懐かしめる程強くはないけど。ねぇ、それ。私が贈ったシャツですよね。お誕生日に。まだ、持っていたのですか。ぜんぶ、捨てたのかと思っていました。どうか、そんな顔して話し掛けないでください。笑い掛けたりしないでください。過去に引き戻されるのは嫌なのです。だから、早く捨ててしまってください。私の思い出とともに。奥様が、私に向けられたあなたの笑顔に気付く前に。私の爪の跡が残るほど握りしめた手に気付くその前に。私はただ、あなたの部下だった。それだけのことです。