「宇宙船とカヌー」

ケネス・ブラウアー 著

芹沢高志 訳

ヤマケイ文庫

 

 

 

 

 

 

 先週はどこにも出かけられなかったため、今回のブログでは最近読んだ中で特に面白かった本の話をすることにします。私が読む本は大抵ミリタリー関係の本が多いのですが、今日取り上げるのはある父親と息子の人生を描いたノンフィクション作品です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 英国人フリーマン・ダイソンは天才的物理学者で、戦時中は空軍の戦略爆撃部隊の作戦の効率化のために尽力。戦後は米国に渡って大学教授となります。世の中は次第に宇宙開発の機運が高まりつつある状況で、フリーマンを中心とするチームは原子力パルスを推進力として進む宇宙船を開発して外惑星にコロニーを作って人類を移住させる【オリオン計画】を発動させます。

 

 そんな中、フリーマンにはジョージという息子が生まれました。天才科学者の息子ジョージは父親に似て少し変わった男の子でした。彼は小さいころから船に興味を持って、模型作りから始まってついには部屋の中いっぱいの大きさの小舟を作って湖に漕ぎ出します。

 

 

このころはかわいらしいのですが、次第に世の中は難しい時代になり、60年代~70年代の若者は荒れ始めてきます。ジョージも例にもれず、髪や髭を伸ばし、ボロボロの服を着、マリファナに手を出します。ベトナム戦のころのヒッピームーブメントとかの頃でしょうか。日本も学生運動とかで荒れていましたね。

 

 ジョージは16歳の頃に父とは不仲になり家を出ます。上の写真はカナダの太平洋沿岸の地で樹上に家を作って暮らしているジョージです。(木の中央にジョージがいます)

 カナダ~アラスカの沿岸地帯は昔からインディアンやエスキモーが彼ら独特の(カヌー)で狩猟、交易、移動をしていた地域で、無数の島と入江(フィヨルド)が入り組んでいて複雑な地形をしています。ジョージは先住民族の使ったカヌーに興味を抱き、これを作ってこの地域を旅したいと考え始めました。

 仲違いした親子ですが、父親は最新科技術学で宇宙(フロンティア)を目指し、息子は昔から受け継がれてきた技術で大自然の中に入っていくことになります。断絶した世代間の価値観のギャップがとても印象的です。二人は違う方向性でなにか新しい未来を描こうと行動していくことになります。

 父親の【オリオン計画】ですが、これはロケット推進の宇宙船を開発するフォン・ブラウン博士(戦時中にペーネミュンデでV2ロケットを開発してイギリスに発射していた人)たちのチームと対決することとなり、ご存じの通り世界はロケットエンジンで宇宙船開発を進めることになりました。原子力パルス推進のオリオン計画は斬新すぎたのですね。

 

 いっぽうジョージの方は独特な仲間たちに囲まれながら6人乗りの大型カヌー【マウント・フェアウザー】を完成させます。(写真のケネス・ブラウアーはこの本の著者です。)この大作の完成を機に、ジョージは父親と再開することを決意。ケネスがフリーマンをジョージの住む島に連れてくることになります。

 久しぶりに再会を果たした親子は数日間を島で共に過ごすことになります。フリーマンは現在のジョージの暮らしと自分が描いてきた宇宙(フロンティア)移住の計画とが何か共通点を持っていると感じたのか、息子の行動に感心し、理解が深まっていきます。「最近の十代は何を考えているのかわからない」といった世代間の溝が埋まっていく感じです。

 幾日かを過ごしたのち、フリーマンは帰っていき、ジョージはまた北を目指してカヌーを進めます。

 ノンフィクション作品なので小説のように話の起伏が大きくはないのですが、筆者が二人に密着して話を聞き、「宇宙開発パート」と「沿岸航路を航海するパート」が交互に展開する構成がとてもきれいな作品でした。父親と息子は全く正反対の方向を進んでいるのに、目指しているものの本質はなにか同じような部分があって、そのために努力していく姿もとても印象的です。

 

 現在とは時代が違いますが、父親世代とティーンネイジャーの世代間ギャップや価値観の相違という部分が今にも当てはまる構図です。また、時代の転換期といいますか、何か新しい価値観を求められている時代に、「こういうアプローチをしてもがいていた人たちが当時いたんだよ」、というメッセージがこの本にはあるような気がして、とても印象的に思いました。

 

 経済成長はいつまで続けなくてはならないのか、という問題があり、それが難しいのなら何か別の価値観は見いだす必要がある現代の世界。英国の物理学者J.D.バナールが言うには、「今後人類には溝が生じ、二つの種類に分かれてしまうかもしれない。一方は技術発展的な道筋をたどって成長を進める。もう一方は自然界の生物が昔から踏みならしてきた道をなるべく辿っていこうとする。こうした人類の分裂には耐えがたい争いや社会的混乱が起こる。」

 

 新興国を中心に増え続ける人口。国家間の格差や不平等によって今後国際的な混乱が起こるのは目に見えています。新しい技術の発展も必要ですし、昔ながらの方法や自然保護の重要性もますます高まっていきます。この本は1984年刊行(翻訳版は2014年)で少し古いのですが、いろんなことを考えさせられ、とても印象的だったので今回取り上げてみました。

 

 

  

 

 

 ちょっと忙しくて出かけられなかったときは今後も読書感想で済ませるブログになることもあるかもしれません。だんだんただの日記みたいなブログになってきました。今年もあと少し。コロナに気を付けてやっていきましょう。ありがとうございました。