今から8年ほど前
新婚だった私たち夫婦は休日を利用して
登山をしに、とある山へ出かけた
その山はかなり勾配が急で、しかも雨上がりの日だったので登山道は泥でぬかるんでおり、大変危ない山道となっていた
私たちは2人ともいわゆる登山者の格好で、靴も専用の登山靴を履いて万全の体制で臨んだが、それでも登る時は必死だった
何度も休憩して、休みながら登った
両手を使わないと山の傾斜を登れない箇所もあり、登山に来たことを何度も後悔した
そしていよいよあと10分も歩けば頂上だ!!という所まで差し掛かった時
上から降りてくる登山客が目に入った
『この人はもう頂上まで登って、もうおりてくるのか‥すごいなぁ、いいなぁ』
と羨望の眼差しでその人を見上げた時
私は唖然とした
なんとその人は、スーツ姿で、ネクタイをしめ、サラリーマンの持つような黒革の鞄を持ち、革靴を履いておりてきたのだ
えええええええぇぇぇ?!!!!
まじで?!?ありえないんですけど!!!!
だって泥だらけで、ぬかるんでいて、そんな靴じゃ絶対無理でしょ!!
しかもカバン何それ!!!!
スーツも全然汚れていなくて、綺麗なパリッとしたブルーのスーツを着ている
泥なんて全然ついていない
その男性はなんとも涼しい顔をして私たちの横を通り過ぎて、山をおりていった
そう、性別は男性で、年齢は20代後半〜30代くらい
髪の毛は黒くて少し長めの、でも耳たぶが少し出ているくらい
本当にびっくりした
びっくりしすぎて振り返って見てしまったが
その人は颯爽と山をおりていき、すぐに見えなくなってしまった
頂上に着いた後、すぐに夫に話した
『さっきの人すごかったね!!見た?サラリーマンみたいな人!!』
と言うと、夫は
『え?何それ?そんな人いないでしょ。いるわけないじゃん』
私『えっ?!見てなかったの?気付かなかったの?
普通にいたじゃん!あんな狭い山道で見てないわけない!!』
でも、いくら私が訴えても夫は全く身に覚えがなく、むしろ気のせいだ、絶対違う、と信じてすらもらえなかった
そして、後々知ったのだが
山には天狗がいて、天狗が人間に化けて
いたずらをすることが、ままあるらしい
こんな所にいるはずのない人物に化けて、人間をからかうのだと
もしかして、私が見たあの男性は、天狗だったんじゃないか‥
私は今でも本気でそう思っている