国土交通省は、BIM/CIMをi-Constructionの一環と位置付けています。
国土交通省のi-Constructionのポータルサイトには、以下のように書かれています。
[ 国土交通省では、「ICTの全面的な活用(ICT土工)」等の施策を建設現場に導入することによって、建設生産システム全体の生産性向上を図り、もって魅力ある建設現場を目指す取組であるi-Construction(アイ・コンストラクション)を進めています。]
したがって、BIM/CIMの目的も「建設生産システム全体の生産性向上」が一義的な目的となっていることになります。

一方、ISO19650シリーズは、建設された資産のアセット・マネジメントのためにライフサイクルに亘る情報管理を行う方法を規定しています。「建設生産システム全体の生産性向上」も建設資産のアセット・マネジメントに結びつく側面もありますが、そもそも目的がi_Constructionとは異なっていることは明らかです。

ISO19650シリーズのタイトルは、「建設情報モデリング(BIM)を含めた、建築物及び土木構造物に関する情報の組成とデジタル化」です。ここで、着目したいのが「BIMを含めた」と言うフレーズです。

日本の現状を俯瞰すると、IFCに適合した分類体系もIDMも決まっていない状況なので、到底直ぐにISO19650シリーズをBIMを使って適用できないことは明白です。
そこで、WHO政府調達協定に違反しないためには、BIMの使用は諦めてBIMなしで適用する方法を検討してみると良いのではないかと考えました。

その結果として、ISO19650-1に照らして、事業主体が実施すべき情報管理の手順を大括りで纏めたものが以下のとおりです。カッコ書きは、BIMを使う場合に対応する情報区分を記載しました。

① 事業主体の役割の特定(OIR)
② 事業主体の実施する特定インフラ事業の目的、役割、機能などの特定(PIR)
③ 特定インフラ事業を構成する個別インフラの役割、機能及び性能の特定(PIR)
④ 特定インフラ事業全体の運用及び維持管理時並びに廃止時に不可欠な情報の特定(EIR)
⑤ ④の収集格納のために不可欠な、個別インフラごとの運用及び維持管理時並びに廃止時に不可欠な情報の特定(EIR)
⑥ ⑤のうち、特定インフラ事業に不可欠な調査、設計及び施工の段階で収集格納するべき情報の特定(EIR)
⑦ 個別インフラに係る調査、設計及び施工の発注(EIRを義務付け)
(受注者が実施)
⑧ ⑦の成果品として⑥の情報を収受し、自らのCDEに格納(AIM)
⑨ ⑧の情報により特定インフラ事業全体の④に係る情報を構築し、格納(PIM)
⑩ ⑤のうち、個別インフラの運用開始後収集すべき情報を収集し、CDEに格納(AIM)
⑪ ⑨に⑩を反映(PIM)
⑫ 個別インフラの廃止時に収集するべき情報を収集し、CDEに格納(AIM)
⑬ 特定インフラ事業全体の廃止時に収集するべき情報を収集し、CDEに格納(PIM)
⑭ ⑧⑨⑩⑪⑫及び⑬の情報をアーカイブ化し、CDEに格納(アーカイブ)

 改めてISO19650の提唱する情報管理手順を眺めると、我が国では、「① 事業主体の役割の特定(OIR)」、「② 事業主体の実施する特定インフラ事業の目的、役割、機能などの特定(PIR)」及び「③ 特定インフラ事業を構成する個別インフラの役割、機能及び性能の特定(PIR)」並びに「④ 特定インフラ事業全体の運用及び維持管理時並びに廃止時に不可欠な情報の特定(EIR)」が明確になっていないため、BIMを使用しない場合でもISO19650シリーズが適用できないのではないかと疑いたくなります。特に、「運用及び維持管理並びに廃止時に不可欠な情報」と言う概念そのものが稀有ではないでしょうか?

 BIM/CIMの令和5年度からの原則適用が提唱されていますが、こうした基礎的な課題に立ち返って再検討する必要があるように考えられます。