(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

291『武器を直しにかっぱ橋道具街』



 あらかわ遊園上空の戦いで、なんとか勝利したBSBJ(美少女戦士冒険巡礼隊)の三人。

 ほんとうなら、荒川を超えて足立区に進出しなければならない。敵KODの勢力は舎人公園や舎人いきいき公園まで進出してきているからね。

 でも、ナースチャが体をこわした。ケアルやリペアをかけすぎて舌を噛んでしまったんだ。

 ナースチャの白魔法は無詠唱ではかけられないんだ。詠唱といっても、ナースチャもそこそこの魔法少女だから「ケアル」とか「リペア」とか術名を言うだけなんだけどね、毎秒3回ぐらいが限界。それを最大10回近く詠唱したんだから舌も噛む。

 それに、わたしとカチューシャ。体はなんとか回復したけど、得物というか武器がガタガタ。

 カチューシャはオリハルコンのレイピアやソード。わたしは如意と宝剣。そのどれも刃こぼれしたりひびが入ったり曲がったり。

「いやあ、新選組なんかもね、戦闘の後はそんな感じで、刀は抜き身のまま屯所に戻ってましたよ」

 どこで付き合いがあったのか、新選組を例にサルメさんは慰めてくれて「刃物なら、浅草のかっぱ橋道具街通りよ」と教えてもらった。


「いやあ、簡単な刃こぼれならうちでも直せるんだけど、ここまで傷んじゃねえ……」


 紹介してもらった半妖の店主は眉を曇らせる。

「でも、あんたたち、墨田川とかあらかわ遊園の上で妖どもを蹴散らしてくれたんだよな……」

 サルメさんは凡そのことを伝えてくれているようで、反応は好意的。

「おい、婆さん……」

 奥のお婆さん……と思ったら、奥さんになにやら聞いてくれる。奥さんはスマホをこするようにして「あ、これこれ」と教えてくれる。

「葛飾の方に打ち刃物の職人がいるのよ、うちの古い取引先なんだけど、ここならやってくれるかも……ちょっと待って、ツタエで連絡しとくから」

 お、ツタエを持ってるのはあたしたちだけじゃなかったんだ。

 せっかくなんで、お店で売っている鉄鍋を買って葛飾の『虎亀打刃物製作所』を目指しかっぱ橋通りを北に進む。

 ピ ピ ピ…………

 ツタエのアラームが鳴る。

「まずい、敵が捜索霊波を出してるぞ」

「ほんとだ」

 わたしのツタエも警報を発してる。四車線の通りは車が走って、歩道のアーケードには買い物客、外人も多くて、霊波の発信者が突き止められない。

「このまま行ったら先方にも迷惑をかけるなぁ……」

 葛飾のある墨田区は足立区に隣接していて、敵も浸透しようとしている。不用心に進むわけにはいかない。

——乗ってください——

 突然の念波にキョロキョロ。

——上です、上——

 目だけで振り仰ぐと、アーケードに溶け込んだ上野さん。

 ピョン

 僅かにジャンプすると瞬間で上野さんが掬い上げてくれて、葛飾の空に向かった。

 瞬間見えた地上には学校帰りの中高生。

 え、まだ午前中なのに?

「今日は1月の8日だ」

「え、ああ……」

 そう、世間は三学期の始業式だ。

 ちょっと学校が恋しくなったけど、学校はアバターに任せたんだ。

 ペシペシ

 頬っぺたを叩いて頭を切り替えた。



☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         3年1組 クラスメート
辻本 たみ子            3年8組 
高峰 秀夫             3年6組 
吉本 佳奈子            3年4組 バレー部
横田 真知子            3年8組 リベラル系女子(MITAKA初代代表)
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
ナースチャ             アナスタシア(ニコライ二世の第四皇女)
カチューシャ            エカテリーナ二世(ゾフィー・アウグステ・フリーデリケ)
ユリア               ナースチャを狙う魔法少女
KOD(キングオブダークネス)    魔王 手下に四天王たち 
ワン                神のお使いの子ぎつね
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              3年学年主任
先生たち              花園先生:1・2年の時の担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史・3年1組担任:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物・神さま          アキラ 戦艦石見(アリヨール) 藍(アオ、高松塚の采女) オトタチバナ ワン 上野大仏   
その他の生徒たち          滝沢 栗原 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長) 関根(MITAKA二代目リーダー) 高石(文化委員)
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 

 

385『陛下、幼稚園バスでご来島』 ハナ 




 黄色いバスが西の空に現れたぜ。

 グイっと旋回して、こっちに首を向けるとバスのルーフにエンジの小旗、小旗には金色の菊のマークが付いていて、めちゃくちゃ変則的だけど陛下の御料車なんだろう……けどさ、滑走路に降りてくるとバスのボディーには『ヤマブキ幼稚園』のロゴ。座席には、可愛い幼稚園児……じゃなくて、ぎっしりオッサンたちが乗ってやがる!

 滑走路に並んだ島の代表とか、その後ろで日の丸の小旗を振ってる島のやつらも、あっけにとられてやがるぜ。

「あ、陛下!」

 ハナが声を上げるのと、バスの前の窓が開くのが同時だったぜ。

 身を乗り出したりはしねえけど、にこやかに手を振ってやがんのは、紛れもねえ天皇陛下だ!

 ハナにペスを引き合わせてくれた時の、気の置けねえ近所のオネエサンって感じの笑顔だぜ!

 ワン!

「あ、ペス!」

 抱っこしてたペスが飛び出して、バスに突撃しやがる! 放っちゃおけねえんで、ハナも追っかけて、ちょうどバスのドアが開いて、陛下が降りてきた……と思ったら、ペスは、その次に降りてきたやつにすりよりやがる。

 え?

「マイよ、わたしは」

「フェイントかましやがったな! 思わずカーテシーしちまったじゃねえか」

「ごめんなさいね、ハナちゃん(^^;)」

 後ろからマイさんと同じ服装髪型の陛下が降りてきてきやがって、カーテシーのやりなおし。

「なんで、二人でペアルックなんだあ?」

「いちおう、陛下の外出だからね。警備と影武者を兼ねてるの」

「ああ……」

 言われてみると、オーラが違う。やっぱマイさんは目つきが……。

「目つきが悪いってぇ?」

「アハハハ……(^^;)」

 それから、マイさんが先頭に立って出迎えの奴らを紹介していく。ペスが陛下のそばを離れねえ、ちょっとだけ面白くねえ。

 劉宏大統領が来た時も、なんか島が明るくなったけどよ。陛下は、それ以上に明るく、いや、春が来たみてえにポカポカさせやがる。

「陛下、ようこそおいで下さいました」

 社長が一歩前に出て最初の挨拶。

「お邪魔いたします睦仁さん。今回は二宮親王の回復祈念のために参りました。でも、島の皆さんともお話しできたらと楽しみにしておりますのよ。お世話を掛けますがよろしくお願いいたしますね」

「いいえ、我々こそ、陛下にご来光賜り、西之島全島員の喜びとするところであります」

 普段から丁寧な社長だけど、いつもの三倍くらい丁寧でやがる。

「五代さかのぼれば兄妹の家柄です、早くに兄を亡くしましたので、懐かしい気持ちがします。よろしくお願いいたします」

「恐縮です(-_-;)」

 フフ、こういう社長も初めてでおもしれえぜ。

 列の最後が孫(そん)のおっさんなんだけどよ、握手しながら陛下はおっさんの後ろを見たぜ。

「あら、奥様とお子様?」

「え、あ、愚妻と愚息アルです(;'∀')」

 おっさん、めちゃ緊張(*´艸`*)。

「あ、東鈴さんと悟遼ちゃんですね!」

「え?」

 二人の名前を知ってるんで、ビックリのおっさん。

 で、陛下は、正規の出迎えの列を離れて東鈴のとこへ行きやがる。

「すみません、子供を連れてきてしまって(#'∀'#)」

「いいえ、なによりの歓迎です。子供は親の宝、国の宝です。奇しきご縁でちゅねえ悟遼ちゃん」

「ウマウマァ(^〇^)」

 陛下が指を差し出すと、ガキは笑ってニギニギしやがる。

「陛下、あちらでご休息の用意ができておりますので」

「はい、ありがとうございます」

 陛下が前に進むと、島の連中もゾロゾロ。なんかおとぎ話の一コマみてえだ。

 接待所って看板だけど、今朝までは氷室カンパニーの事務所だった。バイトのやつらが掃除してたと思ったら、このためだったんだな。

 入ったと思ったらスグに出てきた……と思ったらマイさんだ。

「ややこしいなあ、いつまで陛下のかっこうしてんだぁ?」

「島の上空に三つ人工衛星、他にも航路変更の宇宙船がいるのよ」

「ああ、フェイントか」

「うん、あとで本物の陛下が島をお回りになるから、ご一緒して」

「おお、分かった」

 面白そうだから、こっそり付けていく。

 すると、マイさんは一人でうちの神社にお参り。シゲ爺が神主の正装でお払いしやがって祝詞をあげやがる。でもよ、正式だったら、このハナが居なくちゃならねえ。だって、ハナは神社でたった一人の巫女だしな。それとも予行演習? 陛下のお参りなんて初めてだしよ。

 終わると、なんか二人で話して、マイさんは空港の方に行きやがる。

 マイさんが空港の方へ行って少しすると、いつのまに戻したのか筋斗雲が幼稚園バスを引き連れて飛んで行ってしまったぜ。幼稚園バスには数人のおっさんと、なんだか荷物が積んであったぜ。



☆彡主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    第一師団曹長、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府書院番士 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)       第一師団軍医、一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中だった
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士 
加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆              扶桑幕府将軍 
扶桑 徳子             道隆の御台所
扶桑 道興             玄武守、道隆の弟、二人の息子(道次・道忠)と娘がいる
本多 兵二(ほんだ へいじ)     書院番士小姓頭、彦と中学同窓
胡蝶                元小姓頭 将軍直属の隠密
児玉元帥(児玉隆三)         地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)          児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 東鈴(妻) 悟遼(息子)
テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
森ノ宮茂仁王            心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)     銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平) 島守を称す(270から)
村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく)       元輸送船の船長  大統領秘書官
朱 元尚 少将           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった

※ 重要事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西之島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
御山       西之島の火山
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
        

勇者姫騎士

040:ウンターヴェークス混浴場前の大乱闘




 しまった!


 分かった時はもう遅かった! エマは他の入浴客といっしょに風呂を上がって足早に脱衣所に向かう!

 ツルン

 老人の入浴客が二人滑って倒れた!

「チ!」

 舌打ちはするが老人に駆け寄るヒルデ。

 まずは年寄りの介抱だ。ヴァルキリーの戦乙女、仁義は心得ている、弱き者を見捨てることはしない。

「スグルはそっちを!」「お、おお」

 ウ(#△#)

 一瞬、怯んでしまう。

 ヒルデは老人、俺は老婆。老婆は仰向けに倒れて湯浴着が胸までめくれ上がっている(#-_-;)。

「お婆さん、いま起こすからね」

 よいしょっと、介護職員のように起こしてやると、ヒルデもおじいさんを助けて……抱きつかれている。

「うふふ、どうもありがとうね(#*´ω`*#)」

 こっちは頬を染めて照れる婆さん。ヒルデもニヤニヤの爺さんに抱き着かれて、二人ともトゥルクビルトの呪縛からは解けていやがる。

「お婆さん、あとは自分でやって!」

 名残惜しそうなお婆さんを引きはがして、脱衣所へ!

 わ(# ゚Д゚#)!?

 入浴客たちは湯浴着を脱ぎ捨てて、トゥルクビルトから揃いの討伐隊のコスをもらってるところだ。

 十字軍のに似ているが、胸のマークは十字ではなく、Tの下に剣が交差している。脱衣所の出口には剣や斧、槍やロッドなどが並べてあり、このまま大規模な魔王討伐隊ができあがる寸前だ!

 う……(#▫#)

 スッポンポンで、お尻を向けているエマが目に入る!

「取り込まれてる、トゥルクビルトを確保するぞ!」

 言うが早いか、ヒルデは入浴客をかき分け、トゥルクビルトに飛び掛かる!

「わ( ゚Д゚)!?」

 術にかかっていない俺たちにビックリしたトゥルクビルトは、素早く外に飛び出した!

「「待て!!」」

 ヒルデと声をそろえて飛び出す!

 グヌ!

 外には、すでに術にかかって討伐隊になってしまった湯治客たち一個中隊分が得物を構えて待っていた!

 トルクビルトを囲んでいるのは、やつが特別に入っていった男湯の格闘家たち。他にも、有能そうなのも居て、奴が質と量の両方を考えて集めていることが分かる。

 大した奴だ……いや、感心している場合ではない。

「時間をかけていては逃げられる、縦横に走り回って隙を作るぞ! スグルは右! わたしは左からいく!」

「おお!」

 応えると同時に走り出す! ヒルデは左……と思ったら、左へは一瞬だけで、縁石に足をかけると逆方向に飛んだ!
 つまり、俺を追いかけて比較的手薄になった敵の左翼に飛び込み、ほとんど素人の集団を蹂躙しながら中央に突撃!

 ヒルデの予想外の動きに動揺して、右翼にも隙ができ、俺もヒルデの五割り増し時間をかけて中央へ!

 ドゲ! ボク! ボコボコ! バコ! ドゲシ!

 一発入魂の気合で進む!

 格闘家ばかりなので力は強いが、俺たちも魔物退治で場数を踏んでいる。それに、格闘家たち、打撃力は大きいが、瞬発力が無い。トリッキーに動かれると、なかなか狙いが定まらず空振りも多い。

 俺が3人、ヒルデが5人ぶちのめして隙ができた!

「スグル、エマを!」「わかった!」

 ヒルデの声に俺は、エマに振り返る。

 振り返ると……なんということだ、視界に入る討伐隊の全員がエマになっていた(⊙_☉)。

 なんだこれは……?

 ドッゴーン!

 瞬間、天地がひっくり返った。

 呆然とした一瞬に、俺は凄まじい蹴りを食らって空中で一回転、次の刹那、地面に叩きつけられてしまった……。

 
☆彡 主な登場人物

・鈴木 秀(すずきすぐる)    三十路目前のフリーター
・ブリュンヒルデ         ブァルキリーの戦乙女
・エマ              バンシーのメイド
・女神              異世界転生の境に立つ正体不明の女神
・ハンス・バウマン        ズィッヒャーブルグのギルドマスター
・フンメル            西の墓地に葬られている一万年前の勇者
・カルマ             フンメルとパーティーを組んでいたエルフの魔法使い
・トルクビルト          ズィッヒャーブルグの幻影魔法士(娘:ビアンカ、カリーナ)
・秀の友人たち          アキ 田中
・魔物たち            ガイストターレン
  
 
 

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

290『あらかわ遊園上空の空中戦』




『これは五式十五糎高射砲(ごしきじゅうごせんちこうしゃほう)っす!』

「え?」「なんだ?」「それ?」

 高射砲なんて、見たことないから、さっぱり分からない。

『終戦間際に完成した対B29高々度用高射砲っす! 20000メートルの高さまで撃てるっす。終戦までに三つ作られたっすけど、三つめは大阪砲兵工廠で、終戦の前日の空襲で工場もろともぶち壊されたっす!』

 あ、晴天が言っていた空襲だ(120『妖退治・6・京橋空襲』)。

「一つしかないぞ」

『これも、いわば高射砲の幽霊みたいなもんすから、二つで、やっと一つ分実体化できたんだと思うっす』

 なるほど、見つめてみると二つの高射砲が微妙に重なって見える。ニコイチ高射砲だ。

「とりあえず、これで撃てってことね!」

 ナースチャがまなじりを上げ、三人で高射砲に取り付く。

「弾込めと射撃は任せろ! ナースチャは仰角、グッチは方位角を操作、いくぞ!」

 どうせなら、撃つ方をやってみたかったけど、カチューシャが持ち上げた砲弾を見て、これでよかったと思う。だって、砲弾は直径こそは15センチ足らずだけど、長さが180センチ、わたしの背より長い! それを体に反動をつけ大砲にぶち込むカチューシャは、やっぱ皇帝の貫録!

 ガチャコーン!

「方位30、仰角60、急げ!」

 グググググ ゴゴゴゴゴ  ナースチャと二人クランクを回して照準を決める!

「方位よし!」「仰角よし!」

「テーーーッ!」

 ドッゴーーーン!!

「続いて、次弾装填!」

 自分で自分に号令をかけ、早々と次の砲弾を込めるカチューシャ。

 ガチャコーーーン!

 ドーーーーン

 次の弾を込めたところで一発目の炸裂音! 対岸の高層住宅の上空に差し掛かっていた妖(あやかし)たちが、数十匹まとまって墜ちていく!

 さすがは決戦兵器! 続いて六回撃ったところで、敵は川の上を通過して荒川区に侵入してきた!

「クソ、間に合わん!」「照準できたけど!」「どうする!?」

 爪を噛んで数秒考え、カチューシャは決意した!

「上空で戦うぞ!」

 カチューシャが拳を突き上げ、三人で墨田川の上空に駆け上がる。

 ウガー ウガー ウガガガ ウギ ウガ ウギギ ウギガギー ウゴ ウギギ ウガギゴ

 ガーゴイルどもが、軋むような声を上げて威嚇してくる。

 6回の砲撃でけっこうな数を倒したと思うんだけど、あいかわらず空を埋め尽くすガーゴイルども!

「ナースチャを挟んで突進!」

「え、わたしは?」

「ナースチャは回復魔法に専念、オフェンスはわたしとグッチ、フォーメーション・T! 行くぞ!」

「「お、おお(;'▢')!」」

 フォーメーション・T、初めて聞くけど分かった。

 Tはトルネードなんだ。白魔法のナースチャを軸にカチューシャとわたしがドリルの刃のように回転する。回転しながら、その刃先に当たった敵をぶちのめしていく!

 初めての戦法なんだけど、すぐに理解できた! 

 ブィーーーーーン

 直径5メートルほどのトルネードになって敵のど真ん中を突き進む!

 カチューシャはレイピア、わたしは如意と宝剣を構え、自分自身もグルグル旋回して敵をぶちのめす!

 ビシ! バシ! ビシバシ! ビシバシビシバシ! ビシバシビシバシ! ビシバシビシバシ!

 最初は手ごたえを確かめながら、すぐに要領を掴んで自身も高速回転して突き進む! ぐんぐん突っ込む! 回転は速くなってぶった切る音も高音になる!

 ビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチ!

 ビュンビュンビューーーーーーン!

 さらに高速になると、打撃音もジェット機の音のようになるんだけど、自分の武器も削れて摩耗していくのが分かる。敵の血やら体液やらも付着して、それらには腐食の効果もあるようで、制服が焦げたり裂けたりする。敢闘精神に衰えはないんだけど、同じ攻撃をしても消費魔力が高くなって、HPゲージが気にかかる。

 ケアル リペア ケアル リペア ケアルリペア ケアルリペアケアル リペアケアルリペアケアル……

 ナースチャはマイペースで回復魔法をかけてくれるけど、こっちがジェット機並みになってくると追いつかなくなってくる。

 ケアルルルルルルルリペペペペペペルルルルペペペペッ……(>_<)!

 あ、舌かんだ!

「退避!」

 カチューシャが叫んで、三人、一気に高度を上げて退避。敵も混乱しているし、その勢力も半分近く削ったので、簡単には上がってこれない。

「ご、ごめん、ペースに付いていけなかった(-_-;)」

「よし、ナースチャはここからマイペースで回復してくれ、自分の分もな。わたしとグッチはHPが二割に減るまで戦う。二割になったら、全速で基地に戻る。フォーメーションを組んでいる暇は無いから、各自一直線で戻れ!」

「うん、でも、上野さんの載せてもらわないとステルスになれない。だいじょうぶ?」

「仕方ない、ここでやられるよりはマシだ!」

「う」「うん」

「よし、行くぞ!」

「「おお!」」

 ピカ ピカ ピカ…………ドーーーーン  ドーーーーン  ドーーーーン

 飛び出そうと身構えると、三つの閃光、そして三つの発射音!

 え、誰かが高射砲を撃ってる、それも三基に増えてる!?

——三人がんばってくれたんで、高射砲が二つ復活して三つになったっす!——

「「え?」」「だれが撃ってる?」

——よくわかんないっすけど、むかしの兵隊が撃ってるっす——

「え」「兵隊?」「昔の?」

——いま、上野さんが上がっていくっす、それに乗ってっす!——

 ワンが言い終わると、下の方から柄の取れたシャベルのような上野さんが上がってくる。

 阿吽の呼吸で飛び乗ると、上野さんは急降下……と見せかけて直ぐに左旋回で緩降下で南に向いた。

 ドッガーーン! ドッガーーン! ドッガーーン!

 さっき発射された砲弾が破裂する、身を低くして躱しながらさらに旋回。

 その緩降下の途中、ガーゴイルたちに混じってセーラーブブン(259『エンジの下足袋』)たちが混じっているのが見えた……。



☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         3年1組 クラスメート
辻本 たみ子            3年8組 
高峰 秀夫             3年6組 
吉本 佳奈子            3年4組 バレー部
横田 真知子            3年8組 リベラル系女子(MITAKA初代代表)
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
ナースチャ             アナスタシア(ニコライ二世の第四皇女)
カチューシャ            エカテリーナ二世(ゾフィー・アウグステ・フリーデリケ)
ユリア               ナースチャを狙う魔法少女
KOD(キングオブダークネス)    魔王 手下に四天王たち 
ワン                神のお使いの子ぎつね
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              3年学年主任
先生たち              花園先生:1・2年の時の担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史・3年1組担任:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物・神さま          アキラ 戦艦石見(アリヨール) 藍(アオ、高松塚の采女) オトタチバナ ワン 上野大仏   
その他の生徒たち          滝沢 栗原 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長) 関根(MITAKA二代目リーダー) 高石(文化委員)
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
   

 

384『溜まり場の闖入生物・2』 お岩 




「そ、そいつはチーチェじゃねえのか(◎▢◎)!?」

 
 遅れて入ってきたシゲ爺、ほうきを脇構えにして血相を変えているよ!

「ち、違います! チーチェだけどチーチェじゃないんです、あ、いえ、元々のチーチェなんで、チーチェじゃないんです!」

 え、ええ……!?

 慌てて説明しようとするツギくん(扶桑世子道次殿下)、闖入小動物を抱き上げて必死の顔さ。

 あたしも含めて、溜まり場のみんなが息をのんださ。

「チーチェと言えば、火星で猛威を振るったパルス菌の宿主(しゅくしゅ)じゃありませんかッ!?」

 及川市長が悲鳴のような声を上げる、声を上げながらもハンベでチーチェと、それに関する火星の法規を検索。さすがは島の行政トップ!

 大佐はコルトを、ハナはフォークを手裏剣のように構え、かくいうあたしもハンベをレーザーモードにして照準したさ!

「ちょ、ちょっと待って!!」

 整わない息のままメグミが立ちふさがったさ!

「これは無害化したチーチェなの! 元々のペットロボットのチーチェ! ノープロブレムなの!」

 島、最高のメカニックが声を上げて、ようやくパニックは収まったさ。

 メグは続けたさ。

「ツギ君が火星から無害化したのを持ってきていたのよ。元々は地球のペットロボットでしょ、生産していたメーカーは静岡だから、そこに戻してやろうって」

「はい、チーチェそのものに罪はありません。メーカーも、末永く遊んでもらおうと、チーチェに簡単な自己修復能力を付けたんです。それが火星で進化して、マッパなんてウィルスも、ウイルスそのものは、人為的なものなんです。解明はされていませんが、マッパ病そのものはチーチェが生み出したものじゃないんです。だから、可哀そうだから、その潔白を証明するために、僕が持ってきたんです」

「静岡のメーカーも、会社の黒歴史ということで、記録もサンプルも廃棄しているの。それで、ツギ君は、地球に持ち帰って、名誉回復してやろうと思ったのよ」

「はい、これを見てください!」

 ツギ君は一枚の古典的証明書を取り出したさ。

「……お、これはテルの直筆じゃねえか」

 シゲ爺が受け取って見せてくれたのは、去年、青銅の騎士の調査のために来ていた、平賀テル博士の証明書だったさ。

「でも、このペットロボットをどうしようって言うのさ?」

 メグの真剣さから、なにか考えのあってのことだと思ったさ。

「うん、樺太のロシア軍が今週中にも北海道に侵攻する、四個師団という触れ込みだったけど、装備と員数は定数の倍近いから実質八個師団の規模。北海道の陸軍だけじゃ凌ぎきれない。特に、先鋒の二個師団は青銅の騎士に特化した機械化部隊。わずかだけど、その機械化部隊に、このチーチェをぶつけてみようと思うの」

 マッパ病……みんなの頭に忌まわしいウィルス病の名前が浮かんださ。

「でも、メグ、マッパ病は……」

 マッパ病のために、火星も月も三年近く鎖国同様になってしまったんだ。

「それもテル、平賀博士からサンプルと資料をもらってる。チーチェの腹の中に入ってた」

「でもじゃ、島の設備で生産するとなると、準備だけでも何週間もかかるぞ」

 シゲ爺がメカニックの立場で異議を唱えたさ。

「ああ……それもプログラムされてる。前に来た時に、ここの設備は100パーセント掴まれたっぽい」

 そう言って、メグは古典的なUSBメモリーを取り出した。

「よし、あのチビッ子なら信用できる。さっそく社長に連絡して……」

 シゲ爺がハンベに触ると同時に、その社長がモニターに現れた。

『みなさん、大変です! 陛下が島にやってこられます!』

 陛下と言われて、すぐにはスイッチが入らない。

「え、陛下って……?」

『天皇陛下です! あと一時間、いえ、50分でお着きになります!』


 ええ!!!?


 チーチェのことなんかいっぺんに吹き飛んでしまったさ!!

 

☆彡主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    第一師団曹長、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府書院番士 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)       第一師団軍医、一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中だった
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士 
加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆              扶桑幕府将軍 
扶桑 徳子             道隆の御台所
扶桑 道興             玄武守、道隆の弟、二人の息子(道次・道忠)と娘がいる
本多 兵二(ほんだ へいじ)     書院番士小姓頭、彦と中学同窓
胡蝶                元小姓頭 将軍直属の隠密
児玉元帥(児玉隆三)         地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)          児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 東鈴(妻) 悟遼(息子)
テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
森ノ宮茂仁王            心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)     銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平) 島守を称す(270から)
村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく)       元輸送船の船長  大統領秘書官
朱 元尚 少将           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった

※ 重要事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西之島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
御山       西之島の火山
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
       

勇者姫騎士

039:混浴露天風呂




 とりあえず宿をとる。


 たいていの宿には温泉が付いていて、コンセプトというかスタイルはさまざま。

 テルマエ・ロマエのようなローマ風の大浴場もあれば、ハワイの溶岩風呂、和風の温泉風。その和風も鄙びた田舎風呂から昭和のレジャーランド風、都心の大衆温泉風まで様々。

 トゥルクビルト一行は、その中でも珍しく自前の温泉を持っていない民宿風に泊っている。

 民宿風は自前の温泉を持っていない代わりに、ウンターヴェークス中の温泉を回れるパスをくれる。このパスはどこの宿でも手に入る。フリーパスと回数券のがあるんだが、トゥルクベルトは割増を払ってフリーパスで周っている。

 大小100ほどもある温泉を周るのは精力的に周っても二か月はかかるだろう、魔王討伐が目的のパーティー、ちょっとそぐわない。

——なにかある——

 そう睨んで、俺たちは昭和のレジャーランド風に宿を取りながらも温泉パスを買った。

 
「あ、今度はこっちの温泉に来るようでございます」


 モニターを見ていたエマが両手をグーにしてコクコク頷く。見た目は十七八の美少女メイドなのに、保育園児のようにコクコクするのは反則的に可愛い。だけど、ヒルデがばい菌を見るような目で見るので「いくぞ」と声を上げるだけで、サッサと先に行く。

 奴らは、たいてい混浴の大浴場に向かう。混浴用の水着やら貫頭衣(かんとうい)のような湯浴着を身に着けるので、エマもヒルデもそれほどの抵抗もなく付いてきてくれる。例外的に男風呂に行ったときは、さすがに俺一人で入ったが、どこかの格闘家の御一行が入っていて、人生初めて男風呂で引け目を感じた。
 トルクビルトは着やせするタイプなのか、格闘家たちに混じっても遜色がなく、そのスポーツ刈りの頭とあいまって昭和の昔、切腹して果てた文豪を思い出させた。

 
 学校のプールほどの露天風呂は、老若男女合わせて50人ほどが入っていて、ヘルスセンターのように賑わっている。湯浴着を着ていることもあって、今日で四日目になる温泉に半ば寛いでしまった。

「ウンターヴェークスというのは途中という意味でございますが、この温泉町のウンターヴェークスは——人生の途中、温泉につかって英気を養え——と神さまがおっしゃっているようでございます」

 エマにしては珍しい軽口めいた言いように、頬が緩んでしまう。

 自分の言いようが可笑しかったのか、フフフ( *´艸`)と笑うと貫頭衣のような湯浴着がホワホワ、胸の谷間がチラチラしてけしからん(^^;)。

「ちょっと怪しい……」

 ヒルデが見抜いたようなことを言うので、危うくお湯を飲みそうになる……が、そういう意味ではなかった。

「やつら、風呂の四隅に散っている、おかしいぞ……」

「最初は、あちらでかたまっていました……」

 ジジジジ……

 どこかで電子レンジが稼働したような音がする。

「奴が、幻術を使い始めているぞ……」

「うん、静かに出よう……悟られないよう、別々に……」

 ヒルデが最初に右の方に上がり、数秒おいて左から俺が、そして……エマは続いては来なかった!

 

☆彡 主な登場人物

・鈴木 秀(すずきすぐる)    三十路目前のフリーター
・ブリュンヒルデ         ブァルキリーの戦乙女
・エマ              バンシーのメイド
・女神              異世界転生の境に立つ正体不明の女神
・ハンス・バウマン        ズィッヒャーブルグのギルドマスター
・フンメル            西の墓地に葬られている一万年前の勇者
・カルマ             フンメルとパーティーを組んでいたエルフの魔法使い
・秀の友人たち          アキ 田中
・魔物たち            ガイストターレン
  

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

289『前線基地はあらかわ遊園』




 サルタヒコさんのマンションを飛び出した。

 アラームが鳴っているんで、一刻の猶予もないんだ。必要なことはツタエ(MJスマホと合体させた)で教えてもらうことにして、公園で待機してくれていた上野さんに乗って北に飛ぶ。

『西北3キロのところにあらかわ遊園があります、そこが前線基地なので、そこへ飛んでください』

 サルメさんの指示で、左45度に進路を取る上野さん。

「さっそくバトルっすか!?」

 ワンが耳と尻尾を上げ、早々と臨戦態勢。

「おまえ、狐の癖に、なんか犬っぽいなあ」

「え、あ、やだなあカチューシャさん、自分は先祖代々オトタチバナさんのガードフォックスの家系っすよ」

「そうか、ちょっと、そんな気がしただけだ」

 ビビビビ

 上野さんの外舷電路が振動して、なにか情報を掴んだみたい。

「敵が霊波を飛ばして探っています、念のため地上スレスレを飛んでいきます」

 そう言うと上野さんは急降下して、都道306号線に入り、地上3メートルぐらいのところを西北西に進む。306号線は、ほぼほぼJRと並行していて「鉄道のそばだと気配を消しやすいんです」だそうで、空飛ぶマリオカートという感じで快調に進む。

『敵の探知は強力です、なるべく、低く飛んでください』

 サルメさんの注意が遅れて入ってくる、上野さんの勘は鋭くて適格だ。

「ありがとうございます、サルメさん」

 それでも、きちんとお礼を言う。さすが、顔だけになっても上野大仏さまだ。

「おっと、こっちでした」

 しばらく行くと、一本通り過ぎてしまったようだけど、次の道を北に向かう。

「一方通行だけど、大丈夫?」

 ナースチャが心配するけど『大丈夫です』と呟いて飛ぶ上野さん。緑を背景に『荒川遊園前交番』が見えて到着かと思ったらあらかわ遊園運動場。そのまま北に進んでようやくあらかわ遊園正面ゲート。

 上野さんはゲートの屋根と同一化して姿を隠し、ワンはリュックに化け、数秒迷ってナースチャに負ぶさった。

 わたしたちは近場の遊園地に来た冬休み中のJKという感じになる。

「おお、800円!?」

 ラーメン一杯分あるかないかの低料金。見かけ通りのJK気分でお財布を出そうと思ったら、ワンがささやく。

『裏っすよ、裏』

「「「あ」」」

 自分たちは戦いにやってきたんだ、偽装のため地元JK風にはしているけど、臨戦態勢でなければならない。そして、現実とは皮一枚裏側の妖(あやかし)の世界に入らなきゃならない。

 シュリン

 薄皮一枚削ぐような音がしたかと思うと、リアルの人たちは半透明になる。

 妖の世界に入ったんだ。現実とは薄皮一枚裏側の世界。

 人は半透明でも、物体はリアル。人の声も半透明というかボリュームは半分なんだけど、声以外の、遊具や環境音は普通のレベルで聞こえる。
 今までも、数々のバトルを繰り返してきたけど、環境はさまざま、なんだか、これからはこれがスタンダードになるような気がした。

「ねえ、見てよ」

 ナースチャが空を指さして、観覧車の向こうの空を見上げる。なんとも不気味な空だ。

「……妖色だな」

 濁ったピンク色って言ったらいいのか、薄墨に血を混ぜたような赤っぽい鼠色。沖縄からの帰り、奄美大島の沖でドラゴンが現れたときの空の色だ。

『ここの裏側は墨田川っす、川の向こうは、かなりいかれてるっぽいっす!』

「いくぞ!」

 観覧車とファミリーコースターの間を抜けて川辺を目指す。

「「「おお」」」

 そこは、巨大なすり鉢を半分にして川に向けたような野外劇場だ。

 野外劇場とは言え、普通に言うところのステージは無い。ステージにあたる空間は、そのまま墨田川の景色に繋がっていて、川面そのものがステージと言われれば納得してしまうような自然さがある。

『アリスの広場っす』

「「「アリス?」」」

 三人そろってキョロキョロ。青のワンピに白のピナフォー、髪はブロンドの女の子が兎を追いかけている。そんなトラッドな姿を思い浮かべるからね。

『ちがうっす、アは荒川遊園のア、リはリバーのリ、スはステージのスっす』

「なんだぁ」「そういうことかぁ」「つまらん」

『感想言ってる場合じゃないっす、北の空に!』

「「「ああ!」」」

 北の空、高層住宅の向こうの空に幾百幾千の、おそらくはガーゴイル系の妖たちが現れた!

 いつもなら、魔法少女らしく空に上がって戦うんだけど、この数では取り囲まれて、三人別々にやられてしまう。

 どうしよう!?

 カチューシャもナースチャも同じ思いのようで、身じろぎするだけで、次の動きに移れない。

『あ、なんか出てきたっす』

「「「え?」」」

 ステージにあたる空間に、いかめしい高射砲が現れた!

 

☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         3年1組 クラスメート
辻本 たみ子            3年8組 
高峰 秀夫             3年6組 
吉本 佳奈子            3年4組 バレー部
横田 真知子            3年8組 リベラル系女子(MITAKA初代代表)
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
ナースチャ             アナスタシア(ニコライ二世の第四皇女)
カチューシャ            エカテリーナ二世(ゾフィー・アウグステ・フリーデリケ)
ユリア               ナースチャを狙う魔法少女
KOD(キングオブダークネス)    魔王 手下に四天王たち 
ワン                神のお使いの子ぎつね
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              3年学年主任
先生たち              花園先生:1・2年の時の担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史・3年1組担任:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物・神さま          アキラ 戦艦石見(アリヨール) 藍(アオ、高松塚の采女) オトタチバナ ワン 上野大仏   
その他の生徒たち          滝沢 栗原 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長) 関根(MITAKA二代目リーダー) 高石(文化委員)
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
 

 

383『溜まり場の闖入生物・1』 お岩 




 ウマウマ~ ウマウマ~


 孫大人の背中で遼ちゃん(孫悟遼)が手を伸ばす。

「悟遼、あれは食べ物ないアルよ~」

 離乳食に見えるんだろうか、モニターの日本列島を見て、しきりと手を伸ばす遼ちゃん。

「アハハ、さすが孫悟兵の息子だ、隙あらば日本列島を取ろうってかぁ」

 分かっていながら、大佐が物騒なことを言う。

「失礼アルなあ、息子は、そんなチッポケないアル。狙うんなら……」

 大人(たいじん)がハンベをポチると、3Dの銀河宇宙が現れる。

「ウマァ~~~(^○^)/」

「ほお、銀河を食おうってか! ツナカン、おまえもオタオタしてられんぞ」

「やだなあ、大佐、あれはクレープに見えてるっスよ。ほら、お岩さん、このごろクレープとか始めたッスから」

「クレープが銀河なのか?」

「ほら、生地を伸ばすトンボ、あれで、クルって回すと、あんな感じっス」

「あれは、生地をケチっとるからじゃないのか」

「大佐、出禁になりてえのかあ!」

「お、聞こえちまったか(^^;)」

 ドン!

「ほれ、から揚げのお代わりだ、ありがたく食え!」

 ハナが大盛りのから揚げをテーブルに置いて、一瞬だけ与太話が途切れる。

 溜まり場は今日も盛況さ。みんな軽口をたたいて、から揚げやら手羽先やらつまみながら、日がな日本列島を映し出すモニターを見ているさ。

 モニターの日本列島には、政府軍、皇統会、菊水党の他にも、どっちつかずの勢力の他に、北方領土には真っ赤なロシア勢力なんかも見える。日本列島のベースはアイボリーだから、五色揚げの海老天みたいさ。うちの食堂じゃ、エビのサイズも大きくしてデラックス揚げと名付けて、祝い事があった時の特別メニューさ。

 デラックス揚げは、祝い事があったときなんかのメニューなんだけどさ。今の日本列島はデラックスじゃなくてデンジャラスさ。

「しかし、これだけドンパチやっとるのに……」

 大佐が画面を切り替えると、ところどころにニキビのような丸印が現れる。動乱を避けて、あちこちに作られ始めた避難所さ。東京の渋谷から西麻布、青山方面にかけては民間人は居なくなってるけど、それ以外は、わりに平穏。北海道、東北、名古屋、大阪、九州西部あたりに丸印が目立つぐらいで、勢力図に比べると比較的穏やかに見えるさ。

「民間へ被害が及ばないよう、各勢力ともに気を付けているようではありますが……」

 腕を組んだままだった及川市長が口を開いたさ。島に台風が接近してくるみたいな真剣さだよ。

「陛下が東京に留まられていることも大きい……」

 殿下、いや社長が呟く。社長自身、この島では陛下に近い存在、その効能も限界も見えているんだろうね。

「しかし、いつまでも持つものじゃないだろ、軍事的な緊張はどんな権威が蓋をしていても限界があるぞ」

「ああ、特に外国勢力からすれば熟成肉がぶら下がってるみたいアル」

 歴戦の大佐と海千の大人、与太話の縁からこぼれると重くなるさ。

「オワ!?」

 突然飛び上がるハナ、ゴキブリでも出たのかと目を落とすと、変なのが居た!

 キキ

「ネズミあるか!?」

 遼ちゃんをかばって立ち上がる大人、他のメンツもなにごとかと覗き込む。

「あ、ごめんなさい!」

 ハナの妹分が追いかけてきて、開け放たれたドアの外ではメグミが膝に手を載せて息をついている。

 一瞬驚いたハナだけど、簡単につまみ上げて不審な顔をする。

「ロボペットみてえだけど、島じゃ見ねえ奴だなぁ……ニッパチ、おめえのか?」

「いや、ラボのよ。緊急に作ったんだけど、あ、ベースは……」

「すみません、お騒がせして、ベースは僕のなんです(-_-;)」

 同じようなのを抱えて入ってきたのは、火星の王子さま、道次殿下だったさ!

「アイヤー!! ひょっとしてできたアルか( ゚Д゚)!!?」

 フンギャーー(৹˃ᗝ˂৹)!

 父親の雄たけびにビックリ泣きの遼ちゃんだったさ!

 

☆彡主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    第一師団曹長、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府書院番士 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)       第一師団軍医、一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中だった
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士 
加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆              扶桑幕府将軍 
扶桑 徳子             道隆の御台所
扶桑 道興             玄武守、道隆の弟、二人の息子(道次・道忠)と娘がいる
本多 兵二(ほんだ へいじ)     書院番士小姓頭、彦と中学同窓
胡蝶                元小姓頭 将軍直属の隠密
児玉元帥(児玉隆三)         地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)          児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 東鈴(妻) 悟遼(息子)
テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
森ノ宮茂仁王            心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)     銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平) 島守を称す(270から)
村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく)       元輸送船の船長  大統領秘書官
朱 元尚 少将           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった

※ 重要事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西之島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
御山       西之島の火山
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
      

勇者姫騎士

038:ウンターヴェークス は温泉で有名




 全ての町や村にギルドがあるわけじゃない。

 メイド喫茶やオタクのショップがどこにでもあるわけじゃないのと似ている。

 世の中には、メイド喫茶やオタク文化とは無縁に生きている人も多い。東京ビッグサイト、年二回のコミケはめちゃくちゃ有名で、一回で50万人もの参加者がいる。でも50万。有名な神社なら正月の三が日で集めてしまうし、そういう規模の神社は日本中にあって初詣以外にも例大祭やらのお祭りで賑わう。他にも大小の神社がコンビニの数よりも多く、全部合わせると、年間で数千万人、いや数億人の参詣者になるだろう。

「 ウンターヴェークス (Unterwegs)というのは温泉で有名なようでございます」

 エマが案内本のページを示して目を輝かす。

 ズィッヒャーブルグで仕入れたんだろうけど、読んでいるところを見たことがない。おそらく、俺たちの世話の合間に読んでいるんだ。褒めてあげたい衝動に駆られるが、褒めたら絶対顔を赤くして照れる。褒めるよりもエマの情報を活用してやることだ。

「怪我人や病人が多いのか?」

「いいえ、単に温泉に入って楽しむためのようでございますよ。風呂上がりにビールを飲んだり寝そべったり、中には卓球をしている人たちもいて、楽しそうにしています」

「まあ、魔物退治で怪我をする者もいるだろうから、ヒルデが言うように治療の者もいるかもな」

「ふむ……」

 戦に明け暮れていた戦乙女だ、治療以外の温泉利用というのはピンとこないのかもしれない。

 そう言えば、グズルーンと言い争ったのは川でシャンプーをしている時だと言っていた。こいつら、シャンプーや風呂は川とかで済ましているのかもしれん。いやいや、ズィッヒャーブルグでは普通に宿の風呂に入っていたぞ……エマは、少し楽しみのような……いろんなご主人様に仕えてきたから、温泉趣味のご主人様とか居て温泉の楽しさを知ってる?……いかん、二人の風呂上がり姿が浮かんできた!

「あら?」

「どうした、顔が赤いぞ?」

「え、あ、夕日の照り返しだろ(^^;)」

 すっとぼけて、思考を戻す。

 ドルフ(村)でありながらシュタット(街)の規模と賑わいがあるところを見ると、ウンターヴェークスとその周辺は温泉を楽しむ文化があるのかもしれない。 では、トルクビルトがウンターヴェークスに立ち寄るのは……

「あ、ウンターヴェークスが見えてまいりました!」

 エマが指さす道の向こうに何本もの湯けむりが見えてきた。

 

☆彡 主な登場人物

・鈴木 秀(すずきすぐる)    三十路目前のフリーター
・ブリュンヒルデ         ブァルキリーの戦乙女
・エマ              バンシーのメイド
・女神              異世界転生の境に立つ正体不明の女神
・ハンス・バウマン        ズィッヒャーブルグのギルドマスター
・フンメル            西の墓地に葬られている一万年前の勇者
・カルマ             フンメルとパーティーを組んでいたエルフの魔法使い
・秀の友人たち          アキ 田中
・魔物たち            ガイストターレン
 

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

288『病床の猿田彦』




 あれ?


 エレベーターのボタンを押すサルメさん。

 その押しているボタンにビックリした。道路から入る時に見上げたマンションは5階までしかなかったし。

 でも、サルメさんが押したボタンは8階。8階の下は5階のボタンで、6階7階が無くって8階。その8階のボタンは斜めになってるし。

 なるほどな…………カチューシャが小さく呟いてナースチャは気が付いていないみたい。

 ズゥィーーーーーーン

 エレベーターが上昇すると8は完全に横倒し……あ、無限大記号(∞)なんだ。

「怪しの者が入ってこないためなんですよ(^^;)」

 ちょっと恥ずかしそうに言って、はい、こちらですとサルメさんが示したのは後ろ側。

「え、あ……」

 駅のエレベーターみたく後ろ側が開く。乗った時は、ごく普通のエレベーターで、ただ壁があるだけだったんでビックリ。

 エレベーターを降りて四つほど角を曲がる。角は、どれも交差点というか十字路なんで、案内なしに入ってきたら絶対迷う。

「いつ最前線になるか分からないものですから、なんだか遊園地のマジックハウスみたいになっていますのよ」

 トン トトン トト トン

 いきなりステップを踏んだかと思うと、先の床と壁がゴトゴト動いてドアが現れて、そのドアのノブを回すとドアが開いて「はい、こちらです」と示したのは後ろ側の壁。壁が畳一枚分くらいに口を開けていて、そこが本来の入り口なんだ。

「ドアの方に入って行ったら、どこに行くんですか?」

「マンションの入り口、三回間違えると東京駅のトイレに出てしまいます(^□^;)」

 すさまじく『振出しに戻る』感(^^;)

『お~~い、こっちこっちぃ~~~』

 後ろのドアの方から声がする。

「え、あ、もう、あなた、勝手に変えないでくださいよぉ……」

 声に従って回れ右してドアの方に……すると、東京駅のトイレではなくて、病院の特別室みたいなベッドの部屋。

 ベッドには鼻に酸素吸入のチューブを装着し、腕からは点滴チューブを付けられたオジサンが30度ほどに身を起こしていた。

「お連れしましたよ、オトタチバナさんがご推薦してくださっていたBSBJの方々です。亭主の猿田彦です。あなた、ご挨拶」

「申し訳ない、もう自分の手にはあまるので、オトタチバナさんにお願いしたもので。このあたりの道の世話をしております、猿田彦です。よろしく」

「よろしく、エカチェリーナ2世アレクセーエヴナだ、気軽にカチューシャと呼んでくれ」

「アナスターシアです、ナースチャとお呼びください」

「あ、時司……」

「あ、応(こたえ)さん?」

「いえ、巡(めぐり)です、応は祖母で、孫なんです、孫の巡です」

「ああ……よく似ておられるんで、失礼した」

「えと、普段はグッチって呼ばれてます」

「グッチですか……お婆さまは『コッチ』と呼ばれておいででした」

「ホホホ、員の踏み方がいっしょですねえ」

 品よく笑うサルメさん。小じわは入ってるけど、明るくチャーミングに笑うおばさんだ。

「おまえ、お客様の前なんだ、少しは飾らんか」

「神社じゃ元の姿でおむかえしていましたよ」

「すみませんなあ、サルメも、いろいろ頑張ってくれておりますのでなあ」

「この人を起こすわけにはいきませんが、みなさんは、どうぞこちらに」

 傍のテーブルを示すサルメさん、テーブルには、いつのまにかお茶の用意がされている。

「すまない、サルメさん。で、今日呼ばれたわけというのは?」

「はい、実は……」

「儂から言おう……わたしはニニギノミコトが降臨されて以来、道案内の役目を負っていましてな。日本各地に祀られております。まあ、道しるべの神といったところです。大した力はないのですが、わたしが標(しるべ)を封じてしまうと、魔物たちも容易には先に進めません」

 なんとなく分かってきた。猿田彦さんと猿女さんは、体を張って魔物の進入を防いでいるんだ。

「しかし、今度の魔物の首魁は、あなたたちが言うところのKOD、キングオブダークネス。いささか手に余ります」

「そうだな、すでに神田川以北に現れて、悪さをしている」

「そうですなあ、回覧板にも出ておりました、お化け階段や異人坂ではなかなかのお働きのようでしたなあ」

「それで、今度の敵は……」

 改めてサルタヒコさんの様子を見るカチューシャ。布団で隠れて入るけど、あちこちに傷があるんだろう、すごい負のオーラが感じられる。

「今は、足立区のあたりが主戦場の予感……足立区は埼玉との県境で、足立区そのものが埼玉に打ち込んだ楔の一つになっておりますじゃ」

 なるほど、サルタヒコさんが示した地図、足立区は東京都の橋頭保のように見える。

「ここで持ちこたえなければ、敵は南に進み、荒川区、墨田区を席巻し、葛飾・墨田・江東の三区をうかがうでしょう。そうなれば、南千住の素戔嗚(すさのお)さまや神田明神の将門(まさかど)さまが正面に……」

 そこまで言うと、サルタヒコさんは胸に迫るものがあるんだろう、押し殺したように「ググ……」っと声を詰まらせる。

 平将門、素戔嗚命、二人とも日本で最強クラスの神さま、その二人が矢面に立つことを、この道案内の神さまは恐れている。気になるけど、これは聞いちゃいけないんだろう……そんな気がする。

「わたしから、申し上げますよ、いいですね……」

 サルメさんが立ち上がって、足立区の二点を指さした。

「ここに舎人公園、その北に舎人いきいき公園があります」

「最前線か……」

 カチューシャが腕を組む。

 足立区が橋頭保、あるいは埼玉への出城と見ると、その足立区の先端に当たるのがいきいき公園、その支えが舎人公園になる。

「実は、もう敵の手に渡っているんです。地形やさまざまな遊具に身を変えて力を蓄えています。今は、95%というところでしょうか、120%になると、ヤマトが波動砲を撃ったように破壊的な力を発揮します」

「ヤマトの波動砲……」

 長門の40サンチ砲どころじゃないよ(;'∀')。

 思わずカチューシャに身を寄せるナースチャ。

 ピ ピ ピピピピピピピ

 と……足立区の南側、荒川区との境目にいっぱい赤いアラームーの点滅が走った!



☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         3年1組 クラスメート
辻本 たみ子            3年8組 
高峰 秀夫             3年6組 
吉本 佳奈子            3年4組 バレー部
横田 真知子            3年8組 リベラル系女子(MITAKA初代代表)
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
ナースチャ             アナスタシア(ニコライ二世の第四皇女)
カチューシャ            エカテリーナ二世(ゾフィー・アウグステ・フリーデリケ)
ユリア               ナースチャを狙う魔法少女
KOD(キングオブダークネス)    魔王 手下に四天王たち 
ワン                神のお使いの子ぎつね
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              3年学年主任
先生たち              花園先生:1・2年の時の担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史・3年1組担任:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物・神さま          アキラ 戦艦石見(アリヨール) 藍(アオ、高松塚の采女) オトタチバナ ワン 上野大仏   
その他の生徒たち          滝沢 栗原 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長) 関根(MITAKA二代目リーダー) 高石(文化委員)
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人