すごいすごい風が吹いている。


子供の頃は台風に心を躍らせた。


いつもより少し強い風が吹き、


いつもより少し強い雨が降る。


たまに停電になったりすると、


母親が仏壇のろうそくを持ってきてつける。


暗い部屋でろうそくの炎だけで夕飯を食べる。


わくわくできたのは、次の日にはカラッと


晴れることを知っていたから。


結婚してすぐに北九州市小倉に住んだ。


その年の夏、驚異的な猛威を振るった台風9号が


直撃した。


近所のプレハブのタクシー会社がつぶれた。


裏のゴルフ練習場のネットをはっていた高いポールが倒れた。


並木通りの銀杏の木がたくさん倒れた。


うちはマンションの9階だったが、マンションごと揺れて


部屋の中心にいないと、自分が倒れそうだった。


窓の下からは打ち付ける大雨のせいで


水が噴水のように部屋に噴き出した。


3~4時間は続いただろうか、恐怖で足がすくみ、


夜中だったが寝るのも忘れてしまっていた。


初めて台風の怖さを知った。


あの日から台風が来る前は少し緊張する。


今は東京に住んでいて、台風の直撃を受けることは少ない。


でももう二度とわくわくすることはないだろう。