地域の同盟国との連携を強化する」と述べる。

 

 バイデン氏は8月20日に指名受諾演説をした。こうである。「私は同盟国や友好国に寄り添う大統領になる。敵対する国々に対して明言するだろう。独裁者(習近平、プーチン、金正恩ら)にトランプ氏のように擦り寄る時代は終わったと。バイデン大統領の下では米国は、米兵の命に懸賞金を与えるロシアの行為に目をつぶることはない。選挙は我々にとって最も神聖な民主主義の行使であり、私はこれに対する外国の干渉を許さない。私は人権や尊厳という価値を常に支持する。より安全で平和で繁栄する世界を実現するという共通の目的のために努力する」。

 

 バイデン氏が指名受諾演説をした後の同じ8月20日、歴代共和党政権で国家安全保障を担った元高官ら70人以上が、「バイデンを支持する」との連名の声明文を発表したのだ。声明文はトランプ大統領について、「彼の言動はこの国の統率に必要な人格と能力の欠如を示している」「国を分断させた」「世界のリーダーとしての米国の役割を著しく傷つけた」と厳しく批判する。そして、政策面で違いがあるとしても「バイデン氏が次期大統領に選ばれることが我々の国にとって最大の利益となる」と述べていた。

 

 対立政党である共和党の元高官70人以上のこの共同声明が、バイデン民主党が親中派でないことを十二分に証明している。民主党の政治綱領を見ても明白だ。そして共同声明は、トランプ氏の統治は内政においても外交においてもアメリカの国益に反すると言っているのである。

 

 また2020年9月24日に、米軍退役大将や歴代民主・共和政権元高官ら約500人が、「バイデンを支持する国家安全指導者」と題した公開書簡を発表したのである。前記の70人以上の共和党元政府高官も当然ここに含まれる。公開書簡は「現大統領は、大統領職の巨大な責任に見合わない人格であることを自ら示した」「彼の尊大な態度や失敗のせいで同盟国はもはや米国を信頼も尊敬もしていない」とトランプ氏を痛烈に批判した。米国民にバイデン氏に投票することがアメリカと国民の利益になると、訴えたのだ。

 

 トランプ大統領は2020年8月27日の指名受諾演説で次のように述べている。「バイデンの政策綱領は『メイド・イン。チャイナ』、私の政策目標は『メイド・イン・USA』だ」「バイデンが当選すれば、中国は米国を自分のものにしようとするだろう」「アメリカンドリームを守るか、社会主義者の政策綱領が我々の大切な運命を台無しにするのを許すのかが決まる」。このようにトランプ氏は「でたらめな嘘」を意識的について国民を騙して権力を維持しようとした。

 

 これらについては拙文2020.10.8アップ「アメリカ大統領選挙でバイデン氏が勝利することを切望する」、2020.12.25アップ「バイデン氏が勝利したアメリカ大統領選挙について」も参照していただけたら幸いである。

 

 (3)これらのことは日本の新聞で報道された。だから日本人もバイデン氏が親中派でないことはこれらからすぐわかるはずである。トランプ支持者の日本人の保守派の一部の人々がわからないのは、真実を追求する姿勢が欠如しているからだ。批判的に検証する姿勢が無いからだ。党派主義と権威主義で凝り固まってしまっているからである。「トランプ信者」のようになってしまっているからだ。そうなると、聞きたい情報だけを聞き、聞きたくない情報は黙殺、排除することになってしまう。「トランプ批判」は自分への批判と感じて猛反発することになるのだ。アメリカの熱狂的なトランプ支持者たちはそういう心理状態にある。彼らはトランプ氏がどんなに嘘を言っても、真実だと受けとめる。完全に利用されているのだが、それがわからない。自己の実現だと感じてしまうのである。

 

 米共和党はこの時(2020年8月)の全国党大会では、「党綱領を採択せず、トランプ氏の行うことが党の政策になると決めた」「米国の右派はもはや政策や主張ではなく、トランプ氏という個人への忠誠によって団結している」「多くの共和党支持者がトランプ氏の発言を信じ切っている。世論調査では、7割の共和党支持者がバイデン氏が選挙の不正によって大統領になったと答えたし、3割が『Qアノン』などの陰謀論を信じている」のだ(1月23日付読売新聞に載った米政治哲学者フランシス・フクヤマ氏の主張より)。

 

 米共和党はオルタナ右翼のトランプ大統領の4年間の統治によって、(共産党よりも酷い)政策綱領も決めない個人独裁の「トランプ党」に変えられてしまったわけである。

 

 何度も批判してきたが、トランプ氏は独裁侵略者の習近平やプーチンや金正恩を「友人だ。尊敬する」と言う人格の持ち主なのだ。反アメリカ的大統領なのだ。そんなことを言う者は米民主党にはいない。しかし日本人の保守派でこの点でトランプ氏を公けに批判する人は、多くはない。日本人の保守派ni

は徹底した自己検証、自己批判が必要なのである。

 

 (4)バイデン氏はアメリカの規範に従って、過半数の270人の選挙人を獲得した2020年11月7日に勝利宣言を行い、勝利演説をした。NATO諸国の主要国の首脳は同日、直ちにバイデン氏に祝意のメールなどを寄せている。ブッシュ(子)共和党元大統領も11月8日にバイデン氏を祝福する声明を出した。

 

 習近平が祝電をバイデン氏に送ったのはいつなのだろう。11月25日である。すべての州の開票結果が出揃った11月13日の更に12日も後だ。もしもトランプ大統領が中国(中共)の世界戦略と戦っていて、バイデン氏がもし「親中派」であるならば、習近平ははるかに早く祝電を送ったはずである。中学生にでもわかることだ。習近平は中国(中共)の世界戦略(アジア・アフリカをはじめとする世界支配)にとって都合のいいオルタナ右翼で「アメリカ孤立主義」のトランプ大統領が、次の4年間も大統領を続けられることを願って、状況の推移を見ていたが、その可能性は無くなったと判断して11月25日に、民主主義国を糾合して中国を包囲してくるバイデン次期大統領にやむなく“祝電”を送ることになったのだ。ロシアの独裁者プーチンも同じだ。プーチンの場合は、2020年の米大統領選挙でも国益のためにトランプ氏を支援し、再選させるために選挙介入(サイバー戦争)を実行した。アメリカの情報機関を統括する国家情報長官室が3月16日付で公表した「報告書」で明らかにした。

 

 (5)報道によれば前記「報告書」は、ロシアはバイデン氏が大統領になれば対露強硬姿勢をとるとみて、トランプ氏の再選を望んで、バイデン氏と民主党を中傷してトランプ氏を支援した。露情報機関などが、選挙制度に対する信頼性を損ねる目的の工作活動を行った。またバイデン氏や家族の汚職を疑わせる情報などをトランプ氏に近い人物やメディアを通して流布させる工作を行ったとする(読売新聞3月17日付夕刊、18日付朝刊)。

 

 つまり、トランプ陣営が主張した「集計機によって集計が操作された」などの「不正選挙主張」は、ロシアがSNSを使って流した偽情報であるということだ。ロシアとの共闘があったのだろう。また、トランプ氏を熱烈に支持する古森義久氏(麗澤大学特別教授、産経新聞ワシントン駐在客員特派員)が、『正論』1月号などで紹介していたバイデン氏と次男ハンター氏のウクライナや中国での「不正疑惑」も、上記の目的のためにロシアがトランプ氏に近い人物やメディアに流した嘘情報であるということである。

 

 (6)自由主義陣営と全体主義陣営との対立と戦いは、全体主義陣営の核武装した2大国家中国とロシアで全体主義が消滅するまで半永久的に続く。ロシアと中国は同盟国である。利害が一致する。ロシアがトランプ氏の再選を望み、バイデン大統領をロシアの国益に反する相手だと正しく捉えた意味は、バイデン大統領は自由主義陣営の盟主アメリカとして自由民主主義諸国を糾合して、全体主義陣営に対決してくるということだ。日本の保守派の一部が言っている「バイデンは親中派である」との主張が完全に誤っていることは、少し冷静になって自分の頭で考えればわかることだ。中国もロシアが2020年の米大統領選挙に介入したことを支持してきたのである。中国の国益になるからだ。

 

 (7)「バイデンは親中派だ」という日本の保守派の一部の主張は、習近平の中国が大歓迎しているものだ。つまり中国のサイバー部隊も架空アカウントを使って、日本のターゲットに向かってこの「フェイク・ニュース」を流布させているということである。もちろん、ロシアのサイバー部隊も同じだ。日本の中で反バイデン政権の反米運動を拡大させることは、日米同盟を弱体化することになるからだ。中露は常に日本に対しても情報心理戦争を展開している。「バイデンは不正選挙で大統領になった人物だから信用できない。バイデンは親中派だから信用できない」という日本の保守派の一部の反米運動は、中国・ロシアにコントロールされその「尖兵」として行動させられているものである。

 

 もしバイデン大統領を「親中派だ」と言いたいのであれば、彼らは安倍晋三前首相をその何百倍も酷い親中派だと糾弾しなければならない。安倍氏は「日中の戦略的互恵関係の構築・強化」「日中関係の改善」「日中新時代」を掲げて、日本の対中国防を解体してきた人物であるからだ。尖閣諸島を中国に貢がんとしてきた人物である。しかし日本の保守派は安倍氏を批判しないばかりか、応援してきた。日本の保守派は全体主義国家ロシアについては、ほとんど批判しない。安倍氏は「日露の戦略的パートナーシップの構築・強化」を唱え、独裁侵略者プーチンとの関係を、「お互いに友情を持ち信頼し合っている」と再三公言してきた。彼は日本の対露国防も解体してきた。反国防の「国家安全保障戦略」(2013年12月)を策定したのは安倍前首相だ。

 

●バイデン政権が国家安全保障戦略の指針を公表(3月3日)

 

 (1)バイデン政権は3月3日、外交、軍事、経済政策の基本方針となる「国家安全保障戦略」の策定に向けた「指針」を公表した。政権は「指針」を「暫定版国家安全保障戦略」と位置づけている。「指針」は中国、ロシア、北朝鮮、イランを取り上げているが、中国については「経済、外交、軍事、先端技術の力を組み合わせることで、国際システムに対抗しうる唯一の競争相手だ」と明記した。「中国は攻撃的かつ威圧的に振舞い、国際システムの中核をなすルールや価値観を弱体化させている」と批判した。ロシアについては、「世界での影響力を拡大し、妨害行為に関与していこうとする決意を変えていない」と批判している(3月5日付読売新聞)。

 

 前回の「国家安全保障戦略」(2017年12月。マティス国防長官〔当時〕とマクマスター国家安全保障担当大統領補佐官〔当時〕が中心になって策定したもの。ところがトランプ氏はこれに敵対してきた!)では、「中国とロシアは米国のライバル勢力である」「中国とロシアは技術、宣伝及び強制力を用い、米国の国益や価値観と対極にある世界を形成しようとする修正主義勢力である」「現状変更勢力である。米国の力や価値観、影響力、国益に挑んでいる」というように、中国とロシアを「大国間競争」の相手として併記していた。

 

 マティス国防長官(当時)が策定した「国家防衛戦略」(2018年1月)でも、「ロシアと中国が出現し、グローバルな移ろいやすさ、不確実性が増大している」「テロリズムではなく、大国間競争が米国の国家安全保障の焦点だ」「我々は修正主義大国である中国とロシアからの増大する脅威に直面している。中国およびロシアは、全体主義的なモデルに一致する世界を作ろうとし、他の諸国の経済的、外交的及び安全保障上の決心に拒否権を行使しようとしている」と述べて、中国とロシアを併記していた(私の2018.3.26アップの拙文「自由世界の最大の脅威はロシアと中共であり北朝鮮ではない」を参照)。

 

 バイデン政権においては、経済、外交、軍事、先端技術の4分野全てにおいて力を持っている全体主義国として、中国に対する危機感をさらに強めた形になっている。それが冒頭の中国に対する一文だ。

 

 ブリンケン国務長官は「指針」公表に先立って3月3日、国務省で初めての外交政策演説をした。中国がロシアや北朝鮮などとは異なるレベルでの脅威であるとの認識を示し、対中関係を「21世紀最大の地政学上の試練」と位置づけた。ブリンケン長官は、新疆ウイグル自治区での人権侵害や香港での民主主義への抑圧に言及し、「我々の価値観のために立ち上る必要がある。そうしなければ中国はさらに大手を振って行動するだろう」と訴えた(3月5日付読売新聞)。

 

 「指針」は中国などの行動に対抗するため、「世界中の同盟国や友好国との関係を復活させる」とした。世界における同盟関係を「米国の最も重要な戦略的資産だ」と強調し、NATO、日本、オーストラリア、韓国を列挙して、「同盟関係を再確認し、投資し、現代化していく」とした。米軍部隊について、「適切な能力や規模を再評価していく」とし、その上で「敵対勢力を抑止して米国としての利益を守る」として、中露を念頭に「米軍のプレゼンスはインド太平洋と欧州で最も強固になるだろう」と言明した。貿易政策について、「すべての米国人のためでなければならない」とし、中間層や労働者の保護を重視する姿勢を打ち出した。中国の不公正な貿易慣行を念頭に公平な国際経済ルール作りを進め、同盟国との協力で世界貿易機関の改革に取り組むとした(同上)。

 

 (2)バイデン大統領はすでに2月4日に「外交演説」を行っている。「米国は戻ってきた。同盟を修復し、再び世界に関与していく」と述べて、トランプ氏の「アメリカ第一主義」を転換した。「中国は最も重大な競争相手だ。米国の繁栄や安全保障、民主主義的価値に挑戦している。我が国は直接的に対抗する」と述べた。「ロシアによる米国の選挙への介入やサイバー攻撃、ロシア国民の毒殺という攻撃的な行動を前に、米国が無抵抗な時代は終った。ロシアに支払わせる代償をつり上げることも辞さない」と述べた。トランプ前大統領が表明した「ドイツ駐留米軍の削減計画を中止する」とした。

 

 バイデン大統領は2月10日、習近平と初の電話会談をして、香港での弾圧、新疆ウイグル自治区での人権侵害、台湾を含む地域での独断的な行動について、根本的な懸念を抱いていると伝えた。同日、国務省のソン・キム国務次官補代行(東アジア太平洋担当)は、事実上の台湾駐米大使のシャオ美琴台北駐米経済文化代表処代表を正式に招待して公式に会談したのである。キム氏は「台湾は米国にとって経済と安全保障の重要なパートナーだ。米国は第一級の民主主義を掲げる台湾との関係を強化していく」とシャオ代表に述べた。国務省はツイッターに両氏が並ぶ写真を投稿した。台湾外交部(外務省)もツイッターで、「台湾はインド太平洋における米国の信頼できるパートナーであり続ける」と応じた。国務省のネッド・ブライス報道官は11日の記者会見で、「我々は台湾との関係を深めることを約束する」と会談の意義を強調した(2月12、13日付読売新聞)。

 

 バイデン氏は1月20日の大統領就任式に、事実上の台湾駐米大使のシャオ美琴氏を正式に招待している。台湾駐米大使が大統領就任式に招かれたのは、1979年に外交関係が断絶して以来、初めてのことである(2月12日付読売新聞)。

 

 米国務省はバイデン政権発足直後の1月23日の声明で、1982年に米政府が台湾に与えた「6つの保証」(台湾への武器売却に終了期限を設けない等)に言及している。ジェン・サキ大統領報道官は3月8日、中国の王毅外相が7日にバイデン政権に、「一線を越えた前政権のやり方を全部変えるべきだ」と求めたのに対して、「我々の立場は変わらない」と述べた。サキ報道官は米国の「台湾関係法」(中国が台湾を武力侵略したら台湾を防衛する)、米国政府が与えた1982年の「6つの保証」などを挙げて、「台湾が十分な自衛能力を維持するための支援を続けていく」と発表したのである(3月10日付読売新聞)。

 

 アメリカの前政権は台湾軍潜水艦の建造を積極的に支援してきた。台湾で生産できないディーゼルエンジン、魚雷、ソナーなどハイテク装備の輸出を次々に認めた。それを引き継いでバイデン政権は2月、最後まで残っていた潜望鏡の輸出を認めたのであった。台湾の国防部長(国防相)が3月16日に記者団に明らかにした(3月16日付読売新聞)。

 

 ポンぺオ国務長官(当時)は1月19日、中国政府によるウイグル民族弾圧を「集団殺害(ジェノサイド)」かつ「人道に対する罪」に認定したと発表した。ブリンケン氏は同日、集団殺害認定に賛成すると述べている。ポンぺオ長官は台湾への武器輸出でも奮闘してきた。

 

 米海軍第7艦隊は2月9日、空母2隻(「セオドア・ルーズベルト」と「ニミッツ」)を中心とする空母打撃群が南シナ海で合同演習をしたと発表した。3月13日、米国、日本、オーストラリア、インドの4か国は初めてテレビ首脳会議を開催して、対中の「海洋安全保障協力」を明記した共同声明を発表した。「QUad」(クアッド)と呼ばれる米日豪印4か国の協議で、成果文書が作成されるのは初めてである(3月14日付読売新聞)。

 

 中国人民大学の時殷弘教授は、「バイデン政権の対中圧力はトランプ時代より格段に強力だ。人権などの価値を中国抑止の手段にしている」と分析する(3月20日付読売新聞)。

 

 (3)バイデン政権は日本、オーストラリア、韓国、インド、NATO諸国を糾合して、世界を全体主義モデルに一致する世界に変えんと侵略を進める第1の中国、第2のロシアなどを包囲していく戦略である。3月16日、日米安全保障協議委員会(いわゆる2プラス2)が開かれて共同文書が出された(3月17日付読売新聞)。

 

 問題はわが日本である。私たちはそれこそ死に物狂いになって対中軍事力の強化、対露軍事力の強化に取り組まなければならない。それ抜きに日米同盟の強化はなされない。中国、ロシア、が直接領土を侵略占領するのは、日本や台湾や韓国などであって、米国ではない。彼らの対米(核・非核)戦力はアメリカが集団的自衛権を行使して共同防衛してくるのを逆抑止するためのものである。日本の国防はなによりも日本国民が主体になって行うものだ。日本防衛のためには台湾も防衛しなければならない。それを前提にした日米同盟でなくてはならない。尖閣諸島を守るには自衛隊を常駐さすのは第一歩なのに、安倍氏は禁止してきたのだ。日本を守るならば軍隊を保持するのは出発点だ。軍隊がなければ自衛権を十全に行使できないからだ。日本が軍事攻撃されたら(されんとしたら)、日本は侵略国領土の軍事政治経済インフラ中枢をミサイルで破壊する報復攻撃を断行する。日本にこの能力と意志がなければ、侵略を抑止できない。そのためには軍隊が不可欠である。

 

 日本は憲法を守る正義の内閣が、「本来の憲法9条(GHQが作った憲法9条=いわゆる芦田修正の憲法9条)」を閣議で決定すれば一日で国防軍を保持できる! 自衛隊も軍隊だと閣議決定する。「憲法96条に基づく憲法9条改正」は全く不要だし、そもそもこの考えこそが、日本に軍隊を持たせないための謀略思想なのである。安倍首相は上の閣議決定を拒否し、さらに従来の自民党の「憲法9条改正」をも否定して、日本に永遠に軍隊を持たせないようにする「憲法9条改悪」を推進してきた人物である。保守派はそういう安倍氏を強く支持してきた。日本人の思想のレベルは限りなく低いのだ。日本国民は安倍氏を徹底的に批判できない限り、国家安全保障を前進させていくことはできないのである。

 

 中国、ロシアは対日核ミサイルを多数実戦配備している。日本の安全・存立を守るためには、日本においても核ミサイルを配備することはイロハである。アメリカの核兵器を日米で共同して保有するという形が良い。チャック・ヘーゲル元米国防長官らが提起している。「コロナウイルス、コロナウイルス」と言って、国防を全く真剣に考えない日本人だが、このままでは本当に国の存立が危うくなる。毎年、季節性インフルエンザで1万人が死亡している。新型コロナウイルスの死者は1年3か月で9000人程だ。

 

●アメリカ国務省も国防総省も情報機関もオルタナ右翼のトランプ大統領に抗して仕事をしてきたのである

 

 日本の報道機関も保守派も「トランプ政権」と表現する。全くの間違いである。先に述べたアメリカの2017年12月の「国家安全保障戦略」もトランプ氏が策定したものではない。彼はこれに敵対してきた人物なのだ。ジョン・ボルトン氏の『回顧録』を読めば一目瞭然である。「中国関係」を引用しよう。

 

 ①ウイグル民族弾圧について。トランプ氏は2019年6月28日の大阪G20サミットでの米中首脳会談で、通訳しか同席しないオープニイングディナーの席で、習近平がウイグル自治区に強制収容所を建設する理由をトランプ氏に説明した。「米国側通訳によれば、トランプは遠慮なく収容所を建設すべきだ、中国がそうするのは当然だと思う、と答えたという」(345頁)。「トランプは2017年11月の中国訪問の際にもそれとよく似たことを言っていたと、NSCアジア上級部長のマット・ポッティンジャーは言っていた」(同)。

 

 ②香港自治破壊について。2019年6月9日、ホンコンで150万人がデモをした。トランプは12日にそれを知った。「私はかかわり合いになりたくない」「米国も人権問題を抱えているからな」と言い添えた(343頁)。英国を国賓として訪問中の2019年6月4日、その日は天安門事件から30周年にあたっていたが、「トランプはホワイトハウスの声明を出すのを拒んだのだ」「そんな15年も前の話を」とトランプは間違いに気付かずに言った。「誰が気にするというんだ? 私は(貿易)取引を成立させようとしているんだ。声明は出したくない」(343頁)。6月18日の習近平との電話会談で、トランプは貿易とファーウェイについて協議した他、香港で起きていることを見たと伝えた。そして「あれは中国の国内問題であり、ホワイトハウスの高官にはどんな形であれ公の場で香港の問題を口にしないように命じている、と言った。習近平は感謝し(た)」(343頁)。

 

  ③台湾問題について。「トランプは台湾のこととなると特別に気難しかった」「シャーピー(米製の油性マーカー)の先端を指して『これが台湾だ』と言ってから、大統領執務室の机を指して『これが中国だ』というのがトランプのお気に入りのたとえだった。米国の民主主義の同盟国に対して果たすべき約束も責務も、せいぜいそんなものだった」(346頁)。2018年12月1日のG20のブエノスアイレスでのワーキングディナーでは、「習近平が台湾について慎重になるよう米国に求め、トランプが注意すると答える一幕があった。すんでのところで大惨事を招くところだった。この話題がすぐに終わったので、私は一安心した」(346頁)。「ポンぺオ(国務長官)はF16の(台湾への)売却に関する議会への通知を差し止めていた。台湾への武器売却すべてについていつも不満を言うトランプが、今回はそれに加えて、輸出手続きを進めることを実際に拒否するかもしれないと懸念していたのだ」(347頁)。トランプは尋ねた。「売却しないという選択肢を考慮したことはあるのか?」。もちろん、答えはノーだった。トランプはようやく言った。「わかった。だが、目立たないようにやってくれ」(347頁)。「私がホワイトハウスを去った後、トランプはシリアのクルド人勢力を見捨てた。その時、トランプが次に見捨てるのは誰かという憶測がなされるようになった。台湾は、その候補者リストの最上位あたりに位置していた」(347頁)。

 

 ④ファーウェイについて。習近平は2019年6月18日のトランプとの電話会談で、ファーウェイは中国の民間企業だと主張した。「ファーウェイへの制裁を解除してほしい、この件については個人的にトランプと協力して進めたいと申し出た。トランプは快く従ってしまいそうに見えた。電話を切ってすぐに、この電話がいかに喜ばしいものだったかをツイートしたのだ。トランプの弱腰を見て取った習は、月末のG20 大阪サミット(6月28日)でもトランプの説得にあたり、ファーウェイの件は貿易交渉の一環として解決しようと言った。トランプはたちまち前言を撤回し、ファーウェイ製品の米企業による販売を直ちに許可すると言った。ZTEの時と同じく、トランプは事実上ロス(商務長官)の決定をひっくり返したのだ」(342頁)。

 

 ➄トランプに憲法を改正してもう一期在任してもらいたいと明言した習近平。2018年12月1日のG20 の米中首脳会談で、習近平はトランプに今後6年間協力していきたいと言った。「その後、米国は選挙が多すぎるがトランプ大統領に退任されると困る、と習が言うと、トランプは満足気にうなずいた(実際、習は後の12月29日の電話で、憲法を改正してトランプ大統領にもう一期在任してもらいたいと明言している)」(330頁)―――。

 

 アメリカの政府高官はトランプ氏の人格、思想を熟知する。だからバイデン氏が大統領になることを支持したのである。トランプ氏を支持してきた(いる)日本の保守派の一部の人々は猛省すべきである。

(2021年3月21日脱)