反作用 | 思い出の彼方

反作用

その夜、華やかに見えた舞台の幕が閉じられた。
ふと振りかえると
たった一人で踊っている、埃まみれの自分がいた。

私にとっての痛手は
江利子との恋が成就しなかったことではない。
彼女は確かに魅力的であったが
私の好みとはかけ離れていたし
素行の上でも相容れないところが沢山あった。
彼女を伴侶として選んだ場合、私の人生は
望みもしない誤った方向へ進んでいたことだろう。

私がこの恋で失ったこと、それは
「純粋無垢な気持ちで人を愛する」という
“こころざし”を取り戻し損ねたことだった。
自分を見失うほどの高ぶる感情
ましてやその相手は理想とはかけ離れていた・・・
それほどの熱い想いは、初恋の相手以来であった。。。
その私の最もいとおしい想いが
両天秤という情け容赦ない恋の現実で粉々に打ち砕かれたのだ。

そもそも、これは矛盾だらけの出来事だった。
理想とはかけ離れた相手になぜ熱くなったのか?
江利子の仕掛けた罠の被害者を装いながら
多恵子という存在を無視して何をしてきたのか?
この問いに対する答えや反省は全くなかった。
それどころか、罪悪感に蓋をして
反作用のエネルギーが体の奥底から湧き出てきた。

江利子と過ごした盲目的な日々・・・
それは「都合のよい恋愛」に対する、絶好の口実となっていった。