勇者姫騎士

057 :  トイレチックスワール(swirl)!!




 さて、魔物たちは北におっぱらったが、瓦礫は鎖に絡まり川底に閊えたままだ。

「このまま渡るのは無理だなあ……」「橋を直さなきゃなあ……」「誰が直すんだぁ……」「橋の管理は?」「フンメル様だべ」「一万年前のお方だぞ」「そうさなあ……」「行政区分的にはウンターヴェークスだろ」「あ、でも、川の真ん中が境界線……」「北半分は、ハイデベルクになってんぞ」「こりゃあ、両方に掛け合わなきゃならんだろう……」「何年もかかっちまうぞ……」

 トイレが充足して落ち着いた群衆たちは、川を渡る算段をし始めたが、前途は多難だ。

「まず、あの瓦礫を撤去しなければならんだろう」

「そうでございますね、あのままでは、また詰まってしまいます」

「撤去といってもなあ……」

 ため息をついて目を向けた川は、荒川の下流ほどの幅があって500メートルはありそう。とても勢いだけで渡れるもんじゃない。

 俺たちも、考えてみるが、他の奴らと大した違いはなく、愚痴しかでてこない。

「あ、あいつら!」


 業を煮やした冒険者たちが渡りやがる!


「だいじょうぶかぁ……?」「無理だろ……」「ダメだろ……」「どうだかなあ……」「わしたちも」「やめときな」「そんでもよぉ……」

 さっきほど——やめとけえ!——という感じじゃないけど、後に続いたのは三組十数人。一組は、100メートルほど行ったところで引き返し、無事に渡れたのは、最初の組を含めて十人足らず。三人流されて、一人はさっきみたいにエマのカメラドローンで救助したが、二人は助けられなかった。

——いわんこっちゃない——という空気が大半だが——やったらやれるかも——という奴もいる。

「わたしたちも渡ろうか」

 ヒルデが立ち上がる。

「待て、まだ危険だぞ」

「危険は承知だ、ヴァルキリーの名簿を……」

 そうだった、ヒルデの旅はヴァルキリーの名簿を守るためなんだ。それが、アキに化けたか取り込んだかの魔物に盗まれて、一刻も早く取り戻さなければならないんだ。

「あの名簿に載っているのは、ただの歴戦の勇者なんかじゃない、もう何十年も戦い続けて身も心もボロボロ、それを生まれついての責任感、それこそノブレスオブリージュで戦い続けてきた者たちばかり。もうたくさんなんだ。たとえ神といえど、最高神オーディンであろうと、戦の贄にしていい者たちじゃない……」

「ヒルデさま……」

「すまん、わがままを言うようだが、ここからは、このブリュンヒルデ一人で行かせてくれ!」

「ヒルデさまッ……」

 エマが悲しい、いや苦しそうな顔になる。

 エマはバンシー、世話をしている家族や仲間が離れていくのは苦痛なんだ。

 二人とも、その思いは尊いと言っていい……ここは——待て!——では済まない。

「よし、俺のスキルでなんとかしてみよう!」

「スグル……でも、貴様のはトイレに関する魔法だけだろ」

「いや、応用すれば手はあるだろう」

「スグルさま!」

 頭の中に一つのイメージが湧いた、いやインスピレーション! 流行りのエルフアニメでも言っていた「魔法はインスピレーションなんだよ」って。

「みんな、下がってくれ! これから瓦礫を始末するぞ!」

 河原のみんなは何事かとこっちを見たが、魔物たちを一掃したパーティーなので、おとなしく指示に従ってくれる。

「では、いくぞ!」

 俺は、トイレのあれをイメージし両手を大きく回した!

「トイレチックスワール(swirl)!!」

 頭に浮かんだ術式をふさわしい言葉に変換して叫んだ!

 ズ ズゴゴーーーーーーーーーーー!!

 オオオオオ!!

 トイレの水洗渦を巨大にしたものが数十個も現れて、絡んでこんぐらがった瓦礫をずんずん吸い込んでいく!
 
 二人の仲間も、河原の者たちも歓声を上げる中、膨大な瓦礫は渦に吸い込まれ、その大半が消え去って行った!

 
☆彡 主な登場人物

・鈴木 秀(すずきすぐる)    三十路目前のフリーター
・ブリュンヒルデ         ブァルキリーの戦乙女
・エマ              バンシーのメイド
・女神(甲と乙)         異世界転生の境に立つ正体不明の女神たち
・ハンス・バウマン        ズィッヒャーブルグのギルドマスター
・フンメル            西の墓地に葬られている一万年前の勇者
・カルマ             フンメルとパーティーを組んでいたエルフの魔法使い
・トルクビルト(工藤甚一)    ズィッヒャーブルグの幻影魔法士(娘:ビアンカ、カリーナ)
・秀を取り巻く人々        先輩  アキ(園田亜妃) 田中
・魔物たち            ガイストターレン 

 

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

306『見上げた空は春霞……ヘックチ!』




 いちど家に帰ってみることにした。

 四か月前、なぜか戻り橋が壊れてて、令和の自分の家にはずっと帰っていない。そのおかげで、駿河台の秘密基地に寝泊まりして妖退治の毎日。まあラスボスのダイダラボッチもやっつけたんだ……多分戻れる。

 そんな気がして、戻り橋までテレポした。Gの標(しるべ)をツンツン蹴って……現れた橋は直っていた!

 橋を渡って四か月ぶりの我が家。どうしようかと思ったけど、いちおう「ただいまあ」と普通に帰る。

『おかええりぃ』

 四か月ぶりのお祖母ちゃんの声は微妙に若やいでいた。

 まあ、お祖母ちゃんも四か月ぶりの孫娘だから、ちょっと感動してんのかなあ(^^;)。でも、四か月ほったらかしだったんだ、ちょっとスネてみてもいいかな。卒業式に来なかったんだしね。

 え……!?

 リビングに入って驚いた。

 ソファーに背中を向けて座っているのは、後ろ姿はそっくりだけど、オーラがちがう。

「なんで……」

 不足そうな私の声に振り返ったのは、徒(いたる)叔母さん。ほんとは大叔母なんだけど『おおおばさん』て言いにくいし、本人も「『大』は付けなくっていいから!」というんで、昔から叔母さんで通している。

「無事に済んだようね、う~~~ん、留守番もおしまい。魔法少女の家って、長いこと留守にしてると悪気が寄ってくるからね。恩妙大学にいくんでしょう?」

「あ、うん、四月からだけど……」

「まあ、しっかりやんな。うまくいったようだし。じゃ、叔母ちゃん帰るね♪」

 そう言うと、靴音も軽やかに帰っていく。

「あ、叔母さん……」

 そっけなさすぎなんで、玄関を出て追いかける。

「もお……」

 いろいろ聞いてみたかったんだけど、もう徒叔母さんの姿は無かった。

「やれやれ……」

 再び玄関ドアを開けると……志忠屋だった( ゚Д゚)。


「おう、やっと来よったなあ」

 
 店はアイドルタイムなんだろうか、タキさん一人カウンターで伝票の整理していて、厨房の寸胴鍋は湯気を立ててるけどバイトは一人もいない。

「やっと済んだなあ……おめでとう」

「え、あ、うん。おかげさまで、卒業できました」

 なんかミスでテレポしちゃったみたいなんだけど、きちんと挨拶はしなくちゃね。

「これで、やっと魔法少女応(こたえ)の再出発や」

「え、あ、そうそう、家に帰ったらお祖母ちゃん居なくって、かわりに徒叔母さんが留守番してて、孫の卒業式に来ないなんてあり得ないしぃ、何考えてんだか、お祖母ちゃんは!」

 タキさん相手だと、散文的にグチが出てしまう。

「なに言うとんねん、今日からは、おまえが応(こたえ)や」

「え?」

「『甲一級』なんちゅう時代遅れで型落ちの魔法少女やったけど、これで、なんとか再生した。三年間ごくろうさん」

「え、ちょ……え? 意味わかんないんですけど」

「そうか……まあ、その辺の記憶はボチボチ戻ってくるやろけど。巡(めぐり)っちゅうのは応の一部っちゅうか分身なんや」

「え…………え?」

「もう、元の応では限界なんでな、魔法で自分の一部を孫っちゅう設定で分けよったんや。それが三年前、そんで、もう一回高校生からやり直して、やっと一人前……にはちょっと足らんけど、まあ、十分やろ」

「え、何言ってんの、わたし巡だよ。ちゃんと子供のころの記憶だってあるし、お母さんだって……」

「おかんは、火星旅行の訓練中……そんな計画はNASAにも日本にもない」

「ええ!? そ……そんな……」

「おかんの顔、思い出せるか?」

「え……ええ?」

 混乱してきた。

「それに、考えてみいや。宮之森は応が通とった高校やけど、じぶん、学校で応さんに会うたことないやろ」

 あ…………(( ゚Д゚))

「せや、時塚応は、巡っちゅう名前で通ぅとったんや」

「え……え……じゃ、わたしって……いやいや、わたしはわたしだし!」

「ちょっとちゃうねんけどな。まあ、時間が経ったら腹に落ちてくるもんもあるやろ」

 ジーーーージコジコジーーージ ジ ジ ズーーーー

 なんのエフェクトかと思ったら、古臭いファックスが紙を吐き出してる。

「総理が代わってからどの役所も仕事が早いなあ……巡、応の免許更新の連絡や」

「え?」

「特A魔法少女(旧甲一級魔法少女)、ただし、令和7年4月1日より有効」

「え、それって」

「恩妙に入学するまでは、優雅に春休みや」

「優雅になんかしてらんないわよ、まだ腑に落ちないし、わけわかんないし! そうだよ、お金だってお小遣いだけなんだから、ああ、月末はいろいろ引き落としとかあるし!」

 そうだよ、普段の生活費ってお祖母ちゃんが出してるんだ! 大学の準備にいろいろいるし!

「ほんなら、うちでバイトせえ」

「え、ペコさんとかは?」

「みんな自分の世界に戻りよった。まずはランチの皿洗いからや、ほれ、前掛けしとけ」

「あ、ちょっと!」

「あ、その前に、おつり切れてるんや、銀行に両替と、すまん、ついでに駅前でチラシ配りもやってくれるかぁ」

「チラシ配りぃ?」

「わしがが撒くより効果あるやろ」

「まだ、制服なんだけど!」

「なんや、魔法で着替えられへんのか」

「イタ飯屋のコスって知らないしぃ!」

「あ、これが見本」

 ドロン

「え!?」

 タキさんが見せたグラビアに思わず反応してしまう(-_-;)!

「あ、これってアキバのメイドなんですけど!? あ、鍋噴いてる!」

「うわ!」

 タキさんが鍋の蓋を取ると、ブワアアアって噴きあがって、湯気が立ち込めたと思ったら、自動ドアが勝手に開いて、鍋からすっごい風圧!

「うわ、ちょっとおおおお!」

 風にさらわれるようにして外に吹き出され、見上げた空は早くも春がすみ。

 鼻がムズムズ。

 黄砂か花粉か、見上げた空は三年前と同じくビミョウに春霞。

 ヘックチ!

 お日様の力でムズムズを吹き飛ばし、そのまま両替とチラシまきに行った。



 巡・型落ち魔法少女の通学日記  完



 
 ☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         3年1組 クラスメート
辻本 たみ子            3年8組 
高峰 秀夫             3年6組 
吉本 佳奈子            3年4組 バレー部
横田 真知子            3年8組 リベラル系女子(MITAKA初代代表)
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
ナースチャ             アナスタシア(ニコライ二世の第四皇女)
カチューシャ            エカテリーナ二世(ゾフィー・アウグステ・フリーデリケ)
ユリア               ナースチャを狙う魔法少女
KOD(キングオブダークネス)    魔王 手下に四天王たち 
ワン                神のお使いの子ぎつね
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              3年学年主任
先生たち              花園先生:1・2年の時の担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史・3年1組担任:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物・神さま          アキラ 戦艦石見(アリヨール) 藍(アオ、高松塚の采女) オトタチバナ ワン 上野大仏 天目一箇神 画狂老人卍 ハチ 赤い靴の女の子 ビクターの犬
その他の生徒たち          滝沢 栗原 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長) 関根(MITAKA二代目リーダー) 高石(文化委員)
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
   
 

勇者姫騎士

056 :  魔物用マタタビ、効果はすごいんだけど




「MATATABIがございます!」

 ストレージを探っていたエマが明るい声を上げた。

「またたび? 猫でもおびき出そうというのか?」

「またたびをご褒美に、猫に魔物退治を頼むとか?」

「そうではございません」

 俺とヒルデのいいかげんな反応に怒りもせずに話を続ける。

「MATATABIのMAは魔物の『マ』でございます、魔物を寄せ付けるための煎じ薬でございます」

「ええと、寄せ付けちゃダメだと思うんだけど」

「あ……聞いたことがある。トールが魔物退治をするときに、魔物を探すのが面倒で、薬を使って魔物を集め、ミョルニルのハンマーの一振りでやっつけたそうだ」

「でも、そんなものを持っていて、かえって魔物を呼び込んでしまわないのか?」

「大丈夫でございます。わたしのストレージは完全密封、MATATABI も鰹パック同様の個包装になっていますから」

「ああ……でも、寄せ付けてしまうんじゃダメなんじゃないか?」

「あ、そうか! これで引き付けて、一気に魔物を成敗する! そういうことだな!?」

「え、あ……」

 エマが返答する前に商人が目を吊り上げた。

「ちょ、そんな物騒なもの出されちゃ困るよ!」「なんだなんだ?」「え!」「ええ!?」「魔物を集める!?」「かんべんしてくれ!」「何考えてんだ!」

 商人の声に、他の連中も怯えたり怒りだして収拾がつかない。

「あ、ええとぉ……」

「聞け! 旅の者たち!」

 ヒルデが両手を上げて一喝すると、河原の者たちは一瞬静かになる。さすがはヴァルキリーの姫騎士!

「これで、寄せ付けた魔物はわたしたちで成敗する! 皆は、避難して見ていればいい!」

「しかし……」「討ち漏らしたら……」「北の魔物を……」「なあ……」「南に呼び込むのは……」

 こいつら、北への恐怖以外に微妙な偏見がありそう。

「いえ、それについては、ヒルデさま……」

「え……ふむ、それなら大丈夫だな……聞け、皆の者! マタタビはドローンで北岸、いや、さらに向こうの街道から外れたところに落とす。橋を直したのち、我々三人が責任をもって、その魔物たちを退治する。これでどうだ!?」

「え……」「ああ……」「それなら……」「とりあえず……」「川を……」「渡れりゃ……」「いいか!」

 ということで、エマのドカメラドローンにマタタビを載せて、魔物たちを誘導する。

 マタタビの威力は絶大で、魔物たちは瓦礫に挟まれた手足なんか切り捨て、なかには挟まれたところから二つ三つに千切れてドローンを追いかけるやつもいる。

 ウォーーン ワオーーン ギャオーーン グロローーン ヤィーーン ヤオーーン

 なんともグロテスクな鳴き声をあげ、北の街道の向こうへ消えていった。


 ヤッターーー!! おおーー!! うぉーー!!


 河原のみんなから歓声が上がって、俺たちも少し鼻が高い(^^;)。

 ギギギ ガチャ ゴチャ グギギギ プッシューー! ドドド====!!

 魔物たちが抜けた分、隙間ができて、それを埋めるように瓦礫が絡まり合い、ジェット水流も複雑で勢いを増してしまった!

 ああぁぁ…………

 河原の者たちのうめき声が響き、尼さんや僧侶たちが効き目の無い祈りを捧げる。

 安心と落胆と諦めが河原を支配する。

 え ちょ おい きゃー やめ! ちょやめ!

「なんだ?」「なんでございましょう?」

 河原のあちこちで小さな騒ぎが起こりはじめた。

「はあ、みんな、安心と諦めで催してきたんだなあ……」

 商人が——しかたないなあ——とため息をついて「みんな、用を足すんなら川か、穴を掘ってやりなされ。ここでキャンプをしている人もいらっしゃるんですからぁ」と手をメガホンにする。

 それもそうだと、川に向かう者もいるけど、水流がきつくて半分ほどは言うことをきかない。それに、女性はもともと無理だし。大きい方はここまで臭ってくるし。

「スグル、あれを出してやれ」「そうでございますね」

「仕方ないなあ」

 俺は、道の駅のそれをイメージして集合トイレを出してやる。

 みんな令和のウォシュレットは使い方が分からなので、エマとヒルデが説明にまわる。

「スグルー、二人じゃ追いつかんぞ!」「スグルさまあ!」

「ちょ、待って!」

 慌てて自分のストレージをチェック、すると『ウォシュレットの説明』というのがあって、それに特級の魔法ををかけ、すべてのトイレに配置した。

 説明たちは、一昔まえのアキバメイドの姿で、テキパキ、明るく説明と案内をしてくれたぞ。



☆彡 主な登場人物

・鈴木 秀(すずきすぐる)    三十路目前のフリーター
・ブリュンヒルデ         ブァルキリーの戦乙女
・エマ              バンシーのメイド
・女神(甲と乙)         異世界転生の境に立つ正体不明の女神たち
・ハンス・バウマン        ズィッヒャーブルグのギルドマスター
・フンメル            西の墓地に葬られている一万年前の勇者
・カルマ             フンメルとパーティーを組んでいたエルフの魔法使い
・トルクビルト(工藤甚一)    ズィッヒャーブルグの幻影魔法士(娘:ビアンカ、カリーナ)
・秀を取り巻く人々        先輩  アキ(園田亜妃) 田中
・魔物たち            ガイストターレン 

 

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

305『いよいよの卒業式!』




 ダイダラボッチを舎人公園で撃破して、とりあえず足立区までの平和は取り戻した。KODの本体がダイダラボッチであったかどうかは分からないけど、取りあえずは一段落。

 自分たちの代わりに学校に行っていたアバターから情報をもらって、今日は卒業式。


「おはようございまーす!」


 いつものように改札を出たところでロコが追いついてくる。

「あ、あ……おはよう⸜(#ˊᗜˋ#)⸝!」

「あ、どうしたんですか?」

 ヤバイ、去年の10月以来だから感動し過ぎ!

「あ、卒業式だからね!」

「あ、そうですよね。うん、やっぱり、グッチは純粋なんですよね」

「ええ、ロコだって!」

「え、そうですかぁ……?」

 電気屋のショーウィンドウに映る姿を指さして「ほらほらぁ」と言うと「あ、そう言われれば……」と愛すべき同級生のテンションも上がってきた。

 三年生の三学期は実質一月の二週間、すぐに学年末考査で二月に入ると卒業式の予行を兼ねた登校日があるきりで、実質的には終わっている。

 かつてのMITAKAの仲間はロコを除いてクラスが違う。だから「なんか久しぶり!」と声を掛けたのはそれほど不自然じゃない。
 
 昇降口でニ三分立ち話の後、教室に行くとすぐに吉村先生が「必要なものは式の後で配るので、すぐに式場に移動するように」と言って、入学式の時みたく廊下に並んだ。カチューシャとナースチャはずっといっしょだったので他の子たちみたいに感動することもなく、粛々と式場に進む。

 なんか、ほとんど入学式と一緒。

 式場の前の方、出席番号順に座って背筋を伸ばす。壁には紅白の幕が張り巡らされ、舞台には金屏風。演壇の脇にはゴージャスな生け花、金屏風の上には校旗が下がっているけど令和のような国旗は無い。

 ピカ ☆

 ギャラリーで光るもの……と思ったら、直美さんが写真を撮りまくってる。学校と契約の写真屋さんだから、行事日はああやって写真を撮っているんだ。思えば、一年の時からバイトをさせてもらって、稼がせてもらったし、いろいろ勉強もさせてもらった。そう思って見上げていると、直美さんが小さく手を振った。

 コクンと頷いて答えると、後ろで気配。振り向くわけにもいかないので魔法で観察。

 おや、スセリヒメの采女さん(スセリヒメ)……あれ、志忠屋のタキさんまで来てる。お婆ちゃんは……と探してるうちに、教頭先生が前に立った。

『これより、昭和42年度卒業証書授与式を行います。一同、起立!』

 ザザっと音がして、全員が起立。式場の空気が引き締まった!

 送辞を読んでくれたのは、わたしたちの跡を継いでMITAKAの活動をやってくれている二年生の関根さん。なんか、ひとまわり大きくなったような気がする。声もしっかりしてるし背筋も伸びてる。やっぱり、MITAKAの経験が生きてるんだろう。自分たちの活動で後輩が育った……と思うと、ちょっと嬉しい。

 続いて答辞。

『卒業生答辞、三年一組 加藤高明』

 え、10円男!?

 10円男が、真面目な顔で前に出ていく。懐から仇討ち免状みたいなのを出して、ぜんぜんあいつらしくない真面目な声で送辞を読んだ!

 ああ、やっぱり人間て変わるものなんだ……感心したよ。

 在校生や参列者が『蛍の光』を歌ってくれたのは感動的だったけど、なんで卒業の歌が『今日の日はさようなら』なんだ! それってエヴァンゲリオンの挿入歌なんですけど! サードインパクト来たらどうすんのよ!

 あっという間に、一時間余りの卒業式が終わって、最後のホームルーム。

「……これで配布物は終了。大正元年生まれの僕が、昭和の29年やら30年生まれの君らを見送るとは、ちょっと感無量ですなあ。29年いうと『ゴジラ』が公開されて、『ローマの休日』の日本公開も29年です。君らは、さらに成長して……はてさて、ゴジラになるか、ゴジラやっつける芹沢博士になるか。はたまたグレゴリーペックの新聞記者かアン王女か。まあ、可能性は無限大です。せいだい頑張ってください」

 簡単に、でも分かりやすくて思いの詰まった言葉に、全員で拍手。先生は「そんなたいそうなことは言うてないから(^^;)」と頭を掻いて、三年一組は解散した。

 そのあとは、中庭にMITAKAの仲間で集まって、直美さんが貸してくれたカメラで記念撮影。

 真知子、たみ子、佳奈子、ロコ、高峰君に10円男、演劇部の牧内さん、そして、三年から加わったナースチャとカチューシャ。ロシア人の二人は時空を超えて、このわたしは52年の時をさかのぼってこの輪の中に居る。このシャッターが下りたら、みんなそれぞれの道、それぞれの時空に戻っていく。

 わたしは、どうやらMS・魔法少女。

 卒業まで待ってくれりゃあいいのに、KODなんかが現れて、なんとかダイダラボッチはやっつけた。

 ロシア人の二人もそうだけど、魔法少女のスキルを磨くため、京都の恩妙大学に進学。

 ひょっとして、恩妙大学に通いながら仕事もさせられるのかなあ……いや、今日は高校最後の日。

 ひとつ種をまいておこうと思った。

 10円男は、これからの展開によっては、徒(いたる)伯母さんの、場合によってはわたしの亭主になる可能性もあるらしい(そのつもりはないけど)。

 ちょっとあいさつ代わりに……と、奴の姿が無い。

「あ、加藤君なら学食の裏の方に行きましたよ」

 ロコに教えられて自販機の並ぶ学食裏。


 え!?


 そこには、向き合っている10円男と二年生の関根さん、そう、送辞と答辞のコンビだよ!

「ど、どうもありがとうございました!」

 タタタタタ

 そう言うと、なにか小さなものを握って、関根さんは掛け去って行った。

 そして、赤い顔して突っ立っている10円男の第二ボタンが消えていた。

 わたしがやろうとしていたことを、彼女は、わたしの何杯も本気の気持ちでやったんだ。


 一つの未来が閉ざされた。


 まあいい。

 それよりもお祖母ちゃんだよ。時司応さん! 孫娘の卒業式に来てないなんてありえないんですけど!

 

 ☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         3年1組 クラスメート
辻本 たみ子            3年8組 
高峰 秀夫             3年6組 
吉本 佳奈子            3年4組 バレー部
横田 真知子            3年8組 リベラル系女子(MITAKA初代代表)
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
ナースチャ             アナスタシア(ニコライ二世の第四皇女)
カチューシャ            エカテリーナ二世(ゾフィー・アウグステ・フリーデリケ)
ユリア               ナースチャを狙う魔法少女
KOD(キングオブダークネス)    魔王 手下に四天王たち 
ワン                神のお使いの子ぎつね
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              3年学年主任
先生たち              花園先生:1・2年の時の担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史・3年1組担任:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物・神さま          アキラ 戦艦石見(アリヨール) 藍(アオ、高松塚の采女) オトタチバナ ワン 上野大仏 天目一箇神 画狂老人卍 ハチ 赤い靴の女の子 ビクターの犬
その他の生徒たち          滝沢 栗原 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長) 関根(MITAKA二代目リーダー) 高石(文化委員)
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
   

勇者姫騎士

055 :  シュプルーデ川の氾濫   



 

 川は氾濫していた。

 浮橋は複数の木造船を二本の鎖で繋いだものなんだけども、これがグチャグチャ。壊れたりひっくり返ったり、バラバラになって鎖を繋ぐ金具だけが残っていたり、とても橋としては使えない。二本の鎖だけは切れもせずに残骸と化した船やそれに絡まった木や草をまとい付かせて、半ば川を堰き止めている。

 当然、上流側は水が両岸の岸にあふれ下流の倍の川幅になっている。その水圧は結構なもので、残骸の隙間から噴き出る水はあたかもジェットバスの見本市。場所によっては噴流が川底を穿ち、クルクルと瓦礫にシンクロナイズドスイミングの真似をさせている。とてものこと、瓦礫を伝い、あるいは避けながら向こう岸に行くことなどできそうにない。向こう岸には数十人、こちらの岸には千人を超える旅人たちが為すすべもなく佇んでいる。

「なぜでございましょう、雨や嵐があったようには思えないのですが……」

 エマの疑問はもっともだ、ズィッヒャーブルグからいくらも来ていない。夕べは、途中の河原で温泉を掘ってキャンプしたけど、雨も風も無くて星空がきれいだったぞ。

「ハァー……これはな、北の方で魔物が大暴れした影響じゃ。それで、森やらなんやらがグチャグチャになって流されて来たんじゃ……」

 旅慣れた感じの商人がため息交じりに話してくれる。

 見れば、残骸には焼け焦げや爪の痕が残っているものがある。

「瓦礫伝いに飛んでいけば……」

 俺とヒルデは短距離なら飛ぶことができる。エマを介添えしてやればいけるのではと思ってしまう。

「止めた方がいい、数は多くないが、死にぞこないの魔物が混じっている。擬態したり姿を消したり、下手に渡ったら食われるか殺されるかじゃて」

「そうでしょうねえ……」

 魔物はいろいろだが、総じて生命力が強い。油断は禁物だ。

「あ、あいつら!」

 しびれを切らした五六人、冒険者だろうか、フワリと浮いて渡り始めた。

「ええー!」「待て!」「ちょっと!」「止めとけ!」

 岸の大方の者からため息や制止する声があがる。

 すると、突然残骸がピクリと動いて、木の切れはしやツタの絡まったのが腕やら舌やら触覚になって、あっという間に四人を呑み込み、残る一人はなんとかこっちに戻ってきた。

 ああぁ…………

 非難か憐れみか、その両方か、声が上がって旅人たちが戻ってきた一人を介抱する。中に白魔導士が居て、静かに回復魔法をかけ始める。

 街道を行く旅人たち、普段は互いに無関心みたいだけど、こういう時には不器用だけど連帯感があるみたいだ。

「しかし、なぜでございましょう……」

「なにか不審なのか?」

「大水で橋そのものはグチャグチャなのに、鎖は切れずに両岸に繋がっているのでございますねぇ」

「「ああ……」」

 ヒルデと二人——そう言われれば——と感心する。

「あれはね……」

 商人の隣にいた尼さんが身を乗り出した。

「聖勇者フンメル様が、魔王から没収なさったヘルチェインだからでございますよ」

「え、フンメルの!?」

「まあ、呼び捨てにしてはいけません。一万年の昔、初めて魔王を討伐されて、地上に平和をもたらしたお方なのですから」

「え」「あ」「フンメルさま……なぁ」

「おかげで、この地上、多少の魔物は出るようになってきましたけれど、いちおうの平和は保たれているのですからね」

「ああ、そうだなぁ……でも、そろそろ後継の勇者か聖女だかが現れて、もう一度魔王を退治してくださらんとなあ……」

 旅の商人は、岸の受難者たちを代表するように愚痴を言う。

「そうですね、そうです。そのために、わたしは勇者フンメル様、いえ聖者フンメル様の墓所を探しているのですから」

「おお( ゜Д゜)!」  

 ええ……!?

 商人は目を剥いて感嘆し、俺たち三人も驚いたけど、声には出さなかったぞ。

「しかし、尼さん、伝説じゃ勇者フンメルの墓は、もっと南の方。川を渡ったら逆方向になってしまいませんかね?」

 商人が当たり前のことを言う。

「わたしは、向こうから来たんです。渡り終えたところで川が氾濫して、大勢の方々が難儀しておられます。非力な尼僧ですが、フンメル様がお掛けになった橋。伝説の勇者のご加護をと、祈りをささげております」

 ウィンプルから覗いた眼は、宝塚の出まちをしているおばさんみたいに輝いている。

「おお、そうでしたか、これはご奇特な」

「さあ、ただ嘆いていても始まりません、どうです、みんなで聖勇者様と神さまに祈ろうではありませんか」

 多少の戸惑いはあったが、たった今、三人の冒険者が犠牲になったところでもあり、尼さんを中心に野外ミサが始まってしまった(^^;)。

 
☆彡 主な登場人物

・鈴木 秀(すずきすぐる)    三十路目前のフリーター
・ブリュンヒルデ         ブァルキリーの戦乙女
・エマ              バンシーのメイド
・女神(甲と乙)         異世界転生の境に立つ正体不明の女神たち
・ハンス・バウマン        ズィッヒャーブルグのギルドマスター
・フンメル            西の墓地に葬られている一万年前の勇者
・カルマ             フンメルとパーティーを組んでいたエルフの魔法使い
・トルクビルト(工藤甚一)    ズィッヒャーブルグの幻影魔法士(娘:ビアンカ、カリーナ)
・秀を取り巻く人々        先輩  アキ(園田亜妃) 田中
・魔物たち            ガイストターレン 
   
 

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

304『決戦舎人公園・3・激突ダイダラボッチ戦!』




 ウルトラQみたいだ。

 そもそも、平成生まれのわたしはウルトラQもウルトラマンもリアルには知らないんだけど。なんせ1973年の高校に通っている。
 学校の仲間は、中学一年の時に始まったウルトラQを——すごい!——と感動し、ウルトラマンに変わって——子供だまし!——と見下げているところがある。
 昭和の去年始まった『帰ってきたウルトラマン』はタイトルからして『帰ってきたヨッパライ』のモジリで「志が低い!」と、10円男の加藤高明なんかは見下している。

 シュワッチ! ジョワ! とか言って突如現れ三分で去っていくのは、たしかにチープ。なんだけど「三分の時間制限はよく考えたわね」と写真館の直美さんは言う。「特撮は時間とお金がかかっちゃうからね、三分以上戦ったら、セットのミニチュアも製作費ももたない」んだそうだ。令和だったら、生成AIで一時間もあればできちゃうんだけどね。

 しかし、50年後の令和じゃ、ウルトラマンの方がだんぜん有名。ウルトラマンオメガなんて、つい先月までやってたし、映画で『シン・ウルトラマン』やってたしね。

 で、なんでウルトラQかというと、目の前のマーブル模様。

 大池から湧き出たダイダラボッチはサルメさんとサルタヒコさんが、渾身の力で公園中の遊歩道をシャッフルして再び封じてくれている。どうも付近の道路も合わせて搔きまわしてるみたいで、まるでウルトラQのタイトル画像。

 ウルトラQのタイトルは、グニャグニャのマーブル模様がグニャグニャと回転して『ウルトラQ』のタイトル文字になる。あれに似てるんだ。

『ああ……!』『もうだめです!』

 サルメ、サルタヒコ夫妻の最後の抗いは三分も持たなかった。

「ありがとう!」「じゅうぶんです!」「スパシーボ!」「ワン!」

 三人と一匹でお礼を言って、いっせいに飛び掛かる。

 サルメ、サルタヒコが稼いでくれたのは三十秒ほどだけど、その間に、それぞれの攻撃ポイントを探った。

 関節だ!

 三人と一匹で、それぞれ目標の関節を攻撃!

 ズガ! ドガ! ドゴ! ガチン!

 しかし、元々が土属性のダイダラボッチ、多少の土肉は削れるけども、関節を破壊するところまではいかない。しかし、右手の先を狙ったワンは小指の先を切り落とした。

 グオォ

 そのために、腰の刀を抜く手をはじかれたように放してしまうダイダラボッチ! そのすきに、距離を取る。

 グッゴオオオオオン!!

「あ、キレた!」

 今のショックでゲキオコマックスになったダイダラボッチは、一瞬で全身に鎧をまとってしまった!

「なんか大魔神……」

「大魔神は乙女の涙に弱いっす! だれか、あいつの足に取りついて涙こぼすといいっす!」

「「「やれるかあ!」」」

「じゃあ、なんとかしてっす!」

 ジャラン

 ためらっているうちに、腰の剣を抜くダイダラボッチ!

 ビュン! ズバ! ビュビュン!

 図体に似合わない速さで剣を振るう! 取りあえず、躱して逃げるので精いっぱい!

「グズグズしてると予備隊がきちゃうわ」

 ナースチャは背後を心配する。舎人ライナーの向こうは陸上競技場で、敵の予備兵力が隠されている。

 おりゃー!  バウ!  とーー!  それぇーー!  バウ!! そこぉー!!  バウバウ!!

 きみちゃんたちとビクターのニッパーたちが懸命に防いでくれている!

「もう一度旋回しながらかかるぞ!」

「「おお!」」

 カチューシャの掛け声で、もう一度アタック!

 ガギン!! ドゴン!! バキキン!!

 グラ

 今度は効いた、ダイダラボッチは剣を杖に膝をついた。

「腕の筋を切ってしまえば……」

 打ち込みの浅かったナースチャが単独で突っ込む。

「「ナースチャ!」」「ワン!」

 ムズ

「ムグ!」

 ダイダラボッチは柄を握っていた手を放してナースチャを掴んだ!

 ギリギリギリ……

「握りつぶされてしまうっすよ!」

「させるかあ!」

 ビビュン! ガシ! ゲシガシ! ガシ! ゲシガシゲシ! ガンガン! ゴンゴン!

 闇雲に叩くけど、敵も怒りで力を増幅している、渾身の力で打ちかかっても効果がない!

「あ、ああ……(>▲<)!!」

 メリメリメリメリ……

 はみ出たナースチャの体から悲劇的な音がする!

「ワンワンワンワン!」「くそぉ!」「放せ!」

 ガシッ!! ゲシガシッ!! ガシッ!! ゲシガシッゲシッ!!

 ナースチャの顔が見る見る赤黒く腫れて、口の端から血が流れ出る!

「「ナースチャーー!!」」

 ゲシガシッ!!! ガシッ!!! ゲシガシゲシッ!!!

 
 ドッゴオオオオオオオオオオン!!!


 強烈な爆発!

 わたしもカチューシャも吹き飛んで、ワンなんかどこに飛んだのか姿も見えなくて……気が付くと、首だけになったダイダラボッチが、大池の向こう、そりゲレンデをカタパルトにして空に逃げていくところ。大池には足を粉砕され、胴体もバラバラになったダイダラボッチの残骸が浮き沈み。

「カチューシャ、ナースチャを……」

「ナースチャ!」

 ナースチャは、わたしの横でボロボロになって横たわって……でも、息はある。手足もちゃんと付いている。

「た、助かったのね……」

「ああ、やっつけた、奴はバラバラになって北に、首だけが逃げていくところだ」

「よ、よかった」「うん、よかった」「ありがとう、二人とも……」

 ザッパーーーン

 その時、大池の水面に浮かび上がってくるものがあって、カチューシャと二人身構えてしまう!

「え……」「潜水艦だと?」

 それは、無口なわが友、潜水艦のアキラだ。

 カチャ

 司令塔のハッチを開けて出てきたのは晴天と石見。

「ありがとう! 石見が魚雷を撃ってくれたのね!?」「スパシーボ!」

 うんうんと頷く二人。大きな声が出せないナースチャは手を振る。

 その時、前のハッチから出てきたアキラが北の空を指さした。

 ピカ…………ドン

 無口なアキラに代わって晴天が解説。

「荒川遊園の……アリスの広場だったっけ、あそこの高射砲が撃ったんだ」

「諸元とタイミングは、アキラが教えたんだけどね」

 石見が付け加えると「見届けた、行くぞ」と、そっけなく艦内に戻るアキラ。

 二人も「「それじゃ」」と艦内に戻り、急速潜航してアキラは姿を消した。


 上野さんがいつの間にかやってきていて、そっとナースチャを寝かせて駿河台の秘密基地に戻った。


 カレンダーを見ると、卒業式が明後日に迫っていた。



☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         3年1組 クラスメート
辻本 たみ子            3年8組 
高峰 秀夫             3年6組 
吉本 佳奈子            3年4組 バレー部
横田 真知子            3年8組 リベラル系女子(MITAKA初代代表)
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
ナースチャ             アナスタシア(ニコライ二世の第四皇女)
カチューシャ            エカテリーナ二世(ゾフィー・アウグステ・フリーデリケ)
ユリア               ナースチャを狙う魔法少女
KOD(キングオブダークネス)    魔王 手下に四天王たち 
ワン                神のお使いの子ぎつね
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              3年学年主任
先生たち              花園先生:1・2年の時の担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史・3年1組担任:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物・神さま          アキラ 戦艦石見(アリヨール) 藍(アオ、高松塚の采女) オトタチバナ ワン 上野大仏 天目一箇神 画狂老人卍 ハチ 赤い靴の女の子 ビクターの犬
その他の生徒たち          滝沢 栗原 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長) 関根(MITAKA二代目リーダー) 高石(文化委員)
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
  
 

勇者姫騎士

054 :   ノブレスオブリージュ 




 テントを畳み、トイレを収納する。

 
 どう慰めたらいいのかと心配したんだけど、ヒルデはいつもの通りだ。

 戦士としての戦乙女の矜持なのか、人の上に立つ姫騎士としての誇りなのか。

 ちょっと痛々しいんだけど、下手な慰めはかえってヒルデを傷つけてしまうだろう。

 だから普通にする。

「ノブレスオブリージュでございますね……」

 準備が整い、先頭に立とうとするとエマがささやいた。「ああ」と小さく返すだけで、俺は前に進む。

 ノブレスオブリージュ、高貴なる義務。

 元はフランス語——高貴な身分を保障された者は、例え法律によって強制されていなくても、果たさなくてはならない義務がある——という道徳律というか行動規範だ。

 戦争が起これば、徴兵されなくても自ら志願する。災害が起これば身を挺して復旧救助の任に当たる。災厄から逃れるときも、女子供を優先し、たとえ命を落とすことになっても我勝ちに逃れたりはしない。
 タイタニックが沈むときに、幾人かの男たちが他者を逃すために自分たちを後回しにしたことや、船の楽団員たちが、沈みゆく船のデッキで、最後まで讃美歌を演奏していたとかな。

 営業で移動中、当て逃げの現場に出くわした。当てられた車の運転席でドライバーがぐったりしていて、少し行ったところで俺と先輩は車を止めて救助に向かった。
 いつもは、時間厳守の先輩、他に走ってる車も多く、警察もすぐ来るだろうに、わざわざ自分たちが向かわなくても……と思った。けっきょく警察に連絡して救急車が来るまで、ろっ骨を折ったドライバーを励まして遅刻してしまった。
 むろん取引先に電話は入れたし、向こうも「大変ですねぇ」とは言ってくれたが、街中での事故、わざわざ俺たちがという気持ちは俺にもあった。

「ノブレスオブリージュですね」

 そう言った俺の言葉には微妙に棘があった。他にいくらも車は走っていたしな。

「俺たちのは営業車だ」

 車のボディーには、そう大きくはないが社名とロゴマークが入っている。

「この時代、どこにでもカメラがあるからな」

 アッと思った。

 俺たちの前後にはいくらも車が走っていて、沿道の建物にも監視カメラがある。俺たちは必ず撮られている。

 そういうことか……後日受付の清水さんに話したら「営業車でなくても停まっていたわよ」と言っていた。


 エマが言ったノブレスオブリージュは、ヒルデの——旅の前衛として義務を果たそう——という気持ちを尊敬を籠めて言っているんだ。

 俺は、自然な形で前衛に出た。いっしゅん——え?——という顔をしたヒルデだけど、大人しく後衛に回った。

 
 しばらく行くと道は二つに分かれている。

 右 ⇒ 近道   左 ⇒ 遠まわり

 半ば埋もれた道しるべが簡潔に説明している。

「近道でいいよな?」

 そう聞くと、二人に異議はなく、俺たちは右を選ぶ。

「ちょっと待ってください」

 数十メートル行ったところで、エマが立ち止まった。

「埋もれたところに、まだ書いてあることがあります」

「そうなのか?」

 少し掘ってみると、右は『シュプルーデの浮橋』、左は『シュタイル峠』とある。

「橋と峠か……」

「峠には魔物がいることがございます」

「「ああ……」」

 これまでも、そういうところで出くわしている。つい昨日アキの偽者が出たのも微妙に街道の凹のところだ。

「よし、やっぱり右に行こう!」

 俺たちはシュプルーデの浮橋を目指した。

 
☆彡 主な登場人物

・鈴木 秀(すずきすぐる)    三十路目前のフリーター
・ブリュンヒルデ         ブァルキリーの戦乙女
・エマ              バンシーのメイド
・女神(甲と乙)         異世界転生の境に立つ正体不明の女神たち
・ハンス・バウマン        ズィッヒャーブルグのギルドマスター
・フンメル            西の墓地に葬られている一万年前の勇者
・カルマ             フンメルとパーティーを組んでいたエルフの魔法使い
・トルクビルト(工藤甚一)    ズィッヒャーブルグの幻影魔法士(娘:ビアンカ、カリーナ)
・秀を取り巻く人々        先輩  アキ(園田亜妃) 田中
・魔物たち            ガイストターレン 
   
 

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

303『決戦舎人公園・2・大池のラスボス』




 え?

 洋式の城、その真ん中のタワーに迫ると、その天辺はもぬけの殻。

 よく見ると胸壁の凸と凸の間に空白があって、悪い予感!

 トォーー!  ボ!

 飛び上がるのと火炎が同時だった! タワーの横にらせんを描いてドラゴンが這い上がって、胸壁の隙間から火炎を噴いたんだ。

 オリャー! ガシガシガシガシガシ!

 着地しながらドラゴンの胴を打つ! 致命傷は与えられないけど、硬いうろこを削って、少しは中の肉に切り込めている。

 ウォーーーーーン

 筒状のものが共鳴するように鳴いたかと思うと、着地した時にはドラゴンはタワーの天辺に繋がった螺旋チューブの滑り台に変わっている。

 ズチャ

 用心のために如意と宝剣を構えなおす!

 シュワワワワ~~~~ン

 無数の泡が消えていくような音がしたかと思うと、洋式の城は『樹上の小道』『林の小道』という遊具に変わり、タワーに見えていたものは円筒埴輪の塔という三階建ての遊具。和式の城は、その名も舎人城。海賊船も含めて、連なっていた城壁や廓は全部遊具。

 足立区の遊具の恐ろしさ……いや、恐ろしくしてしまったKOD(キングオブダークネス)の力なんだ!

 一刻も早く、大元をやっつけなければ!

 トォーーーーーーー!

 一気に舎人公園通りを飛び越える。もう進路を阻む妖も化け物も居なくて、着地したそこには本丸の大池が静かに水を湛えている。

 スト ストン

 両側にナースチャとカチューシャが立った。二人ともコスにかぎ裂き、焼け焦げがチラホラ。髪もどこのジャングルから出てきたんだという感じにグチャグチャ。頭のカチューシャがかろうじて爆発頭になるのを防いでいる。

「グッチだって……」

 ナースチャが指を振って仮想ミラーを出す。

「う…………(-_-;)」

「そういうのは勝ってからだ……来るぞ!」

 ズチャ  ドッパーーーン!

 得物を構えるのと、そいつが現れるのが同時だった!

 
 グォーーーーーーン!! バッシャーーーン! ビリビリビリビリビリ


 大池の水を分けて、そいつが現れると、水は溢れ、地面は巨大地震のように激しく揺れる!

 反射的に地上一メートルほどに浮遊したので、揺れによる混乱やダメージは無い。

「なんちゅう、大きさなのよ……」

 ダイダラボッチの『ダイ』は『大』のことなんだと思い知った。

 葛飾で、先代ダイダラボッチの頭蓋骨を粉砕したけど、あれから、想像できる十倍は大きい……頭から予測される体のスケールを超えている。人間風に表現すると二十頭身、ゴジラ相手でも十分張り合えるくらいに大きくてゴッツイ!

「ゴーレムの一種か……」

 呟きながら構えを変えるカチューシャ。

 ンガーーーーーーーー!! ビリビリビリビリビリ!

 そいつが吠えると、また地面が揺れ、水面に波が立つ。

「距離を取るぞ……」

 カチューシャの呟きに、ナースチャと二人100メートルほど後ずさる。

 ウィ~~~~~~~ン

 空間がねじれ、そいつもろとも景色がマーブル模様に歪んだ。

——公園の遊歩道をシャッフルしました、長くは持ちませんが——

 サルメさんだ、旦那さんのサルタヒコといっしょに最後の援護をしてくれているんだ。

「三方から囲め!」

「「了解!」」

「四方からっす!」

「よし、四方からだ」

 ワンも加わって、距離を置いたまま、四方から、そいつを囲んだ!

 ツギの指示を…………そいつを睨んだまま、唇をかむカチューシャだった。



☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         3年1組 クラスメート
辻本 たみ子            3年8組 
高峰 秀夫             3年6組 
吉本 佳奈子            3年4組 バレー部
横田 真知子            3年8組 リベラル系女子(MITAKA初代代表)
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
ナースチャ             アナスタシア(ニコライ二世の第四皇女)
カチューシャ            エカテリーナ二世(ゾフィー・アウグステ・フリーデリケ)
ユリア               ナースチャを狙う魔法少女
KOD(キングオブダークネス)    魔王 手下に四天王たち 
ワン                神のお使いの子ぎつね
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              3年学年主任
先生たち              花園先生:1・2年の時の担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史・3年1組担任:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物・神さま          アキラ 戦艦石見(アリヨール) 藍(アオ、高松塚の采女) オトタチバナ ワン 上野大仏 天目一箇神 画狂老人卍 ハチ 赤い靴の女の子 ビクターの犬
その他の生徒たち          滝沢 栗原 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長) 関根(MITAKA二代目リーダー) 高石(文化委員)
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
  
 

ての勇者ぎの姫騎士

053 :  ヒルデが盗まれたもの




 浴衣姿のまま、抜身のエクスカリバーを構えて飛んで行った!

 ビシュ! ズバ! ズバズビ! ブン! ブブン! ザブン! バシャ!

 月明かりの街道、街道脇の薮、河原の岩陰、ヒルデがエクスカリバーをぶん回す音が続く。まだ遠くには行ってないだろうと、怪しいところを闇雲に打ったり切ったり掻きまわしたり。

「ヒルデさま……」

 痛々しそうに手を組むエマ。

 いま近づいたら切られかねない、収まるまで待っているしかない。歴戦の戦乙女、姫騎士のヒルデだ、無駄と分かれば戻ってくるだろう。

 それでも10分近く、さんざんにエクスカリバーを振り回し、浴衣の前をはだけさせて、やっと戻ってきた。

「ちょ、ヒルデさま!」

 エマが駆け寄って前を整えてやるのも上の空、岩に腰を下ろしたきり俯いてしまう。

「……いったい、何を盗られたんだ?」

 隣の岩に腰かけて、失意の戦乙女に尋ねる。

 ズチャ!

「ちょ、危ない!」

「これで、わたしを切ってくれ!」

「あ……ああ、俺はアーサー王じゃない」

「それなら、ミョルニルのハンマーで叩き潰してくれ!」

「ここまで凹みきった奴をどう叩けって言うんだ」

「そうでございます、ヒルデ様、エマはバンシーでございます。家事妖精でございます。家族の不幸を黙って見ているようなことはできません。家が不幸になればバンシーは存在できなくなります」

「そうだ、俺たちはパーティーの仲間なんだ。困ったことがあったら助け合うのが当たり前じゃないか」

「そうでございます、家族でありパーティーの仲間なのです、力にならせてくださいませ」

「ヒルデ」

「ヒルデさま」

「すまん、取り乱してしまった」

 とりあえずエクスカリバーを鞘に納めるヒルデ。だが、ストレージに収めることはせずに、大剣の柄に額を押し付けるようにして、ようやく語りだした。

「あいつが盗んでいったものはブァルキリーの名簿なんだ」

「ブァルキリーの……」「名簿……」

「姫騎士としての私の任務は戦で戦死する兵士を選ぶことなのだ……」

「戦死者を」

「ああ、それを書いた名簿はブァルハラの父に届ける」

「ヒルデの父親……主神オーディンのことか?」

「ああ、父は、その名簿をもとに戦死した兵士を蘇らせ、ブァルハラにいざなって、長年の戦い、苦労に報いるのだと言っていた。そのために、ブァルハラには壮大な宴会場が設けられ、幾千人ものニンフや女神が戦死者たちをもてなし慰める。宴に疲れたら、これも壮大幽遠の園で幾時間幾日でも休み、やがては永遠の安息を得る……そういうものだと、子どものころから思い、この戦死者を選ぶ任務を光栄なことと思っていた」

「……違ったのか?」

「ああ、わたしが選んだ戦死者はブァルハラに招かれる……そこまでは、父の言葉に嘘はない。ブァルハラの宴会場、幼い私は立ち入ることを許されなかったが、いつも、楽し気な歌や戦士たちの喜ぶ声が聞こえていた、遠目に見る幽遠の園ではニンフや女神たちに膝枕してもらっている戦士たちが見えた。戦で失った手足も元に戻って、潰れた目や耳も元の機能を取り戻していた。だから、16の歳で戦死者を選ぶ任務を任された時は、やっと、わたしも、このブリュンヒルデにも女神らしい救済の仕事ができると喜んだものだ」

「……違ったのでございますか?」

「戦士たちは……ブァルハラで休息したあとは、幽遠の園で眠りに落ち……ラグナロク、最終戦争の兵士として送り出されるのだ。戦士たちはほんのひと時の休息を与えられただけで、果ても終わりもない永遠の戦いに駆り立てられるのだ……だから、わたしは名簿を持ってヴァルハラを逃げた。永遠に終わらない戦いなど地獄と変わらんからな」

「それで、リアル日本のコスプレに……」

「ああ、レイヤーたちの情熱とスキルはわたしを隠してくれた。ちょうど『漆黒のブリュンヒルデ』がブームで、日本中、いや世界中、身を隠すところには事欠かなかった」

「…………」

「……その名簿は魔王でも開くことができるのでございますね」

 俺が躊躇っていることを、エマは真正面から尋ねた。

「おそらくは……魔王の手先に使われるなんて、ラグナロクに駆り出されるよりも残酷なことだ」

「……そうか、そうだったのか……」

 エマの言葉に続こうとしたんだが、言葉が出ない。

「卓球をやって、また汗をかいてしまいました。もう一度温泉に浸かりましょう」

「…………そうだな。ありがとうエマ」

「いいえ、ウンターヴェークスの温泉は入った気がいたしませんでしたから」

「ハハ、そうだったよな」

「あ、スグルさまはダメでございます」

 そう言って、エマが指さした脱衣所には『女子の時間』という札がかかっていた。



☆彡 主な登場人物

・鈴木 秀(すずきすぐる)    三十路目前のフリーター
・ブリュンヒルデ         ブァルキリーの戦乙女
・エマ              バンシーのメイド
・女神(甲と乙)         異世界転生の境に立つ正体不明の女神たち
・ハンス・バウマン        ズィッヒャーブルグのギルドマスター
・フンメル            西の墓地に葬られている一万年前の勇者
・カルマ             フンメルとパーティーを組んでいたエルフの魔法使い
・トルクビルト(工藤甚一)    ズィッヒャーブルグの幻影魔法士(娘:ビアンカ、カリーナ)
・秀を取り巻く人々        先輩  アキ(園田亜妃) 田中
・魔物たち            ガイストターレン 
   
 

 

397『再びの北京秋天』




 ふふ、前ばっかり見て……


 メイが小さく笑う。

「だって、馬から落ちたらいやだもの」

「オートホースで落ちるわけないでしょ、せっかく満州に来たんだからお望み通りに『北京秋天』を満喫すればいいのに、北京秋天!」

「ちょっと、大きな声で言わないで、ほらぁ、子どもが笑ってるじゃない」

 奉天の北大路(ベイダールー)を馬の背中に揺られて『北京秋天を満喫』などと言えば、子どもどころか犬や猫でも笑う。

 そういうことを承知でからかうんだから、この妹も根性が悪い。

「やっぱり決心は変わらないの?」

「うん、せっかくジャンケンに勝ったし」

「そうかぁ……」

 越萌メイ、わたしの妹という設定だが、彼女の本性は銀河の運び屋ファルコンZの航海士。わたしが火星から戻ってくるときにアシスタントとしてマーク船長から借り受けた人材。長年わたしの妹でシマイルカンパニーの共同経営者、そういうことで、月島かけると二人でわたしを支えてくれた。

 それが、今回、パルスギスペースボートが開発され、その第一号艇に乗ってプロキシマB(ベータ)を目指すことになった。人類初めての光速船。小型の実験機なので乗員は一名。危険が伴うことでもあり、搭乗希望者は二人だけだった。

 コスモス(メイの本名)とツナカン。ジャンケンでコスモスが選ばれ、来週、地球を離れる。

「かけるもツナカンも居ます、わたしが欠けた分は、北京から小梅(シャオメイ)が来てくれることだし……あ、二宮殿下の一周年祭には出るの?」

「先週お墓参りに行ったわ」

「……そうね、ほんとうの命日は三日前だったものね」

「陛下もお忍びでこられていたわ……」

 二宮親王殿下は、PI成功の報道があった三日後、PIの甲斐もなくお亡くなりになられた……義体の具合が悪かったとされているけど、実際は、三枝元二等書記官が始末したんだ。三枝は野心家だったけど、最後は良心が彼を動かした。殿下の公式の命日は三日後、豊島丘墓地で行われる。

「あ、ちょっと、通り過ぎちゃったわよ」

「え、あ、ほんと!」

 馬首を巡らせてワンブロック戻ると、様子のいいお婆さんがにこやかに出迎えてくれる。

「お待ちしておりましたシマイル姉妹。小爺(シャオイェ)、お着きになられましたよ!」

「声大きいよ老婆婆(ラオポゥポゥ)、東鈴、悟遼、出かけるよ~~」

 奥から出てきた孫大人、さらに奥に呼びかけると、東鈴が走りだしそうな悟遼を宥めながらやってくる。

「いやあ、前に来たところで声を掛けようって言ったんですけどね、うちのが『面白いから気づくまで放っておこう』っていうもんで、ごめんなさい」

「オネエシャンたち、おしょいぃ」

「おお、遼ちゃん、もう喋れるんだぁ(^▽^)」

「誰に似たんでございましょうねえ」

「「こっち!」」

 互いを指さす円満夫婦。それをニコニコと目を細める老婆婆。

「さ、それでは別々に裏にお回りくださいませ。小爺はこっち、お二人は、あちらから三つ目をグルっとお回りくださいませぇ」

 老婆婆が指定する方向に分かれて進むと、かつては裏通りであった方に『カルチェタラン』の看板が見えてきた。

「こんなもの空から見たらまるわかりなんだけどね」「老婆婆が、ここいらの伝統だって」「でんちょー(^▽^)/」

 遊びだか伝統だか分からない趣向、でも、一度は気づかずに通り過ぎたんだから、それなりの効果はあるんだろう。

 東鈴に手を引かれた遼ちゃんが「おっちおっちぃ」と指さす三つ目のドアを開けると。

 おお……!

 思わず、元帥であった頃の声で驚いてしまった。

 そこは、まさに、あのころのカルチェタランの大ホールのままだ。


 一瞬、無人かと思ったら、上手(かみて)側のテーブルに大小二つの人影。こちらに気づいたのか立ち上がる気配。

「申し訳ありません、お待たせしてしまったようですね」

 メイが頭を下げると、二人そろって立ち上がり、大きい方の森之宮茂仁王殿下が穏やかに挨拶を返される。

「いえいえ、急な決心をしたのはこちらの方ですから。快くお受けいただいて感謝しています」

「お世話になります」

「ああ、尊信くん、すっかり声変わりしちゃったわねえ」

「あ、ハハハハ、納骨の時はお世話になりました。メイさんとは、恩地でお目にかかって以来ですね。お世話になります」

「いやあ、孫大人とこの遼ちゃんもそうだけど、子どもが大きくなるのって早いわねえ」

「お母さんはお元気?」

「はい、もう子供じゃないって言うんですけど、来週には名古屋を出てこちらに来ることになっています。親子でお世話になって、申し訳ありません」

「「ううん、こっちこそ」」

「プ(* ´艸`)」

 メイと声が揃って尊信くんが小さく噴き出す。

 よかった、菊水会に追いかけまわされ何度か拉致されかけ、八尾さんが保護してくれたとは言え、素直に育ってくれてホッとする。

「アイヤー、そろそろ始めてもいいあるかぁ?」

 孫大人の声で、ささやかに三つの人生の転換が祝される。

 うちのメイ、 森之宮茂仁王殿下、 吉野尊信少年、

 メイは、さっき言った通りプロキシマBに旅立ち。茂仁王と尊信少年はしばらく日本を出る。奉天某所に居を移し、満州からモンゴル……そのあとはまだ未定の旅に出る。むろん、時々は奉天に戻ってくるんだけど、その所在は明らかにはしない。

 実は、先週のこと。

 陛下は、譲位を宣言された。

『この一年、摂政敷島宮(道興)に職務を委ねてまいりましたが、摂政はみごとに役目をはたしてくれました。また、国民のみなさんにも暖かく受け入れていただき、ここに譲位の機は熟したように思われます。よって、皇位を敷島宮に譲り、わたしは上皇として赤坂の仙洞御所に移りたいと思います……』

 静かなご宣言だったけど、その意味は大きい。

 江戸時代に後光明天皇が崩御され、閑院宮に皇統が移って以来、いや、継体天皇が越の国から移ってこられて以来のできごと。

 陛下は明らかな言葉でおっしゃったことはないけども、二千有余年の伝統をお守りになった。

 陛下が摂政に敷島宮(摂政になるにあたり、陛下が辺境伯にお与えになった宮号)をご指名されて以来、菊水党、皇統会を中心とする争いは終息し、国内に秩序が戻った。

 日本国民の多くは口には出さないけども、なにが正しいか民族的血脈の中で知っていたんだろう。

 総理は陛下をPIせざるを得ない状況に陥らせ、他にも政府の信用を失墜させること(松代に政府と議会を移したこと、岩田前総理に対する仕打ちなど)が多く、東京に戻った議会により不信任を突き付けられ、先般の総選挙では、史上初、現職総理というアドバンテージを持ちながら落選してしまった。

 ささやかな宴が果て、みんなで屋上に上ってみる。見上げた空は見事な群青。

「うん、北京秋天だぁ!」

 思わず口走ったら、老婆婆に「ここは奉天でございますよ」と注意された。



 銀河太平記 第一期  完



☆彡主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    第一師団曹長、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府書院番士 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)       第一師団軍医、一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中だった
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士 
加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆              扶桑幕府将軍 
扶桑 徳子             道隆の御台所
扶桑 道興             玄武守、道隆の弟、二人の息子(道次・道忠)と娘がいる
本多 兵二(ほんだ へいじ)     書院番士小姓頭、彦と中学同窓
胡蝶                元小姓頭 将軍直属の隠密
児玉元帥(児玉隆三)         地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)          児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 東鈴(妻) 悟遼(息子)
テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
森ノ宮茂仁王            心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)  銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平) 島守を称す(270から)
村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく)       元輸送船の船長  大統領秘書官
朱 元尚 少将           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
三枝(さえぐさ)仲夫        元上海領事館二等書記官 朱のブレーンの一人

※ 重要事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西之島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
御山       西之島の火山
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟