◇幻想の“家”に癒やし
女性従業員がエプロン姿の「メード」に扮(ふん)した「メードカフェ」が人気らしい。全国で100店舗以上はあり、マニアの男性だけでなく女性客もいると聞くと、どういうところか知りたくなった。ここは女性記者の目で見たルポを読みたい。
メードカフェといえばアキバ(東京・秋葉原)。この界隈(かいわい)で、5年ほど前に誕生し、全国に広がったと言われ、今も最も多くの店舗がある。
電気店街の一角にある雑居ビル。メードカフェのドアを開けた。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
え?私のこと……。はっきり言うて40過ぎてますねん。呼ぶ方もツラいかもしれないが、呼ばれる方もどんな顔をしていいか分からない。思わずうつむいてしまう、お嬢様だった。
メードカフェでは、男性客を「ご主人様」、女性客を「お嬢様」と呼ぶ。メードのいる家に主人が帰宅したとの想定に基づいているからだ。年配の女性や女装した男性など、呼び方に困る客も結構来ると後で聞き、少しホッとした。
定番のあいさつで迎えてくれた女性従業員は、フリルが付いた白いエプロンを着け、黒い上着に黒いスカート。丈はひざ上10センチぐらいの人も、ロングの人もいる。それぞれ愛称を書いた名札を付けていた。
茶色を基調にした店内は、装飾がほとんどない。秋葉原でも最大級の約60席の店ながら、私が入った時は、男性の一人客が3人とグループ客が1組だけだった。グループ客以外は本に没頭している。喫茶店なのに音がない。
う~ん……、一体何が楽しいんだろう。
店を出た男性客(23)に取材した。埼玉から週1回程度、近くのアニメ専門店に来て本を買い、この店で休んでいく。彼は「店員がやさしいから通っている」と答えた。
「お気に入りの人はいますか?」と聞くと、即座に2人の名前をあげた。アニメ本に熱中していたはずなのに、いつメードさんを見ていたのだろう。
後日、メードカフェ常連に聞くと「チラ見」という言葉があるそうだ。自分の世界に没入しているようで、しっかり女性を観察している。
彼らにとって、メードさんはアイドルのような存在だ。本物より身近なところが魅力なのだろうが、私はまたまた、う~んと考え込んだ。
大阪・日本橋で、周辺の約10軒のメードカフェを渡り歩き、1、2軒は必ず毎日行くという男性(19)に会った。彼は「ニート」と自称し、月5、6万円の費用は、家族にもらっている。「コミュニケーションを求めて」通うのだという。1人で来る他の客に話しかけて友だちになり、どこかの店で集まる。話の輪にメードさんが入ることもある。「アニメなど共通の話題があるので、他の場所で普通の女性に話すより、メードさんの方が話しやすい」と言った。
とはいえ、あまりメードさんと親しげにすると「ネット上の掲示板でたたかれる」という。教えられた掲示板を見ると「○○(店名)の○○(メードの名前)は、客と話してばかりでちゃんと接客しない」「客とメードが馴(な)れ合っている」などと、厳しい。
1年以上働いているメードさん(25)は「話しかけたそうでも声を掛ける人は少ない。やさしい人が多いと思います」と証言する。
「メードカフェ」の看板は一種のろ過装置だ。入る時点でそれを楽しめるかどうか選択を迫られる。さらに、ほとんどがメードさん目当てに通っていても、直接的な行動に出て他の客のイメージを壊すと、客同士の圧力がかかる。そうして守られた仮想世界で、ようやく安心できる人が多いのだろうか。
大阪では、客がメッセージを残すとメードさんが返事を書く“交換ノート”を置く店が多く「かわいいメードさんの笑顔に癒やされた」という内容の書き込みが目立つ。確かに言葉や態度が丁寧で、女性にとっても安心感がある。「ファミリーレストランよりサービスがいい」と言った男性客もいた。店によっては、カップルやグループ客でにぎわい、普通の喫茶店と変わらない。
料金は、安い店でコーヒー400円ぐらいから。全体に割高だ。メードさんがオムライスの卵焼きの上にケチャップで絵を描くなど、メニューによってはサービスが付く。ある店では、指名したメードさんが席に来て握ってくれるおにぎり2個に、写真撮影付きで1500円。ぎこちない手つきは学園祭の模擬店のようでほほえましいが、おにぎりは「雪合戦の玉か」と思う出来だった。
メードさんだって、今どきの女の子。接客は「演じている面がある」という人も多く、結構クールだ。
ある店で、近くのゲームセンターで取ってきたぬいぐるみを抱え、メードさんにプレゼントする男性客を見た。誕生日にブランドバッグなどを贈る客もいるらしい。取材前に考えていたのとは逆に、圧倒的に優位なのはメードさん。ご主人様はぜい弱だ。
数百円でご主人様になれるメードカフェの流行を、私は喜べない。幻想に守られた“家”で、飲み物を混ぜてくれるメードさんをうっとり眺める男性客に「いい若い者が大丈夫か」と胸ぐらを揺さぶってやりたい気持ちがわきあがってくるのだった。