エスパー伊東さんが亡くなった。
興味のない人にはまったく興味のない話だとは思うが、めちゃイケなどで思いっきり笑わせてもらった人間としては、どうしても、この人の素晴らしさを書きたい！
「カッコイイとは、こういうことさ」
ジブリアニメ「紅の豚」のキャッチコピー、この言葉を本当に体現した男のことを！
この男に、さん付けは似合わないから、この先はエスパー伊東と呼び捨てで書く。
エスパー伊東は人の悪口を言ったり他人をイジったりせず、自分だけが人に小馬鹿にされ、そして自分だけが人から笑われるネタを貫いた心優しいエスパーだった。
本当に心が大真面目で人に優しく、カメラも何もない他の人の楽屋で、そこの人を楽しませるためだけに、持ちネタの自分がボストンバッグに入るバッグネタを喜んでやるような人間だった。
この男は、本当にシャイで酒を飲まなければ、人とまともに喋れない男でもある。
芸能人の集まりに呼ばれても、人と話せず隅っこでモジモジしていても、一旦人に話しかけられると、途端にエスパースイッチに火が付き、全力でネタをする本物の熱い男なのだ。
この男はテレビ番組での打ち合わせの段階で、テレビカメラもないスタッフの前でも、全力でネタを披露していた。中には酷い扱いをする人もいたようだが、それでも、エスパー伊東はいつでも全力だ。
エスパー伊東は空き巣被害にあったことがあるが、そもそも、玄関横の大きな窓のカギが常に開けてあったのだ。俺のような田舎の家のカギが普段から開いてるのとはわけが違う。売れっ子芸人だった時の都会のマンションの話である。
なぜ窓のカギを常に開けてたのかと言うと、酔っ払って玄関のカギを無くした時はここから入るためだ。これを本人だけが知ってれば、まだ良かったが、周りの人も知ってる事だったから、普段から友人や知り合いも勝手に自宅に出入りしてたようだ。
だから、空き巣被害の時に取材してた記者によると、
「空き巣の犯人は顔見知りなのでは？」
そう思ったらしいが、エスパーたる者、そんな小さな事は気にしない！
この時のエスパー伊東は営業のギャラが１回１５〜２０万で、３ヶ月先のスケジュールまでビッシリ埋まってた本物の売れっ子芸人だったからだ。
しかし、あまりにも人が良くて、芸人仲間に気前良くお金を貸してしまったり、キャバクラにも使ってしまい、最後はお金が無くなってしまったエスパー伊東。
近所のラーメン屋で鉢合わせた同じマンションの住人に「ぶつかった」と因縁をつけられ、2年間もお金を脅し取られてたエスパー伊東。
見た目通りの、なんて人間らしくて弱々しい男なんだ。そもそも、エスパーのくせに騙そうとする人間の心が読めなかったのか？
しかし、俺はこの男を可愛らしいと思ってしまう。
そして共感もする。俺も人のために全財産を無くしてしまった経験があるからだ。
エスパー伊東が売れっ子だった時は、みんなが寄って来て良くも悪くも、周りにはたくさん人がいたと思うが、病気になったら、身元引受人が誰もいなくて事務所社長がなってくれてたみたいだ。
人をあんなに楽しませて、人にたくさんお金を貸した人間としたら、寂しすぎると思ってしまうが、だが、これもエスパー伊東らしいとも思う。
病気の原因も、いつものようにカバンの中に入ろうとしたら足に激痛が走り、それでも病院に行かずにネタを続行してたら失敗続きで、ついに病院に行ったら「右変形性股関節症」と診断された。
さらに２０１８年１２月に休業を発表したが、そのころにはろれつも回らなくなり、言語障害も悪化して「多発性脳梗塞」と診断される。
そんなエスパー伊東が１月１６日に亡くなった。
売れっ子の時は周りには人がたくさんいたのに、最後は老人ホームで１人寂しく亡くなった。
亡くなったとなると、過去に共演してた人からの生前の良い人エピソードが出るのは、有名人が亡くなった時のいつもの光景だが、俺も似たようなものだ。あれだけ、めちゃイケで笑わせてもらってたのに、亡くなるまではまったく思い出しもせずに、亡くなった途端に思い出して、こんな文章を書いてる。
でも、エスパー伊東ならばこんな扱いでいいのだ。
これこそが、他の人を傷付けず、自分だけが馬鹿になって、自分だけが人からの笑われるネタをしていたエスパー伊東の真骨頂だ！
今の社会は誹謗中傷で溢れてて、笑いにしても、キツイ言葉や他人を笑う設定も多いから、その笑いの陰でどこかで誰かが傷付いてるかも知れない笑いだ。
でも、エスパー伊東の笑いは傷付くのは自分だけだ。
俺はあなたの事は絶対に忘れない！
多分、いや、３日は考えてるかな？
でも、あなたの扱いはこれぐらいが丁度いいと思う。あなたがド真ん中の王道の笑いになってはダメだからね。
きっと、今頃は天国でカバンに入りながら、本物のエスパーになってるはずだ。
でも、エスパー伊東のことだから、きっと天国でもカバンネタを失敗して、神様や周りの天使にも笑われてるかもなぁ。