…side広臣




数週間が経った頃
ようやくスケジュールの合間で
少しだけ時間が出来た



マネージャーに
頼み混んで向かった先…



そこは愛のお母さんの
入院している病院だった




移動中の車から空を見上げると
昨日までは数日ぐずついていた天気が
今日は嘘のように晴れて
雲一つない



俺の心とは裏腹に
久しぶりに気持ちいいくらいの
青空で穏やか太陽が
眩しかった





愛のお母さんに会うのは
高校の時以来…



突然俺なんかがお見舞いに来て
どう思うんだろう…



愛は居ないのかと余計に
ガッカリさせてしまうかもしれない



だけど迷ってる時間なんて
もうきっとなかった



長い廊下を渡り向かった病室…



4人部屋なのに
一人しか使用していないようで
入り口の名札のところには戸澤とだけ
一人、ポツんと
どこか寂しげに書かれていた



深呼吸をして呼吸を整える



よしっと、気持ちを決めたところで
ノックした



『はぃ、どうぞ…』



中から小さめの声が聞こえる



『失礼します…』



扉をスライドさせて目が合うと
深くお辞儀を交わす



少し驚いた顔をしたのが
分かった
 



『あなた…確か、あの時の…』



久々に会った愛のお母さん



顔は変わらないのに
白髪やシワも増えて
弱々しくて…

すっかり痩せている



臣「ご無沙汰しています。
     俺っ、登坂です…。

     覚えていてくれたんですか?」


愛母「ええ、もちろんよ…
        今、テレビに出て活躍してるでしょ?
        歌も聞いたことあるわ!

        すごい、立派になったのね。」


臣「いえ、そんな…立派だなんて…」


愛母「立派よ!ご両親もきっと
       喜んでるんでしょうね?」


臣「そうですね…それはまぁ…」


愛母「あの時は…病院で
        随分失礼なこと言ってしまって…
        
         私たちのせいで愛は家を飛び出して
         あなたに助けてもらったのに、
         全部あたなのせいにしたりなんて…

         ごめんなさい…
         ずっと気になっていたの…」


臣「いえ、それはもぅ…」


愛母「ちゃんと謝れてよかったわ…

        最近よく昔のことを思い出すの…
        愛が産まれた時のこと
        まだ家族が仲良くてね…
        たくさん笑顔が溢れていた日々の事…

        あんな家族だったけど
        幸せだった頃もちゃんとあるのよ…

        あなたがわざわざ来てくれたって事は…
        愛は私には会いたくないのね…」


臣「そんな事…

     愛は…」


愛母「いいのよ、、、
        あの子の気持ちはちゃんと
        分かっているから…

        今まで散々あの子には苦労ばかり
        かけてきた…
        今だってそう、、、
        入院費や、借金の事まで…

        あの子のやりたい事や夢まで奪った…
        こんな母親、許せるはずないわ…

        病気になったのだってきっと当然の
        報いなんだと思っているの。

        今まで散々勝手な事してきた罰。

        だからあの子に今更会えるだなんて
        思ってもいないわ…」


臣「そんな、、、
     アイツだって素直になれないだけで
     本当はお母さんに会いたいと思っている
     はずです!
     俺、説得して必ず連れてきますから!
    このままでいいなんて
    そんな事言わないでください!」


無我夢中に必死に言った



このままで良いなんて…

そんな風に言ったお母さんの横顔が
あまりにも愛に似ていて
重なって見えたから…



すると優しく微笑んで
小さく首を横に振った



全ては分かっているから…
とでも言わんばかりに



運命を受け入れて覚悟は
もうとっくにできて居るんだと…

穏やかで、でもすごく寂しそうな
そんな顔をしていた



愛母「愛の側には貴方みたいな子が
        居てくれるのね…

        それが知れただけで嬉しかったわ…

        あの子寂しがりやなの。
        強がってばかりでなかなか素直に
        なれないんだけど…

        そうさせてしまったのも私で。
        甘えさせてあげれなかった…


         あの子の事、よろしくお願いします。」



お母さんは
深々と頭を下げた



弱々しくゆっくりとした
口調で話していたのに
この時だけは力強い言葉で…



オレに必死に
伝えようとしていた



その瞳の奥には母親として娘を大切に思う…
そんな確かな力強さを感じた



その気持ちに応えたいと
俺も目を一つも晒す事なく
『はいっ…』と
しっかり返事をして
深く頷いた



そして思わず
目頭が熱くなったんだ…