待ての勇者と急ぎの姫騎士
086 : ハイデベルク・5・アンデッドヴァルキリー戦・1
「……あれは、名簿のヴァルキリーたちだ!」
「え!?」
息を呑んだ。そして動けなくなった。
街のあちこちに集結しつつある敵兵は、これまで見たことのない武装をしている。
いや、見覚えはある……それは、オレの横で唇を噛む姫騎士と類似している。細部の意匠は異なるが、エッジを効かせた胸甲、撥ね上げたヘルムのバイザー、肩鎧のアールの具合、どれもヒルデのそれと同じ系列。
「魔王の奴、ヴァルキリーを手駒にしている……見ろ、彼らには目の光が無い。魂を封じられているんだ……あるいは消されたか……ただのアンデッドにされて、ガイストーレンの化け物と変わりはない」
「どうする?」
「否やは無い……名誉のヴァルキリーとはいえ、魔王の走狗になり果てているなら容赦のあろうはずもない!」
「ヒルデ!」
止める間もなかった!
城壁の武者走りを跳躍したかと思うと、眼前の屋根を越えて敵兵のど真ん中、大剣を振るいながら着地すると、そのまま旋風になった!
バシ! ビシバシ! チュィーン! ゲシ! ドス! ドガガガ! チュインチュイン! ズギュン!
瞬くうちに数十人を叩き伏せる!
蹴散らされ叩き伏せられるが、敵の大半は数瞬の後に起き上がり、再びヒルデに立ち向かっていく!
不死身かこいつら? それとも、ヒルデに無意識の躊躇があるのか?
当惑と驚きに出遅れてしまったが、それも、ほんの一瞬。
俺も剣を抜いて割り込んだ!
チュインチュイン! ガキ! ガキ! ゴキ! バシュ!
5体は打撃だけだが、6体目を完全に切り倒してヒルデと背中を合わせる。
「ヒルデの剣、ほとんど効いていないぞ」
「すまん、土壇場で剣先が鈍る……なに、気は取り直した、見ていろ!」
ガシュ! ギシュ! ガシュギシュ! ズガン! ズガガガン! ギシュガシュ!!
俄然、力がこもったエクスカリバーが甲冑ごと敵を叩き切る!
敵は、ほとんど即死するが、耐性の高い敵は、その断末魔にフト正気の光を目に宿す。
「そんな目で、わたしを見るなあ!」
グァッシュ!!
甲冑ごと臍のあたりまで切り下げ、魔界に取り込まれた証だろうか、暗紫色の血しぶき噴き出す中を突き進んでいく!
「ヒルデ!」
ガシュ! ギシュ!
まといつく二人を切り倒し、ヒルデを追う。
その横を、片腕切り落とされたブァルキリーが追いついた。
『正気に戻っている、腕を切り落とされたことが良かったのだろう。貴殿、姫騎士のお供とお見受けした』
「あなたは?」
『切られながらも姫騎士の苦衷は手に取るように分かった。あのまま、かつての仲間を切っていてはあの方の心が持たん』
「どうしろと?」
『魔王のもと、一方の頭(かしら)となって立ち向かう者がいる。そいつを倒さなければ、ヴァルキリーのアンデッドは際限なく姫騎士に仇を成す。そいつをこそ屠れ!』
「だれだ、そいつは!?」
『竜殺しのシグルズ王の妻、グズルーン』
グズルーン、ヒルデがシャンプーのことで言い争った王妃だ。
『今は魔王の傀儡、奴を倒せば、我々の呪縛も解ける』
「分かった」
『ならば、わたしを切れ。また、狂気が血を染めてきた。姫や君たちに仇を成してしま……う……ウッ』
ズビュ!
横薙ぎに剣を振るって止めを刺すと、無数のポリゴンのようになって消えてしまった。
『拙者も伝えておくことがある』
もう一人現れた。
胸を一突きにされたんだろう、胸を押さえた騎士だ。
『貴殿の後輩、アキも、ほぼほぼ取り込まれている。次に姿を見たら殺してやりなされ。貴殿に殺されることによってのみ、アキは救われる』
「そんな!?」
『腑に落ちんでもいい。伝えることは伝えた、拙者を切ってくれ』
ズビュ!!
騎士もポリゴンの霧になって消えていった。
広場に出ると、ヒルデは先ほどの数十倍のヴァルキリーと対峙していた。
バリバリバリ
くぐもった雷のような音がしたと思うや、ハイデベルクは東京ドームのような魔の結界に覆われてしまった。
☆彡 主な登場人物
・鈴木 秀(すずきすぐる) 三十路のフリーター
・ブリュンヒルデ ブァルキリーの戦乙女
・エマ バンシーのメイド
・女神(甲と乙) 異世界転生の境に立つ正体不明の女神たち
・ハンス・バウマン ズィッヒャーブルグのギルドマスター
・フンメル 西の墓地に葬られている一万年前の勇者
・カルマ フンメルとパーティーを組んでいたエルフの魔法使い
・トルクビルト(工藤甚一) ズィッヒャーブルグの幻影魔法士(娘:ビアンカ、カリーナ)
・シャイロック ヴェニスの商人
・ロキ 荒れ野の神(ヒルデの義理の叔父) シギュン(妻)
・親指姫 げんこつ山のゴーレムに取り込まれていた
・秀を取り巻く人々 先輩 アキ(園田亜妃) 田中
・他の冒険者たち オンケル シュベスタ―
・魔物たち 謎かけ魔物 リーツセル(Rätsel) ガイストターレン シュプルーデ川の魔物 樹叢の魔物 セイレーン(半鳥半人) ギギとクク(元セイレーンの姉妹) げんこつ山のゴーレム 巨大唇の化け物
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くノ一その一今のうち 閑話休題編
101『義経首洗の井戸』 そのいち
お世話になった巫女さんにお礼を言って神社を出る。
鳥居を出たところで——地元の高校——と念じる。
出雲に着くまでは、その土地々々の高校生に化けているんだ。藤沢女学園から茅ヶ崎南高校に変わった。
「あ、爽やかぁ!」
海辺の高校らしく、薄い水色のワンピース。
「襟は白やさかい、汚れが目立つねえ」
「あ、でも取り外して洗えるみたいだよ」
「あ、ほんまや……本体も水洗いできるみたい(^▽^)」
カモフラージュなんだけど、そういうところが嬉しくなるのは、女だからだろうか。仲間の忍者は男が多い、あいつらは少し汚れても消臭スプレーでごまかしている。忍び用の消臭スプレーは強力なんだけど、揮発するまで微妙に匂う。その匂いを思い出す。
「ノッチも、消臭スプレー思い出したぁ?」
「え、百花も?」
「「アハハハ」」
百花は日常系アニメのサブキャラ女子高生。そんな感じの明るい子なんだけど、わたし同様のくノ一、思いはいっしょなんだろうね。
湘南JKの爽やかさを身にまとって旧東海道を西に進む。
交差点の表示が『白旗』になっている。
「爽やかになった思たら白旗かいな(^^;)」
出かけて直ぐの白旗に苦笑いの百花。
「この白旗は違う意味だと思う」
藤沢は鎌倉のすぐ近く。地理的にも歴史的にも源氏に縁がある。たぶん、これは源氏の白幡だ。
「ほんまや、近くに白幡神社がある」
素早くググって北を向く百花。ちょっと遠足気分になっていて、寄ってみようかという気持ちになるけど、グッとこらえる。今日は箱根の手前、少なくとも小田原には着きたい。
忍者なんだから、その気になれば箱根越えだってできるんだけど、なんせ女子高生に擬態している。箱根山を駅伝みたいなスピードで走るJKなんて逆に目立ってしまう。
「さ、前に進もうか(`・o・´)」「せやね(`・o・´)」
揃ってまなじりを上げる。
え…………?
なんだか人が見ているような気がして振り返ると『KOBAN』の看板。
白地に青、すぐ横が信用金庫……喫茶店、ひょっとしたら小判まんじゅうが売り物の甘味処?
少しだけ戻るとKOBANは交番のこと。
しかし、視線というか引力は、交番横の路地の奥。交番には誰もいなかったしね。
引き寄せられるように路地に入って四五十メートル。
『源義経首洗井戸』というのにぶち当たった。
石畳の向こうにガッチリした石の井戸があって、ごっつい木の格子が掛けられている。
首洗い……ちょっと縁起が悪い。
それでも、絶好の遠足日和、説明書きを読んでみる。
——平泉で討ち取られた義経の首は鎌倉に送られ、首実検されたあと、鎌倉の海に捨てられたのだが、地元の領民に拾われ、この井戸で清められ、その霊は白幡神社に祀られた——
周囲はきれいに掃き清められていて、藤沢の街でも大事にされているのが分かる。
「なるほど……」
「まあ、これも縁やなあ」
ということで、特にお祀りの標はないんだけど、百花と二人手を合わせる。
『どうも、ありがとう』
優しい声に振り返ると……小柄な鎧武者が人懐っこい笑顔で立っている。
「あ……」「え……」
『驚かせて申し訳ない。僕、源義経です(^^)』
「え、ええ!?」
『住まいは、白旗神社なんだけど、天照(あまてらす)さんが——今日、お供の二人が着きます——とおっしゃるので待っていたんだ』
「え……」「ああ……」
『きみたち、等々力の塚から勾玉のお供をしている草の者だろ?』
「えと……」
絶好の遠足日和、人懐っこい笑顔……でも、うかつには答えられない。
☆彡 主な登場人物
風間 その(そのっち) 世襲名・そのいち
風間 その子 風間そのの祖母(下忍)
百地三太夫 百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
鈴木 まあや アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
中村 百花 薩摩の山潜衆の忍者
義経 藤沢の首洗い井戸で出くわした。
忍冬堂 百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
徳川社長 徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
服部課長代理 服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
十五代目猿飛佐助 もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
多田さん 照明技師で猿飛佐助の手下
杵間さん 帝国キネマ撮影所所長
えいちゃん 長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
豊臣秀長 豊国神社に祀られている秀吉の弟
滅鬼の刃 エッセーラノベ
56:『水道完備ガス見込』
今日は自分で書きます。
『水道完備ガス見込』というのをご存じでしょうか。
昭和35年から38年、当時日本教育テレビ(テレビ朝日)でやっていたホームドラマです。
昼間の帯ドラマだったので、学校が昼までの日と土曜日ぐらいしか見ていないのですが、軽快なテーマ曲が印象的でした。
印象的な割には『水道完備ガス見込』というフレーズしか覚えていないのですが、この調子のいい『水道完備ガス見込』というフレーズ、意味はよく分かっていませんでした。
公設市場近くの不動産屋にいくつも貼ってある貼り紙にこのフレーズがあったので、買い物かごをぶら下げた母に聞きました。「水道はあるけどガスは無いという意味」と教えてくれました。
——あ、うちといっしょだ——
親近感でした。
大阪市の東北部に住んでいて、幼稚園の近くには巨大なガスタンクもあったのですが、家にガスが通うようになったのは、この前後のころです。通り二つ向こうの友達の家にはガスが来ていましたから、ガス完備の途上だったのでしょう。不動産屋も『水道完備ガス見込』をわざわざ書いているのですから、物件によっては『水道完備ガス完備』もあったのでしょう。
家の前の道を掘り返してガス管が社宅に引き込まれました。作業員のおじさんが柄の長い玄翁(げんのう)でヘッツイをぶち壊してガス管を引いてくれたのを覚えています。それまでの社宅にはプロパンガスさえ無くて、薪でご飯を炊いていました。
ガス工事が終わったら——道路が舗装されるんでは!——という期待がありました。
ガス完備もそうですが、舗装道路というのは一種のステータスシンボルでした。
家の近くで舗装した道路は、学校の前の道か電車通りぐらいしかありません。雨が降るとグチャグチャになり、大雨の日などは川のように溢れてしまいます。川の傍には柵の無い用水路があって、そういう日は、上級生が手を引いたりおんぶしたりしてくれました。
家の前が舗装されたのは中学に入ったころです。大規模な下水工事をやって水洗化が完了した後でした。学校に行くにも公設市場に行くのも土を踏まずに行けるようになり、不動産屋の貼り紙から『水道完備ガス見込』の文字が消えました。
テレビドラマの『水道完備ガス見込』は午後も授業があるようになって、見られるのは土曜日ぐらいになってしまいました。
ほとんど中味は覚えていないのですが、一つだけ憶えている回があります。
ドラマの中の町会で問題がもちあがります。公園の水道料金が、わずかですが急に高くなります。公園の水道や電気は地区の町会で払うことになっていて、問題になります。
役員さんたちが見張りをしていると、夜な夜な手押し車にバケツを載せて水を汲みに来る老夫婦が居ます。
日常的に公園の水を使うのは問題なので、何日目かに役員さんたちが老夫婦に聞きますと、何かの事情で水道の無い土地に住まざるを得なくなって、悪いとは思いながら水を汲んでいた。そんな話です。
不動産屋に騙されたか、別の事情で空き地に家を建てて住み着いたのか。理由は覚えていませんが、そういう話で。明るいホームドラマでしたので、無事に解決されたのだと思います。
ああ、そういうこともあるんだろうなあと思って見ていました。昭和三十年代というのは、まだそういう時代でした。
YouTubeで古いテレビ番組を見て、ふと『水道完備ガス見込』に行き当たり、あれこれ思い出したお話でした。
☆彡 主な登場人物
わたし 大橋むつお
栞 わたしの孫娘
武者走 腐れ縁の友人(35回より故人)
待ての勇者と急ぎの姫騎士
085 : ハイデベルク・4・北東の壁
ヒルデは名簿を、エマはストレージを盗られてしまった。
名簿はラグナロク(最終戦争)に徴兵されるヴァルキリーたちの名簿。詳しくは触れないがヒルデは、このヴァルキリーの名簿を守るため、たびたび日本のコスプレ会場に逃げてきていた。
バンシー(家事妖精)のエマは攻撃系の魔法はからっきしだけど、彼女のストレージ(収納)はデフォルトのものだけでも東京ドームほどもあって、俺たちの旅を支える備品や消耗品がしまい込んである。ヒルデには悪いが、名簿を盗られたよりも深刻だ。
俺は自在にトイレを出せるが、トイレだけあっても旅はできないからな(-_-;)。
…………魔王にとんずらされた森の前、うかつに動けずに、ハイデベルクの街を遠望している。
「あれが魔王なら、もう魔王城まで逃げてしまったでしょうか……」
魔王城はライズゼニヒ山のさらなる奥、北の最果て、あまり考えたくはない。
「いや、出現の頻度から言って、そこまで奥には戻ってはいないと思うぞ」
エマの不安を打ち消すヒルデ。
「ということは……」「あのハイデベルクに……」「ゴクン」
ビアンカとカリーナが冒険者らしい見通しを言い、親指姫は息を呑んだ。
ヒルデは冷静に分析を続ける。
「……我々を釘付け、あるいは撃滅するなら留まって指揮を執る。指揮官先頭は戦いの基本、邪悪な魔王であろうとそこは外さんだろう……ここを迂回して北に進んだら挟撃されてしまう……やはり……まずはハイデベルクの敵を撃滅することだ」
「でも、エリクサーもエーテルも……ポーションもポケットに入っている分しかありません」
目を伏せるエマ。
「一回戦分くらいなら……」「うん」
自分のリュックを叩く魔術師姉妹。
「お前たちは、ここで弱い者たちを守っていてくれ。裏をかかれてお前たちが攻撃されてはいけないからな」
あ、ヒルデは行く気満々。それも、俺と二人だけで(^^;)。
「敵は巧妙に姿を隠している。そうだな、ビアンカたちも敵の姿は見なかっただろ」
「うん、でも、気配はビンビンした」「隠れているんだ」
「ということは……配置について体制を整えるには若干の時間がいる」
「……今しかないということだな」
俺が呟いて決定。
「無理しないでね(><)」
ギギが縋りついてくる。仲間を失うことに恐怖心があるんだ。
「ああ、大丈夫だ」
ギギをエマたちに任せると、ヒルデが前に出る。
「行くぞ!」「おお!」
ヒルデと二人、草に身を隠しながら街を目指して走った。
「鳥の目で探れないか?」
「……だめだ、気づかれている。街中の動物にアンチ魔法がかけられている」
「仕方ない、自分の目で確かめるか……」
俺たちは大手門にあたる正門をパスし、東に周って北東の城壁に向かった。
「……跳躍すれば半分……までなら取りつけるだろう。あとはよじ登ろう」
「半分まで……自信ない」
「ロープを垂らしてやる」
「ロープ持ってるのか?」
「ああ、エマのには及びもつかないが、並みのリュック程度のストレージはある……」
「どうした?」
「ポーションとエーテルが入っている……エマのやつ……」
なけなしのアイテムをこっそり入れたんだ。
「俺も、少しくらいストレージを持つべきだな」
何気にポケットを叩いてみると何か入っている。
「スグルはポケットか」
「……ギギの飴ちゃんだ」
「そうか……いくぞ」
音もなく跳躍したヒルデは、城壁の半分のところに取りつく。俺は、やっと1/3のところに取りつき、先に上がったヒルデにロープを垂らしてもらう。
よいしょ!
静かに
すまん
それから一分近く、息をひそめ気づかれていないことを確認して街の様子を探る。
いつの間にか日が傾いて街の中は薄暗い。
あちこちに魔族兵が配置に着く気配。敵は警戒して見張りを厳しくし始めている。
灯りも制限して、容易には中の様子を探れないようにしている。
ほとんどシルエットでしか見えない敵兵。
「グ!」
え?
その敵兵のシルエットを窺って、ヒルデは息をのんだ。
☆彡 主な登場人物
・鈴木 秀(すずきすぐる) 三十路のフリーター
・ブリュンヒルデ ブァルキリーの戦乙女
・エマ バンシーのメイド
・女神(甲と乙) 異世界転生の境に立つ正体不明の女神たち
・ハンス・バウマン ズィッヒャーブルグのギルドマスター
・フンメル 西の墓地に葬られている一万年前の勇者
・カルマ フンメルとパーティーを組んでいたエルフの魔法使い
・トルクビルト(工藤甚一) ズィッヒャーブルグの幻影魔法士(娘:ビアンカ、カリーナ)
・シャイロック ヴェニスの商人
・ロキ 荒れ野の神(ヒルデの義理の叔父) シギュン(妻)
・親指姫 げんこつ山のゴーレムに取り込まれていた
・秀を取り巻く人々 先輩 アキ(園田亜妃) 田中
・他の冒険者たち オンケル シュベスタ―
・魔物たち 謎かけ魔物 リーツセル(Rätsel) ガイストターレン シュプルーデ川の魔物 樹叢の魔物 セイレーン(半鳥半人) ギギとクク(元セイレーンの姉妹) げんこつ山のゴーレム 巨大唇の化け物
くノ一その一今のうち 閑話休題編
100『生麦から藤沢へ』 そのいち
生麦のお寺ではよくしてもらった。ご迷惑が掛かってはいけないので触れることは控える。
ただね、このあたりは160年ほど昔、生麦事件のあったところ。
薩摩の大名行列の邪魔をしたというので、イギリス人たちが薩摩の侍に切られたという事件。その場で切り殺された者もいたけど、重傷を負いながら逃げたのも居て、そのイギリス人が馬に乗ったままお寺の前の道を走って行ったという。そのイギリス人は追ってきた薩摩藩士に止めを刺された。
忍者というのは一見ぼんやりとしている。正体を悟られないためにね。でも、根っからのぼんやりじゃない。根っからのぼんやりに忍者は務まらない。
「葬送のフリーレンなんや!」
百花が鼻を膨らませる。
フリーレンはエルフの魔法使い。敵の魔族を欺くために普段は自分の魔力を隠して、仲間と魔王退治の旅をしている。ここ数年でいちばん人気のアニメだ。
「そうだね」
お寺を出てから、アニメの話をしながら旧東海道、ほとんど国道一号線を西へ。
「大阪勤番は警告してたんやけどね」
いっしゅん——え?——だけど、生麦の続きと悟る。
「神戸とかには外国人多かったさかい、くれぐれも気を付けるように、うちの六代前も行列に付いとった」
「そうなんだ」
「江戸の山潜衆(やまくぐりしゅう)がボンクラやった」
大阪弁だけど、百花は薩摩の忍者だ。
「うちのテリトリーは近江の土山までやさかいに、そこから先は責任ないねんけど、山潜衆のチョンボには違いない。風魔は?」
「うちは北条の忍びだったからね、江戸時代はずっと外野だったんだけど、何度かね……」
そのいちを襲名してから少しは勉強した。等々力は倒木で暇だったしね。
風魔は時々御庭番の下請けをやらされていた。あんまり自慢になる話は無いんだけど、まあ、百花は話してくれたんだ。わたしもお返しをしなくちゃね。
「皇女和宮(こうじょかずのみや)って知ってる?」
「ああ、14代家茂さんの御台所さんやねえ。たしか、明治天皇の叔母にあたる内親王さま」
「しっかり知ってるんだ」
「幕末はいろいろあったさかいね」
「和宮さん乗り気じゃなかったから、途中で自害するって噂とかあって、箱根を超えてから江戸城に着くまでガード兼監視をやってたんだよ」
「え、そうなんや!?」
「リアクション大きいね(^^;)」
「いや、和宮は篤姫さん、手ぇ焼いてたしい」
「アツヒメ……」
風魔に関係ないと、知識は高校生程度。
「11代家斉さんの御台所さん、和宮さんの実質的姑さん」
「そのアツヒメさんが?」
「篤姫さんは薩摩のお姫様やってんよ」
「あ、ああ」
「折り合いが悪ぅて苦労しはってぇ……内親王時代の和宮さんのことあれこれ調べては篤姫さんに知らせてたのが、うちの七代前」
「うちはね、嫁入り道中の和宮さんを板橋の……」
「ええ! 板橋いうたら縁切り榎! そうか、あそこに寄ったんは、あんたとこのご先祖の仕業!」
「自殺されるよりはね(^^;)」
「ああ、だましだまし、ガス抜きっちゅうことやねんねぇ……」
そうなんだ、和宮は神経衰弱になってて、道中自害するんじゃないかって幕府もお付きの人も気が気じゃなかったんだ。
「それで、縁切り榎の前で休憩させて……せやねぇ、いつかは分かれて京都に戻れる。そう思たら、ちょっとは気ぃ楽になるやろしねえ」
「家茂さんがいい人だっていうのは、うちのご先祖も分かってたし、取りあえず江戸城まで……ってことだったんだよね」
「ほんま、いつの時代も忍びは苦労してきたんやねえ……あ、制服変えなら!」
「あ、そうだ!」
横道に入って、慌てて変身。
武蔵小杉高校をチェンジすると、なんと軽井沢高校!?
「え、バグった!?」
慌てて住所を確認すると、横浜市軽井沢。
昨日は等々力もあったし、なんか神奈川はめちゃくちゃ。
「なんかイワレがあるんやろねえ」
こだわっていては進めないので先を急ぐ。
道を戻ると浅間神社、さっきは軽井沢だし……こだわっていては、今も言ったけど先に進めない。
「よし、行くぞ!」
気持ちも新たに歩くと、道端に小さな赤い碑が立っている。
——職人が移住してきた芝生村(現浅間町)——
「「なになにぃ……」」
明治になって旅行や移動や職業が自由になって、東海道沿いのこのあたりに生活用品などの職人が大勢移住してきたと書いてある。
うちの風魔や等々力百人衆、明治になって忍びでは食べていけないので、職人になった者も大勢いた。
地理的にも近いし、ひょっとしたら……と思ったけど、今度こそ先を急いだ。
その日、午後からはもう一度制服をチェンジして、藤沢の神社に泊った。
☆彡 主な登場人物
風間 その(そのっち) 世襲名・そのいち
風間 その子 風間そのの祖母(下忍)
百地三太夫 百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
鈴木 まあや アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
中村 百花 薩摩の山潜衆の忍者
忍冬堂 百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
徳川社長 徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
服部課長代理 服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
十五代目猿飛佐助 もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
多田さん 照明技師で猿飛佐助の手下
杵間さん 帝国キネマ撮影所所長
えいちゃん 長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
豊臣秀長 豊国神社に祀られている秀吉の弟
まりあ戦記
016『マリアの企み』
着地と同時にまりあはトリガーを引いた。
49体目のヨミを撃破したままの構えなので、光子ライフルは威嚇にしかならないと、CIC(戦闘指揮所)のみんなは思った。
コンソールの前のみなみ大尉は、それでいいと思った。ヒットアンドランを繰り返していれば必ず勝機は訪れる。
ところが、まりあの放った光子弾はヨミのコアのど真ん中を打ち抜き、一発でヨミを無力化したのだ。
背後に気配を感じ、ライフルをぶん回しながらウズメを旋回させトリガーを引く。引いた時には気配は、今の今まで向いていた後ろの正面に移動する。
シュバ!
ソニックソードがウズメの脚を薙ぎ払った!
足場にしている斜面の杉林がバラバラの幹や枝に切り刻まれ羽毛のように舞い散り、旋回し終えたウズメは、精一杯ライフルを伸ばして射撃し50体目のヨミを撃破した!
しかし、ウズメの右足は膝から下が粉砕され、立ち上がって姿勢を制御するのに2秒のタイムロスをしてしまった。
「51体目にトドメを刺された、ウズメの敗北だ」
司令である親父が宣告して、ニ十分に及んだ戦いが終わった。
「でも50体までは倒しました。今までヨミが複数で攻撃してきたことはありません、勝利と判定して差し支えないと思います」
「大尉、ヨミは我々の想像を超えた変異体なんだ。この程度の飽和攻撃に耐えられないようでは話にならない」
「……分かりました、搭乗員をリバースしたらプログラムの解析とチェックの用意。桜井君お願いね」
「了解しました」
サブオペレーターの桜井中尉にあとを頼むと、みなみ大尉はシートを立った。司令の姿はすでにない。
今日の訓練は、ダミーのヨミを数体ずつ増やして六回、最後は対応限界を超えた51体ものヨミを相手に行われた。
VR空間に作られたダミーとは言え、今までに現れたヨミをもとにプログラムされている、みなみ大尉ではないが、まりあはよくやっている。
力が入らない……。
リバースされた時に放心状態だったまりあが口をきいたのは四十分後だった。
「もう家に帰って寝る?」
「うん……もう限界を三つばかり超えて突き当たって落ちてしまったみたい」
「じゃ、コネクトスーツ脱いでジャージに着替えようか。なんなら先にお風呂? 一緒に入ってあげよっか、溺れるといけないから」
「とりあえず脱がせて……」
背中のジッパーを向けると、まりあはそのまま泥のように眠ってしまった。
「ケケケ、あたしの呪いが効いてきたようじゃないかい」
家に帰ると、血色のいいマリアが魔女のように言う。
「なによ、その格好は?」
まりあは一瞥するだけで言い返す力も無かったが、みなみ大尉が見とがめた。
マリアは魔女のようではなく魔女そのものの格好をしているのだ。
「やだなあ、今日はハロウィンでしょ! 観音(かのん)たちと渋谷2にくり出すの! じゃね!」
まりあが訓練中なので、学校にはマリアが代わりに行っているのだ。
「待てい! そういう美味しいところは譲れないわよ!」
マリアを引き止めると、急いでマリアのコスを剥ぎ取るまりあであった。
「えらくあっさりと譲ったのね」
「もともとまりあに行かせるつもりだったし、アルバムの時みたいにバトルする元気もないようだから、ま、作戦」
「よくできたアンドロイドだねえ。こんど、わたしの作ってもらおうかな~」
「コスなら、まだあるわよ、ね、あたしたちも行こうよ! 年に一回のお祭りなんだからさ!」
作ってほしかったのは自分の影武者だったが、あえて訂正せずにハロウィンにくり出すことにした大尉だった。
☆彡 主な登場人物
・舵 晋三 永遠の16歳 法名・釋善実
・舵 まりあ 晋三の妹 高校2年 ウズメのパイロット
・舵司令 特任旅団司令 晋三とまりあの父
・高安みなみ 特任旅団大尉
・マリア まりあのアシスタント兼ガード兼影武者(VR10201)
・徳川曹長 みなみの世話係
・まりあの友達 釈迦堂観音(お堂さん) 矢治公男と喜田伸晃 鈴木さん 佐藤さん
・学校の先生 瀬戸内美晴(担任)
待ての勇者と急ぎの姫騎士
084 : ハイデベルク・3・再びのあいつ!
「あの森だ!」
ヒルデに言われるまでもない。俺の脳みそも同じことを言っている。
森を出たり入ったり、三機のドローンがせわしく飛んでいる。
何者かに襲われて、エマとギギは森に逃げ込んだんだ!
エマがドローンを飛ばして、敵の様子をとらえながら逃げているんだ。
森まで100メートルといったところで、一機のドローンが俺たちの姿をとらえた。
ズバ! ズバ!
抜けるのと入るのが同時だった!
キキー!
エマは、俺たちに気づいてたたらを踏んだ。
ギギ(>〇<)
ギギは遠心力で振り回されてエマにしがみ付いた。
「逃げろ!」「後は俺たちが!」
それだけ言うと、俺とヒルデは左右に分かれる。「気を付けてください、敵は……」そこまでエマが言った瞬間!
ズザザ!!
敵が飛び出してきた!
「チ! もう戻ってきたのか」
盛大に舌打ちして立ちふさがったのは、ギルドの受付!?
「受付さんじゃありません、魔物が化けているんです!」「ギギ!」
「離れていろ!」
ズチャ ブン
剣を抜くやいなや打ちかかる! 二人が逃げられる時間を稼ぐんだ!
ズビュン! バビュン! シュイン! シュゥイーーン!
敵の鼻先をかすめるだけで、直ぐには有効打にはならない。
「フフ、少し遊びすぎたかな」
不敵に口をゆがめる敵。
ビシ! バシ!
その左右で電撃が爆ぜる!
ビアンカとカリーナが追いついて、電撃魔法を食らわせたんだ!
電撃が効いて、顔にひびが入っている。
「効果があったと思うな、これは仮面だ……」
フッと息をしたかと思うと、仮面はバラバラに砕け飛んで行った。
その下の顔が明るく宣言しやがる。
「フフフ、お楽しみは街の中、戻ってみるといいわ。セ・ン・パ・イ(◎▽◎)」
シュボ
そいつは詰まったゴミが吸い込まれるような音と共に消えてしまった。
「「なんなんだ?」」「あいつは?」「ギギ?」
「アキさま……」
「アキに化けた魔物だ……」
そうだ、ウンターヴェークスでアキに化けて近づいてきて、俺たちをたぶらかしていった奴、おそらく魔王。今度は道のギルド、受付さんに化けていたんだ。
あの時は、ヒルデの名簿を盗んでいった……あ!?
「なにか盗まれていないか!?」
みんな首を横に振るが、エマ一人俯いたままだ。
「エマ!?」
「はい、申し訳ありません……ストレージを盗られてしまいました」
ええ!!? ストレージを!!?
またまた大変なことになった……
☆彡 主な登場人物
・鈴木 秀(すずきすぐる) 三十路目前のフリーター
・ブリュンヒルデ ブァルキリーの戦乙女
・エマ バンシーのメイド
・女神(甲と乙) 異世界転生の境に立つ正体不明の女神たち
・ハンス・バウマン ズィッヒャーブルグのギルドマスター
・フンメル 西の墓地に葬られている一万年前の勇者
・カルマ フンメルとパーティーを組んでいたエルフの魔法使い
・トルクビルト(工藤甚一) ズィッヒャーブルグの幻影魔法士(娘:ビアンカ、カリーナ)
・シャイロック ヴェニスの商人
・ロキ 荒れ野の神(ヒルデの義理の叔父) シギュン(妻)
・親指姫 げんこつ山のゴーレムに取り込まれていた
・秀を取り巻く人々 先輩 アキ(園田亜妃) 田中
・他の冒険者たち オンケル シュベスタ―
・魔物たち 謎かけ魔物 リーツセル(Rätsel) ガイストターレン シュプルーデ川の魔物 樹叢の魔物 セイレーン(半鳥半人) ギギとクク(元セイレーンの姉妹) げんこつ山のゴーレム 巨大唇の化け物
くノ一その一今のうち 閑話休題編
099『多摩川を渡る』そのいち
等々力渓谷を南に出ると多摩川。
土手道は車がビュンビュン通るから、しばらくは河川敷を通る。
「川の向こうは神奈川県なんよね?」
「そうだよ、このまま東に進むと東急の鉄橋を潜るんだけど、手前で土手道に上がる」
「なんで、そのまま行かへんの? あ、東京弁の感じで喋った方がええかな?」
「いいよ、自然な感じだし」
実は、本物の等々力高校生たちが前を歩いていた。
試しに追い越してみたら違和感なし。学年章も同じだったけど、ごく普通に追い越せた。同じ制服だからバレないというのは素人の考え、同じ装いをしていても、所属の空気を纏っていないと「あれ?」っと感づかれてしまうことがあるからね。渋谷とか歩いていてもテンプラ(衣だけ着けたやつ)は分かるもんだ。
高原の国以来、忍びらしい仕事をやっていないので、まあね、お試しだ。
「「あ」」
同時に声をあげてしまった。
二人のスマホが同時に鳴ったんだ。
メールが入っている。
——宝来山古墳に寄っていきな——
「ホウライヤマ古墳……なんや豚まんみたいな名前やなあ」
「え、なんで豚まん?」
「アハハ、大阪でホウライいうたら豚まんなんよ」
「豚まんて?」
「あ、ええと……中華まんのこと」
忍者と言っても地域性があって、案外、こういうことが分からなかったりする。
で、公式野球場を過ぎたところで土手に上がって寄り道。
土手道を跨ぐと、ちょっとした森みたくなっていて、森全体が古墳群。七つほどの古墳があって、一番大きいのが宝来山古墳。むかしむかし、このあたりを治めていた族長のお墓らしい。
「うん、やっぱり豚まんに似てる」
百花の感想に「なるほどぉ」と頷いて半周する。
「「あ……」」
同時に声を上げてしまった。
豚まんは半分齧られたように無くなっている。
百花と顔を見かわす。
古墳と言っても復元されているわけじゃなくて、普通に見たらコンモリと木が茂ってる小山なんだけど、カタチがいびつで切り崩されているのが分かってしまう。二人とも忍者だからね。
案内板を見ると昭和の初めに土を取るために切り崩したらしい。
「それでぇ……なんで、ここに寄るわけ?」
「ちょっと待ってね……」
懐から勾玉を出してみると、はっきり熱を持っている。
「ソノッチ、体温高いねんねえ」
「ちがうよ、これが熱もってるんだ」
「え、あ、ちょ……」
なんと勾玉が光り始めた。
そして、柵の向こう墳丘の上に人影が現れて、静々と降りてきて、柵のところで立ち止まった。
ウンウンと頷く人影、頷くと人影は姿がハッキリして、日本神話に出てくる男神みたい。
勾玉も、小さいけども白い人影になってる。
人影というだけで容ははっきりしない。やっぱり力が衰えてるんだ。
男神の方は二度頷くと、ぼんやりしてしまい、墳丘の方に吸い込まれるようにして消えてしまった。
「こっちも消えてしもた」
「古墳と勾玉の人、縁(えにし)があったんだね」
「うちらみたいにぃ?」
「あ、その目は気持ち悪いかも(^^;)」
「アハハ、ほな、いこか」
「そだね」
わたしは、ちょっとシミジミしてしまったけど、百花はキリっと締めたツインテールのようにサバサバ。
自分で言うのもなんだけど、いい組み合わせだと思うよ。
土手道に戻って五分ほど、鉄橋の丸子橋を渡って神奈川県に入る。
「え、まだ等々力だ!?」
「え、ほんま!」
狐につままれたみたい、橋を渡ってしばらく行くと『等々力緑地』というところに出てしまった。
「神奈川県だよね?」
「うん、川崎市や!」
百花が指さした住居表示は川崎市。
検索すると、明治の末までは多摩川が湾曲して、ここいらは東京だった。多摩川を真っすぐに付け替えたので等々力の、この一角だけが取り残されて川崎に編入されてしまったんだ。
「切れかけた縁を名前でつなぎ留めてるんだねえ」
「うん、うちらの旅を暗示してるみたいやねえ」
シミジミしていると視線を感じた。
小学生たち……もう下校時間なんだ。
で、自分たちは、このあたりで見かけない制服なんで——あれ?——って感じ。
そもそも西に寄り過ぎていたんで、横丁に入って制服をチェンジ。
今度は、武蔵小杉高校の明るい制服にチェンジ、そのまま南に歩いて、陽が落ちるころ横浜の手前、幕末の事件で有名な生麦に着いた。
その夜は、お祖母ちゃんから連絡があって、地元のお寺に泊った。
☆彡 主な登場人物
風間 その(そのっち) 世襲名・そのいち
風間 その子 風間そのの祖母(下忍)
百地三太夫 百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
鈴木 まあや アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
中村 百花 薩摩の山潜衆の忍者
忍冬堂 百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
徳川社長 徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
服部課長代理 服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
十五代目猿飛佐助 もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
多田さん 照明技師で猿飛佐助の手下
杵間さん 帝国キネマ撮影所所長
えいちゃん 長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
豊臣秀長 豊国神社に祀られている秀吉の弟
滅鬼の刃 エッセーラノベ
55:『川沿いの学校はいいもんだぞ』
27回で本人も書いてますけど、お祖父ちゃんは自転車が好きです。
27回のころは、週に5回は自転車で出かけていました。
4年後のこのごろは、せいぜい週に3回。
一昨年、散歩中に熱中症になってから控えています。
「気象庁が酷暑日ってのを作っただろが」
酷暑日というのは40度を超えた時のことで、それまでの35度以上の猛暑日では間に合わなくなったからなんだそうです。
それが、お祖父ちゃんが言うと、まるで、この暑さ、『気象庁の奴らが酷暑日なんてカテゴリーを作ったせいだ!』という感じ。
わたしから見ると、年相応に老化してる……と思うんですけどね。それは言いません。
お祖父ちゃんは、自転車を走らせながら歌を唄うというイタイ趣味があります。
目をやられてからはUVカットのサングラスにツバ広のアーミーハット。その風体だけでも怪しいのに、唄うんですよ!
「お祖父ちゃん、お元気でええわねえ(⌒∇⌒)」
ご近所さんは言うけど、これって——変なジジイ——って意味入ってるし!
でもね、自転車やめたら、ぜったい足腰弱ってくるから。
足腰弱ったらボケるの早いって言うし、そうなったら、ぜったい頼られるし、ボケ老人に頼られるのってマッピラごめんだし!
でもね、そんな散歩の中でも、たまに面白いって話もあるにはある。
年寄りをボケさせないためには、日ごろのコミニケーションが大事! そういう点では良しとするところもある。
お祖父ちゃんのコースは、とりあえず、自宅の高安から北へ行く。そのまま北に行けば東大阪市、西に行けば大阪市。
その途中、いくつも学校の傍を通る。
保育所幼稚園から大学まで、元職だから高校には思い入れがあるみたいで、よく問わず語りしている。
「川沿いの学校はいいもんだぞ」
「あぁ、そう……」
適当に返事。
でも「あ、そ」はダメ。「へえ、そお」もダメ。薄い興味の「あぁ、そぅ……」で返すのがちょうどいい。そのあと、薄い反応でも気まずくならないしね。お昼のワイドショーみたく大げさに「アハハハ」とか「スゴイスゴイ!」とか「へえ、そうなんだ!」とかのリアクションやってらんないでしょ(-_-;)。ああいうのは演出だし、リアルでやったらめちゃくちゃワザとらしいし。
お祖父ちゃんの散歩コースには、玉櫛川沿いに私学のK高校と府立のY高校、長瀬川沿いに私学のS高校があります。
K高校は、昔は八尾市立のSY高校でした。作家の近東光(こんとうこう)さん、東光さんは八尾のお寺さんで、地元のいかついニイチャン・オッサンとも楽しくやっていて、それこそ『悪名』なんて小説を残したやんちゃ坊主。瀬戸内寂聴さんの名付け親と言ったら、その人となり、想像がつくと思います。
檀家参りや散歩の途中でSY生と出くわしたんでしょうねえ。
玉櫛川というのは幅の狭い川で、その脇の歩道も同じくらいの狭さで、朝夕SY生が自転車で通っていました。古希を超えてもグラビアのオネーサンにご執心だった東光和尚、「嫁さんにするんやったら、SYの子ぉやなあ」と言っていたとか。卒業生に芹洋子さんがいます——春を愛する人は 心清き人~♬——って四季の歌を唄ってる人。
で、玉櫛川。
100年ほど昔、近鉄が100坪単位で分譲した河内のお屋敷街。そのころから、遊歩道を整備したり、桜の苗木を植えたり、景観の保全には地元もお役所もがんばったところで、日本百名疎水(そすい)にも選ばれているそうです。
ときどきわたしも通って高校生といっしょになりますが、こういう道を通って、川に面した正門潜って登下校。けっこう良きと思います。
友だちに東光さんの話したんですよ。例の「嫁さんにするんやったら、SYの子ぉやなあ」をね。そしたら「え、現役の女子高生に!?」って眉を顰める。「あ、卒業生って意味だよ」と言い直したんだけど、甘すぎる紅茶に塩を入れたみたい。河内の文豪も変態認定。いやはや、話のネタフリも難しい(^^;)。
もう一つのY高校、元SY高校の南3キロぐらいのところにあるんです。近鉄を挟んで、ちょうど南北に歩いて15分くらい。ロケーションは同じなんだけど、敷地が広くて歴史も町も校舎も古……いや重厚な感じ。近くには御野縣主神社(みのあがたぬしじんじゃ)って古式ゆかしい神社、境内の半分が河内の原生林て感じの森があって、わたし的には良き×2くらいの値打ちがある。この森と玉櫛川を頭の中でくっつけると、聖徳太子が馬で走ってくるような気がします。八尾って、その他にも物部とか道鏡とかも居て……この辺はお祖父ちゃんの影響、門前の小僧的な知識で、同年代には通用しません(-_-;)。
ゼミでY高校出身の子が居て、話題を振ったんですよ。ロケーションの話なんかには乗ってこないんで、卒業生の話をしたんですよ。その子は西口 直人って野球選手とか陸上選手の奏澄美鈴とかふってくるんだけど、そっちのことは分からなくって。その子はS学会と知っていたんで(選挙の時、チラシくれた)Y高出身の〇〇さんて有名な名前を上げたんです。すると、その子ガラッと表情が変わって「〇〇は信仰を捨てた人よ!」と言われて、気まずくなってしまった(-_-;)。
お祖父ちゃんから仕入れたネタだったんで、お祖父ちゃんに言ったら「半端に人の話を聞いてるからだ」と言われてしまった。
それから、このネタは前にも使ったんだとか……やっぱ、お祖父ちゃん、自分で書いてよね!
☆彡 主な登場人物
わたし 大橋むつお
栞 わたしの孫娘
武者走 腐れ縁の友人(35回より故人)
まりあ戦記
015『まりあマリア』
マリアはまりあにそっくりだ。
まりあのアシスタント兼ガード兼影武者として特務師団から派遣されてきたのだから、そっくりで当たり前なんだが。
元々は汎用兵器のアクト地雷なんだけども、CPUとかマルチスレッドの性能が一昔前のスパコン並の性能……じゃ分かりにくいよな。
かつてゲーム機の王者と言われたプレステに例えると、初代プレステとプレステ6プロくらいの差がある。
学習能力や表現能力がケタ違いに優れていて、常にまりあを観察して、思考や行動パターンを修正していく。
「やっぱ、写真というのはアナログがいいよね~」
アルバムやら未整理の写真が山盛り入った段ボールを引っ越し荷物の真ん中に、まりあとマリアが悦にいっている。
まりあが帰宅した直後は「捨てろ!」「捨てない!」と双子のケンカのようになっていたが、まりあの心と性癖を学習したマリアが修正を計り、まりあ以上の情熱で引っ越し荷物の発掘に熱中し始めた。
「印画紙に焼き付けた写真て、いい具合に劣化していくんだよね……」
「色がさめたり、セピア色になったり、とても懐かしい……」
壮大なカルタ会のように写真を並べてはひとしきり思い出に耽り、ため息ついては並び替え、いろいろ差し替えては目を潤ませている。
「これ、ケンカしたあくる日だよね」
「ああ、ホッペの絆創膏ね!」
「この難しい顔は、ケンちゃんにコクられたあとだ」
「こっちは、芳樹くん。ニヤケてるし!」
「相手によって態度も反応もゼンゼンちがうんだよねー!」
「おたふく風邪のなりかけ~!」
「ぶちゃむくれ~!」
「そのとき買ってもらったのが……ジャーン、このリボンのワンピだ!」
衣装ケースから懐かしいものを取り出す。
「そーそー、それがリボン時代の始まりだ!」
「小六の春まで続いたんだ。前の席になった吉井さんが大人びててさ」
「そーそー、背中に浮かんだブラ線見た時はショックだった!」
「家に帰ってすぐに初ブラ買いにいったんだよね!」
「お父さんに着いて行ってもらって!」
「お父さん、真っ赤な顔で、お店に入れなかったんだよ」
「お兄ちゃんは鼻血出しちゃうしね」
「男って、おっかしいよねー!」
「「アハハハ」」
「ちょっと、サッサとカタしてお風呂入んな!」
風呂上がりのみなみさんがガシガシ髪を拭きながら注意する。
「マリア、いっしょに入ろ」
「あたしお風呂当番だから、あとにする」
「じゃ、おっさきー!」
鼻歌を奏でながらまりあは風呂に向かった。
「マリア、あんたアシさんでもあるんだから、この溢れかえった荷物なんとかしなさいよね!」
「わかってまーす」
調子のいい返事をすると、言葉とは裏腹に段ボールの中身をぶちまけ始めた。
「ちょ、マリア!」
もうみなみさんの言葉には反応せずに、敷き詰めた思い出アイテムの上でゴロゴロし始めた。
「あ、あのなー」
「ゴロニャーン」
「あんたは猫か!」
あくる日、まりあは、みなみさんが手配してくれたロッカールームに荷物のほとんどを運び込んでしまった。
夕べ、風呂からあがると、マリアがマタタビに酔った猫のように目をトロンとさせヨダレを垂らしながら引っ越し荷物に溺れているのを見て小さくガッツポーズ。
「フフ、過剰適応しちゃったんだぁ……」
ロッカールームに仕舞った思い出のあれこれ、昨日みたいに取り出して溺れるようなことはないだろう。しかし、そういうあれこれを始末せずに残しているということが妹には大事なんだ。
どうやら、マリアの作戦勝ちのようだった。
☆彡 主な登場人物
・舵 晋三 永遠の16歳 法名・釋善実
・舵 まりあ 晋三の妹 高校2年 ウズメのパイロット
・舵司令 特務旅団司令 晋三とまりあの父
・高安みなみ 特務旅団大尉
・マリア まりあのアシスタント兼ガード兼影武者(VR10201)
・徳川曹長 みなみの世話係
・まりあの友達 釈迦堂観音(お堂さん) 矢治公男と喜田伸晃 鈴木さん 佐藤さん
・学校の先生 瀬戸内美晴(担任)