人工知能時代に必要な力は「デザイン」と「ソフトウェア」 | 感じる科学、味わう数学

感じる科学、味わう数学

科学は、自然そのものというより、モデルです。数学は、関係性を捉える枠組みです。
だから、正しいか否かより、大事なのは視点です。

 先日の記事「AIで高校生の絵心に火をつける」のつづきです。



 世間では人工知能(Artificial Intelligence)のことを略して「AI」と呼びますが、デザイン業界・出版業界・印刷業界で「AI」と言うと Adobe 社のソフトウェア Illustrator を指します。というのは、単に「イラストレーター」と呼ぶと職業としてのイラストレーターとの区別がつきにくい(実際、職業イラストレーターの人の多くがアドビ社のイラストレーターを使っている)し、だからと言って「アドビ・イラストレーター」と呼ぶと長いので、「AI」。日本では「イラレ」と略することもありますが、外国ではやっぱり「AI」。
 さて今日は、人工知能との関連で「デザイン」と「ソフトウェア」についてもう少し語りましょう。

 人工知能が生活の隅々で働く時代はすぐそこに来ています。ところで、人工知能が苦手なのが「絵」です。コンピュータに写真を大量に読み込ませれば特徴を覚えますが、絵や漫画やイラストにはもともとビックデータがありませんし、それぞれが個性的であるが故に共通の特徴なんてものが最初からありませんから、人工知能は絵を理解できないのです。絵を理解できるのは、少なくとも今後数十年にわたって、人間だけです。
 人工知能は人間が書いたプログラム通りに動いています。ただ扱うデータ量がべらぼうに多く、処理スピードがあまりにも速いため、その過程を人間が追跡できないだけです。コンピュータの強みは「量と速さ」。この点では人間は太刀打ちできません。「人工知能が人間を上回る」とか言いますが、人間の計算力は何十年も前に電卓に負けていますから、今さら驚くことではありません。
 さて、そんな時代に私たち人間に出来ることは何か? それが「デザイン」と「ソフトウェア」なのです。プロのデザイナーやプログラマーのことを言っているのではありません。もう間もなくビジネスマンに必須の技能になります。
 人工知能に何かをやらせようとする場合、システムをデザインし、ユーザー目線で使い方をデザインし、それが使われる社会をデザインします。その際に必要なのは、広い視野。全体を見ながら適正に位置づけること、それがデザインだと言ってもいいでしょう。
 人工知能の周辺には必ずビッグデータがあります。それに意味づけするのは人間です。そこから何かを引き出して使おうとすると、直接コードをいじる(プログラムを書く)場面が出てくるでしょう。新しいことをやろうとするときに、出来合いのソフトウェアが使えるとは限りませんし、カスタマイズして使う方が良い場合もあるでしょうから。そしてその際に必要なのは、細部を見つめる目。プログラムを書くときに、1文字でも間違えたらエラーです(ある程度のミスを補正する技術も搭載されるでしょうけれど)。
 このように全体を俯瞰する鳥のような目と、細部を見つめる蟻のような目の両方があってはじめて、新しいものが作られるのです。前者で活躍する技能がデザイン、後者のための道具がソフトウェア、そういうことです。
 これから仕事で何か新しいことをやろうとすると、人工知能(コンピュータやインターネットを含む)を使うことがほとんどでしょうから、デザインソフトウェアもやらない人は仕事に関われないことになるでしょう。

・すでにあるデータや技術からできることを提案する
・やりたいことが可能かどうかの見当をつける
・それを実現するためにどの程度の労力・費用・時間がかかるかを見通す

そんなことを考えると、技術者にもデザインの視点が必要で、デザイナー(経営者)もソフトウェアに通じている必要があるのです。

つづく。。。