前年度とは違う審査官だ。

25年ほど前にH通訳案内士養成スクールで一緒だったある女性が初めて受けた英検の口述試験で不合格になり、次回1次免除の口述試験はガイド試験と重なって、受験できず。一次免除ラストチャンスの口述試験で初回と同じ面接官に当たり、再度不合格になったというアンビリーバブルな恐ろしい話を聞いた。結局、振り出しに戻り、一次試験から再受験し、3度目の口述試験で別の面接官に当たり、無事合格されたという。

私も前年度と同じ審査官に当たったらどうしようと思っていた。前年度なぜ不合格になったのか理由はわからないが、同じ審査官だということで緊張に拍車がかかって顔がこわばり、言葉が出てこないということもある。

前年度はその前年度(2014年)とはちょっと異なる点(生年月日や住んでいる場所を聞かれたり、一分経過の合図がなかったり)があり、不安を隠せず戸惑いながら答えていたが、今回は去年と同じだろうと見込んでいたため、リラックスして笑顔で詰まることなく、名前も生年月日も住んでいる場所もハッキリと答えることが出来た。

第一印象って大きい。良い印象を審査官に植え付けよう。私はガイドなのだ。

 

メモ用紙は一枚だけだった。前年度は複数枚あったような気がしたが。この紙の表裏を使ってメモを取るんだ。足りなくならないよう慎重にメモ取りせな。

日本人審査官が通訳文を読み上げた。「そばは………」ナチュラルスピードだ。第2次口述試験対策特別セミナーでKさんが読み上げてくれたスピードより速い! だが、明瞭に読み上げて下さったので聞き取りやすかった。それにしても長い!! このスタイルの試験がスタートした頃と比べて、文章が長くなっている。

前年度も私の当たった通訳は結構長くて、一つの句をメモ取りできず、訳せなかったが、今回は名詞や動詞、形容詞、副詞、すべてメモが取れた。急いで書き、判読しづらいところもあったが、頭に残っていた。手と耳と脳の回路が繋がったから。長いが、素直な文章だったので訳しやすい。前年度は気が回らなかった時制まで気を配り、現在形より現在完了形の方が良いと思ったところで完了形にする。前年度は一カ所訳しそびれた分をフォローしようと、訳にない余計な情報をわかりやすくするために加えたが、返って減点されていたんじゃないかな。今回は余計なことはせず、大意要約ではなく、読まれた文章通り丁寧に訳した。

訳しやすい言葉が並んでいたが、一つ「痩せた(ここではbarrenがふさわしいと思います)土地」の訳に苦心し、barren(不毛な)という単語が出てこなかったので、別のそれらしき言葉で代用する。

ミカン(仮名)のスタッフの方が直前アドバイスで、とにかくわからない単語が出ても、それに近い言葉を当てはめ、止まってタイムオーバーになることだけは避けるようにとメルマガに送ってくれたからだ。

文の区切りまでさっと訳して、次の訳文を考えるためにポーズを入れ、メモと審査官の顔を交互に見ながら1分以内に訳し終え、最後にニッコリと笑った。内心必死だったが、必死感を顔に出さぬよう、悟られないようにするのにも必死だった(W必死!)。最後のニッコリに効果があるといいんだけど。

 

次はスピーチ。審査官から3枚の紙を渡された。ラムサール条約 御朱印 盆栽だ。ラムサール条約はとてもじゃないけど上手く説明できそうにないのでパス。御朱印か盆栽で迷った。盆栽はミカンでスピーチの練習をし、H通訳案内士養成スクールのX00選にも載っていたので、スピーチはできるが、育てたこともなく周りにやったことのある人はいないので、質疑応答で困るかもしれない。御朱印はミカンで四国88カ所巡りについてスピーチの練習をしたので、そこからなんとか繋げられるかな。御朱印巡りをしたことはないが、質疑応答で仏教や神道の違いなどについて質問されるかもしれない。その辺りは説明できるし、清水寺も西国33ヵ所に含まれているから上手くこちらに誘導できるようにすれば良い。

迷った挙げ句、スピーチで十分説明できそうな盆栽を選んだ。前年度と同じ轍を踏むまい。ダラダラと事実を説明するだけで時間オーバーだけは避けよう。まずは本題の盆栽はどんなものか、いつ頃始まったのかを説明し、個人的な感想について述べ、外国人観光客云々で締めくくり、時間内に抑えた。正直やったことがないから言えることも限り困った。だが、困ったときこそ笑顔だ。

質問はネイティブからのみ。幸いにも意地悪い突っ込んだ質問はなく、シンプルなものばかりだったが、前年度の審査官と比べて話すスピードが速い。聞き取れなかったところは”I beg your pardon?”と笑顔で尋ねる。”I don’t know.”は禁句と言われていたので、はっきりしないところは、I think…と言って説明し、スピーチで伝えられなかった追加の情報を入れる。

日本人審査官もネイティブの審査官も前年度とは異なり、表情をあまり顔に出さないタイプで、反応がわからなかったが、ミカン(仮名)で一緒だったJさんを真似て、(心の中ではお慈悲モード)笑顔とアイコンタクトを絶やさず、今まで指摘を受けてきた“L”と”R”の発音の違い、“W”や”Th”の口の形などを意識し、大半はシンプルな単語や表現を使いながらも、『今までものすごく勉強してきました』とわかってもらいたくて「えっ!? こんな単語も知っているの?」って言葉をちょっとだけ盛り込んだ。

 

日本人審査官に「終了です」と言われ、「今日はありがとうございました。良い一日を」と英語で言い、おじぎをして教室を後にする。