…side壱馬



仕事が終わって
何度か掛けた電話



でもミサさんが出る事は
なかった



リリースはまだだいぶ先だけど
今日は盤として
CDが出来上がってきた



俺は真っ先に彼女の顔が
頭に浮かんだ



苦労して挑んだ
レコーディングだっただけに
思い入れも強い



彼女は
ザランページとしての
川村壱馬は
殆ど知らない



だからこそ
知ってもらいたい…



俺は、こんな風に
歌を歌う事しか出来ないから



臣さんとは違う
俺の歌を…





少しでも…







以前、聞きてみたいと
目を輝かせながら言ってくれた



きっとこれを届ければ
喜んで貰える



あの可愛い笑顔が
もう一度見られる…



そう思っていた



近くにいたからなんて
真っ赤な嘘



母親の誕生日プレゼントの事も…


もちろんそれも嘘ではなかったけど
本当はただ話す
口実が欲しかっただけ



プレゼントだって本当は

何にするか
最初から決めていた



でもあの時わざわざ
電話したのは

ミサさんと話す理由が
欲しかっただけなんだ…








2人が別れただなんて…



思いも寄らない
出来事に戸惑った



普通ならチャンス到来とでも思って
内心嬉しかったりするのかな?



でも俺は…

そこはちょっと違って…



チャンスがどうのって言う前に

彼女が泣いてるのが
嫌なんだよ…



臣さん…



何でだよ?



本当にミサさんの事
裏切ったの?



俺の知ってる臣さんは
そんな人じゃないじゃん?



俺なんかが見ても分かるぐらい…

あんなにミサさんの事
大好きだったのに…



それなのに、、、



俺も訳わかんねーよ…



男女の間の事だから

理屈では片付かない事が
ある事くらいは分かる…



どうしようもない事も
あるのかもしれない



だけどこんな…



こんな顔っ…



ミサさんにさせんなよ…



尊敬して止まない
臣さんの彼女だって
思ってたから
ずっと気持ちを抑えてきた



気づかないふりして
考えないようにして誤魔化してきた



だけど気がつくといつも
考えてしまう…



ミサさんの事で
頭がいっぱいだった



そんな彼女が
目を腫らして
目の前で泣いている



放っておく事なんて
出来るはずもなかったんだ



別れたと言っても
臣さんの事が大好きなことぐらい
分かってる



俺のこと可愛いって言って
男としてなんて
見てもないよね?



だけど今は
今だけは…

俺を頼ってよ?



俺に甘えてよ?



臣さんよりずっと年下で

まだまだ男としても
半人前だけど…



臣さんみたいに
なんでもスマートにこなせる程
大人にはまだ
なれないかもしれないけど…



それでも俺、
少しでもミサさんを
笑顔にさせるから



そんな悲しい顔
絶対にさせないから



ほんの少しでいいから
俺のこと
男としてみてよ…