久しぶりに海外でコンサートです。

残念ながらベルリン・フィルはアメリカ公演中ということですが、代わりにベルリン州立歌劇場が、バレンボイムの指揮でトリスタンとイゾルデ、翌日はトスカということで、ドイツ、イタリアもので私が最も好きなオペラを2日連続という素晴らしいスケジュール。

ベルリン州立歌劇場は、本家の劇場が改修中らしく、Schiller Theaterという比較的こじんまりした劇場で代替公演を行っています。もともと本家ですら1300席程度なのに、Schillerに至っては1000席を割っていまして、そんな中でトリスタンとイゾルデだのトスカを聴けるというのは誠にありがたいことです。

チケットは早い段階から売り切れていたわけですが、渡航直前にHPを見てみると、トリスタンは結構空きが出ていまして、2階最前列を予約。それで120ユーロくらいです。日本公演であれば今ならNBSが60000円は付けるところでしょう。ベルリン到着後にトスカも予約が取れました。

Tristan: Peter Seiffert
Konig Marke: Stephen Milling
Isolde: Waltraud Meier
Kurwenal: Roman Trekel
Brangene: Ekaterina Gubanova
指揮:Daniel Barenboim
演出:Harry Kupfer

こちら、ベルリン動物園からちょっと西に行ったところにある、Schiller Theaterです。



こじんまりした劇場です。



さて、オーケストラピットは、指揮者が見えなくなるくらいのカバーが掛かっています。
バイロイトと同じ形式で、指揮者が入ってくるところも見えません。
劇場が真っ暗になると、まるで地の底から響いてくるような、ライブでも聞こえるか聞こえないか、というくらいのpppで前奏曲が始まります。



さて、バレンボイムのワーグナーはトリスタンも含め何度か聞いていまして、毎回「バレンボイムは何がいいんだかよくわからない」とコメントしておりましたが、今回初めて彼の真価を聞くことが出来ました。これまでの自分が未熟だったのか、あるいは劇場が良かったのか、手兵のシュターツオパーが良かったのか、とにかく今回のトリスタンは凄まじかったです。

彼の凄まじさはオケのコントロールにありまして、前奏曲の始まりの弱音やクライマックスでの最強音のメリハリ、それにオケのコントロールと歌手とのバランス、これは小さい劇場だからこそ目立つものなのか、まあいづれにしてもバレンボイムの力量ですね。シュターツオパーは決して飛び抜けて上手いオケではないのでしょうが、やや暗めの厚みのある音はまさにワーグナー向けでした。

圧巻だったのは第1幕の幕切れ。愛の薬を飲んだ後からは指揮、オケ、歌手から何からすさまじい迫力で、トリスタンもイゾルデもまさに愛に溺れていく絶唱、バレンボイムのオケとのアンサンブルも完璧だし最後のオケの鳴らし方もそれはすさまじくしかもぴったりと合い、終わって一瞬の沈黙の後はブラボーの嵐です。後から振り返ると、ここがまさに空前絶後で、最後までこれ以上の盛り上がりにはならなかったわけですが。

演出は懐かしのクプファー。翼が折れたんだか折れかかったんだかの堕天使像が舞台の中心にありまして、これが場面ごとに回転していく、トリスタンとイゾルデの行く先を象徴するような演出なのですが、左右正面からの照明が美しく、最近流行りの無茶な解釈物よりははるかにまともな演出でした。

そしてトリスタンはザイフェルト。タミーノ歌いと思っていた彼も、すっかり当世最高のヘルデンテノールの一人になっているわけですが、カウフマンだのフランツみたいに、力で押すというよりは、もっと伝統的な、詰まり気味の甘めの高音を出すヘルデンになっています。近場で言えばルネ・コロなんでしょうが、どちらかと言えばヴィントガッセンに近い歌い方です。

3幕でイゾルデがやってくる直前の独唱も"Blumen sanften Wogen kommt sie licht"と、ヴィントガッセンと同じ歌いまわしです(コロとか、ほとんどの歌手はBlumen lichten Wogen kommt sie sanft"と歌っています。どっちが正しいのかは知りません)。トリスタンの時はキャンセルなんかもあるみたいで、そのあたりも含め、今のトリスタン歌いで彼の右に出る人はいないでしょう。願わくばウィーンでティーレマンで聞いた時、トーマス・モーザーじゃなく彼だったら良かったのですが。

とにかく彼も1幕の幕切れで完全燃焼してしまった感があり、3幕なんかは歌詞に詰まり飛ばしながら、といった感じですが、何とか声を出しているだけの他のヘルデンに比べれば、彼はきちんと歌を歌い切って亡くなっていったわけで、さすがザイフェルト、もはや彼以外ではトリスタンは聞けそうにありません。

マイヤーのイゾルデはどこでも大人気でして、彼女へのブラーバもザイフェルトと並ぶものがあったわけですが、一時期はワーグナーソプラノのお手本みたいな、一語一語はっきりとつないでいく歌い方だったのですが、今日はバレンボイムの気迫に飲まれたか、そういうわけでもなく、やや中途半端な印象でした。声だけであれば新日本フィルでイゾルデをやったエヴァ・ヨハンソンの方が強いし通るわけですし、感情の込め方であればウィーンのリンダ・ワトソンの方が上でした。バレンボイムと同じで、前回のスカラ座でのトリスタンも確か彼女だったのですが、その時もハズレでもないが大当たりでもない、と言った印象。まあ相性というか、イゾルデの役柄に対する考え方の違いというものがあるのだろうと思います。

マルケのミリングは立派な声で、グルネマンツが似合う感じの木管的な響きのバスでした。クルヴェナールもブランゲーネも役に不足なし。

しかしながら今日の主役はバレンボイムで、最後のブラヴォーも彼が一番。そりゃそうですね。トリスタンでこれだけの音を引き出せるというのは、これまで聞いた中ではアバド&ベルリン・フィル以外にはなかったです。トリスタンとイゾルデの聴体験としては、これまでの中でベストの中の1つでした。





明日はトスカです。


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