●アメリカは「抑止戦略」によって容易に北朝鮮の核ミサイル発射を抑止できる

 

 (1)トランプ大統領は「北朝鮮の独裁政権は核ICBM開発を続けてアメリカを脅威にさらしている。北朝鮮は短中距離核ミサイルでアメリカの同盟国を脅威にさらしている。北朝鮮はアジア太平洋地域の平和と安全にとって最も差し迫った脅威だ。アメリカは北朝鮮に核ミサイルを放棄させるためにあらゆることを行う。軍事行動も選択肢に入っている」と言ってきた。

 

 トランプ氏は9月19日、国連総会で一般討論演説を行った。北朝鮮を「ならず者国家」と断じて次のように述べた。「(北朝鮮の)無謀な核・ミサイル開発は、世界を脅威にさらしている。米国は強大な力と忍耐力を持っているが、自国と同盟国を守る必要に迫られれば、北朝鮮を壊滅させるほかない。『ロケットマン』(金正恩朝鮮労働党委員長)は自滅への道を進んでいる。非核化しか受け入れられる道はないことに気づく時だ。各国は、金正恩体制が敵対的行為をやめるまで、孤立させるために結束すべきだ」。

 

 トランプ氏は北朝鮮に関する「偽りの脅威」をアメリカ国民他に信じ込ませようとしている。世界の多くの人々が騙されている。アメリカは「抑止戦略」によって容易に北朝鮮の核ミサイル発射を抑止することができるのだ。だから「最も差し迫った脅威」であるはずがない。アメリカを含む自由世界にとって「最も差し迫った脅威」は、北朝鮮の何十倍もの核ミサイルを実戦配備しているロシアと中共(中国)である。トランプ氏はこれを隠蔽している。ロシア、中共、北朝鮮の3国は「悪の準同盟関係」にある。

 

 (2)北朝鮮の金正恩政権はアメリカの「抑止戦略」を十二分に理解している。アメリカの「抑止戦略」とは、アメリカに対する敵国の軍事侵略(先制攻撃)を抑止することと、アメリカの同盟国(日本や韓国など)に対する敵国の軍事侵略を抑止することから成っている。後者をアメリカの「拡大抑止戦略」という。敵国がもしアメリカを軍事侵略したら、アメリカは核戦力を含むあらゆる戦力を用いて敵国に反撃するということを明確にしておくことによって、侵略を抑止する。敵国がもしアメリカの同盟国を軍事侵略したら、アメリカはそれをアメリカに対する軍事侵略とみなして、核戦力を含むあらゆる戦力を用いて敵国に反撃することを明確にしておくことによって、同盟国への侵略を抑止するということである。後者はアメリカの集団的自衛権の行使だ。

 

 核戦力に焦点を当てて言うときは、アメリカの「核抑止戦略」とか「拡大核抑止戦略」と言う。

 

 「抑止」という言葉は、侵略を否定し平和を愛する国家が使用するものである。「ロシアや中共や北朝鮮の侵略を抑止する」というようにである。逆に侵略国家が使うときは「逆抑止」という。

 

 北朝鮮は独裁国家で侵略国家である。北の独裁政権が核・ミサイル開発に邁進してきたのは、米韓軍の自衛権を行使した軍事反撃から北の国家体制を守るためである。国家の存続のために核・ミサイル開発をしてきた。北は2010年に韓国海軍の哨戒艦「天安」を魚雷で撃沈したし、離島の延坪島を連続砲撃した。韓国に対する軍事侵略だ。もし北朝鮮がソウルを火の海にできる1万を超える長距離火砲やロケット砲を38度線沿いの半地下に配備していなければ、また韓国全土を攻撃できる核弾頭や化学弾頭(XV、サリン)を搭載したスカッドミサイルを実戦配備していなければ、韓国と同盟国米国は自衛権を発動して空爆し北進してピョンヤンを軍事占領することになる。だが前記の北の戦力があるためそれができない。米韓軍は自衛権に基づく北の国家体制を壊滅させる戦争を「逆抑止」されているのである。

 

 北はアメリカの同盟国日本を攻撃できる核・化学弾頭ミサイルを何百基も実戦配備している。つまり北は日本を「人質に取る」ことによっても、米韓軍の北の国家を打倒する自衛戦争を「逆抑止」して、自らの国家の安全を保障している。

 

 一方で北朝鮮が長距離火砲やロケット砲でソウルを先制攻撃しないのは、また核・化学弾頭スカッドミサイルで韓国全土を先制攻撃しないのは、もしそれらやれば、同盟国米国が直ちに戦略核ミサイルICBMで反撃してきて、北の国家体制は崩壊することになるからだ。つまり北はアメリカの「拡大抑止戦略」によって、今述べたような韓国に対する全面的な軍事侵略戦争を実行することを抑止されているのである。

 

 北朝鮮はアメリカの「抑止戦略(拡大抑止戦略を含む)」が効かない「ならず者国家」ではない。アメリカは「抑止戦略」によって容易に北朝鮮の核ミサイルの先制攻撃などの本格的な軍事侵略戦争を抑止できるのである。現実によって実証されている。

 

 (3)ソ連もその後継国家ロシア(名前が変わっただけでソ連とロシアでは支配者は同じである。独裁的国家で侵略国家である。アメリカ以上の核兵器を保有している)も中共も、ずっと昔にアメリカを攻撃できる多数の核ミサイルも実戦配備した。日本を攻撃できる多数の核ミサイルも配備した。しかしながらソ連もロシアも中共も、アメリカの同盟国日本を軍事侵略することができなかったのである。

 

 もし日本を軍事侵略すれば、アメリカは「拡大抑止戦略」に基づいて核戦力を含むあらゆる戦力でソ連やロシアや中共に軍事反撃する。彼らはそれを考えるから日本軍事侵略ができなかった。抑止されてきたのである。

 

 アメリカの「拡大抑止戦略」とは、敵国がアメリカの同盟国を軍事侵略したならば、それをアメリカ自身への軍事侵略とみなして集団的自衛権を行使して、核戦力と通常戦力で敵国に反撃するというものである。アメリカがそのように反撃すれば、ソ連やロシアや中共もアメリカを核ミサイルで攻撃するかもしれない。しかしそのリスクがあっても、それを引き受けて、アメリカは同盟国を軍事侵略した敵国に核を含むあらゆる戦力で反撃するというのが、この戦略である。彼らが日本を軍事侵略したときは、アメリカ兵(在日米軍兵士)も日本防衛のために死んでいるからである。だからこそソ連もロシアも中共も日本を軍事侵略できてなかった。抑止されてきたのである。

 

 北朝鮮がもし核ICBMを開発し保有しても、ソ連やロシアや中共の何十分の1の核戦力しか保有していない。アメリカはソ連やロシアや中共でも抑止してきたのである。核ICBMを保有した北朝鮮も容易に抑止できるのだ。

 

 つまり北朝鮮は核ICBMを開発・保有しても、アメリカの報復核ミサイルで国が滅びることを恐れて、100パーセントの確率でアメリカに対して核ICBMを先制発射することはない。できないのだ。自殺行為だからだ。また北朝鮮は核ICBMを保有しても、韓国に核スカッドミサイルを先制発射することもしないし、できない。長距離火砲やロケット砲の先制攻撃でソウルを火の海にすることもしないし、できない。アメリカの「拡大核抑止戦略」は、北朝鮮の核ICBMによっては逆抑止されないからだ。それをやれば北朝鮮は滅びることになるからである。

 

 (4)トランプ氏はアメリカの「核抑止力」(拡大核抑止力を含む)によって、北朝鮮の核ミサイルの先制攻撃を容易に抑止できるにもかかわらず、北朝鮮の核・ミサイル開発を「最も差し迫った脅威だ」と声高に喧伝している。それは「偽りの脅威」だ。トランプ氏はアメリカ国民他を欺いているのである。

 

 トランプ氏は、「アメリカと世界の敵である『ならず者国家北朝鮮』と断固として戦っている自らの姿」をアメリカ国民他に見せることによって、支持率を上昇させ、自身の「ロシア疑惑」(反アメリカ行動)等を葬り去ろうとしているのである。トランプ氏は「アメリカと世界の最大の敵・最大の脅威」のロシアと中共の存在を覆い隠すのだ。

 

●日本の「軍事専門家」の誤った主張

 

 (1)トランプ氏は9月19日の国連総会一般討論演説で、北朝鮮が「非核化」を拒み挑発を続けるならば、「北朝鮮を壊滅させるほかない」とも述べた。私はこの発言は彼特有の「演技」としての「軍事的脅し」だととらえている。実際に軍事攻撃して北朝鮮を壊滅させるのではない。

 

 (2)ところが日本では元自衛官将官などなどの人が、トランプ政権は北朝鮮に非核化を強制するために大規模な軍事攻撃を必ずするなどと主張している。私は8月31日脱の論考「トランプ大統領は金正恩と取引して自らの『ロシア疑惑』を葬り去ることを考えている」の、3節「日本は対日核ミサイル等を配備しているロシア、中共、北朝鮮の脅威からどのようにして国を守っていけばよいのか?」の(3)項「日本では『専門家』による誤った核議論が流布され国民に悪影響を与えている」の④で、元海将(元自衛艦隊司令官)の香田洋二氏の主張を批判した。まだの方はご一読いただきたい。

 

 ①その香田洋二氏は『正論』10月号でも、「アメリカが北朝鮮を攻撃しない理由は初めからない」という文を発表している。香田氏は「彼らは(トランプ大統領らは)、北朝鮮という国家を、中国やロシアとは質の違う、理屈や国際慣行の通じない国家とみなしている」と書く。でたらめだ。ロシアはウクライナのクリミア半島を軍事侵略して併合した。今はウクライナ東部を奪おうと軍事行動をしている。ロシアは日本の「北方領土」を不法に占領したままだ。中共は国際法を踏みにじって「南シナ海」(日本のシーレーンが走る)を中共の領海にしようとしている。人工島を造り軍事基地にした。中共は日本の尖閣諸島も奪おうとしているではないか。

 

 香田氏は「アメリカが北朝鮮を攻撃しない方が不思議なくらいだ。・・・アメリカは、自らの国益と価値観に基づき行動する。勿論、同盟国としての日本に最大の配慮をすることは当然であるが、それは我が国に対する核ミサイル脅威の排除であり、その観点からも最後の手段としての武力攻撃の実施を躊躇しないことは当然である」と述べている。

 

 もしもアメリカ・トランプ政権が香田氏が言うような大規模な軍事攻撃をしたならば、北朝鮮はこの軍事攻撃を途中で止めさせようと、必ず「人質」の日本に核ミサイル、化学弾頭ミサイルを撃ち込む。「ロフテッド軌道」で発射すれば迎撃されることなく東京や大阪に必ず着弾する。数百万人が死ぬことになる。20キロトンの威力の核弾頭が東京に落ちると50万人が死亡するとされている。化学弾頭(VX、サリン)1発が落ちると数万人の死者である。香田氏はこういう結果を引き起そうとしているのである。

 

 もし日本がそのような甚大な被害を受ければ、日本で確実に「政変」が起きる。すなわち日本は自民党や公明党の多くも含めて日米安保条約を破棄し、在日米軍を撤退させることを政策に掲げる「反米政権」の国(反米国家)になってしまう。そうなれば、日本は次にはロシアと中共に容易に軍事侵略されて分割支配されることになる。両国にとって危険な存在とみなされる数百万人の日本人が殺害されていくことになるのだ。日本の亡国である。

 

 香田氏の思想が、日本を守るべき自衛官の最高幹部として相応しいものでは全くないことは明白だ。核兵器も持たず実戦経験もなかった情けない自衛隊であるから、こんな風になってしまうのだろう。共産主義理論に「左翼小児病」というものがある。表面的には過激な主張や行動であるが、戦略的にはマイナスになる誤った立場のことだ。香田氏の思想はいわば「保守小児病」というものである。もっとも氏は「反軍事の安倍首相」を批判することすらしない人だが。

 

 ②『正論』10月号には元陸将補(元西部方面総監)の用田和仁氏の文「アメリカ頼みでいいはずがない」も載っている。用田氏はこう主張している。「もし仮に北朝鮮が挑発をエスカレートさせるにもかかわらず今年中に米国が北朝鮮を攻撃しなければ、米国に対する世界や地域の信頼は地に落ちるとともに、日本には、北朝鮮と中国の属国になるか、米国にも頼らない自主防衛の道を進むかの2つしか選択肢はなくなるであろう。/確かに、米国が北朝鮮を攻撃すれば、日本には北朝鮮のミサイルが多数落下するかもしれない。この眼前の切迫した脅威に対して、日本が現状以上の有効な対策を講ずる努力を怠り、これを跳ね返す国民の一致した覚悟がないとするならば、日本は中長期的に『日本として』存在し続けることは難しいだろう」。

 

 用田氏もアメリカに対北軍事攻撃を求める点では、全く同じ誤りを犯している。また、自主防衛では日本は核大国のロシアや中共から国を守っていくことはできないのだ。

 

 ③『JBプレス』2017年9月7日付に、元陸将(元・陸上自衛隊幹部学校長)の樋口譲次氏が「核施設のみならず一瞬で北朝鮮の全焦土化狙う米国」という文を寄せている。

 

 「金正恩の斬首作戦による体制転覆はもちろんのこと、韓国の首都ソウルを火の海にすると豪語する軍事境界線沿いに配備された1万3600両といわれる大砲や多連装ロケット砲の一挙制圧、陸海空軍基地や地下に造られた攻撃拠点・兵器弾薬庫の破壊など、国土が消滅するくらいの全面攻撃になることは避けられないのではなかろうか」と主張している。

 

 全く誤っている主張である。アメリカは北朝鮮の核弾頭ミサイルの所在場所を把握していない。化学弾頭ミサイルについてもそうだ。核燃料の再処理施設やウラン濃縮施設の正確な位置も知っていない。1万3600両の火砲、ロケット砲は半地下にあり、もちろん一挙に制圧などできない。彼の主張も事実上、日本の東京等の大都市が北朝鮮の反撃の核・化学弾頭ミサイルに攻撃されても構わない。ソウルが火の海になっても構わないというものである。樋口氏は「日本安全保障戦略研究所」の理事である。前出の用田氏は同戦略研究所の上席研究員である。

 

 ④民間人であるが筑波大学名誉教授の中川八洋氏は、「中川八洋ブログ」2017年4月25日掲載の文で、次のように述べる。「1994年の時とほぼ酷似して、北朝鮮の独裁体制が米国のトマホーク攻撃で瞬時に崩壊する確率の方がはるかに高い。トランプ大統領は、自らの勘をもっと信用し、日頃の直情径行癖を大いに発揮する時だろう。/このトランプの逡巡よりも、情けないのは日本である。・・・/さて翻って2017年の今、トランプ大統領に対してどうプッシュするかが、日本の今後の生存の平和の岐路となろう」。

 

 全く誤った観念論である。真剣に日本のことを考えていないと判断できる。

 

●有益な主張の紹介

 

 (1)『JBプレス』2017年5月18日の北村淳氏の主張。

 

 北村氏は「軍事アナリスト」で「アメリカ海軍アドバイザー」である。シアトル在住。氏の主張の要点を以下に紹介しよう。

 

 〈そもそも北朝鮮には、日本に弾道ミサイルを撃ち込んで先制攻撃する理由など存在しない。拉致問題を巡って日本と北朝鮮の間に武力衝突が発生するのは、日本側が日本国民奪還のために軍事行動を起こした場合に限られる。ただし、拉致問題解決のために日本政府が軍事行動を発動することは、当面のところ絶対にあり得ない。

 

 ところが、日本が北朝鮮を軍事攻撃しなくても、日本に対して北朝鮮の弾道ミサイルが撃ち込まれる可能性がある。それは、アメリカが北朝鮮を軍事攻撃した場合である。アメリカが北朝鮮に軍事攻撃を仕掛けた場合、間髪を入れずに韓国・ソウル周辺は北朝鮮軍の猛烈な砲撃により火の海と化すことはほぼ確実である。そして極めて高い確率で日本に対しても50〜100発程度の弾道ミサイルが撃ち込まれるものと考えられている。要するに、日本に北朝鮮弾道ミサイルが撃ち込まれるのは、アメリカによる北朝鮮に対する軍事攻撃が実施された場合だけと言っても過言ではない。

 

 「日本の防衛という観点から見ると、昨今の日本政府の姿勢に疑問を呈せざるをえない」とする米軍関係戦略家は少なくない。つまり彼らは「日本政府は日本国民よりもアメリカを向いているとしか思えない」と言うのだ。

 

 トランプ政権が北朝鮮に対して軍事攻撃を実施するそぶりを見ると、日本政府は直ちにアメリカ政府を支持する方針を公言した。だが、それは日本の国土が反撃を受けることを日本政府が受け入れたということにも等しい。

 

 「日本国民を守るつもりならば、『日本や韓国を犠牲にしてまでも軍事攻撃を実施するのか?』とトランプ政権に対して不信を表明すべきであった。不信を表明しなかったのは、独立国の政府としてははなだ不思議な態度である」と上記の戦略家たちは首をかしげる〉。

 

 (2)スーザン・ライス氏の8月中旬のニューヨーク・タイムズ紙への寄稿論文。

 

 スーザン・ライス氏はオバマ前政権の国家安全保障担当大統領補佐官であった。8月15日付読売新聞が「北の核、米に容認論。『抑止力で対応可能』主張」の見出しで紹介記事を載せている。記事を以下に引用しよう。

 

 「『歴史的に見て、我々は北朝鮮の核兵器に耐えることができる。冷戦期に数千に及ぶソ連の核兵器という、より大きな脅威に耐えたように』。・・・スーザン・ライス氏は・・・こう訴えた。北朝鮮の核保有はやむを得ないという立場だ。ライス氏はその上で、『米国や同盟国に対する核兵器の使用は、北朝鮮の崩壊につながると明確にしておくことにより、伝統的な抑止力をあてにすることができる』と主張した。・・・ライス氏は、軍事措置について、ソウルや日本で『数十万人の犠牲者が出る』とし、『(北朝鮮の核使用)防止のために必ずしも戦争は必要ない』とトランプ政権の対応に懸念を示した」。

 

 他のことは別にして、このライス氏の主張は正しい。これについて、トランプ政権の国家安全保障担当大統領補佐官のマクマスター氏(現役陸軍中将)は、8月13日に放映されたABCテレビのインタビューで反論している。「大量破壊兵器で米国を攻撃すると脅すような北朝鮮政権に伝統的な抑止理論が通じるだろうか」「もはや手をこまぬいていることはできない。核兵器を伴う米国への脅しを容認しない」(8月15日付読売新聞)。

 

 これまでの論述でお分りのように、マクマスター氏の反論は全くの誤りである。なによりも北朝鮮は「アメリカを核ミサイルで先制攻撃するぞ!」と脅しているのではない。北朝鮮は「アメリカが核戦力やその他の戦力で北朝鮮を破壊する大規模な攻撃を行うならば、我々はアメリカを核攻撃するぞ!」と言っているのである。そこを意識的にねじ曲げてはならない。ただしマクマスター氏は、北朝鮮に「非核化」を強制するために大規模な軍事行動を採るべきだとは考えていないであろう。この反論も、トランプ政権としての「演出」としての「軍事的脅し」発言であると判断する。

 

 しかし「演出」としての「軍事的脅し」であっても、それは同盟国の日本、韓国が北朝鮮の核兵器やその他で甚大な被害を受ける軍事行動であり、「アメリカは自国の安全しか考えないのか?」との強い不信を抱かせるものであるから、アメリカの軍人は述べるべきではない。「アメリカ第一主義」のトランプ氏(非アメリカ的大統領)とは違うのだから。

 

 (3)元国防長官・ウィリアム・コーエン氏の主張。

 

 コーエン氏は第2期クリントン政権(1997〜2001年)の国防長官であった。6月3日付読売新聞が「国防長官として北朝鮮の核問題に取り組んだウィリアム・コーエン氏に話を聞いた」として次のように述べている。

 

 「コーエン氏は『米国と(韓国などの)同盟国には、北朝鮮を破壊する十分な軍事力がある』としつつも、米国による先制攻撃は『トランプ氏の計画の中には入っていないはずだ』と強調した。/クリントン政権は、北朝鮮が寧辺(ヨンビョン)の核施設で再処理に踏み切ろうとした94年、寧辺の空爆を検討したが踏みとどまった。この判断について、(コーエン氏は)『最も極端な状況下においても軍事力の行使を控え、交渉に懸けた。何十万、何百万もの死者につながる決断は非常に重い』と述べた」。

 

●反米反日のロシア・中共またその尖兵が密かに期待していること

 

 (1)自由世界にとっての最も差し迫った脅威は独裁侵略核大国のロシアと中共であることは明白だ。だがトランプ大統領も安倍政権もそのようには考えない。ロシアと中共は大いにほくそ笑んでいる。「プーチンを尊敬する。プーチンに尊敬される大統領になる」と公言した「非アメリカ的大統領」のトランプ氏は、北朝鮮こそがそれだとする。独裁侵略者のプーチンと「深い友情で結ばれている」と公言した安倍首相も同様に言う。両者は北朝鮮を最も差し迫った脅威として、その「非核化」のために中国、ロシアにも協力を求める。中共とロシアは高笑いだ。安倍氏によって日本の対露国防はすでに完全に解体されてしまった。日本侵略(北海道)を狙っているロシアの「シベリア極東等の開発」のために安倍氏は3000億円もの資金協力をする。中共は南シナ海を「領海化」する軍事侵略行動を加速させていける。シーレーンを中共に押さえられたら、日本は経済的に屈服させられることになる。尖閣諸島に対する侵略も加速する。そもそも安倍氏にはそれらを防衛する意思自体がないのだ。

 

 トランプ氏は「シリア反体制派勢力」(クルド人中心の「シリア民主軍」ではない)への軍事援助を打ち切ってしまった。アサド独裁政権はロシアに支援されてロシア軍と共同して戦闘を展開して支配地域を拡大している。ロシアは再び中東地域侵略の橋頭堡を確保した。

 

 (2)今後、金正恩独裁政権は、ICBM「火星14」や3段式ICBM「火星13」を通常軌道で太平洋へ向けて発射する実験を行い、挑発を続けていこう。トランプ政権は9月11日の安保理決議の「経済制裁」の実行やアメリカ独自の経済制裁の実行と、「軍事行動も選択肢にある」の「脅し」をもって、対抗していく。双方のこうした「大きな危機」の「演出」の後に「交渉」となるはずである。

 

 トランプ政権と金独裁政権そして中国とロシアは、8月31日脱の拙文(10月6日掲載)の4節で書いたような内容の「取引」を取りかわすことになるのではないか。まだの方は参照してほしい。トランプ氏は「北朝鮮は核ICBM開発を放棄する。ロシアと中国がそれを保証する」で合意して、「アメリカを北朝鮮の核の脅威から救った強い大統領」として、アメリカ国民に自らを売り込むだろう。支持率を上げ「ロシア疑惑(反アメリカ行動)」等を葬り去ろうとする。そうなればトランプ政権が継続していく。

 

 (3)この「取引内容」は、「北朝鮮は核威嚇や先制攻撃をしない。また他者に売却しないことを約束し、それを中国とロシアが保証するとの条件の下で、アメリカは北朝鮮の短中距離核・化学・生物弾頭ミサイルの保有を認める」「休戦協定を平和協定に変える」「米朝国交正常化」「経済制裁の解除」という内容にもなるから、北朝鮮の大勝利となる。世界征服をめざす中国とロシアが、(誤って)「平和維持に大いに貢献した」とトランプ氏に評価されていくから、両国にとっても大勝利となる。従って先の論考に書いた、ロシア、中共・北朝鮮を核包囲していく自由主義国陣営の「東アジア戦域限定核戦争態勢」(2段階核戦争態勢)を構築していくことが不可能になる。ロシア、中共は世界侵略がやり易くなるのだ。

 

 (4)ロシアと中共は「対話による平和的解決」を言い、「交渉」による上のような「取引」をまとめようとしている。だが一方で両国はひそかに、「非アメリカ的大統領」のトランプ氏が自らの「過激な脅し言葉」(「北朝鮮を壊滅させるほかない」「彼らはもう長くは持たないだろう」等)に逆に拘束されるなどして、北朝鮮の「非核化」をめざして大規模な対北軍事行動を起こすことを期待しているであろう。

 

 もしそうなると既述したように北朝鮮はこれを止めようと「人質」の日本と韓国を激しく軍事攻撃することになる。核が使用される。両国ではそれぞれ数百万人の死者が出る。そうなれば、日本も韓国も「アメリカの軍事行動によってこうなってしまった」として、「反米国家」に転化する。アメリカとの同盟条約は破棄されて駐留米軍は撤退させられる。アメリカの軍事攻撃によって北朝鮮の国家は破壊されてしまうが、朝鮮半島(南北)を新たに支配する国はロシアと中共ということになる。そして日本もロシアと中共に軍事侵略されて分割支配されていくことになる。両国の軍事力の前では核兵器を持たない日本の自衛隊は鎧袖一触で敗北する。

 

 ロシアと中共は、日本と韓国の科学技術力、工業力、経済力、マンパワーを自らのものにするから更に強国になっていく。アメリカは同盟国の日本と韓国を失うだけでなく、アジアの前方展開基地を失う。そして世界中からこの軍事行動の誤りを非難される。ロシアと中共にとって、世界支配をめざす絶好の戦略環境がつくりだされることになるのである。

 

 これは日本国内のロシアや中共の尖兵の反日共産主義者がひそかに期待していることでもある。本物の共産主義者は日本国民の生命など何とも思っていない。「保守」の仮面を被って正体を偽装して活動している者も多くいる。

 

 私たちはトランプ氏(非アメリカ的大統領)が誤ってこのような大規模軍事行動をとらないように、アメリカ議会や国防総省にしっかりと言っていかなくてはならない。マティス国防長官はその危険性を十分認識している。

 

 (5)「交渉」が開始となってからも、危険はある。ロシアと中共は前記の「取引」を成立させようとしている。北朝鮮は「短中距離核ミサイルは国家の生存にとって不可欠のものだ。自衛的な核抑止力である。侵略のための威嚇や先制攻撃は決してしない。また他者に売却することもない。核不拡散を順守する」と主張するだろうし、ロシアと中共もこれを支持する。そして「我々がそれを保証する」と述べる。だがトランプ政権は北朝鮮の「非核化」以外認めない。非核化を受入れるまで経済制裁を続けるとまず主張するだろう。

 

 北朝鮮は「自衛的な核抑止力を放棄したら、国家の存続を保障できなくなる。非核化を求めて我が国に経済制裁する日本や韓国も、我が国に対する侵略国だ。宣戦布告しているのと同じだ。アメリカが我が国の自衛的核抑止力を認めないならば、日本と韓国に軍事攻撃する。何十万、何百万の犠牲者が出ることになる。それでもアメリカ政府は非核化を要求するか。それがアメリカの国益や同盟国の国益になるのか」と主張することになる。

 

 ここでアメリカ政府は北朝鮮の自衛的核抑止力の保有(短中距離核)を認めることになるだろう。中国とロシアが保証するということで認める。

 

 しかしロシアと中共はひそかにトランプ政権が「非核化以外認めない」と強硬路線をとり、そのために北朝鮮が日本と韓国を、とりわけ自衛戦争を戦う気概がなく(安倍首相がそういう日本をつくってきた。「平和国家日本」「積極的平和主義」「不戦の誓い」「非核3原則」等)、核シェルターも防毒マスクも全くない無防備の日本を、武力攻撃する事態になることを期待しているであろう。もしそうなった場合、北朝鮮はまず通常弾頭ミサイルを東京や大阪に何発か撃ち込み、「次は核ミサイル、化学ミサイルだ」と脅し、日本政府をしてトランプ政府に「北朝鮮の自衛的核抑止力を承認するよう」言わせるのである。

 

 もしそうなった場合、日米両国間に深い対立が生まれる。日本では政府与党内でも野党と社会においても、日米安保条約破棄、在日米軍追放の反米運動が大きな力を持つようになっていく。韓国でも同じようになっていく。ロシアと中共にとって全く好ましい環境がつくられていくわけである。

 

 (6)私たちはもちろんこのようなことにならないようにしなければならない。北朝鮮は既に短中距離核兵器を保有し実戦配備している。化学弾頭ミサイル、生物弾頭ミサイルはもっと多く配備している。「強硬路線」がいかにも「正義」であるかのように見られる「政治的雰囲気」がつくられているが、北朝鮮のリアクションをよく分析しなくてはならないのだ。「強硬路線」は今見てきたように独裁侵略国家のロシアと中共がひそかに期待しているものなのである。「強硬路線」はアメリカ、日本、韓国の国益に反するものなのだ。

 

 北朝鮮が仮に核ICBMを含む核兵器を保有しても、私たちはつまり米日韓国はアメリカの「拡大核抑止戦略」と一体になって北朝鮮と対決することで、容易に北朝鮮の核ミサイルの先制攻撃を抑止することができるのである。―

 

 最後に。日本にとっても世界にとっても最も差し迫った脅威はロシアと中共である。私は先の8月31日脱の文の3節の(4)項「日本の核武装と米国の核部隊の日本配置により、米国本国の戦略核戦力とのリンクを一層強固にすることで、ロシアと中共の日本侵略を抑止する。さらに他国と協力してロシアと中共を核包囲していく」で、どういう戦略でロシア、中共、北朝鮮と戦っていったらいいのかについて考えを述べた。「非アメリカ的大統領」のトランプ氏は早急に「大統領弾劾裁判」によって追放しなくてはならないし、反日の安倍氏も打倒しなくてはならない。読んで頂ければ幸いである。

 

(2017年9月27日脱)