#1「動機」

 圭人は目の前のインターホンを押すのを躊躇った。何の意味も成さないであろうこのルーティンをこの先続けること、時間と精力の浪費が絶えないことにどこかやるせなさを感じていた。自分は一体何のため、誰のために毎週こんなことをしているのだろうか。左手に持っていたコンビニのレジ袋をカバンに仕舞いその場を立ち去ろうとした瞬間、突然玄関の扉が開いた。

「……圭人くん?ほんといつもありがとうねぇ。」

 出てきたのは春樹の母親だった。手提げのバッグを持っている姿からして、これから出かけるところだったのだろう。

「こんばんは。実は今日は少し立ち寄っただけで……。もし良かったらこれ、ハルキに渡しといてくれませんか?」

 圭人は再度カバンからレジ袋を取り出し、彼女に差し出した。

「ああ、こんなものまで買ってきてくれて……。本当にごめんなさいね。せっかくだから上がっていかない?私はこれから買い物行くんだけど、よかったら晩御飯でも一緒にどう?」

 さっさと断って立ち去れば良かったものを、圭人は心のどこかで彼女の押しを求めていた。

「えーっと、今日は夜からバイトがあるのであまり遅くまでは……。」

「じゃあ顔だけでも見ていって。あの子もきっと圭人くんに会いたく思ってるだろうから。」

 この一言で圭人は心の許しを得たような、どこか安心した気分になった。

「じゃあお言葉に甘えて、少しだけ上がらせてもらいます。」

「ありがとう。冷蔵庫にある飲み物は勝手に飲んでくれていいからね。それと、私が出てった後中から鍵だけ掛けといて。色々とごめんね。」

 そう言うと春樹の母は車に乗り込み、窓越しにこちらへ優しく微笑んだ。軽くお辞儀をした圭人は、玄関の扉を開け家へと入った。外から鳴るエンジン音は次第に小さくなっていった。
 家の中は妙な暖かさが漂っていた。鍵を閉めた圭人は我に返ったかのように、先ほどの快い気分から一転、春樹に会うことに対して罪悪感に苛まれた。複雑な気分とともに、彼は階段を静かに上っていった。