1。
道端に跪いて下を向き何かを探して困っている男性がいたので、私は直ぐに立ち寄り「大丈夫ですか?」と声を掛けた。
男性は私の手を取ると「すみません。見つかりました。ありがとうございます。」と、笑顔を向けると私に向かって手を伸ばしてきたので、何故か胸がざわついて男性の手を振り払ってその場を走って逃げながら振り返ると男性は真顔でこちらを少し見つめて、また跪いて何かを探し始める。
私は正面を向いて全速力で逃げた。ただ走ってその場を離れた、息が切れた頃に人通りの多い商店街に入ると立ち止まり安堵する。
私の胸のざわつきはきっと恐怖だったのだろう。
下を向いて探していた人間が、上を向いて見つかりました。なんて言うわけが無い。
理由。なんかよくわかんない。
2。
珍しく2人組の怪談を聴く事になった。
けれども話がどうもおかしい。
同じ話をしている。これは正しい。同じ怪異に触れている。これも正しい。2人はその現場に同時刻に居て、同時刻にその場を離れている。これも正しい。
1つだけ違う事。
1人は「私は1人でそこへ向かった。」と言い、もう1人は「私達は3人でそこへ向かった。」と言う。こちらは話が聴ければ良いので、結論は無かった事にして2人には帰ってもらった。
難しい顔をしながら、コーラを飲んでいると店主が声を掛けてきた。
「さっきのはどっちが本物なんだろうね?」
「知らない。それよりもなんで凍らせたレモンをすりおろして、コーラに入れたの?」
「知らない。」
理由。
怪談が思い浮かばなかった。