幼稚園の頃






両親が共働きだったので、祖父母と一緒に過ごすことが多かった








ある日祖父母がこたつに入って新聞を読んだり本を読んだりしていて








私はその横でなぜかぬげてしまった靴下を一生懸命履こうとしていたのだが







右足の靴下がなかなか上手く履けなくて







つま先にビヨーンと靴下が伸びた状態のまま

ひっかかり、途中で止まってしまった








どうしよう、と焦っていると、突然つま先の伸びた靴下が私に話しかけてきた







なんて言っているかわからないが、めちゃくちゃキレている







私に向かってキレているのだ






すると頭の中で『早く履かせろよバカ!』みたいな思念?のようなものが入ってきた





めちゃくちゃびっくりして、と同時に一気に恐怖が襲ってきた







怖過ぎて心臓がバクバクした







靴下が喋りかけてきた!!!!







しかもめっちゃキレてる!!!!








怖い!!!








そして、すぐに近くにいた祖父母に助けを求めようとそちらを見たら







なんと、祖父母が2人とも固まっている









2人だけでなく、私以外のものが全て止まっているのだ








時計も、テレビも、人間も、何もかも止まっていた







時間が、というか時空?空間?なんといったらいいのかわからないが、、、


やはり時間が止まったというのが一番しっくりくる表現だ











時が止まっていたのだ








『えっ‥、なんで?どういうこと?どうしたらいいの?』





としばらく呆然としていると






周りのカーテンやら落ちていた物やら洗濯バサミやら、とにかくありとあらゆる物が喋り出したのだ








わちゃわちゃがやがや文句を言っている









えーーーーもうなにーーー








とパニックになっていると、いつの間にか時間は元に戻り、祖父母も動き出した







セピア色だった景色が一気にカラーに戻った











一体何だったんだろう‥








結局わけがわからず




どうすることもできなかった






祖父母に今起きたことを訴えたけど



『???』



という反応だった







でも、モノが話す、ということがわかったので







その日以来、私はモノにぶつかったり踏んづけたりするたびに







『あっごめんね、ごめんなさい』






と、いちいち謝るようになった







家族はなぜかそれを誰も止めたり、やめさせようとはしなかった








それ以降、時が止まってモノが話しかけてくることはなかったが








いちいちモノに謝る癖は中学生になっても続いていた









一年生のある時、放送委員の仕事で放送室にいると、


そこで一緒になった三年生の先輩の前で、二年生の先輩が誤ってゴミ箱を蹴ってしまい、『あっごめんー!』とゴミ箱に謝っていた







するとそれを見た三年生の先輩が

『なんでモノに謝ってんの?!おかしくない?』と言ったので



(えっ別に変じゃないし)と私が本気で思っていると、



二年生の先輩が『えっなんか謝っちゃうんだよね。菅田さんもそんなことない?』と私に話を振ってきたので




『わかります、私も謝ります。なんか、人を蹴っちゃった、みたいな感覚になって‥』というと


『そうそうそう!!わかるー!!』



と物凄い勢いで共感してくれた






その二年生の先輩は、実家がお寺で



霊感があることで有名な先輩だった









でも私はその時はもうモノが話しかけてきた、という記憶を忘れていて、

あれ?そういえば、私なんでいちいちモノに謝るようになったんだっけ‥?とふと思った




そして

あー、あの時、時が止まって靴下が話しかけてきて、めちゃくちゃ怖かったんだ!


あれからモノが全て怖くなって、いちいちペコペコするようになったんだ、とようやく思い出した









そして、今はもうモノに話しかけられることもキレられることもないし、確かにモノに謝るのは変か‥と思い直し







それ以降はモノに話しかけたり謝ったりするのは

やめることにした