2023年5月に広島で開催されたG7サミットの成果である「G7広島首脳コミュニケ」では、気候変動について以下の2点が合意され盛り込まれました。 

1 遅くとも2050年までに温室効果ガス(GHG)排出ネット・ゼロを達成するという我々の目標は揺るがない。(新規に合意) 

2 我々は、(参加)国が決定する貢献(NDC)目標の達成に向けた国内の緩和策を早急に実施する。(例えば、セクター別目標の設定又は強化、二酸化炭素以外の温室効果ガスに係る副次的目標の策定、厳格な実施措置の採用など)(2022年のエルマウ・サミット合意の再確認) 

日本は、議長国としてこれらを道義的に実行する義務があります。 

 温室効果ガス(GHG)は二酸化炭素に加えてフッ素やメタンなども含まれますが、機械土工については二酸化炭素の排出をゼロにすることと捉えて良いと思います。 

また、「セクター別目標の設定」については、建設分野に関しても目標が設定されるのだと考えれば良いと思います。 

建設分野では、施工段階で二酸化炭素を最も排出するものが建設機械を使用する施工です。資機材、建設発生土や廃棄物の運搬も含まれます。 
 
人力施工の方が機械施工よりも二酸化炭素排出量は少ないので、できるだけ人力施工にすることも有力な対策ですが、そうは言っても、機械でしか施工できない工程が殆どではないでしょうか。 

 そう考えると、建設分野で目標が設定されると、直接的に影響を受けることになります。 

 「泰平の眠りを覚ます上喜撰 たった四杯で夜も寝られず」 

 この川柳は、1853年に浦賀に突然現れた黒船に驚く江戸幕府を含む日本全体が 
動揺していることを謳ったものです。 
「上喜撰」とは当時人気のお茶のことで、湯呑みの杯と「蒸気船」の船の杯を掛け合わせ、さらにお茶の目が覚さめる効能にも掛けた、江戸の粋人ならではの洒落っ気がよく現れた川柳です。 
当時の人にとっては見たこともない大きな船が驚きで、どこかが攻めてきたと大騒ぎだったことでしょう。しかし、ここから日本の文明開花が始まりました。 

 黒船と同じように、G7広島サミットでの2050年にカーボンニュートラルを達成することが新しく合意されたことが、泰平の眠りにいた日本の建設業界、特に機械施工の業界にとっては、この1つの合意だけで眠れなくなるのではないかと思います。 

と言うのは、有価証券報告書の様式に「サステナビリティ情報」を令和6年度(2024年)事業年度から「カーボンフットプリント」(CFP)と言う二酸化炭素排出量を記載することが義務付けられる見込みだからです。これは、国際会計基準(IFRS)の改訂に合わせた金融庁省令の改正が今秋予定されているからです。 

この根拠は、「G7広島首脳コミュニケ」で「IFRSサスティナビリティ情報開示基準の開発を支持する」ことが宣言されたことです。 

この耳慣れない基準は、企業が環境、社会、ガバナンス(ESG)に関する情報を開示することを義務付ける国際基準です。この開示基準は、現在、国際会計基準審議会(IFRS財団)によって作成中なのです。この基準は、共通事項に関するS1と業界別事項に関するS2(65分冊)に分かれており、公表予定は、S1が2023年9月、S2が2023年12月となっています。これらの標準は、2024年1月1日以降に開始する事業年度から適用しなければならないことになっています。 

S2の 付録B 産業別開示要求の B33巻が、「エンジニアリング及び工事サービス」に関するものです。 

G7首脳のIFRSサスティナビリティ情報開示基準の制定への支持は、その適用を後押しする大きな力となりますが、株式を公開している企業にとって大変な負担が伸し掛かることになります。 

一般的に、有価証券報告書に開示すべき事項を開示できない場合、企業や関係者には以下のような罰則やデメリットが課される可能性があるので大変です。 

1 法的責任: 有価証券報告書に不正確な情報や不適切な情報が含まれている場合、企業や関係者は証券法などの関連法に違反したと見なされる可能性があります。。 

2 経済的な損失: 有価証券報告書の開示に関する不備が発覚し、それが投資家や市場参加者に経済的な損失を与える場合、企業や関係者は訴訟や損害賠償のリスクに直面する可能性があります。 

3 監督当局からの措置: 監督当局(証券取引所や金融庁など)は、有価証券報告書の開示に関する不備や不適切な行為に対して、警告、罰金、公開証券取引の一時停止、企業の上場廃止などの措置を取ることがあります。