まだ准看護師制度があった頃のこと。


私は正看護師を目指して、クリニックで働きながら学校に通っていました。

そのクリニックでは訪問看護もしていて、そこで出会ったのが、ガンの末期のおばあちゃんです。

ひとり暮らしをされていましたが、痛みのコントロールが難しくなり、クリニック系列の施設へ入居されました。私は毎日、そこへ訪問していました。

当時はまだ、緩和ケアが普及する前。出されている指示の範囲では、痛みを十分に和らげることができませんでした。

辛そうな表情のおばあちゃんを前に、何もしてあげられない。
そんな自分が、ただただ、やるせなかったのです。


ある日、つらそうに背中を丸めるおばあちゃん。
その背中をさすりながら、私は言いました。

「痛みをとってあげられなくて、ごめんね…。これなら、お家にいればよかったね」

すると、おばあちゃんはふっと表情をゆるめて、

「Boys, be ambitious!」
(少年よ、大志を抱け)

と、ひとこと。

その数日後、おばあちゃんは旅立たれました。

しばらくは、やるせなさが心に残る日々。
でも、その気持ちを少しずつ溶かしてくれたのが、看護学校の先生でした。


正直、私はおちゃらけタイプ。
先生には、どれだけ怒られたか分かりません。
でも、そのあとには必ず、笑っている先生がいました。

卒業後、私は知識と技術を身につけたくて、救急やICUなど、命が時間単位で変わる現場に長く身を置きました。
その後は外科病棟のある病院へ転職し、毎日忙しく過ごしていました。

そんなある日、ふと「訪問看護がしたい」という想いがよぎりました。
すると、その翌日。訪問看護への異動が決まったのです。


そのときの所長が、なんと、あの看護学校の先生でした。
巡り巡ってここで再会するなんて、本当にびっくりしました。

いろんな感情が交錯しながら、数年。
先生であり所長でもある人と共に歩んだ時間は、あの日のやるせなさを、ゆっくりと、意味のあるものに変えてくれました。

私はまだ、道半ば。
頭の片隅には、今もおばあちゃんの言葉が響いています。



そして私は、今も看護師をしています。
今も、大志を抱いて。