#1「動機」
「……圭人くん?ほんといつもありがとうねぇ。」
出てきたのは春樹の母親だった。手提げのバッグを持っている姿からして、これから出かけるところだったのだろう。
「こんばんは。実は今日は少し立ち寄っただけで……。もし良かったらこれ、ハルキに渡しといてくれませんか?」
圭人は再度カバンからレジ袋を取り出し、彼女に差し出した。
「ああ、こんなものまで買ってきてくれて……。本当にごめんなさいね。せっかくだから上がっていかない?私はこれから買い物行くんだけど、よかったら晩御飯でも一緒にどう?」
さっさと断って立ち去れば良かったものを、圭人は心のどこかで彼女の押しを求めていた。
「えーっと、今日は夜からバイトがあるのであまり遅くまでは……。」
「じゃあ顔だけでも見ていって。あの子もきっと圭人くんに会いたく思ってるだろうから。」
この一言で圭人は心の許しを得たような、どこか安心した気分になった。
「じゃあお言葉に甘えて、少しだけ上がらせてもらいます。」
「ありがとう。冷蔵庫にある飲み物は勝手に飲んでくれていいからね。それと、私が出てった後中から鍵だけ掛けといて。色々とごめんね。」
そう言うと春樹の母は車に乗り込み、窓越しにこちらへ優しく微笑んだ。軽くお辞儀をした圭人は、玄関の扉を開け家へと入った。外から鳴るエンジン音は次第に小さくなっていった。
家の中は妙な暖かさが漂っていた。鍵を閉めた圭人は我に返ったかのように、先ほどの快い気分から一転、春樹に会うことに対して罪悪感に苛まれた。複雑な気分とともに、彼は階段を静かに上っていった。