2日連続でオペラ。
昨日はトリスタンとイゾルデ、そして今日はトスカです。

プッチーニのオペラはどれも聴きやすく、しばしば天上のメロディが流れるわけで、ボエームだの蝶々夫人だのトゥーランドットだの人気作が多いわけですが、とりわけ私が好きなのはトスカで、最初から最後まで一音も聞き逃せない緊張感が続く作品というのはなかなか少なく、私にはトリスタンとイゾルデとこのトスカ、それとやや下げてヴェルディのオテロくらいのものなんですね。

ヴェルディがいい例で、特に初期ものあたりは要所要所に絶妙なアリアだの合唱の盛り上がりだのを挟みつつ、途中はバレエだの合唱だので間を持たせたりするわけですが、この二作に関してはそういうダレる場面がなく、最初から最後までまさに勝負。演じる方も大変でしょうが、聴く方も相当の根性が要求される作品です。

Floria Tosca: Anja Kampe
Mario Cavaradossi: Fabio Sartori
Scarpia: Michael Volle
指揮:Daniel Barenboim
演出:Alvis Hermanis

今日もSchiller Theater、シラー劇場での公演。
昨日は16時開演でしたが、今日は19:30の開演ですので、外は真っ暗です。



オケピットは、バイロイト風の昨日とは違い、普通です。
バレンボイムが出てくる時はちゃんと姿が見えますので、拍手で迎えます。



開幕前から舞台のカーテンはこんな感じ。
演出も同じように説明的なものでした。



ということで演奏が始まります。
バレンボイムは何と初めてのプッチーニだそうで、プレミエが10月4日でしたので、今回は2回目か3回目の公演。初めの全合奏からして完璧な響きです。

舞台上はこのようにスクリーンがありまして、そこに「今どういうあらすじか」を書いた稚拙な絵がプロジェクターで移されている状況になっています。



幕開けでは、実物より相当スリムなカヴァラドッシが、カンバスに美しい女声を描いている絵が現れます。3分位に1回は絵が変わっていきますので、このオペラがどういうあらすじで進んでいくか、まあ見ているだけで理解できるようになっています。どうも押し付けがましい演出なのですが、三幕なんかは観光で見たサンタンジェロ城だのバチカンだのが結構写実的に描写されていまして、それはそれでほとんどの人が訪れたことのある美しいローマを思い出して退屈しない仕掛けになっています。

なおSchiller Theaterでも字幕が付いているわけですが、その字幕がドイツ語オンリーですので、歌を聞いているだけの方がましなくらいです。まあトスカのあらすじくらいは頭に入っていますが。

そんな説明的な演出が最後まで続きうんざりなわけですが、やってくれたのは二幕。
ナポレオンの敗走の知らせを聞いた後スカルピアがトスカに迫り、やらせてくれれば(下品な表現ですみません)彼氏ともども許してやる、と歌った後の場面。二幕でのトスカとスカルピアのやり取り、数あるオペラの中でもベストに入るくらいの緊張感ですね。

その部分、普通の演出であればトスカは最後までスカルピアのセクハラまがいのお触りに抵抗するわけですが、今回は途中からトスカ自らスカルピアと絡み出します。「歌に生き恋に生き」のアリアなんかでもスカルピアと絡みつつ歌うわけですが、彼にチビタベッキアからの通行証を出させる場面なんかは、彼の首にしがみついてキスしたりなんかで、スカルピアもこれはいけるだろうと思ってるでしょうし、見ていても結構官能的なわけです。

そしてスカルピアが叫ぶFinalmente Mia!では、すでにスカートが半分以上めくられていて、これだったらスカルピアも間違いなく本懐を遂げられる、と思ったところで刺されます。絡み始める前からナイフの位置はしっかりと把握していますので、トスカの演技なわけですね。

まあ、いくら古典劇とは言っても、当時ローマで大人気の女優が「毎日神様にお祈りして貞淑を守ってきたのに何でこんな目に」とぶりっ子していてはあまりにも不自然ですよね。そりゃ過去にも色々浮名を流したでしょうに、スカラ座の演出なんかだと本当に貞淑ぶっていて違和感を抱いてきたわけですが、今回の演出はこの点実に自然で、あまりにも自然な流れなのですがそれはそれで動きが気になってしまい、件の歌に生きのアリアへの注意が散漫になってしまいました。トスカのKampeがまた結構立派な体格なのですが、胸元もまた立派でありまして、前から4列目だと結構その部分も気になってしまった、というのもあります。

ということで、トスカのアンニャ・カンペの声量と谷間には圧倒されます。プロポーションもそれほど悪いわけではありませんし、線が細く美しいイタリア系のソプラノではないのですが、自己を持った強いトスカを演じるには十分以上の声と体格です。フォルテの方が得意なようですが、弱高音も結構伸びていて、立派なトスカです。

カヴァラドッシのサルトーリは結構人気のテノールのようですが、お相撲と見紛うばかりの体格でした。首がありません。プロジェクターに映し出される絵にはかなりスリムな男性が描かれているのですが、あれじゃアンジェロッティと間違える人もいるんじゃないでしょうか。しかしながら声は結構立派ですし、甘い高音も出ているのですが、トスカとスカルピアの迫力に押されたのか、主役の中では三番手と言ったところ。

そしてスカルピアのフォッレ。この人、見たからに悪そうな顔をしていまして、まさにスカルピアにぴったり。スポレッタだのシャルローネだのと昼間から呑んだくれて悪事を企み、何とか胸元の目立つトスカを落とそうと奮闘するオヤジ振りを発揮します。惜しむらくはかなり力技でメリハリがないところだったのですが、まあスカルピアにはメリハリはないですよね。ずっと押し続けて最後に刺される哀れなスカルピアでした。

そして今日最大の主役は、バレンボイムとシュターツオパーです。派手さはないが暗くて厚みのある響き、そして昨日のトリスタン並みの強弱のコントロール。トスカがスカルピアを刺し、最後に許してやると吐き捨てる場面の直後の弦の合奏、全くつやのない中音の全合奏なのですが、まるでパルシファルか何かを聴いているようで、こういう演奏を聴いていると確かにプッチーニはワーグナーの一世代後の作曲家で、メロディこそ華やかなもののオーケストレーションは確かにワーグナーの影響もあったであろうことが、いまさらですが実感できるわけです。

バレンボイムも、よくぞプッチーニをここまで重く振ったもので、ここまで異色のトスカというのはなかなか聞けない、稀有な体験でありました。


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