明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いします。
2013年以来、年明けには
干支に関連したタイトルの小説を
取り上げるようにしています。
今年はバッハの
《クリスマス・オラトリオ》
第4部にするかどうか迷ってましたが
結局、干支絡みのタイトルの本を
取り上げることにしました。
ちょうど1めぐり目になる
今年の干支は巳[へび]ですが
最初は別の本を考えてたんですけど
2、3日前にふとタイトルが浮かび
こういう機会でもないと読まないだろう
と思って変えのたが、今回の本です。
(1983/佐宗鈴夫訳、
ハヤカワ・ミステリ、1984.10.15)
パリ警視庁賞
Prix du quai des Orfèvres
受賞作という惹句が
オビに書かれていますけど
1946年設立の同賞は
未発表の長編を対象とし
選考委員を
刑事警察局長や
インターポール事務局長
科学警察研究所の所長といった
いわば実務家が務めている
というのが特徴になっています。
受賞作リストは
Wikipedia に載っていますけど
いっとき、続けて訳されたりしてますが
紹介が散発的という印象を
拭えませんね。
なお、Wikipedia だと
1984年に出たような感じですが
こちら↓にもある通り
原著刊行年は1983年で
1984年度のパリ警視庁賞受賞作
ということでしょう。
作品はこれ1作のようで
向こうの Amazon で検索しても
他の作品はヒットしませんでした。
パリ警視庁賞の選考委員が
いずれも実務家ということから
想像がつくように
捜査などの描写の正確さも
評価ポイントになります。
本書の著者は
訳者のあとがきによれば
元警察官で
退職後に妻に勧められて
書き上げたようです。
それだけに
フランスの司法制度の
仕組みや手続きなどが
正確に書かれていることは
保証されているようなものでして。
刑事警察地方本部の
特別機動隊の捜査員2人と
地方の予審判事の関係
その予審判事と検事との関係など
飲み込みやすく書かれています。
肝腎の事件の方は
身元不明のヒッピーが
撲殺死体として発見され
匿名の手紙によって
身元が判明してから
容疑者が確定されていくという
型通りの物語です。
オビには「新趣向」とありますが
書き方には際立った特徴が見られず
というのも現実の司法制度に
即して書かれているからで
逆にそれが、物語らしくなくて
「新趣向」という印象を
与えるかもしれません。
また
容疑者には「鉄壁のアリバイが」
とも書かれていますけど
いわゆる本格ミステリのような
トリッキーな仕掛けによるのではなく
空白の時間があるものの
だからといって
その間に犯行を行ったと
単純には決めつけられない
といった体のものです。
それでもそれなりに読ませるのは
矛盾なく事件を再構成しなければならない
という意図ないし信念のもとに
捜査や調査の結果について
何度も検討されていくからです。
捜査の結果について
ディスカッションが行われ
こういう解釈も可能だけれども
完全に決めつけられない
という検討の場面が
そこかしこにあるので
知的なサスペンスといったものが
保証されているんですね。
そこには好感を持ちました。
そして最後になって
容疑者の発言の一部が問題となり
それが事実かどうか確認すれば
相手の防壁を崩せるのではないか
となったところで
急転直下の結末を迎えます。
その結末は
あまりにもあっけない
ともいえなくもなく
それが本作品について
今日、話題にものぼらず
ミステリ史にその名を刻まなかった
原因でもありましょう。
古書価は安いですけど
注文して読んだ人は
失望するかもしれませんね。
自分の場合
昔、古本で買って
ほったらかしにしといたので
(古本で買ったことも忘れており
新刊で買ったのだと思ってましたw)
今さら気にもしませんけど。
むしろ
ブログのネタになったので
以って瞑すべし
とったところかも。( ̄▽ ̄)
原題は
On écrase bien les vipères...
で、DeepL に訳させてみたら
「毒蛇を潰すのはいいことだ…」
というふうに訳されました。
vipères は
手元の辞書によれば
1番目の意味として
「クサリヘビ(鎖蛇)
[マムシを含むクサリヘビ科の
有毒のヘビの総称]」
と書かれています。
ちなみに2番目の意味は
「陰険な人」だそうです。
被害者の人格を指していますが
実際に蝮を踏み潰す行為も
作中で言及されますので
二つの意味をかけてるんでしょう。
これを
「マムシを殺せ」というふうに
命令形で訳されると
ハードボイルドか
スパイ小説のような
印象を受けます。
自分の場合も
読む前はてっきり
スパイものだと
思いこんでました。(^^;ゞ
昨年はあまり
本の感想などを
アップできなかった
という気がしています。
クラシックCDの紹介や
聴いての感想の方が
多かったような……。
今年はもう少し
本の感想の方も
アップできたらと思いますが
どうなりますやら。
なにはともあれ
本年もよろしくお願いします。