「雷撃」

チャールス・ラム 著

宇田道夫   

光藤 亘  訳

 

 

 

 

 

 

 

 【雷撃】-軍艦や航空機などが魚雷を敵の艦船に向けて放つことー

 

 1939年の第2次世界大戦開戦時に英国海軍は多数の海上戦力を保有していて、欧州方面の海上ではまともに戦って勝てる国などないようなほどの状態でした。この保有艦船のなかには多くの空母が含まれていてドイツ、イタリアの海軍からしたら大変な脅威となっていたと思います。

 

 今週は朝日ソノラマ航空戦史14巻「雷撃」を読みました。【雷撃】とは敵を魚雷で倒すことで、今回は空母から飛び立って魚雷を放つ英海軍の雷撃機【ソードフィッシュ】の話です。3人乗りのかっこいい飛行機です。

 はっきり言って、当時の艦載機として複葉機はもう古く、こんなものを空母に乗せている国はありません。スピードも最大222キロほどしか出せないので、これでフワフワ飛んでいたら敵の戦闘機や高射砲のいい的になってしまい、とても雷撃どころではありません。せっかくいい空母をたくさん持っていながら、なぜいまだにこんな機を使っていたのでしょうか。

 

 イギリスは昔から優れた新しいものを思いついたり開発したりする国で、艦船から飛行機を発艦させて敵を攻撃するということを思いついたのもこの国でした。もちろん世界で初めて空母を作ったのもイギリスなのですが、当時イギリス空軍と海軍航空隊との間で微妙な関係になってしまって、政治的な理由により、海軍航空隊が空軍に吸収されてしまう事態が発生してしまいます。のちに空母の航空隊はやはり海軍で運用すべきだと見直されて海軍に戻されるのですが、その間の期間に艦載機開発が遅れてしまい、結果としてこんな古いソードフィッシュみたいな機を使うことになりました。

(写真は空母インドミタブル)

 

 なおひどいことに、戦闘機は全くナシか【フェアリーフルマー】という史上稀に見るほどの劣等機が少数搭載されるのみ。空母がたくさんあったとしても載せるまともな飛行機がない。しかたないので緒戦はこのような状態で戦っていくことになります。

 

 英国は本当に素晴らしい発明をたくさんするのですが、たまに意味の分からないほどの奇行を始めたり、突拍子もない作戦を実行し始めることがあります。(流氷で巨大な浮沈空母を作ってみたり、歩兵戦車なのに榴弾が打てなかったり)。

 この国は世界史の中でもやはり他とは少し発想が違うところがあって、それがいい時もあればついやりすぎてしまうこともあるようです。今回の空母艦載機の性能がおかしいという点はまさに英国らしい【珍事】です。

 本書の著者は開戦から空母「カレイジャス」に乗り組み、ソードフィッシュの操縦手として参戦。まず「カレイジャス」が撃沈される。次に乗る「イラストリアス」は大破、そして名高い【タラント軍港空襲】に参加などといったように、地中海方面で死闘を繰り広げています。そんな中でもイギリス人らしい皮肉たっぷりのジョークと海軍軍人のスカッとした感性で綴られた文章は読みごたえ万点でした。

 太平洋方面で行われた日米の空母同士の激戦を考えると、英国はよくこんな戦力で戦っていたなあ、と思うのですが、さすがに途中から艦載機はスピットファイア(シーファイア)やF4F(マーレット)などに甲板を譲り、ソードフィッシュは船団護衛やドイツのUボート狩りを主な任務とするようになります。

 島国である英国は(日本とは違って)船団による海上の物資輸送を非常に重視したため、護衛空母による船団護衛に力を入れました。そこではソードフィッシュの速度の遅さがむしろ海上を見張るのに好都合なため、大変重宝されたようです。独伊に空母がなかったので、岸から離れた海上なら空中の脅威がなかったので洋上なら安全に飛ぶことができます。後に開発されてきたレーダーやロケットなんかもくっつけて飛び回っていたみたいです。こんなところも汎用性があるソードフィッシュの長所だと言えますし、しつこく改良しながら使い続ける英国人の粘着質的な性格を見ることができて面白いですね。

 今回は当時の超旧式機ながら活躍し続けたソードフィッシュの話でした。なんでも粘り強く工夫して使い続ける英国人の態度は当時の日本にはない良さを感じます。見習うべきところが多いです。(もちろん英国的な発想を全部見習うのは要注意です!危険です!)

 

 朝日ソノラマ航空戦史シリーズはだいたい全部で250冊ほどあるようです。(今回はその第14巻「雷撃」)

 先ほど数えたところ我が家に現在70冊ありました。中にはプレミアがついて高価なものもあって大変ですが、頑張って全部集めようと思います。ありがとうございました。